ニュースクリップ[-12/24]「『塾は禁止』 教育再生会議で野依座長が強調」ほか

みなさま、メリークリスマス。マイスターです。

クリスマスイブですね。キリスト教系の大学では、礼拝などのイベントを行われたことでしょう。

さて、日曜日ですので、一週間分のニュースクリップをお届けします。

大丈夫か教育再生会議。
■「『塾は禁止』 教育再生会議で野依座長が強調」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/national/update/1223/TKY200612230248.html?ref=rss

評判が今ひとつの「再生会議」。確かに報道を見ていると、個人的な思い入れだけで決めたような改革案が多いように、マイスターも感じます。
それにしても、これはあんまりです。

議事要旨によると、野依氏は「塾はできない子が行くためには必要だが、普通以上の子供は塾禁止にすべきだ。公教育を再生させる代わりに塾禁止とする」と再三にわたって強調。「昔できたことがなぜ今できないのか。我々は塾に行かずにやってきた。塾の商業政策に乗っているのではないか」と訴えた。
JR東海会長の葛西敬之氏は「日本の数学のレベルは学校ではなくて、塾によって維持されている、という面もある」と反論したものの、事務局側は「公教育が再生されれば、自然と塾は競争力を失っていく。結果的になくなる」と同調、国際教養大学長の中嶋嶺雄氏も「野依座長のおっしゃったように塾禁止ぐらいの大きな提言をやらないと」と野依氏に賛同するなどひとしきりの盛り上がりを見せた。
(上記記事より)

昔できたことが今できない理由は何か、どうして塾という産業がここまで成長しているのかという議論や検証を全部ふっとばし、ご自身の幼少時代のノスタルジーだけで日本の教育政策を左右させるのはご遠慮いただきたい。日本の教育の責任を民間に転嫁させるのが再生会議の仕事ではないはずです。塾産業を否定するなら、「塾をなくすことで学校が良くなる」という根拠を示すべきです。ノーベル賞学者ですら、「教育」の問題となるとこうなのでしょうか。久々に、日本の教育の行き先を考えて絶望的な気分になりました。

塾はできない子が行くためには必要だが、普通以上の子供は塾禁止にすべきだ。公教育を再生させる代わりに塾禁止とする

という点にも、個人的には、何か危ういものを感じます。
マイスターは「できない子」を出さないのが学校の役目であり、公教育の使命であると考えています。ただそうすると一方で、どうしても学校だけでは物足りないと感じる子が出てきますから、そういう子には学内だけの体験ではなく、学外の人々からも色々と知的刺激を受けられる場を提供すればいいと思うのです(ただ現実には、学校だけではすべての子供たちのケアができませんから、補習塾も大切な役割を担っていると思います)。
野依氏は逆の発想のようですが、社会の中でどういう役割分担をすればいいとお考えなのか、とっぷりと聞かせていただきたいです。

また、勘違いされているようですが、「大きな提言」を出すのが彼らの役割なのではありません。日本の教育が抱えている問題を抜本的に解決するのが、再生会議に求められる役目です。
「盛り上がりを見せた」とのことですが、このニュースが報じている内容は居酒屋で酒を飲みながら話す程度のものであり、国の代表が公に語るレベルには達していないように思います。これでは「井戸端会議」という批判を受けるのも仕方がないのでは……。

ちゃんと使われるか心配、教育改革予算。
■「教育改革に5400億円…来年度予算財務省方針」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20061218ur02.htm

教職員給与の国庫負担分などを含めた文部科学省の文教予算全体は06年度当初予算比0・3%減程度に抑制するが、教育再生・改革関連は4%の増額となる5400億円程度を確保する。安倍首相が設置した「教育再生会議」(野依良治座長)の議論などを受けて、ゆとり教育の見直しや子供の安全確保、いじめ対策などを盛り込んだのが特徴だ。
(上記記事より)

教育再生会議の方針を受けての5,400億円。なんだか心配になってきました……。

ちなみに

全国学力調査は、小学6年、中学3年の全児童・生徒が対象で、07年4月24日に、国語と算数(数学)の知識や学習状況を調査するテストを全国一斉に行う。ゆとり教育が児童・生徒の学力低下を招いたとされる批判を受け、基礎的な学力の実態を調べる。
(上記記事より)

↑こちらですが、どうせなら、「ゆとり教育」がどういったメリットを生み出したか、という点もあわせて調べてみてはいかがでしょうか。マイスターも正直今の「ゆとり教育」には賛同できませんが、しかし何らかの成果だって上げていた可能性もある……と思うのです。
「ゆとり教育」の悪い面に対する批判はしょっちゅう聞きますが、良かった面についての検証は滅多に聞きません。そんな政策決定のされ方が、マイスターはちょっと心配です。
毎回毎回、前の政策を全否定するところから始めるのは極端です。なにより建設的ではありません。問題だった点は改めるべきですが、良かったところがあればそれを改良して取り入れたって良いはずです。
そういう姿勢を常に持っていないと、(上述した「塾禁止」もそうですが)教育政策が、単なるイデオロギー主張のための道具に成り下がってしまう可能性があります。

女性研究者の人数が増加。割合は依然低く。
■「女性研究者:10万人超 全体の12%、なお低く--総務省調査」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20061213ddm003040062000c.html

総務省の昨年度の科学技術研究調査によると、我が国の女性研究者が10万人を突破したとのこと。前年度から4,200人増の10万2,900人だそうです。これは喜ばしいニュースですね。
ただ、

研究者全体に占める割合は12%で、約30%の米、25%を超える英仏などと比べると依然として割合は低い。
(上記記事より)

……と、課題はまだまだ多いです。

女性研究者の割合が増えない理由は色々でしょう。
ちなみに個人的には、「(出産などで一時的に現場を離れざるを得ない)女性のキャリア構築プロセスに対する社会の無理解」が一番大きいのではと考えています。これって、研究者に限った話ではありませんね(実際、企業の管理職における女性の割合も、日本は欧米に比べてかなり低いです)。

最近は「女性研究者を増やそう!」という声がよく聞かれます。また具体的な取り組みも、徐々に進められてきているように思います。ただ、やはりそうすぐに結果に表れない施策が多いです。こういった数値として見えてくるのは、さて、いつ頃でしょうか。

市民優遇制度。
■「千歳市民は入学金免除 千歳科技大学」(苫小牧民報社)
http://www.tomamin.co.jp/2006/cp061211.htm

千歳科学技術大学が、「千歳市優遇制度」を創設したそうです。

第1学年秋学期の学生納付金に限り、入学金相当額180,000円を免除します。
このため、第1学年秋学期の学生納付金は678,500円→ 498,500円
になります。
(「千歳市優遇制度(PDF)」(千歳科学技術大学)より)

「出願時において本人または保護者が千歳市民である方」の他、「出願時において、千歳市内の高等学校に在籍している方(卒業した方も含む)」も対象になるそうです。
千歳科学技術大学は、もともと千歳市が設立した「公設民営大学」。今回の優遇制度は、そういった経緯を受けての措置なのだそうです。

地方自治体が関わっている大学においては、このように住民に対して優遇措置を設けるのはいいことなのではないかと、個人的には思います。

インドの「被差別層特別枠」法案、成立。
■「国立大定員の半数を被差別層特別枠に インドで法案成立」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/international/update/1219/017.html?ref=rss

↓以前ブログで、国立大の定員のうち半数を被差別層枠に割り当てるというインドの教育改革構想についてご紹介しました。

・用語解説:「アファーマティブ・アクション」とは
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50211090.html

このときはまだ構想段階だったのですが、どうやら法案が成立したようです。当然のことながらインド国内でも賛否両論のようです。

 今回の法案では、最下層には至らない下層カーストにあたる「その他の後進諸階級」の人々に入学定員の27%の特別枠を設けた。カーストの4階層では、上から3番目のバイシャ(商人)の一部と、一番下のシュードラ(隷属民)に入る人たちだ。「不可触民」と呼ばれ、4階層より下に置かれていた最下層出身者と少数民族出身者に従来、割り当てていた22.5%と合わせ計49.5%となる。79大学が対象になるとみられる。
(上記記事より)

かつて歴史の授業で習ったカーストの四階層が未だにこうしたところで顔を出すというのは、日本の私たちにはなかなか想像しにくいところです。
このような差別是正策を講じない限り階層間の格差がなくならないという判断なのでしょうが、学力以外の部分を理由に不合格になる上位カーストの受験生からすれば、納得するのは難しいかも知れません。
……といったことを以前の記事に書いていたのですが、どうやら↓このように事態の収集が測られたそうです。

今年4月に政府が導入の方針を示して以来、医学生を中心に激しい反対運動が起きた。政府はこのため、全体の定員数を54%増やして、特別枠の設定後も一般学生の定員の実数を減らさない内容を法案に盛り込み、事態の収拾を図った。
(上記記事より)

インドでは需要に対して高等教育の供給が全然間に合っていませんので、多少の定員増をしても問題はないと思いますが、54%増ってのは大胆ですね。
ちなみに同国の大学システムはやや特殊で、一つの大学に複数のカレッジがとりつくという形を取っています。宗主国だったイギリスの影響を受けているのですね。で、特定の人種や宗派が(なんとなく)集まっているカレッジ、なんてのもあると聞きます。なかなか複雑みたいですね。

ちなみに記事によればこの差別是正措置、私立大学への適用も検討されているそうで、しばらくの間は議論が続きそうです。

以上、今週のニュースクリップでした。

以前もご紹介したように思いますが、今年も、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が、サンタクロースの現在位置を中継しています。

■「Tracks Santa」(NORAD)
http://www.noradsanta.org/jp/default.php

【どうしてサンタさんを追跡するの?】

ノーラッド、そして前任者でもある中央防衛航空軍基地(CONAD)は、50年以上もの間サンタを追跡しています。この伝統は、サンタさんとお話が出来ると宣伝した地元コロラドスプリングスの店、Sears Roebuck & Co. ,が、広告に不注意にも間違ったホットラインの電話番号を載せてしまったことから始まりました。サンタさんにつながるはずの電話は、CONAD司令長官のホットラインにつながってしまいました。指令長官のハリー・シャウプ大佐がサンタさんへの初めての電話を1955年のクリスマスイブに受けました。事情を察したシャウプ大佐は、サンタさんが北極から南へ向かった形跡があるか彼の部下にレーダーで調べさせました。すると、本当にサンタさんがいた形跡があったのです。電話をした子供たちは、サンタさんの居場所の最新情報を貰いました。このようにして、この伝統が始まったのです。(上記記事より)

このように、なんと50年もの間続いている、NORADの粋なプロジェクトです。
先ほどマイスターがサイトを見たときは、サンタはネパール上空を飛んでおりました。ちゃんと先頭のトナカイが、ぴかぴか光る「赤鼻」だったのが嬉しかったです。
ちなみにこの「赤鼻」は、サンタ追跡プロジェクトにおける重要なポイントとなっているのです。詳しい話は↓こちらをどうぞ。

■「Tracks Santa:どうやって追跡するの?」(NORAD)
http://www.noradsanta.org/jp/how_we_do_it.php

マイスターは毎年このサイトを見るたび、なんとも心温まる気分になります。NORADの関係者にとってこのプロジェクトは今や、とても大切なものなんだろうなと想像します。

今週も一週間、本ブログにおつきあいいただき、ありがとうございました。
今年もあとわずかですが、どうぞよろしくお願いいたします。

マイスターでした。

6 件のコメント

  • 再生会議のマイスターさんの意見ですが、そんな新聞記事だけでああだこうだと言うのは今の時代誉められたことじゃないですね。議事録ぐらい探したらどうでしょう。
    新聞は、たくさんの発言や前後の流れのうち突飛な発言だけ切り取って勝手な解釈を付すものですよ。それを鵜呑みにして「これじゃダメだ」なんて程度が低いです。

  • ruさま:
    こんにちは、マイスターです。ご意見、ありがとうございます。
    ブログを書く前に議事録を拝読したのですが、野依委員、中嶋委員の発言は、発言の意図も含め、おおむね報道されている内容の通りであるように思いました。
    (そうブログ本文で書いておけばよかったですね。すみません、不親切でした)
    またもちろん、Asahi.comの記事を引用させていただいたように、葛西氏など違った意見をおっしゃる方もいらっしゃいます。
    その意味では(ruさまもきっとこの点をご指摘下さっているのかと思いますが)再生会議全体を批判するのは、やや尚早であるかもしれません。
    ただ、さきほど改めて議事録を読み返してみたのですが、全体を通じて政策のための議論というより、単にそれぞれの委員が個人的な思い入れを語る場になっている、という印象は、私などはむしろ議事録から強く受けてしまいます。もっともこれも、あくまで私の感想ですし、ブログに書いたことももちろん、私の個人的な意見にとどまります。この議事録を読んで、別の感想をもたれる方もいらっしゃるだろうと思います。
    また何かお気づきの点がございましたら、ご指摘いただければと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

  • 内容のよしあしより、この程度のことをいちいち報道して煽ったり、この程度の報道で煽られてるほうが問題だなと思いましたね。最終的な報告書を見て判断するのが良識的な行動かと思いますが。結果だけでなく、過程も徹頭徹尾自分の/国民の思うとおりの潔癖でなければいけないとでも言いたげな偏狭な人が多すぎるのが非常に気持ち悪く思ってます。
    過程では突飛な発言も出るだろうし、感情的・個人的になることもあるでしょう。野依氏らの意見が個人的であるとかいった感想も理解できますが、報道され、議論されるほどの事柄か?という気がします。

  • 横から失礼します。フランス在住の会社員です。たまにブログを拝読しています。
    ruさんのご意見とマイスターさんのご意見に、研究者とジャーナリストの考え方の違いのようなものを感じました。
    私が思いますに、最終的な報告書が出るまで何も議論をしないというのでは、議事録が公開されている意味がないのではないでしょうか。基本的にメディアや国民は、政治家や「有識者」と呼ばれる方々を疑ってかかるものですし、それが役目です。報告書が出てから意見を言っていては遅過ぎるので、

  • 多少辛辣な意見であっても、国民やメディアは随時批判や文句を言う権利があるのではないでしょうか。もちろん政治家の側はそれをあえて無視することもあるでしょうし、やむを得ずわかりやすく説得し直したりすることもあるでしょう。それは政治家が判断すべきことなのではないでしょうか。
    彼らがおかしなことを言っていないか、過程を常に監視するのは、国民として当然行うべきことだと思います。
    確かに日本のメディアは批判の仕方が偏っているなと感じることもありますが、議論のきっかけを作り、世論を喚起すること自体は悪くないのではと思います。
    以上です。横から失礼いたしました。

  • マイスターさま
    ちょっと遅くなりましたがコメントします
    > このニュースが報じている内容は
    > 居酒屋で酒を飲みながら話す程度の
    > ものであり、
    的確なご指摘ありがとうございます。
    この現象は、何も再生会議に限ったことでなく、わが国のあらゆるところで教育を論じる場合に見られる「よくある光景」に思えます。
    私は企業内教育の仕事に従事しておりますが、やはり、こうした個人の経験則や思い込みに基づく教育論が氾濫しています。
    最近『企業内人材育成入門』(中原 淳 編、ダイヤモンド社 )という本が出版されました。
    この本の目的は、「私の教育論」から脱し、まっとうな視点で企業内の人材育成が議論できるようにていくため、人材育成に関する心理学・教育学・経営学等の基礎理論を簡潔に紹介しています。