マイスターです。
今日は、↓こんなニュースが話題に上っていたようですね。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「1期生全員資格得られず 仙台福祉専門学校保育学科」(河北新報社)
http://www.kahoku.co.jp/news/2007/02/20070217t13047.htm
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仙台市の学校法人菅原学園が運営する仙台福祉専門学校(青葉区)で、幼稚園教諭や保育士を目指している生徒37人が3月の卒業を控え、一人も資格を取得できないことが16日、分かった。生徒は大学の通信教育を併修し、専門学校の支援を受けていた。学校側は17日に保護者らに謝罪し、生徒本人の希望を聞いたうえで4月以降も支援する方針。
専門学校によると、生徒は2004―06年度の3年間の保育学科を受講した。しかし、卒業して幼稚園教諭と保育士になるために必要な単位(両資格で計104単位)に一人も届かなかった。37人のうち20人以上は1年間留年しても卒業が難しい状況だという。
生徒は聖徳大短期大学部(千葉県松戸市)にも籍を置き、通学の場合2年の課程を、3年の通信教育で保育士や幼稚園教諭2種免許を取得する予定だった。このため、専門学校の授業は保育原理、ピアノなど通信教育の科目ごとに指導されていた。
学校側は、保育学科は04年度に開設されたばかりで「1期生」に十分な指導ができなかったと釈明。「生徒には通信教育の難しさを伝えていたが、指導力不足で単位取得が進まなかった」と謝罪している。
学校は昨年10月、単位取得に全力を挙げることを文書で保護者に伝えたが、今月には卒業が絶望的となった。保護者の一人は河北新報社の取材に「入学する前、学校からは『3年間通えば資格が取れる』としか聞いていない」と憤っている。
菅原学園の菅原一博理事長は「単位を満たせば資格取得は可能という意味だったが、保護者に十分な説明ができていなかった。対策を講じてきたつもりだが、結果についてはおわびしたい。本人の意向を確認して4月以降も懸命に生徒を支え続ける努力をしたい」と語った。
(上記記事より)
専門学校の実態にあまり詳しくないこともあり、この辺りの記述をざっと読んだとき、マイスターの頭の上にははてなマークがいっぱい並びました。
「3年間通えば資格が取れるとしか聞いていない、って憤慨されている保護者の方がいらっしゃるけれど、勉強しなかったせいで単位や資格がとれなかったのならそれは学校のせいだけでもないのでは。資格を取れないのとか、単位を取れないのとかいうのは本人にも原因があるんじゃあ……?」
……なんて感想が、最初に頭の中をよぎりました。
っていうかそれ以前に、
「専門学校に通いながら短大の通信教育?」
というところで頭が混乱しました。記事から察すると、マイスターが知っている「ダブルスクール」のイメージともなんだか少し違う雰囲気でありますし。
でもこの専門学校のサービスがどういったものなのかをあれこれと読んでみて、ようやくイメージが掴めてきました。
[大学の通信教育と専門学校との併修]
大学や短大の通信教育と同時に専門学校にも入学し、教育や福祉などの資格取得を目指すシステム。転職希望者や大学進学をあきらめながらも資格取得を目指す人が活用しており、2つの学校で同時に学ぶという「複合型進路」が新たな進路として注目されている。幼稚園教諭・保育士資格の通信教育がある大学は現在4校で、各地の専門学校と提携している。
(「1期生全員資格得られず 仙台福祉専門学校保育学科」(河北新報社)より)
通信教育による免許取得は、通学より困難なことは関係者の間では「常識」だ。ある大学通信部は、卒業までに3000字程度のリポートを50回以上提出させているという。
このため、大学や短大の入学試験を経ていない生徒が、カリキュラムに沿って必要単位を取得できるよう学習を手助けするのが専門学校の役割。資格取得率を高めるため、それぞれが工夫をしている。
(「“難関”追い付かぬ支援 仙台福祉専門学校」(河北新報社)より)
同校保育学科は、聖徳大短期大学部(千葉県松戸市)の通信課程で、保育士・幼稚園教諭の免許取得を目指す学生に対し、必要単位修得のためのサポートを行う授業を実施。大学のカリキュラムに合わせて、リポート作成やピアノ実技の添削、指導を行っている。
(「学校法人謝罪『見通しに甘さ』 専門学校、生徒免許取得困難」(河北新報社)より)
生徒は大学の通信教育を併修し、専門学校の支援を受けていた。
(「1期生全員資格得られず 仙台福祉専門学校保育学科」(河北新報社)より)
つまり、保育士の資格の前提になっているのはあくまでも短大の授業の方なのですね。今回の場合であれば、聖徳大学短期大学部の通信課程3年制に入学し、ちゃんと必要な単位を取って卒業すれば、保育士の資格がもらえたのです。
ただ、通信教育で必要単位を得るのはそう簡単ではないので、短大通信教育での学習を「支援」するための専門学校が商売として成り立った、というわけです。
つまり、今回の学生さん達がお金を払ってわざわざこの「仙台福祉専門学校」に通っていた意義は、「短大をちゃんと3年間で卒業する」というこの一点にあったわけです。
それなのに3年で卒業できた学生が一人もいなかったのだから、保護者は怒り、学校側は謝罪しているというわけです。なるほど、それはお金を払った側からすれば確かに「話が違う」ということになるでしょうね。
今回このような騒動になった原因の一つが、もともとの聖徳大学短期大学部通信教育の卒業率の低さです。
■「聖徳大学通信教育部:保育科」(聖徳大学)
http://www.seitoku.jp/tk/index.html
本学は「保育の聖徳」といわれ、幼児教育には長い歴史と伝統が培われています。また通学課程の保育科第1部は1学年の定員600名と日本一の規模を誇り、理論や技術のみならず人間として魅力に溢れた人材の育成に力を注ぎ、幼児教育のプロフェッショナルを数多く輩出しています。このような通学課程のノウハウを基に、昭和47年に東日本では唯一となる通信教育部保育科を開設しました。
(上記ページより)
保育士養成において、聖徳大学は長い実績を持っていあす。
マイスターもそんな高評価を何度か耳にしたことがあるのですが、その高評価の裏にはもちろん、↓以下のような厳しい教育があるわけです。
同校が学生のダブルスクール先としていた聖徳大短期大学部通信教育部の保育科は、関係者の間では「難関」と呼ばれている。総勢約2000人以上の学生が在籍。この中から1年間に卒業するのは、在籍3年を超える生徒も含め約100人だけ。関東地方の大学関係者は「他に比べてピアノの単位履修が難しいことで有名」と、今回の背景の一つに挙げる。
(「“難関”追い付かぬ支援 仙台福祉専門学校」(河北新報社)より)
学園(※仙台福祉専門学校)側は生徒の入学当初、保護者らに「3年間で通信課程を修了すれば」という条件付きで、資格取得できると説明していた。尾地浩・菅原学園経営企画室長は「われわれの支援があれば、3年で修了できると認識していたが、見通しが甘かった」と話した。
聖徳大短期大学部の通信課程は、3年間で卒業できるケースは少ない。この点について学園側は「直接学校に出向くこともあると考えると、他の学校よりも比較的近い同大学を選ばざるを得なかった。保育指導の評判も高い」(尾地室長)と語っている。
(「学校法人謝罪『見通しに甘さ』 専門学校、生徒免許取得困難」(河北新報社)より)
このように3年制と言いつつも、実際のところ聖徳大学短期大学部通信教育部を3年で卒業していく人は非常に少ないようなのです。
聖徳大学短期大学部通信教育部が単位を厳しくするのは、もちろん全然悪いことではありません。これまで社会の中で積み上げてきた評価に恥じぬレベルを維持しようということでしょうから、むしろこういった姿勢を評価される向きも多いのではないでしょうか。
「こちらが要求するレベルをクリアしない限り、何年かかっても卒業はさせない!」という方針なのであれば、堂々とそれを主張されて良いと思います。
ただ仙台福祉専門学校は、併修相手に指定するのであれば、聖徳大学短期大学部通信教育部がこういったポリシーで教育を行っている「難関」であることをしっかり認識しておくべきだったのではと思います。おそらく聖徳は、安易に「3年であなたも保育士の資格が取れる!」というビジネスのパートナーにできるほど、甘い短大ではなかったのでしょう。
一言で言えば、仙台福祉専門学校側の見通しが甘かった、ということになるのではないでしょうか。
ところで少し話が変わりますが、
今回のような報道を見る度に思うのは、日本の学校は「卒業率」や「在学生達の成績の平均値」など、学業に関する情報を外部にほとんど公開していない、ということです。
大学でも短大でも、学生達の「就職率」は熱心に宣伝しますが、卒業率は隠しているか、極力言わないようにしていることがほとんどです。
実際には、4年間でストレートに卒業できる割合が低い大学だって世の中にはあると思うのですが、そういった情報は受験生や保護者には伝えられておりません。大学のwebサイトのどこを見ても、そんなことは普通、書かれていません。
マイスターには、これはとても不思議なことに思えます。おそらく受ける側の皆様は「まさか自分が(うちの子が)留年なんかするわけがない」と思っておいでなのでしょうが、現実にどの大学でも確実に毎年、留年している学生が出ているのです。留年生がどれくらいの割合で発生し、そのうち卒業までたどり着けずに終わる方がどのくらい含まれるかとか、気にならないのでしょうか。
「A大学は就職率90%って書いてあるけれど、こっちのB大学は95%だそうよ。B大学の方が評判が良いのかしら」なんて感じで就職率は皆さん結構気にされますが、数パーセント程度の就職率の差を気にされるくらいなら、卒業率の方も問い合わせてみればいいのにと思います。
実際には、東京理科大学のように「うちは留年も多いですが、その分鍛え上げますので、社会から信頼されています!」というスタンスの大学から、逆に「うちは留年は極力出さない主義です」という大学まで、学校によって結構、留年のとらえ方に違いがあるはずです。そのあたりの教育理念に共感できるかどうかを事前に受験生側が判断するためにも、やはり情報は開示されているべきです。
「就職が好調だからこの大学を選んだが、4年間でみんな卒業できると思っていたのに、実際にはかなりの学生が留年する学校だった。パンフレットにはそんなこと全然書かれていなかったのに」などと勘違いするパターンは悲劇だと思うのですが。
以上、マイスターでした。
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※ちなみに聖徳大学短期大学部通信教育部、特にピアノの履修単位が厳しいと記事にはありますが、wikipediaの書き込みによると
保育士資格や幼稚園教諭免許状を取得するには、ツェルニー№30番程度のレベルの課題曲をクリアーしなければならないことになっている。
(「聖徳大学短期大学部」(Wikipedia)より)
……だとのことです。マイスターはピアノが弾けないのでよくわからないのですが、これはまったくの初心者が3年でクリアするにはやはり難しいレベルなのでしょうか?
ちなみに、過去に公開されていたwebサイトを閲覧できる「Wayback Machine」で、3年前の仙台福祉専門学校の宣伝ページを見てみますと、↓こんな感じで書かれています。
■「仙台福祉専門学校:保育学科【2004年1月頃公開されていたページ】」
http://web.archive.org/web/20040104133632/http://www.sugawara.ac.jp/fukushi/
(※文字化けした場合は文字コードを「Shift JIS」に変更してください)
保育関係の仕事をしたいけど、ピアノが弾けなくて…なんて心配は無用。ピアノ経験ゼロだった多くの先輩が、「器楽リズム」の授業を通していろんな曲が弾けるまでに上達!
(上記記事より)
聖徳って、例の川並一族がやってるブラック学校法人でしょ。
仕事でたまに行くけど、ひどい経営状態がよくわかるよ
教員は例外なくげっそりと疲れた顔して、下向いて歩いてるし。
聖徳なんかにかかわるほうが、事前の調査不足だと思います。