入試によっても違う。高校教員に知ってほしい大学中退のデータ

先日の投稿、かなりの反響をいただきました。SNS等でも高校の先生方や、大学教職員の皆様を中心に、「これは大事なことだ」というご感想を拝見しております。ありがとうございます!

■大学入学後の中退や留年の実情を、高校側はぜんぜん知らない

「高」と「大」の間に挟まっている身として、「あああ、こんな大事なデータがあるのに、なぜ埋もれたままなのだ。高大それぞれが同じ方向に向かって対話するためには、大事な情報のはずなのに」と以前からやきもきしておりましたので、ホッとしました。むしろ、もっと早くに共有されるべきものだったと反省もしております。業界のセミナーやシンポジウムでは必ず触れている点だったのですが、やっぱり誰でも見られるオープンな場に出さねば広がらない、と改めて実感しました。

先日の投稿で最も強調したかったのは、以下の点です。

ただ数字を配るだけなら、それは教育ではなく、情報の伝達に過ぎません。でも、こうして数字を題材にして考えさせれば、それは学びになり得ます。生徒を消費者として扱うのではなく、主体的な学習者として育てようと思えば、こうしたプロセスは避けて通れないと私は思うのです。

大学入学後の中退や留年の実情を、高校側はぜんぜん知らない

今回は、高校教員と大学側が対話し、今後の高大接続を一緒につくっていく上でご参考になりそうな点をご紹介したいと思います。先日の投稿ではご紹介しきれなかった、各データの補足です。

こうしたデータが高大接続のあり方に関する議論や実践の一助になり、ひいては大学側の広報や、学生募集活動のあり方を見直す契機にもなればと思います。

そもそも大学中退って問題なの?

先日の投稿でも触れましたが、私は中退や留年イコール悪いこと、と断じるつもりはありません。「中退や留年のデータを高大の間で共有し、生徒・学生のための議論や施策、指導などに活用できるような環境をつくるべきだ」という立場です。「大学なんて、中退したって良いじゃない」という意見もあると思いますが、結果的に様々な進路を選ぶことを否定しません。生き方はひとそれぞれです。

ただその上で、高校生側が知っておいた方が良さそうな事実もあります。

大学を中退すると正規雇用へのハードルが上がる

専門学校や短期大学、大学、大学院などの高等教育機関を卒業すると、正規雇用に就ける可能性は上がります。生涯賃金や給与水準などのデータを見ても、大学進学のメリットは小さくありません。しかし中退すると日本の社会は急に冷たくなり、多くの方がアルバイト・パートや無職になります。ここから正規雇用に移るハードルは低くありません。

重要なのは現在、大学生の2人に1人が貸与型奨学金を利用しているということです。奨学金を借りて大学に進学した場合、それを卒業後に返済するだけでも大変です。そこまでして進学した大学を中退すると、結果的に借金だけが残り、経済的にかなり厳しい状況に追い込まれます。こうした事実は近年、よく報道されるようになりました。

奨学金を借りていた人が、大学を中退してしまうと、どのような現実が待ち受けているのか。
今年の夏、発表された「大学中退者調査」によると、“奨学金を借りた大学中退者”のうち、半数が年収200万円以下だという分析結果が出た。(調査・東京大学大学院の小林雅之教授他)大学を中退すると、さらに奨学金破産のリスクが高まることが分かったのだ。

「“奨学金破産”の連鎖で一家破産!?」(NHK クローズアップ現代)

「みんなが選ぶルート」を外れると途端に対応が冷たくなる、というのは日本社会が抱えている根本的な課題でもあると思いますが、残念ながら社会はそう簡単に変わりません。少なくとも、目の前にいる生徒が大学を卒業する頃までに劇的に変わることはないでしょう。であれば、教育現場で未然に抑制できる中退については、事前に生徒や保護者へ実態をちゃんと伝えるなど、手を打った方が良いと私は思います。

なお近年では、文部科学省が全国の大学に対して「中退を抑制せよ」と言うようになりました。大学中退者がニートやフリーターになり、その状況から脱せなくなるという傾向が明らかになり、社会問題として認識され始めたからです。

「大学生が100人の村だったら」

2001年に出版された絵本「世界がもし100人の村だったら」という絵本が当時、話題となりました。その表現にたとえて、日本の大学新入生の「その後」を100人の村に例えたグラフがあります。

山本繁『つまずかない大学選びのルール 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン ,2013.3)より

全国の大学入学者を「100人の村」の住人に例えると、うち12人は中退し、卒業できません。13人は卒業はしますが、留年しています。30人は4年で卒業しますが、就職はしていません(※ただし、うち9人は進学です)。14人はストレートで卒業し、就職するものの、3年以内に退職しています。大学を4年間で終え、卒業と同時に就職し、そこで3年以上働いている人はわずか31人に過ぎません。2013年に出版された書籍、『つまずかない大学選びのルール 』からの引用です。

当時の状況がもとになっているため、就職のあたりなど、現在は数字が変わっている部分もあると思います。ただ、以前も今も高校生の多くは「入学すれば誰もがストレートに卒業し、就職して、正社員として働き続ける」というイメージを大学進学に抱きがちで、それが実態とまるで違っているってことは、変わりません。貸与型奨学金を利用しての大学進学を安易に生徒へ勧めて良いのか、高校の先生なら迷うと思います。

データは詳細を見る必要がある

留年率は高いが中退率は低い、という大学もある

先日の投稿では4年間で卒業していない学生の割合、「標準年限卒業率」を冒頭でご紹介しました。実際には、ここには中退と留年の両方が含まれています。実際に進路指導でデータを活用する際は、これらは分けて考えた方が良いでしょう。中退と留年では原因に違いもありますし、予防のための施策も異なってくるからです。

読売新聞教育ネットワーク事務局『大学の実力2019』には、中退と留年、それぞれの具体的な数字が掲載されてます。

上記2大学、標準年限卒業率には大きな差がありませんが、内訳は大きく異なります。秋田県にある県立・国際教養大学は、全員に一年間の寮生活と留学を課す、すべての授業を英語で行うといった特色ある教育によって注目を集めている大学です。4年で卒業する学生は半数程度ですが、中退者はほとんどいません。厳しく鍛えているということで、企業からの評価は抜群です。

一方、A大学外国語学部は留年よりも退学の方が目立っています。標準年限卒業率だけを見ていたら、この違いはわかりません。

(※以下、本稿では必要に応じて伏せ字を用います。『大学の実力』にはもちろん実際の名称が記載されていますが、本稿は広くウェブ上で公開される前提を考え、このようにします。気になる方は『大学の実力』でご確認ください)

入試種別によって中退率はかなり異なる

読売新聞の調査は入試別の中退率も明らかにしています。『大学の実力2019』に掲載されている大学・学部の中から、皆様の参考になると思われるデータを以下にまとめました。

各大学・学部の中退率と、入試種別ごとの中退率。数字は読売新聞教育ネットワーク事務局『大学の実力2019』(中央公論新社、2018.9)より。赤字、カコミなどの強調は倉部による。

この表にあるのは純粋な「中退」率であり、留年者は含まれておりません。入学者のうち、卒業に至らず途中で退学していった学生の割合です。表に含まれる数字の大きさに目を疑う方もいると思いますが、これらは客観的事実です。

(改めて申します。こうしたデータの存在が高校側に知られていないってこと、問題だと思いませんか)

左端の「退学率」は、すべての入試での入学者の平均値です。「一般」から「他」までが、入試種別ごとの中退率を表しています。B大学の例からわかるように、同じ大学であっても、学部ごとに中退率の状況は異なります。

「AO入試は入学した後に苦労する」という言説を聞いたことがある方もいるでしょう。確かに読売新聞の調査結果を見ても、平均値としては、AO入試の中退率は一般入試より高めです。しかしF〜K大学のように、一般入試での入学者よりも指定校推薦入学者の方が中退している大学・学部もあれば、M〜O大学のように一般入試組の方が推薦入試組より中退している大学・学部も存在します。「AOはダメ、一般で受かったやつは優秀」のように一般化された意見は、ときに危険です。

一般入試で入学した学生が100%中退している大学・学部が存在するということを、高校の先生方やメディアの皆様にはぜひ知っていただきたいです。

ちなみに上記の表には、メディアや進路指導の先生が好まれる「MARCH」の中の大学も含まれています。MARCHに受かれば将来安泰、MARCHに入学させれば高校としては誇れる成果……という進路指導方針やメディアの言説には、やっぱり個人的には賛同できません。何しろ、普段からこんなデータばっかり見てますので。入学はゴールではなくスタートです。

指定校推薦は、高校が大学へ生徒を推薦する入試です。高校の先生方は、入学者の過半数が中退している指定校推薦枠を、生徒およびご家庭へどのように提示されたのでしょう。「進学者の81%が中退している推薦枠」と知った上で、適切な助言をされてから送り出しているのでしょうか。おそらく、そうではないと思います。

でもこれは逆に言えば、高校側がわかっていれば事前の指導もできるし、上記の数字を改善できる可能性もあるってことです。実態を知らないまま送り出した結果が上記の表です。改善の余地だらけなんですよ。

上記の表に挙げた大学・学部はあくまでもごく一部の例です。入試種別ごとの差が目立つ例を選んだだけですので、単純な数字の大きさで言えば、もっとショッキングな事例はいくらでもあります。

さらに言うと、上記は正直に回答を寄せている分、真摯な大学と言えます。実際の書籍には中退率の欄が「非公開」で埋め尽くされている大学や、そもそもすべての回答を拒否したため、書籍に情報が掲載されていない大学もあります。詳しい教育実態を知られることを拒否している大学がある、ということは、高校の先生方も知っておいた方が良いと私は思います。

大学を中退する理由

本当に「経済的理由」が一番多いの?

2014年に文部科学省は国公私立大学、公私立短期大学、高等専門学校を対象に、中退および休学の実態を調査しました。その結果は当時も報じられたので、ご覧になった方も多いと思います。

■「報道発表:学生の中途退学や休学等の状況について 」(文部科学省)

高等教育機関の中退者は 2007 年度の 63,421 人から、 2012年度には79,311人にまで増加 。5年間でおよそ2割も増えていました。これだけでも色々と考えさせられますが、ここで注目したいのは中退する理由の方です。

同調査では、中途退学の理由として

①経済的理由(20.4%)
②転学(15.4%)
③学業不振(14.5%)
④就職(13.4%)

……が、順に挙げられています。この結果が大きく報じられたこともあり、現在も「大学中退の理由は、主に経済的な事情」というイメージをお持ちの方は多いと思います。

しかしNPO法人NEWVERYが2010年に行った調査では、少し違う一面が浮かび上がっています。NEWVERYは高等教育機関の中退経験者101人に対して長時間の個別面接を行いました。そこで見えてきたのは、経済的理由よりもむしろ、「学ぶ意欲を失った」という理由の多さです。

特定非営利活動法人NEWVERY『中退白書2010』より

NEWVERYの調査結果では、「経済的理由」は少数派です。調査期間や対象に若干の違いがあるとは言え、ほぼ真逆にも見えるほどの差が出たのは、一体どうしてなのでしょう?

理由を聞くシチュエーションの違いが、結果に反映されている可能性はありそうです。NEWVERYの調査は中退者本人への詳細なヒアリングであるのに対し、文部科学省の調査は高等教育機関が提出したデータです。

一般的に大学では、学生が退学届を提出した際、それを受理する前に学生本人と教職員との面談を設定します。教職員が学生を呼び出して、退学の理由を子細にたずねたり、悩みの相談に乗ったりするというものです。場合によっては退学を考え直すように諭すこともあるでしょう。これは教育機関として学生のためを親身に考えたサポートの一環であり、中退抑制策の一環でもあります。

しかし既に退学を決意している学生にとっては、「早く終わらせたい時間」であるのも事実です。そこで、教職員に絶対引き留められないような理由として「経済的理由」と回答した……というケースも中にはあるようです。
(逆に、中退抑制に関心のない、または対応する余力のない大学の中には、「基本的に中退理由は『経済的理由』で機械的に処理しちゃってます」なんてところもあります)

個人的には、実際の中退理由は複合的であることも多いと想像しています。「家庭の経済状況に余裕がない中で、学業に意欲が持てないなら、これ以上大学へ通い続ける意味はない」……などと考えて決断した方も少なくないのではないでしょうか。経済的な事情は中退の理由としてやはり大きいと思いますが、「本年度の学費が払えない」などと短期的な事情に追われている方もいれば、「長い目で見てモトが取れるとは思えない」「このままでは予定通り卒業できる見込みがない」などと中長期的な視点で決断された方もいるのだろうと思います。

中退後、数年経ってから理由を聞いたら…

NEWVERYは大学中退者を、中退するタイミングなどによって「初期型」「失速型」「突発型」の3つに分類しています。今回のコロナ禍のような状況下ではまた少々事情が変わってくると思いますが、通常、家庭の経済的な理由で中退に追い込まれる学生は年間を通じて常に発生しうるもので、これは「突発型」に分類されます。学業的には順調だったのに、急に中退する学生です。

しかし実際の大学や学部の状況を個別に分析すると、入学から半年以内に毎年、一定数の学生が必ず中退しているような大学・学部もあります。こうした例を見ても、一概に経済的事情だけではなさそうだ、と思えます。

そうした違いをデータで分析しながら、組織を挙げて中退抑制に取り組む大学も、少しずつですが増えてきました。

九州産業大学・学生係長の一ノ瀬大一氏は、同大を中退した学生達の状況を調査し、その結果を大学行政管理学会などで発表されています。科研費奨励研究に採択された研究活動であり、かつ研究者ご本人のご許可もいただきましたので、その一部を紹介させていただきます。

九州産業大学・一ノ瀬 大一「突発的中退者に対する職員の効果的アプローチに関する研究」(2019)より。(※クリックで拡大)

↑NEWVERYによる「初期型」「失速型」「突発型」の3分類に基づいて分析されています。この研究では、1年次の取得単位が20単位以下の状態で中退する学生を「初期型」に分類されていますね。今回の調査対象である中退者のうち、実に57.9%が初期型です。一般的には「中退は経済的な理由」と思われていますが、特に社会科学系の学部では、このように初期型が中退者の大半を占めている例も珍しくないんです。

九州産業大学・一ノ瀬 大一「突発的中退者に対する職員の効果的アプローチに関する研究」(2019)より。(※クリックで拡大)

↑注目したいのはこちら。この研究ではWebアンケートを使い、中退してから数年後に再度、本人へ中退理由を尋ねています。それが退学時に大学へ提出した中退願の記載理由と違うかどうかを調べているんです。

中退時は「経済的事情のため」と回答したが、実際には異なる理由が存在していた、なんてホンネが浮かび上がっています。退学時に大学へ説明する内容が、必ずしも実態通りとは限りません。

お気づきでしょうか。【全体】のデータを見ると、「退学時」に挙げた理由は、文部科学省の調査結果のとおり「経済的事情のため」が最多です。しかし数年後に再び尋ねたホンネでは、「修学意欲が低下したため」がトップで、NEWVERYの調査結果に近づきます。

文科省の調査結果は、公的に全国の実態を調べた取り組みとして大いに意義がありますが、中退の理由については、本当の実態を掴めていない可能性がありそうです。

九州産業大学・一ノ瀬 大一「突発的中退者に対する職員の効果的アプローチに関する研究」(2019)より。(※クリックで拡大)

↑この研究では中退後、数年を経た方に対して、「どのような制度・支援があれば、中退しなかったか」という質問も行っています。見ると「突発型」中退者は「奨学金などの経済的支援」が最多で、これは確かに何らかの支援が必要です。

しかし中退者の9割以上を占める「初期型」「失速型」は、同じことを言っています。「高校時代に、大学や将来について考えるプログラム」があれば、中退しなかった、と。

これ、すべての高校と大学の関係者に知って欲しい調査結果です。

もうひとつ、ちょっと違う事例をご紹介します。

大学卒業時の成績は1年終了時の成績とほぼ一致し、入学試験の結果とは相関関係がみられないことが、東京理科大学(東京都新宿区)が同大の学生を対象に実施した調査で明らかになった。担当した山本誠副学長は「特に1年の6月第1週の出欠状況が、その後の学生生活を左右する」と話している。

「大学成績 1年で決まる? 卒業時と一致 東京理科大調査」(毎日新聞、2016年6月3日)

東京理科大学は、自然科学系を中心とする大学です。他の大学同様、様々な入試を行って入学者を選抜しているのですが、これまでの学生達を調査したところ、受験の際に選んだ入試の種類や点数と、卒業時の成績には、ほとんど相関関係が見られなかったそうなんです。

それよりも重要なのは、1年終了時の成績でした。初年次に良いスタートを切れた学生はその後も順調だが、最初につまずくとリカバリーが極めて難しいのです。自然科学系という事情も大きいでしょう。そして、その「最初の鬼門」が、1年生6月の第一週だったそうです。

1年生6月の第一週。これ、大学の教育だけで改善できるでしょうか? 高校生のうちにできることが、あるような気がしませんか。

結論

  • 大学を中退するのは本人の自由だが、その影響は本人が思っているより、おそらく大きい。最低限、高校生のうちに知っておくべき事実もある。
  • 大学や学部によって中退率は異なるが、入試種別によってもかなりの差が生じている。しかし事前にデータがわかっていれば、事態を改善できる可能性もある。
  • 中退する理由は、世間一般に信じられているイメージ通りではないかも。

本投稿により、中退の実情が高校、大学、および広く一般の方々に少しでも知られることを私は願っています。ただ前回の投稿でも述べましたが、「こんな大学は入っちゃダメ!」といった、単純な選別の議論になることは本意ではありません。

高校の先生方ならわかると思います。実のところ、中退率が高めの大学であっても、そこへの進学を望む生徒は必ずどこかにいます。自分が通える範囲で、望む専門職資格を得られる大学は1校しかない、なんてケースはざらです。あるいは、第一志望は他大学だったが結果的に別の大学にしか受からなかった、なんてのもよくあることです。

どう考えても危ない大学があるのなら、それを生徒から遠ざけるよう振る舞うのも教育者としてときには大事でしょう。ただ、そのアプローチには限界もあります。生徒への教材として、あるいは保護者への対話の材料としてデータを活用してみてください。高校3年間と大学4年間をどのように使えば大きく成長できるか、それを生徒や保護者に問うツールとして、こうしたデータは有効です。

ところで、さきほど「大学生が100人の村だったら」というグラフをご紹介しました。このグラフでは中退者は100人中、12人になっています。私は高校の先生に対する講演や研修もよく行うのですが、その際、こんな質問をよくします。

「先生が担任をされている学級から、30人程度が大学に進学するとしましょう。単純計算では、うち3人ほどが中退することになります。そこで伺いたいのですが、いまの先生の学級の中で、誰が中退すると思いますか? 顔が浮かぶ子はいますか?」

ほとんどの高校の先生は、頷きます。頭に浮かんだ生徒がいるんです。

たぶん、その子ですよ。

いや、断言はできませんが、その子である可能性は結構、高いと思います。中退する理由の半分は、高校の先生が知っているんです。「進路の希望がめちゃめちゃ迷走している」とか、「保護者の希望と本人の希望が乖離している」とか、「繁華街のオープンキャンパスばっかり行ってる」とか、「普段の高校の授業を真面目に受けてない」なんてことは、保護者以上に把握しているんですから。

(で、「おそらくその子です」と私が言うと、会場中の先生方の表情が変わります。いま、進路指導のゴールが変わったからだと思います。その心配な生徒のために、やっておくべきことが思い浮かんだんです、きっと)

その子がなぜ、どこにつまずいて中退に至るのかという「理由のもう半分」は、大学側が知っているはずです。大学進学後にどのようなハードルが存在しているか、そのために何をしておくべきかは、その大学の関係者しか知りません。

だから、高大の対話が必要なんです。「危ないかも」といま顔が浮かぶのなら、未来の望まぬ中退を、未然に防ぐ余地もあるってことですよ。生徒・学生の成長を願うという点では、お互いに同じ教育者同士です。できることはまだまだ、ありますよ。誰もが大学で学べる時代になったのだから、高大のコミュニケーションのあり方も変えていくべきだと私は思うんです。