マイスターです。
↓先日、沖縄科学技術大学院大学についてのニュースをご紹介しました。
・科学技術投資と、「地域振興」という事情
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50269558.html
沖縄振興の目玉である「沖縄科学技術大学院大学」構想の、総合科学技術会議による格付け評価の内容が、関係閣僚や内閣府沖縄振興局の強い要請により最高の「S」ランクに“修正”されていた疑いがある……という報道でした。
ところでこの構想、どうやら他にも色々と問題を抱えているみたいなんです。
2006年12月4日
■「就任後 国内勤務63日 ブレンナー理事長」(沖縄タイムス)
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200612041300_06.html↓
2006年12月10日
■「沖縄科技大学長内定のノーベル賞・ブレンナー氏、準備組織理事長退任へ」(読売オンライン)
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_06121004.htm↓
2006年12月12日
■「ブレナー氏、退任意向撤回 大学院大学」(琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-19632-storytopic-7.html
記事の日付とタイトルだけ見ても、なにやらバタバタしている感が否めません。この一週間、沖縄で一体何があったのでしょうか。
時系列に沿って、各記事を見ていきましょう。
沖縄科学技術大学院大学の初代学長に内定しているシドニー・ブレンナー氏(79)が、設立準備のための独立行政法人「沖縄科学技術研究基盤整備機構」の理事長に就任した昨年九月以来、六十三日しか国内で勤務していないことが三日までに分かった。
(略)
国内での勤務体制は平均で「週一日」の計算になるが、内閣府によると、同氏は構想の進捗などについて日々海外から電話やメールで指示を出しているほか、研究員を呼び込むためのPR活動を展開しているといい、「常勤といえる」と説明。関係者の一人は「大学の本体も着工していない段階で国内勤務を求めることが、構想を推進する上でいいとは思えない。今後、優秀な研究員を確保する上で海外でのPR活動は必要で、ブレンナー氏の影響力が不可欠だ」としている。
(「就任後 国内勤務63日 ブレンナー理事長」(沖縄タイムス)記事より)
これが12月4日の報道です。沖縄科学技術大学院大学構想の要である、シドニー・ブレンナー氏の勤務状況が不適切なのではないか? という記事です。この記事によれば、ブレンナー氏の年俸は1,760万円。しかし実際にはほとんど沖縄にいないじゃないか、ということが問題にされているようです。
先日のニュースに引き続き、沖縄科学技術大学院大学に対してメディアの厳しいチェックが行われていますね。こういったチェックを受けることは大切です。構想のためにつぎ込まれる金額も大きいですし、影響力の大きなプロジェクトですからね。
ただもっとも……マイスターは、個人的にはブレンナー氏が国内にいないことはそれほど大きな問題ではないんじゃないかなぁ……なんてちょっと思ったりもします。
マイスターは勤務の契約条件や規定がどうなっているのか等についてまったく知りませんから、あんまり無責任なことは言えません。ただ、ブレンナー氏の最も重要な役目は、国内外の優秀な研究者を沖縄に引っ張ってくることのようですから、それだったらなおのこと、沖縄で週何日も過ごしているわけにはいかないんじゃないかな、なんて思うのです。世界を飛び回ってPRを行い、結果として目標通りの成果を上げられれば、それでいいんじゃないでしょうか。
「現地にいる」ことではなく、沖縄科学技術大学院大学を世界レベルの研究センターにするという目標を達成することこそが、彼の仕事なのですから。
沖縄の進捗についても、「日々海外から電話やメールで指示を出している」とのことですし、63日は現地に立ち寄っているのだから、別にさぼっているわけではないのでしょう。それなら目的達成のために、ある程度の自由裁量を認めてあげてもいいんじゃないかなと思います。ミッションははっきりしているのですから、ここは結果主義、成果主義で良いのではないでしょうか。
「大学の本体も着工していない段階で国内勤務を求めることが、構想を推進する上でいいとは思えない」という声にも、一理あるんじゃないかなと感じます。1,760万円という年俸も、世界クラスの研究者を何十人も集めるための報酬としてはそう高くないと思うのですが、いかがでしょうか。
……と、内容の是非はとにかく、上記のような批判的な報道が流れたわけですね。
で、その6日後に報道されたのが、↓こんなニュースでした。
国が設立を目指す「沖縄科学技術大学院大学」の初代学長に内定していたシドニー・ブレンナー氏(79)が、開学を待たず来年秋にも準備組織の理事長を退任する意向であることがわかった。ノーベル賞学者のブレンナー氏は同大構想の「金看板」。後任探しは難航が予想され、優秀な研究者を集めるという計画に支障が出そうだ。
(略)ブレンナー理事長は読売新聞の取材に対し「わたしは機構の理事長として任命されたのであって学長としてではない。自分の仕事が終わった段階で『引退』する」と述べ、開学前にも退任する考えを示した。
沖縄振興局の関係者らは「来年秋にも理事長職を辞めるとみて、後任探しの作業を急いでいる」と、早期退任の可能性が高いことを認めている。
(「沖縄科技大学長内定のノーベル賞・ブレンナー氏、準備組織理事長退任へ」(読売オンライン)記事より。強調部分はマイスターによる)
ブレンナー氏の辞任報道です。タイミング的に、先ほどご紹介した「国内勤務63日」のような報道が影響を与えたのか、と思わせます。
ただ……記事を読む限り、辞任というよりも、本人はもともと学長になるつもりはなかったみたいだと思われるところが、また不可思議です。これは、聞き捨てなりませんよね。
だって、これまでは、↓このように報道されていたわけです。
ブレンナー氏は昨年9月、同大の準備組織「沖縄科学技術研究基盤整備機構」の初代理事長(任期4年)に就任。「世界最高水準の大学」にふさわしい学長予定者として紹介されてきた。
2004年2月の衆院沖縄・北方特別委員会では茂木沖縄相(当時)が「学長予定者となることの内諾を得た」と報告。
担当の内閣府沖縄振興局も「同氏のリーダーシップのもと、大学の基本計画を策定していく」と説明している。
(「沖縄科技大学長内定のノーベル賞・ブレンナー氏、準備組織理事長退任へ」(読売オンライン)記事より)
なのに、ここに来て突然の「もともと学長としては任命されてない」発言。ブレンナー氏と日本側との交渉内容に誤解があったのか、それとも日本側の関係者が、本人の了解無しに、勝手に学長候補としてアピールしていたのか。(でもメディアでさんざん流れていることですし、ブレンナー氏が気づかないわけないでしょうから、やっぱり何か変です。ブレンナー氏の心変わり?)
いずれにしても、かなり大きな問題だと思うのですが。
でも、さらにびっくりなのは、このわずか2日後に、今度は↓辞任を撤回する報道が流れたことです。
2007年秋にも退任する意向を示していた沖縄科学技術研究基盤整備機構のシドニー・ブレナー理事長は11日、港区のホテルオークラ東京で開かれた同機構運営委員会で、「来年秋にやめるつもりだったが、大学院大学構想のめどがつくまでは頑張りたい」と述べ、当面は理事長職を続ける意向を明らかにした。時期は明確にしていない。
ブレナー氏は運営委員会の委員ではないが、オブザーバーとして参加し、会合の冒頭あいさつで続投の意思を述べた。
会合後、黒川清委員は記者団に対し「ブレナー氏は80歳になったらやめると言っていたが、気が変わった。自分が始めたことを見届けたいとの意向があるようだ。数年前に比べ健康状態も良好になった」と説明した。
(「ブレナー氏、退任意向撤回 大学院大学」(琉球新報)記事より。強調部分はマイスターによる)
「気が変わった」らしいとのこと。前回の報道からたった2日間です。さぞ、(ブレンナー氏を含め)関わっている方々も混乱されたことでしょう。
ブレンナー氏が日本側を振り回しているのか、はたまた日本側がブレンナー氏を振り回しているのか、どっち?などと考えてしまいます。実際のところはこれらの報道だけではわかりませんけれど。
この2日の間に、政府関係者が全力で慰留を頼み込んでいた様子が想像できなくもありませんが、さて、どうなのでしょうね。
以上、そんなこんなで、傍目にはかなり不安に感じられますが、沖縄科学技術大学院大学の構想はいちおう進められています。
先日も書いたのですが、あくまでも良い研究成果を挙げるために大学を作ろうとしているわけであって、大学を作ること自体が最終的なゴールではないのです。
でも連日の報道を見ていると、なんだか一部の方々によって強引にことが進められているような印象を受け、心配になります。
今後は構想がクリアーな状態で進められることを願うマイスターでした。
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(その他の参考)
■「沖縄科技大」は安倍政権の新たな火種になるか
http://www.janjan.jp/government/0612/0612065956/1.php
こんなタイトルの記事まで出てきてしまってますが…… >安倍首相様
少し前から、ちょくちょく来させてもらってます。
これだけの頻度で更新されてて、マイスターさんの意見も交えてある為、ほんとーーーーに為になっております。これからも寄らせてもらいます。頑張ってください。
沖縄で大学関係の仕事をしております。
大学院大学は、建設地の選定など構想段階からいろいろと問題がありましたが、これまで県内ではまったく議論が起きていませんでした。理解の及ばない事柄には批判精神さえ生まれない、ということです。
私見では、大学院大学の計画は沖縄県民が主人公として自らの発展に資する見込みの薄い企画で、「振興計画」で行うべきではなかったと考えています。学術上の「基地」(「英語ですべてを行う」というのも、歓迎する人が多いかもしれませんが、英米圏の研究機関の腰掛、踏み台にされるリスクを忘れるべきではありません)ならば、県民にとっては清掃係の雇用が見込まれる程度の話になります。
「植民地主義」のイメージを払拭することができない卑屈な大学をなぜ国も県も推進するのか理解に苦しむところですが、おそらくノーベル賞受賞者を出すまでは引くに引けず、ドボドボと大金をつぎ込むことになるのでしょう。