マイスターです。
■進む「過去問題」の再利用(1) 全国75大学の他、センター試験も過去問利用を検討
昨日の記事では、大学の間で、入試の過去問題再利用の動きが進む理由として、
【(今のままだと)調査・問題作成に大変な手間と時間がかかるから】
という現状をご紹介させていただきました。
これに加えてもうひとつ、大きな理由があるようにマイスターは思います。
それは……
【今のままだと、「良問」を活用できないから】
毎年、多くの大学が、何回もの入試を行います。
近年、AO・推薦入試を実施する大学は増えていますが、それだけではありません。十年前と比べれば、一般入試の回数も、明らかに増えているように思います。
「A日程」、「B日程」のように、複数回の入試機会を行うのは今や珍しくもありません。
3教科入試、2教科入試と、科目数を変えて行う場合もありますね。
1月中の早期日程もあれば、3月中旬以降の二次募集もあり。
こういった入試問題を作成しているのは、昨日も申し上げたとおり、基本的にはその大学の教員です。
中心になるのは、教養課程の教員です。
しかし、考えてみれば、教員だって、別に試験問題作成のプロではありません。
数学の研究者なら、適切な数学の入試問題を作成できるかというと、そうではないのです。
誰も、教員が作成した入試問題が、良問であるかどうかなんて、保証できません。
そもそも、「良質な受験問題って何?」という議論自体が、日本ではあまり行われていないように思います。
「良問」って、なんでしょうか。
受験業界の関係者は、たまに、大学入試に「悪問」があるということを指摘します。
こういった場合の「悪問」とは、高校の学習内容を超えている問題や、ただマニアックな知識の有無を問うだけの意地悪な問題、解けることにあまり意味がない問題です。
確かにこういった問題は、悪問と言えるかも知れません。
あまりにもひどいと、「奇問」「珍問」なんて呼ばれることもあります。
程度の差はあれ、毎年、どこかの大学で悪問や奇問珍問が登場しているのではないかと思います。
では、こういった悪い点が無ければ、「良問」なのでしょうか?
多分、それだけではありませんよね。
例えば入試問題の条件として、
●こちらが期待する学力を、受験者が持ち合わせているかどうかが測れること
●全受験者から、必要な合格者をきちんと選抜できること
(高得点者が多すぎたり、逆にゼロ点ばっかりだったりしないよう、きちんと「適切に差がつく」問題であること)
……といった要素を満たしているかどうかは、重要です。
しかし、もっと本質的なことをいうと、マイスターが思うに、大学入試における理想の問題というのは、
「その試験で高得点を取った人ほど、入学後に、大学で活躍するような問題」
ではないでしょうか。
こうして改めて確認してみると、ものすごく当たり前な話です。
だって、優秀な(つまり、今後の大学を担ってくれるような)人材を獲得するために、大学は受験で選抜を行うのですから。
でも、ではこういった入試問題を実現させている大学が果たしてどのくらいあるかというと……微妙です。
例えば、入試問題の成績結果と、大学卒業時の成績との相関を、十分に分析している大学は、マイスターが思うに、あんまりありません。もしかすると、日本全国で、数校もないかも知れません。
一般入試組と推薦入学組、AO入試組の間の成績分布を調べるのは、よく行われているようです。成績不振の学生リストを会議で配って、推薦入試組の方が一般入試組より成績が悪いとか良いとか話し合うのは、珍しくありません。
でも、例えば一般入試組の中で、入試の「問題ごと」の得点分布と、卒業時の得点分布との相関を調べるような作業は、大学によってやっていたりやっていなかったり、差があると思います。多くの大学では、せいぜい入試の席次と卒業時の席次を比べてみるくらいでしょう。
本当であれば、「こういう問題を正答するような学生に来て欲しい」という風に、問題一門一門のレベルで、分析をした方がいいのです。
あまり細かくはなくても、例えば
「この年は、国語の現代文で、極めて難解な評論の長文読解を出題した。しかも2問、記述式の問題を混ぜた。
その現代文において、高得点を取って入学した学生達の成績を分析したところ、みな入学後は、平均以上の成績を取って卒業を迎えた。特に、記述式の問題を2問とも完答していた23人のうち、学年の成績10位以内に入った学生が6名もいた」
……みたいな分析を繰り返して作成された問題の方が、より「良問」に近づいていると言えます。
繰り返しになりますが、本来、入試というのは、「ただ点数で順位を付ければそれでいい」というものではなく、入学後も活躍できるような優秀な学生を選べなければ、やっている意味がないのですから、こういった分析は欠かせないはずなんです。
しかし、実際のところは、そんな分析はあんまり行われていません。
そういった作業を行える人的余裕がない、ということもありますが、もっとわかりやすい理由が、「過去問題を再利用できないから」です。
せっかく、過去に実施された問題の分析をしても、「これは良問だから、また次に使おう」とか、「似たようなタイプの問題を出題しよう」とかいったことができないのですから、データがあまり役に立ちません。
毎年ゼロから完全オリジナルの問題をつくるのであれば、過去の問題を分析したところで意味がない、それなら余計なことを考えずに、新しい問題を作って行った方が早い……そんな思いも、大学関係者の中にはあったのではないかと思います。
そんな反省もあって現在、「過去に出題された良問を活用する」という動きが広まりつつあるのです。
無理矢理にゼロからオリジナル問題をひねり出して、悪問や、奇問珍問を作ってしまうよりも、過去問を研究して「これぞ良問」という問題を作る方が良い、という考え方です。
個人的には、こういった考え方に、賛成です。
「どういう問題でなら、自分達の求める人材が選抜できるのだろうか」ということを、大学には追求していただきたいのです。
また、こういった考え方を突き詰めていくと、「そもそも、うちは工学部だが、本当に数学、理科、英語の3科目で選抜することがベストなのか?」とか、「そもそも、理系入試、文系入試と分けてしまっていいのか?」といった議論にも繋がると思うのです。
今回、センター試験も過去問活用の検討を始めたと報じられましたが、センター試験の場合、「正答率」をコントロールするという意味でも、過去問を活用する意味合いは大きいですよね。
……と、前回から長々と書かせていただきましたが、個人的には、過去問活用が広がる背景として、こんな2つの理由があるのかな、と思います。
「うちの大学はこう考えている!」とか、「いや、やっぱり過去問活用には問題がある!」とか、色々なご意見をお待ちしています。
どういう入試が理想的なのか、一緒に考えましょう。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
以下は読売新聞のサイトですが、高校の教員に実際に入試問題を批評してもらい、徐々に良問を作り上げていった事例です。作らなければならない入試問題の数や選抜性の高低などは大学によって様々ですので、一般に適用できるかどうかは難しい問題もあるかと思いますが、参考にすべき要素は多いと思います。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080104us41.htm
某大学入試の問題でドラえもんのタケコプターについて珍問が出ました