マイスターです。
ここ一週間ほどの教育ニュースの中から、いくつかを選んでご紹介します。
【予想外に高い事務経費。】
■「高校無償化 間接方式で…文科相表明」(読売オンライン)
川端文部科学相は25日午前の閣議後の記者会見で、民主党が衆院選公約(マニフェスト)の柱に掲げた高校授業料の実質無償化について、都道府県などを通じて保護者に授業料相当額を給付する「間接方式」を採用する考えを表明した。
(略)直接方式には、〈1〉事務経費が推計で数百億円に上ると見込まれる〈2〉市区町村の窓口の事務量が膨大になる〈3〉保護者が授業料に使う保証がない――などの懸念が指摘されている。このため、文科省は都道府県などを通じて間接的に給付する案を検討し、民主党側と調整を続けていた。
(上記記事より)
民主党が掲げる、高校の授業料無償化。
当初は、家庭に直接、授業料相当の金額を給付することになっていましたが、直接方式の場合、事務経費だけで数百億円がかかるとのこと。
そのため、都道府県などを通じて学校に給付する間接方式が採用されることになりそうです。
関係ありませんが、この記事を読んで、定額給付金の給付にはいくら経費がかかったんだろうと思ったのはマイスターだけではないはず。
【複雑な事情。】
■「<どうなる学校>高校授業料無償化 現場に歓迎と戸惑い」(東京新聞)
川端文科相は、公立高授業料は無償化、私立高生は年間約十二万円(世帯年収五百万円以下は二十四万円)を間接給付することを表明した。私立高の授業料は年間六十~八十万円。
東京都立青山高校の岩崎充益校長は「公立回帰の動きが予想され、公立進学校には追い風」とみる。「意欲はあるが経済的に困っている子が増える中で、公立無償化はかなりの強み。一気に弾みをつけたい」と意気込む。
だが、私立高は逆風になりかねない。ある私学教育関係者は「一方で国の私学助成金が削られる懸念がある。そうなると公平なのか」と不満をあらわにする。
(略)給付を受けても私立高の授業料は依然、負担感が高い。一方、公立高はタダになるという意識から「『学費は安いほどいい』と考える層が公立を選べば、私立の中・下位校にはかなりの痛手。公立無償化で公私間の学費負担感の差は今以上に開き、費用がかかっても私立に行かせる層との経済力による教育格差がさらに拡大する」と予測する。
(上記記事より)
その、給付を受ける高校の側の意見が記事で紹介されていました。
公立高校も、私立高校も、生徒ひとりあたりの給付額はそう変わらないのですが、「無償」というインパクトで公立高校の人気が高まるのでは、と考える方が少なくない様子。
本来なら、生徒の側は一律に得をするはずなのですが、色々と関係者の思いは複雑なようです。
なお、
追い風に見える公立高にも、マイナスの影響を心配する声も。東京都葛飾区立中学の三年担任教員は「高校進学希望者の六割が奨学金希望という現状を考えれば救済策は必要」と認めつつも「中学では養育放棄状態の保護者が増えており、『タダなら行かせとけ』との発想から一部の公立高は託児所化するかも」と危ぶむ。
(上記記事より)
……なんていうコメントも。なるほど。
これは、「大学生の質が下がった」という意見の多い大学関係者にとっても、参考になる意見かもしれません。
高等教育についても、「欧米同様、大学教育を無償化せよ!」という声はしばしば聞かれます。
しかしそうすると上記の意見のように、「タダなら行かせとけ」の学生が増えます。
もし現行の定員数のままで無償化、もしくは学費を大幅に下げると、大学入学のハードルがかなり低くなり、結果的には大学の負担を大きくすることになるのかも。
【門戸、開かれる。】
■「障害学生15%増の6200人=大学など支援進む-08年度調査」(時事ドットコム)
全国の大学、短大、高等専門学校に2008年度に在籍した障害のある学生数が前年度比15.4%増の6235人だったことが、独立行政法人日本学生支援機構(本部横浜市)の調査で分かった。学校側も授業で補助を付けるなど支援を充実させている。
調査では全1218校が対象で、08年5月時点の通信制、大学院なども含めた状況を集計。年度ごとに障害の定義が変わっているため単純比較はできないが、学生数は調査を始めた05年度以降で最も多く、学生全体に占める割合も0.03ポイント増の0.20%で最高だった。
障害種別の人数では、肢体不自由の学生が2231人で最多。聴覚・言語障害の1435人、病弱・虚弱の1063人が続いた。
在籍先の学校数は719校で、割合は1.3ポイント増の59.0%。学校種別では年限の長い大学、高専がそれぞれ72.4%、71.9%、短大は31.5%だった。
障害学生が授業を受ける際に教職員、学生らがノートテイク(筆記通訳)や手話通訳などの補助を行っていた学校は、前年度より58校増えて543校。05年度の206校に比べて約2.6倍となった。
(上記記事より)
キャンパスのバリアフリー化はもちろん、ノートテイクを担当するボランティア学生の養成など、大学が受け入れに向けて様々な対応を進めてきたことも大きいと思います。
一つ一つの取り組みは派手ではなく、あまり知られていないものも多いかもしれませんが、社会から評価されることだと思います。
【利用者は増えるか?】
■「就活専門の“家庭教師” 国内初 首都圏で派遣事業」(東京新聞)
一般社団法人キャリア開発支援機構(東京都中央区)が、就活支援を行うコンサルタント約百人をまとめ、今月から首都圏を中心に派遣事業を始めた。コンサルタントは大手企業の元人事担当者や大学の就職相談員らで構成。就活専門の家庭教師の事業化は国内初という。
対象は主に大学三、四年生。学生の自宅や喫茶店などを教室代わりに、一対一で自己PRの方法や企業選びなどを指導する。基本料金は一回九十分間で一万五千円。
(上記記事より)
就活専門の家庭教師と聞くと、ちょっと微妙な感じがしますが、要はキャリア開発支援機構によるキャリア・コンサルタントの派遣。マンツーマンのキャリアコンサルティングを、「就職活動」に焦点を当てた形で実施するということなのでしょう。
本来のキャリアコンサルティングは、「有名企業に入るための方法」といった単純な就職テクニックではなく、もっと大きな視点で行われるものだと思います。しかし「就活の家庭教師」として呼ばれると、「有名企業」への就職実績だけを求められるケースも少なからず出てくるのでは。
そのあたりの兼ね合いが大変そうです。
それとこのサービス、大学のキャリアセンターのサービスと、バッティングする部分がありそうです。
大学のキャリアセンターと、こうした「家庭教師」の方々とが、全然違うことを学生に伝えるようなこともあるのでは。
【初任給と景況感。】
■「大卒事務系の初任給20万8306円、企業の87.0%が据え置き、経団連調査」(NIKKEI BP NET)
日本経済団体連合会(経団連)の調査によると、2009年3月に4年制大学を卒業し、事務系の職種についた会社員の初任給は平均20万8306円。前年より0.09%多いが、上昇率は2008年に比べ0.49ポイント縮小し、2003年(0.1%)と同様の低水準になった。前年の初任給を据え置いた企業の割合が87.0%と6年ぶりに増加し、4年ぶりに8割を超えた。
(略)2004年から拡大を続けていた初任給の上昇率は2008年から縮小に転じ、2009年は全学歴で縮小した。大学卒技術系の初任給は20万 9752円で、上昇率は0.55%(前年は0.58%)。大学院卒(修士)は事務系が22万6554円で、上昇率は0.16%(同0.54%)、技術系は 22万8249円で、上昇率は0.05%(0.54%)となっている。
前年の初任給を据え置く企業の割合は2004年から低下を続け、2008年には52.0%まで下がったが、2009年は再び9割近くにはね上がった。
(上記記事より)
こちらは就職後の話題。
「2004年から拡大を続けていた初任給の上昇率は2008年から縮小に転じ、2009年は全学歴で縮小した」
……というあたり、景気の回復と落ち込みを色濃く反映しているようです。
学生の経済感覚から言うと、初任給の額はけっこう大きくて、いただけるだけでとてもありがたく感じるもの。細かい金額の比較をする人は、あまりいないのではないでしょうか。
でも実際には、入社したての時点で、早くも経済社会の一員であることを意識するような仕掛けがあったんですね。
以上、ここしばらくのニュースクリップでした。
それでは今週も、お互いがんばりましょう。
マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。