三重大学 職員を蔑視する大学教員

マイスターです。

朝日新聞社が毎年出版している『大学ランキング』を、ご覧になったことはありますでしょうか。

図書館の充実度や女子学生数、教員の博士号取得率、特許の数、といったものから、学食の充実度、テレビや映画のロケ地になったかどうかまで、大学のことをあらゆる側面から評価、ランク付けしたユニークな本です。

この中に、「事務職員ランキング」という項目があります。
教員ではない、いわゆる「大学職員」について、

・職員の総数
・職員一人あたり学生数

の2点で、充実度を評価したものです。
(ただ残念ながら、このランキングではおそらく、医学部付属病院のスタッフの方々と、一般の職員の方々が、混じってしまっています。病院のスタッフの方はたくさんいらっしゃるので、それぞれ分けて表示した方がいいと思うのですが、いかがでしょうか)

どうして職員の充実度がランキングになるかというと、重要だからです。

大学というのは、社会の中でも特殊な、そして高度な役割を担う機関です。
例えば、「教育」と一言で表現されますが、これは教員による授業だけで成り立っているものではありません。
履修登録の相談、課外活動の申請、奨学金、カウンセリング、留学支援、就職支援などなど、様々な面から、大学は学生を支えています。そして、これを担っているのは、大学職員です。
つまり職員が質、人数の両面で充実している大学では、こういったサービスが手厚くなり、より高度な依頼や相談に対応してもらえるということです。
受験生の皆さんが進学先を選ぶときには、入試部門(最近ではアドミッションズ・オフィスや、アドミッションセンターなんて呼び名もあります)の方々が対応してくれると思いますが、こういった方々も、大学を支える職員の方です。

こういった教員、職員の存在は、しばしば演劇の公演に例えられます。
教員は、言ってみれば舞台の上でお客さん(学生)を魅了する役者のような存在。
それを音楽や照明、衣装などなど、あらゆる面から演出し支える専門家集団が、大学職員です。
普段、学生から見えているのは役者だけかもしれませんが、それだけでは舞台は成立しません。
スタッフの層が厚い舞台ほど、様々な面でレベルが高くなるというわけです。

したがって大学職員が活躍している大学では、充実したサポートが期待できます。
他の大学では存在すら教えてもらえない奨学金を紹介してもらえたり、海外留学について親身に相談に乗ってもらえたりします。

しかし残念ながら、一部の大学には、大学職員を蔑視する教員がいたりします。
大学のセンセイは偉い存在なのだから、「ジム」(と、そういう人は言い放つことが多い)はセンセイの言うとおりにしていればいい、というわけです。

【今日の大学関連ニュース】
■「三重大准教授「辞めてしまえ」 パワハラで出勤停止処分」(中日新聞)

三重大国際交流センターの男性准教授(53)が、複数の職員に「おまえなんか早く辞めてしまえ」などと計18回にわたり、暴言を浴びせたり、ひぼう中傷メールを送ったりするパワーハラスメント(職場上の地位を利用した嫌がらせ)を繰り返したとして、同大は7日、出勤停止6カ月の懲戒処分にした。
同大によると、准教授は一昨年8月から昨年9月までの約1年間、同センター職員らに「事務が何をえらそうなことを言っているんだ」と直接言ったり、自分の書いた文書を手直しした職員について「わび状を出せ」などと書いたメールを12人のセンター職員全員に送りつけたりした。
職員らは「夜も寝られない」「出勤するのが怖い」などと訴え、一昨年8月に苦情を申し立て、同大が調査していた。
准教授は1997年に日本語教育担当として採用され、センター教務主任。以前にも女性非常勤講師に中傷メールを何度も送り付け、ノイローゼにさせて厳重注意を受けていた。
准教授は、こうした発言などをしたことは認めているが、「職員の方が自分をなめている」などと話しているという。豊田長康学長は「教員が人権侵害行為を行ったことは誠に遺憾」とコメントした。

(上記記事より)

■「三重大でパワハラ 国際交流センター教員を出勤停止に」(Asahi.com)

三重大は7日、複数の職員に暴言を18回繰り返すなどパワーハラスメントをしたとして、同大国際交流センターの50代の男性教務主任を8日から6カ月間の出勤停止にする懲戒処分を発表した。
同大によると、男性教務主任は少なくとも06年8月~07年9月、同センターの7、8人の職員に「おまえなんかやめてしまえ」「教員に向かって事務が何をえらそうなことを言っているんだ」「失礼なやつ」などと繰り返した。また、コピー用紙がなくなっていたり、自分が作成した書類のミスをほかの職員が修正したりしていると大声で怒鳴ったほか、わび状を出すよう迫ったり、センターの全教職員に個人を中傷するメールを送りつけたりするなどしていたという。大学側の聞き取りに対しこの教務主任は発言の内容は認めているが、「職員が悪い」などと話しているという。
この教務主任は04年2月にも、同センターの女性非常勤講師を中傷するメールを2年以上にわたり学内に送ったなどとして、学長から口頭で厳重注意を受けていた。
同大の三浦春政総務・財務担当理事は「この教務主任は職員を蔑視(べっし)しているうえ、職員が戦々恐々として仕事ができない有り様で、処分としては最も厳しいものにした」と話した。
(上記記事より)

三重大学国際交流センターで起きた出来事だそうです。

■「三重大学国際交流センター」(三重大学)

正直、控えめに申し上げても、この方は教員・職員ということ以前に、教育に携わる人間として人格を疑ってしまうところがあるようです。「俺はセンセイだから偉いんだ」、「それ以外の人は、センセイより下の存在だ」、という差別的な視点があるように感じられます。

さらに「教員/職員」や、「専任教員/非常勤講師」といった、あまり相手が強く出にくい立場の違いをいいことに、こういったパワーハラスメントを行っているのですから、さらに問題です。

大学の教員は第一に研究成果で評価されるものですが、だからといってここまで酷いと、どうして雇用していたのかが疑問に思えてきます。
三重大学がこの教員を処分したことは、世間的から理解・支持されるものではないでしょうか。

ただ、ご本人は、未だにまったく反省されていない様子ですから、おそらく今後も、同じように職員を蔑視したままでしょう。
6ヶ月間の出勤停止が終わった後、果たしてこの国際交流センターが正常に機能できるのか、他人事ながら心配になってしまいます。

三重大学は、先の『大学ランキング』によると、職員の総数は942人で、38位。職員一人当たり学生数は6.6人で、31位です。医学部があるからでもあるのでしょうが、かなり上位にランクインしています。
職員の充実度を誇る大学としては、不名誉なニュースになってしまいました。

国際交流という部門は、大学職員の仕事の中でも、特に専門的な業務を担う部門の一つです。
単に外国語に通じているというだけではなく、留学生活の不安を解消してあげられるだけの知識・スキルと、学生に対してあらゆるサポートを尽くせる姿勢が求められます。

マイスターが知っている方(三重大学ではありませんが)にも、留学生から慕われている職員がたくさんいます。

日本で暮らす留学生が、深夜遅くに警官に職務質問されて混乱していると聞き、自転車を走らせて駆けつけた方もいます。学生をかばって警官とケンカした方もいます。
また、海外に交換留学している学生が不安にかられてかけてきた電話を、やはり深夜の2時、3時に受け取り、安心するまで話をしたという方もいます。

母国を離れ、不安を抱えながら学生生活を送る留学生にとって、こういった職員の存在がどれだけ心強いことか。

こういった想像ができるなら、「教員に向かって事務が何をえらそうなことを言っているんだ」なんて言葉は出ません。
三重大学ではこの教員に怯えるあまり、職員の皆さんの仕事ができなくなる状態だったとのことですから、留学生サポートにとっても、少なからず影響を与えたことでしょう。

ちなみに私立大学の場合、職員に一番多いのはたいてい、その大学の卒業生です。
かつて教え子だった学生達が、職員として母校に就職し、学生を支える側にまわるわけですね。

国立大学法人ですと、採用の方法がかなり違いますから、どうかわかりませんが、三重大学の卒業生にも、どこかの大学の職員になる方がいるでしょう。
記事で取り上げられている教員の教え子にも、大学職員になる方がいるかもしれません。

そう考えるとやはり、マイスターなどは、こういった教員の姿勢や行動に、大きな疑問を感じてしまうのです。

今回、この方は6ヶ月の出勤停止になりましたが、もし立場が逆で、職員が教員に対して同じことをしたなら、果たして三重大学は同じ処分で済ませたでしょうか。
教育関係者にあるまじき人格だということなら、大学によっては、懲戒免職になりそうな気がします。

もちろん、他の大多数の教員の方は、立派な方々なのでしょう。でも、こういう教員がいる大学を受験生にお勧めするとき、正直やっぱりちょっと心配になってしまいます。

ただ、大学の現場では、こういった「困った教員」に対し、「職員が我慢する」という対応で済ませてしまっていることが多いのも確かです。「あのセンセイも困ったものだね」と、職員がオトナな対応でその場を切り抜けるとか。
でも本来なら、人格的に問題のある教員が学生の指導に関わっているということを問題視し、組織的に解決しなければならないところ。そう考えると、職員の側も、我慢してしまうだけではいけないのかなと思います。

学生を大学に送り出す側としては、こういった問題がきちんと抜本的に解決されることを、切に願います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

4 件のコメント

  • 国立だと正規の職員は学生と接する機会はかなり少ないのではないかと。相当数が派遣職員に置き換わっていますから。

  • 教員と職員の関係は、国立と私立で大きく違うのではないでしょうか。私がいた大学では全く次のとおりでした。「私が事務局長、理事・副学長をつとめた京都大学では、事務職員を対等のパートナーどころか、「使用人」「下僕」「間接部門」として見るような教員も少なくない。」(アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)No.294
    「改革のフロントランナー」立命館の最前線にて 本間政雄) 百年続いてきた「身分制度」ですから、そう簡単には変わらないだろうと、私は悲観的です。

  • 「技術職員は教員から言われた事だけやってればいいんだ」,「力仕事だけやれ」「事務が俺に指図する気か」という教員は東大には何人もいる.上杉本事務局長がいう事務職員は「事務方」ではなくそれぞれ専門職である.という認識も一部にある.大学運営は教員だけで行っていると認識している教員は多い.

  •  私大の場合はご指摘のとおり卒業生が事務職員になる場合が一般的かと思います。その場合、何十年とその大学でキャリアを積まれていく。
     そうなると、事務職員の方が校務をするに当たって必要な過去の経緯や非公式な制度運用の実態などを熟知しているんですね。すると、何をするにしても事務職員の協力がなければ進まないわけです。
     彼らは母校ですから愛校心もありますし、同窓会の幹部である場合もちらほら。
     国立の場合は事務職員も大学間を異動するので、教員の方が古株だったりすることもある。事務職員の勤務先に対する愛情も、私大とはやや違うのかもしれませんね。