大学院生に特化した職業紹介会社

マイスターです。

N.IDEMITSU-Blog」で、興味深い会社が紹介されていました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■DFSHR
http://www.d-f-s.biz/graduates/index.html
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DFSは、大学院生に特化した職業紹介会社です。「人と企業を理念で結ぶ」をテーマに、年齢やキャリアにこだわらず基礎能力の高い人材を探しており、かつ「理念」をもっている企業に大学院の学生(卒業生)の皆様を紹介しています。我々は、大学院の学生がもつ能力を評価し、その能力をどのようにビジネスに反映させるかを真剣に考えている企業とのみクライアントとして取引しています。したがって、正しいアドバイスとサポート、そして就業訓練と高い意識さえあれば、もともと基礎能力の高い大学院の人材がこうしたクライアントの中に満足のいく就職先を探すのは、努力が必要ですが決して不可能なことではありません。
(「大学院生の皆様へ」(DFSHR)より)

というわけで、大学院生と企業とのマッチングサービスを手がける企業です。

確かに大学院生、中でも人文・社会科学系の方には、自分のキャリアをどう積み上げていくか?という不満、不安を持っている方が少なくないような気がします。
マイスターの個人的な印象で書かせていただくと、「高い給料が欲しい」というよりは、「せっかくデータをまとめて論理を組み立てられるくらいの地力をつけたのだから、そういった能力が求められる仕事につきたい」という不満の方が大きいような気がします。お金よりやりがい、と言えるかもしれません。(もちろん、全員がこうではないと思いますが)

一方企業の側にも、自らデータを分析して状況にあわせた提案ができるような質の高い人材が欲しい、でもコストをかけて社員を育成しても数年で辞められてしまう、といったような類の不満はあると思います。
大手企業が新卒一人にかける採用コストは200万円前後だと聞きます。これだけかけていながら実際には新卒入社後3年以内辞める社員が3割ですからね。これまでの人事方針が徐々に通用しなくなってきているはずです。

DFSHR社の事業は、企業が「大学院卒社員」を活用して悩みを解決する、そのための手助けをすること、なんだと思います。不満、不安、不便など、「不」の文字があるところに事業のチャンス有りと言いますが、その意味では、なかなか面白い事業です。

同社のサイトには、大学院生に対して↓こんなことが書かれています。

DFSは大学院生の方の専門をマッチングの際に一切考慮しません。文学、哲学、法学、経済学など様々な分野の研究をされていた方が対象ですが、その専門分野のほとんどはビジネスの現場で応用するには非常に専門性の高い知識であり、無理にその専門性の高い知識でマッチングを行おうとすれば、マッチングの幅が非常に制限されるばかりか、マッチングしたとしても収入や継続性の面から職業が非常に不安定なものになりかねないと考えています。

きちんとした評価と収入、そして安定したキャリアパスということを考え、DFSではあくまで大学院生の皆様の基礎能力(論理能力、文章読解能力、文章作成能力、調査研究能力)などを評価したうえで、その能力を企業の根幹部分である現場で発揮してもらうようにマッチングを行わせていただいております。そのようなマッチングは一見遠回りにみえますが、企業と人材側の両方に成長性かつ継続性がある関係を築くには非常に大事なことなのです。
(「大学院生の皆様へ」(DFSHR)より。強調部分はマイスターによる)

これを読んで、マイスターは、「アメリカの大学アドミニストレータには修士号やPh.D保持者が多いらしい」という話を思い出しました。専攻分野は教育学だけに限らず、経営学だったり歴史学だったり、あるいは物理学だったり色々ですが、こうした学位を取得するまでに身につく(と考えられている)論理構築力、データ分析力などが、大学の経営管理において重視されているという話です。特に、Ph.Dという学位の価値は、こういうところで評価されているように思えます。(特殊な専門職学位の価値は、もうちょっと限定的かもしれませんが)

■「Find a Job:Administrative positions」(Chronicle Careers)
http://chronicle.com/jobs/300/

例えば↑アメリカの「Chronicle Careers」では、大学スタッフの求人情報が閲覧できます。これを見る限り、アカデミック職ではない管理系の仕事をするにしても、ディレクター以上となると「修士号保持者が望ましい」とか「修士は必須」とかいった記述が目に付きます。大学教職員に限らず、アメリカではこういった考え方が広まっているのかなと思います。
DFSHRも、おそらくはこういった観点から「大学院卒人材」を捉えているのでしょう。

さて、引き続きDFSHRのサイトを見ていきましょう。マイスターが唸ったのは↓こちらの記述です。

DFSが考える企業側の受け入れ体制は、以下のとおりです。

○急成長中の中小企業であり、社長が自ら人材の採用や教育に関わっていること。
○人材を年齢や過去のキャリアで評価せず、あくまでその人材の基礎能力とそれによってなしうる成果で評価する体制であること。
○「大学院生」というハイキャリアの人材をどう教育し、どう企業の力として生かしていくかに関して、具体的な計画をもっていること。

このような企業の多くは「ベンチャー企業」と呼ばれる上場前を目指して急成長中の企業にあたります。一部上場を果たしている大企業の多くは残念ながら、まだまだ年齢や過去のキャリアで人材を選別する傾向が大きく、たとえ条件面でマッチングしたとしても5年の遅れを取り戻せるほどの急成長は逆にこのような大きな組織の中では難しくなります。また就労経験のない人材を大手企業は「新卒」と同列で扱うため、 色々な仕事を総合的に見れる立場に1~2年で就けるベンチャー企業に比べて、仕事のやりがいという面で大きく劣ると思われます。
(「大学院生の皆様へ」(DFSHR)より。強調部分はマイスターによる)

ズバリ書いちゃってます。

日本の大企業の中には、社費で社員をアメリカに送ってMBAを取得させているところがあります。ただ、そういった企業でしばしば聞かれるのが、「MBAを取らせたからといって、仕事ができるとは限らない」といった声です。
もちろんMBA=仕事の能力とは限りませんが、しかし彼等が力を発揮できない一番の原因はむしろ「MBAが役立てられるような仕事を任せないから」という点にあるのではないかとマイスターなんかは思います。
年功序列の人事システムの中ではまず年齢にあわせて社内の序列が決まり、序列に相応のポジションと業務が与えられます。若いうちは、若いなりの仕事しかやらせてもらえません。そういった会社ではMBAを取得しても、同じ年齢の社員とやる仕事はそう変わりません。企業の留学制度がうまく機能しないのも当然です。

日本の学位も工学系などを除けば、残念ながら大きな企業ではこういった評価を受けていることが少なくありません。現在、国内でもMBAやMOT、会計などの社会人大学院を作る動きが活発ですが、開設して数年も立つと思ったより受験生が集まらなくなります。その理由の一つはこれです。今、本当に自信のある学生は外資系企業やベンチャーに関心を持っていると思いますが、その理由もおそらくこのあたりにあります。
DFSHRも、そういった不満があるのは承知なのでしょう。それで、上記のようなコンセプトを立てているわけです。どのような売り込み方であれ、こうやって方針を明確にするのは、正解だと思います。

では同社は、企業に対してはどのように大学院生たちを売り込んでいるのでしょうか。
同社のサイトで↓ちょっと面白いなと思った文章があります。

…もちろん、基礎能力の高い大学院生がそのままビジネスの場で戦力になるわけではありません。彼らは優秀ですが学問とビジネスとでは「作法」が違うということを最初は理解していないため、その能力をビジネスで発揮するためにビジネスの「作法」を教える必要があります。例えば研究の世界では、インプット8に対してアウトプット2、つまり調査や実験を重ねて精査された結論を出すという考え方が求められますが、ビジネスでは逆で、インプット2でも8のアウトプットが要求されます。ビジネスにおいては精度ももちろんですが、スピードに対する優先順位がはるかに高いのです。しかしこういった「作法」に関して未熟であることは彼らの「基礎能力の高さ」に何らの傷をつけるものではありません。基礎能力はどう訓練しても高まりませんが、ビジネス「作法」は短期間で習得可能であることを考えれば、彼らをきちんと教育すれば新卒よりも短期間で戦力に育て上げることが可能なのです。
DFSは企業がどのような大学院生を欲しいかを正確に把握するとともに、大学院生の採用、能力の評価、職場への配置。そしてモチベーションの管理に関して様々な角度からのサービスを提供します。
(上記記事より)

これまた、企業の側が体験している「困惑」を、よくわかっておられるみたいです。

すべての院卒が、企業でいきなり力を発揮できるわけはありません。上記のような「作法」についての誤解を抱えたままで働き始め、トラブルを起こす方もいるでしょうし、もともと企業に向いていないという人材もいるでしょう。
DFSHRでは、そのあたりについてのサポートをしてくれるみたいです。今までありそうでなかったサービスかもしれません。
ニッチな領域ですが、世の中には確かにこういうニーズがあるように思います。

以上、あまり長くなるといけませんので、ご紹介はこのくらいにします。
詳細は、同社のサイトをご覧下さい。

大学院生たちに会社の「作法」を教えつつ、ベンチャーを中心にマッチングさせる事業。受け入れた企業が果たして本当に大学院卒達をうまく活用できるかどうかがポイントなのかな、なんて思います。

この会社が成功したら、“大学院生人材市場”なるマーケット分野が今後、成長していくかもしれません。そうなれば各大学院の置かれている環境も変わっていくことでしょう。
というわけで個人的には、同社の行く末が気になります。うまく市場を作り出せるでしょうか。

以上、マイスターでした。

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