ハーバード大学に初の女性学長が誕生

マイスターです。

世界最高の評価を受けるあの大学に、大きな動きがありました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「ハーバード大、女性学長誕生へ…371年の歴史で初」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20070211ur02.htm

■「Harvard Plans to Name First Female President」(The New York Times)
http://www.nytimes.com/2007/02/10/education/10harvard.html

■「『私はハーバード学長、女性学長ではない』ファウスト氏」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/international/update/0213/007.html
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米ハーバード大学は11日、同大ラドクリフ研究所のドリュー・ギルピン・ファウスト所長(59)を第28代の学長に選出したと発表した。女性が学長に選ばれたのは、同大371年の歴史で初めて。ファウストさんは歴史学者で、南北戦争や米南部の専門家として知られる。デレク・ボク暫定学長に代わり、7月1日に就任する。

クリントン政権の財務長官を務めたローレンス・サマーズ前学長が05年1月、科学の学術組織の長に女性が少ない理由の一つとして、男女の生来の差があるとの見方を示し、大学内外から反発を招いた。大学運営が強引だとの批判も起き、昨年6月いっぱいでの辞任に追い込まれた。同大は昨年3月、学長選考委員会を立ち上げ、学生、教職員、卒業生の意見を聞きながら名前の挙がった750人からファウストさんを選んだ。
(「『私はハーバード学長、女性学長ではない』ファウスト氏」(Asahi.com)より)

ヒラリー・クリントン氏が大統領選への出馬表明を行い、「史上初の女性大統領が生まれるか?」と盛り上がっているアメリカ。
そんな中、アカデミックの世界で一足先に、女性トップが誕生しました。

アイビーリーグでは4人目の女性学長とのことですが、ハーバードは

Harvard has 12 schools and colleges with an annual budget of $3 billion and an endowment of nearly $30 billion.
(「Harvard Plans to Name First Female President」(The New York Times)より)

……という桁外れな巨大組織。

(過去の関連記事)
・ハーバード大学の基金運用担当者
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50158024.html

3兆円の基金を運用しそれだけで毎年5,000億円の運用収益を稼ぎ出しているなんて事実もあるという、日本の大学関係者から見たらなんかもう、モンスターみたいな組織です。

そして言うまでもなくアメリカ最古の大学であり、各種の世界大学ランキングでは「世界1位」を指定席にしている大学です。
世界最高学府の誉れも高いハーバード。そのトップに女性が就任するというのは、大きなニュースです。

アメリカというのは(というか日本も同じですが)、一見自由そうでいて、しかしその実、見えない障壁が様々なところにガッチリ存在するという「ガラスの天井」の国。
大統領の話題でしばしば語られる「WASP」という言葉は有名ですが、学術の世界にすら、見えない差別、超えられそうで絶対に超えられない「天井」があったのですね。
今回、そのガラスの天井がまたひとつ、破られたというわけです。

Some Harvard professors, particularly women, greeted the decision with euphoria. “Harvard’s waited a long time — since 1636,” said Patricia Albjerg Graham, an emeritus professor of the history of education at Harvard, recalling that when she was a postdoctoral fellow in 1972, she was not allowed to enter the main door of the faculty club or eat in the main dining room.
(「Harvard Plans to Name First Female President」(The New York Times)より)

このように(特に女性教授達の間で)、今回の歴史的な出来事を歓迎する声が上がっているようです。

各メディアの記事にもありますが、前学長のサマーズ氏の評判が学内であまりよくなかったこともあるようです。
サマーズ氏は女性差別ととれる発言を公式の場で行ったことで批判を浴びたことが知られていますが、その前から彼の強引な大学運営に対する不満が学内にあったようで、むしろそちらが辞任の本当の理由なんじゃないかと見る向きも多いようです。

■「組織の文化」(アメリカの大学事情)
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10010165552.html

ハーバードは、一般的に教授の力が圧倒的に強いということでも有名な大学です。
学長をトップとした完全中央集権型のモデルがあるとすれば、ハーバードは全くその反対側に位置する組織という感じです。つまり一人一人の教授の独立性が強く、その中で組織としての調和が保たれる組織である、ということを僕の上司が述べていたことを覚えています。実際に調和が取れているかどうかはしりませんが。
ともあれ、サマー学長は、このように一癖も二癖もあるハーバードの教授陣と、就任当初から折り合いが悪かったそうです。要するに、サマー学長の運営の仕方が、教授陣たちの中で反感を生み、そして去年の1月の発言が、教授の中にたまっていた不満を噴出した、という見方が現実に近いようです。
(上記記事より)

アメリカの大学について詳しいブログ「アメリカの大学事情」では、サマーズ学長が辞任したとき、上記のように解説されていました。なるほどと思います。

今回のファウスト氏の就任は、もちろん第一に彼女の能力が評価されたものだと思いますが、加えて女性蔑視の印象を持たれてしまったサマーズ前学長のイメージを払拭するという意図や、教授達とうまく折り合いながら学内を調整していける人物をという学内関係者達の期待もあるのかな、と個人的には想像します。

以上、ハーバードの動きをご紹介しました。

ちなみに日本の学長はというと、やはりとても少ないです。

■「教育分野における男女共同参画」(男女共同参画白書 平成18年版 )
http://www.gender.go.jp/whitepaper/h18/web/danjyo/html/honpen/chap01_08_01.html

男女共同参画白書でも毎年、教育分野における女性リーダーの少なさが問題として指摘されています。リンク先のページにはわかりやすいグラフも載っておりますので、よろしければご参照ください。
助手→講師→助教授→教授→学長と上に行くにしたがって、女性比率が急激に下がっていく様子が見て取れます。すべてのケースでそうだとは言いませんが、「ガラスの天井」は日本にも存在しているように思えます。
(日本の場合、ガラスの天井以前に女性が研究者としてのキャリアを維持すること自体がまず困難であり、そこが大きな問題なのですが)

日本でも、女性の東大総長が生まれたりする日がそのうち来るのでしょうか。
2006年7月時点で東京大学の全教授に占める女性の割合は3.8%だという報道がありましたから、こちらの場合、まず女性教員の割合を高めるところから始めないといけなさそうですね。

以上、マイスターでした。

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(過去の関連記事)
・女性を研究者に!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50214766.html

・女性教員が少ない現状を是正するには…?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50242899.html

※ところでマイスターは「女性初」に加えて、↓この記述も気になりました。

AP通信によると、ハーバード大から学位を得ていない学長の就任は1672年以来。
(「『私はハーバード学長、女性学長ではない』ファウスト氏」(Asahi.com)より)

サラリと書いてありますけれど、こちらも何気に長いですよ。