介護福祉士の養成課程、多くの大学で定員割れ

『ヘルプマン!』というマンガが好きな、マイスターです。

ご存じの方も多いと思いますが、この『ヘルプマン!』は、高齢者介護や福祉の実態を描いたマンガです。

世界的にもまれに見る高齢化社会となる日本。
介護保険制度を始め、福祉関連の話題はしばしば報じられるのですが、実のところ、まだ今ひとつピンと来ていないという方も、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

「将来は福祉業界で働いて、世の中のために役立ちたい!」と考える高校生も、
「これからは高齢者が増えるから、福祉系の学部もいいんじゃないか?」と進路指導で語る教員も、
正直、あんまりリアルには福祉のことを知らなかったりすると思います。

この『ヘルプマン!』には、かなりリアルに、福祉や介護の現状が描かれており、いま福祉の何が問題になっているのかが、よくわかります。
(マイスターも、何度新聞を読んでも今ひとつよく分からなかった介護保険の仕組みと問題点が、このマンガを読んだだけで理解できました)

思わず暗い気持になってしまうような現状を見せる一方で、福祉の重要性や、福祉に携わることの意義ややりがいなど、前向きな視点も作品全体に存在しています。
マンガ形式なので、スラスラ読めますし、福祉の道を考えている高校生の方にはオススメです。

さて、色々と解決すべき課題はあるものの、福祉の世界に、プロフェッショナルな人材がこれからどんどんと必要になってくることは確かです。

そんな背景もあり、今では全国の多くの大学が、福祉関連の専門職を養成する学科やコースを開設し、明日の日本の福祉を支えるプロフェッショナルの養成に務めている……はずだったのですが、必ずしも順風満帆とはいっていないようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「介護福祉士、養成大8割定員割れ…低賃金などで敬遠」(読売オンライン)

介護福祉士を養成する全国の4年制・短期大学で、養成課程入学者の定員割れが相次いでいることが、読売新聞の全国調査でわかった。回答のあった大学の8割で今春入学者が定員割れとなり、ほぼ半数で定員充足率が50%を下回っていた。
各大学は、介護職が「低賃金・重労働」といわれることや、コムスン問題の影響を指摘。養成課程から撤退する学校もあり、介護保険を支える人材の不足が深刻化しそうだ。
介護福祉士は、高齢者や障害者の介護を行う国家資格で、全国で約64万人いる。介護保険の導入に伴って各大学が介護福祉士の養成課程を開設し、国の指定養成施設の大学は全国で約150校にのぼる。調査は4年制・短期大学計80校を対象とし、うち51校が回答。51校の同課程入学者は2005年春の3273人をピークに3年連続で減少し、今春は05年より30%少ない2266人。42校で定員割れが生じ、25校で定員充足率が50%以下となった。
九州のある大学では定員40人に対し入学者はわずか4人で、近畿の短大も定員50人に入学者は7人。今春の定員充足率が7割の北海道の大学は、来年度の募集中止を検討している。
各大学は定員割れの理由について、「社会的地位が低い」「コムスン問題で業界イメージが悪化した」とし、奨学金を受けた学生が「介護職の賃金では返還できない」という理由で一般企業に就職した大学もあった。日本福祉大(愛知県)の担当者は「高校の進路指導の選択肢から介護福祉士が除かれつつある」と嘆く。
(上記記事より)

福祉の専門職にも色々ありますが、大学で福祉を学ぼう、と思ったときによく名前が取り上げられるのは、「社会福祉士」と「介護福祉士」でしょうか。

【社会福祉士及び介護福祉士法】
第二条  この法律において「社会福祉士」とは、第二十八条の登録を受け、社会福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者(第四十七条において「福祉サービス関係者等」という。)との連絡及び調整その他の援助を行うこと(第七条及び第四十七条の二において「相談援助」という。)を業とする者をいう。
2  この法律において「介護福祉士」とは、第四十二条第一項の登録を受け、介護福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと(以下「介護等」という。)を業とする者をいう。
(「社会福祉士及び介護福祉士法」(総務省法令データ提供システム)より)

ざっくりと言ってしまうと、社会福祉士の役割は、「福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する」こと。福祉制度の専門的知識を持って、相談や指導を行う専門職です。

一方、介護福祉士の役割は、「専門的知識及び技術をもつて、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行」うこと。
こちらは実際に現場に入って、自ら介護を行ったり、あるいは介護に関するアドバイスなどを行ったりする専門職です。

中高校生の皆さんが「おばあちゃんの介護に関わって、福祉の道に進もうと思った」なんて言う場合にイメージされているのは、もしかするとこの介護福祉士の方かもしれません。

で、今回のニュースで、大学の養成課程で定員割れが相次いでいると報じられているのも、こちらの介護福祉士。
記事にもありますが、「コムスン」の問題でクローズアップされていたのも、直接、高齢者の自宅を回って介護にあたっていたスタッフ。つまり、介護福祉士のような、介護のプロ達でした。

だからといって「コムスンのせいで介護福祉士を目指そうとする学生が減った」と腹を立てるのは短絡的です。本当にコムスン一社だけの問題であるなら、おそらくここまで志願者は減らないでしょう。

コムスンの事件も含め、結局のところ問題のおおもとになっているのは、介護福祉士をめぐる「社会的地位の低さ」や、「待遇・労働環境の悪さ」です。
つまり介護福祉士を取り巻く環境自体を根本から改善していかなければ、大学で起きているこういった現状も変わらないということです。

介護福祉士が置かれている状況は、確かに大変です。
「介護福祉士」というのは国家資格であり、この資格を持っていない者が「介護福祉士」を名乗ってはいけないという名称独占資格のひとつです。ですから介護福祉士でない者は介護の仕事ができないかというとそうではないのですが、介護福祉士であることは高い水準の知識と技術を持っている証になります。
でも、介護職を希望する方が世の中で不足していてとにかく現場に人が欲しいという今では、例え介護福祉士の資格を持っていても、他の業界と比べたらそんなに良い待遇にはならないでしょう。

ボランティアや家族の介護行為を制限してしまうわけにはいきませんから、介護福祉士を、弁護士や医師のような業務独占資格にすることは適切ではないと思います。が、それでもせめて、「介護福祉士になればそこそこの水準の生活ができる」というくらいにはなってほしいです。

奨学金を受けた学生が「介護職の賃金では返還できない」という理由で一般企業に就職した大学もあった。

……なんて状況では、さすがにキャリアセンターのスタッフも、介護のプロになれとは勧めにくいでしょうし。

最近では、「福祉に携わりたいんだったら、看護学部に行け」と勧める向きもあるようです。福祉の専門職よりも、看護師として福祉の業務に携わる方が「食える」からなんだとか。それはそれで耳を傾ける価値のあるアドバイスですが、社会全体で考えたら、問題の根本的な解決にはなっていません。
福祉学には福祉学ならではの視点があり、担う役割があります。福祉について専門的に広く深く学んだ人材を、介護福祉士等のプロフェッショナルとして現場に送り出すことには大きな意義がありますし、社会はそういうプロを必要としているはずです。

そんなわけで、そんな人材を育てる福祉系の学部学科を減少させないよう、やはり現状を変えていかなければなりません。
大学だけの問題ではなく、社会全体の課題です。

危機感を抱く4年制大学は年内にも、「介護福祉士養成大学連絡協議会(仮称)」を発足させるが、厚生労働省は「養成施設対策は手つかずで、今後取り組むべき問題」としている。
(冒頭記事より)

このように、大学側が連携して問題の解決にあたるのも、非常に大切だと思います。

ただ、いたずらに養成課程を増やしたり、受験生へのPRを強化するといったような付け焼き刃の対策だけでは、一時的な変化に留まってしまうでしょう。
介護福祉士が働く環境そのものを改善するための施策やシステム作りを、大学側から提案するようなことも重要なのではないかと個人的には思います。

以上、ニュースを読みながら、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • いつも拝見しております。ある福祉系大学のキャリアセンターで勤務している職員です。
    今回の記事は、本当に私たちが考えている事そのままだと思います。
    そもそも介護の仕事をしたいと思えば、資格要件は介護福祉士を持っていなくてもホームヘルパー2級さえ取得していれば介護の現場で働く事ができます。
    また社会福祉士を必死に勉強して取得しても、企業並の待遇を得るのはかなり難しい状況です。
    そもそも福祉の専門の勉強を学べば学ぶほど福祉離れが進んでいくのが実態で、福祉学科の学生は(幸いながら本学はまだ定員割れをしておりませんが)企業志望の学生が年々増えています。
    また福祉の法人が集まる就職説明会では、参加者数が激減しているとも社会福祉協議会より話を聞きます。
    今の現状を打破するのは、おっしゃるように社会から変えないといけないと思いますし、そのためには間接的にも福祉に関る私たちもこれから声をあげて動いていかなければならないと感じます。
    問題はコムスンから始まったのではありません。ずっと前からわかっていた事なのです。
    長文失礼致しました。

  • いつも拝見して、勉強させていただいております。
    私もある福祉系学部を持つ大学の教務で働いております。
    今回の記事は、まさに本学が危惧している現状そのままです。
    実際、学生の福祉離れが進んでおります。
    ジャックさんもコメントしておりますが、まさにそのとおりです。
    また、来年度は法改正により学則等の見直しをしなければ、なりません。
    介護福祉士は、養成施設であれば、卒業と同時に国家資格を手にすることが出来ましたが、(それに見合う講義をしております)法改正により、国家試験の受験資格に変わるようです。
    社会福祉士と同様に。。。。。
    このような状況を考えると、来年度以降、受験者がどのようになるか心配になります。
    他学部の教員から、講義等にかける手間(時間)と成果のバランスが悪いと批判が出ております。
    これは、介護クラスの講義は、同一名の授業科目であっても他の学生とは、別に講義を開講したりしないといけないことも原因だと思います。
    このように様々な問題がありますが、福祉の充実は、とても重要な問題であることには、変わりないことですので、少しでも改善していくことを望みますし、我々もそれなりの行動を起こさないといけないと思います。