マイスターです。
最近では、仕事の量や責任をコントロールし、生活の他の部分を大切にしたいと考え、あまり出世を望まない人も増えていると聞きます。
ワークライフバランス、という言葉もありますね。
一方で、若いうちから意欲的に、責任のある仕事に挑戦したいと考えている人も増えているようです。
職場にもよるでしょうが、マイスターが大学で勤めていた頃の経験によると、大学職員として働いている方には、前者のタイプが結構いらっしゃるように思います。
(「自分の時間を大事にしたいから大学職員になった」と公言してはばからない人も、たまにいました)
どちらが良いとか正しいとかいう話ではなく、自分にあった生き方を選べばいいんじゃないかと個人的には思います。
そんなわけで、少し前の話題ですが、こんなニュースをご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「昇格したい人手を挙げて 東北大、自薦式導入」(河北新報)
東北大は今春、人事制度改革の一環として、事務職員の課長・事務長への登用制度に「自薦式」を導入した。2008年度人事では、自ら名乗りを上げた課長補佐クラスから新課長らを決めた。職員のやる気を引き出して組織の活性化を促すとともに、人事考課の透明性を確保するのが狙い。
課長・事務長は全学で約70人。80人ほどの課長補佐・専門職の中から年に3、4人が昇格している。これまでは所属長の推薦などで昇格者を決めていた。
課長補佐らを対象に2月、新制度実施を伝えたところ、約20人が立候補。理事5人が面談し、業績や昇格後に取り組みたい仕事を聞き取り調査した。資料を用意し、大学への提言を積極的にアピールした職員もいたという。
大学は「結果は本人と所属長にしか告げていない」として、昇格人数を明らかにしていないが、能力や適性を考慮して判断したという。
折原守理事(人事労務・施設担当)は「手上げ式は東北の気質になじまないのではとの懸念もあったが、予想以上の立候補者があった。職員の意欲を感じた」と手応えを語る。
(上記記事より)
東北大学の取り組みです。
「手上げ式は東北の気質になじまないのではとの懸念もあったが」という理事の言葉が印象的です。
日本では、こういった意見をお持ちの方が、案外少なくないですよね。
同じような事例で、「職場の和が乱れるのでは」とか、「人間関係が荒れるのでは」とかいった意見を聞くこともあります。
心配されるのはなんとなくわかりますが、冒頭で述べたように、様々な働き方を望む方がいる現在では、これもひとつの方法なのではないかと個人的には思います。
自薦式と聞くと、「苛烈な出世競争」みたいな図を想像してしまいますが、「出世したくない人が働き方を選べる」という側面もあるわけですから。
ところで個人的には、出世の度合いだけでなく、キャリアパスの多様性も確保した方がいいのではないかと思います。
企業では減ってきていますが、多くの大学では役所と同様、職員においては終身雇用・年功序列が維持されています。
また5~8年程度で担当業務が変わる(他部署に異動する)、ローテーションの仕組みを取っている点も、役所と同じです。
そのねらいは、一つの業務をプロ級に極めるスペシャリストではなく、多くの部署の業務の流れを浅く広く知るゼネラリストを育成することにあります。
しかし大学の業務は今後、複雑化、高度化、専門化していきます。
例えば「奨学金」の担当者。
このブログでも様々なニュースをご紹介させていただいていますが、学生の経済支援は今後の大学の重要テーマのひとつです。
大学間の競争が苛烈になる中、どれだけ優秀な学生を国内外から引っ張ってこれるか。また、一人一人の在学生の経済負担を減らし、卒業率を上げ、顧客満足度を増大させられるか。その辺りが、大学の経済支援にかかってきます。
そこで、それぞれの学生に対して適切な奨学金の情報を提供し、経済負担を減らせるかが、奨学金担当者の腕の見せ所。そのためには、日本中、世界中の奨学金情報を知り尽くし、学生に対して奨学金を知ってもらうための努力が必要になってきます。
しかし日本の大学では未だに、学生課などの職員が、奨学金の受付を兼ねているケースが目立ちます。
極めて事務的に、奨学金のリストを掲示板に貼り、申請書を受け付け、記入にミスがないかどうかだけをチェックし、処理する。これだけです。
なにしろ、もともとこの分野に対してプロでなく、またプロになるつもりもないスタッフが、片手間にやっているようなものなのですから、無理もありません。
プロになる前に他の部署に異動し、後任に、「処理の仕方」を引き継いで、終わりです。
この奨学金の例だけを見ても、明らかに大学が目指すレベルと、実際の業務の水準が合っていないわけです。
例えばこういった業務については、従来のゼネラリスト養成ルートとは違う、スペシャリストのためのキャリアパスを用意してもいいのではないかということです。
多くの部署の業務を知ることも大事ですから、若いうちは意図的に、様々な業務分野を体験していただくのもいいでしょう。
ただ、どこかのタイミングで、
■プロのゼネラリスト(=大学アドミニストレーター)
■プロのスペシャリスト(=各業務に特化した専門家)
のどちらの働き方を目指すのか、職場と話し合いながら自分で選べるようにするのがいいのではないかと個人的には思っています。
そうしないと、各部門の業務をつまみ食いしているだけで、ゼネラリストとしてもスペシャリストとしてもプロフェッショナルとは言えない、単なる「ベテランさん」ばっかりの大学になってしまうのではないかと思うのです。
大学の教育研究水準を引き上げるには、実際に業務に関わる人材の力を引き出し、現場を活性化させることが必要不可欠です。
どれだけ革新的な大学改革を打ち出しても、それを担うスタッフが、プロを目指して生き生きと働ける環境でないなら、絶対に成功はしません。
各大学の経営陣はそろそろ、その認識を持つべきではないかと思います。
東北大学の取り組みはその一例。各大学に、それぞれにあった方法があると思います。
まずは試行錯誤をし、実際に何かを変えてみることから始められてみてはいかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。