Enrollment Management のススメ(1):「エンロールメント・マネジメント」とは

マイスターです。

受験生を増やす、画期的な教育を行う、就職実績を良くする…。
日本の大学が進めるべき施策って、色々ありますよね。
何しろ大学冬の時代。ライバル校と差別化を図り、社会に「選ばれる」存在を目指して、どの大学も改革に必死です。
しかし、様々な「改革」に手を出しているにも関わらず、「大学が良くなった」という声をいまひとつ聞かない、ということもあるようです。

マイスターが感じるのは、

「色々な施策を実行してはいるけれど、それらが学内諸機関の活動と有機的に結びついていない、連携していない」

…という大学が多いんじゃないか、ということです。

例えば、「学習支援センター」のような組織を学内に設立したとしましょう。補習授業を行ったり、授業で分からない事があった時に学生が質問できたりするセンターですね。
こういうセンターを作るということは、つまり「授業についていけない学生が増え、学生の成績の全体平均値が低くなってきている。」とか、「学業不振を理由にした退学者が増加している」とかいった事実があるわけでしょう(または、学生相談室や教務課に、学業についての相談をしにくる学生が増えた、とかですね)。

で、このような背景で「学習支援センター」を設立する以上は、

○センター設立に伴い、成績平均値や退学者数、学生相談室の相談件数/相談内容がどのように変化したかを分析する
○センターを利用する事が必要な学生を抽出し、大学から何らかの方法でその旨を伝える

…といったことも当然、必要不可欠になってくるはす…ですよね(少なくともマイスターはそう思います)。
でも、なぜかこうした活動が、行われないのです。学習支援センターができたとしても、教務課や学生相談室は、それまでと変わらない仕事をしているのです。
マイスターなどはそういう話を聞くたびに、「あれれ? 退学者を減らしたり、成績平均値を上げたりする事が目的じゃなかったの? 『センターを作る』ことが目的だったの?」と、混乱するわけです。

だって、そんな「○○センター」みたいな組織をひとつやふたつ作ったからって、そんなに簡単に成果は出ないように思うのですよ。
「支援センターを作ったら、成績の悪い学生達は自分で勝手にセンターに通うようになるだろう」とか、「センターを作った以上、学生達の成績は間違いなく向上しているはずなので、わざわざ数字を分析する必要はない」とか、皆様は思われますか? 思いませんよね。

「センターを作る」という施策がぽつんと個別に実行されるようではダメなのです。
大学全体で「退学者を減らす!」みたいな目標をまず設定して、その達成のために学内の諸組織ができることはないかをまず徹底的に洗い出す。その上で、不足している機能は補完する。学内全体の機能をフル活用して問題の解決にあたろうという姿勢が重要なのです。そうでないと、そう簡単に問題は解決しないんじゃないでしょうか。

というわけで今日は、「エンロールメント・マネジメント」という言葉をご紹介します。

よくご存じの方から、なんだか聞いた事はあるという方、まったく聞いた事がないという方までおられると思いますが、要はこういうことです。

【エンロールメント・マネジメント(Enrollment Management)】
入学前から、在学中、卒業後までを一貫してサポートする、総合的な学生支援策。

色々なところで紹介されている言葉ですので、人によって意味するところが若干異なっていると思いますが、マイスターの理解している内容は上記の通りです。

入学「前」から、卒業「後」まで、というのがポイントです。「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありますが、ニュアンスとしてはああいったコンセプトに近いかもしれません。受験生を確保したり退学者を減らしたりするだけに留まらず、学生の一生涯を大学としてサポートするというくらいの意味なのかな、とマイスターは思っています。

実際、桜美林の授業でこのエンロールメント・マネジメントが紹介されたときは、

「死ぬ時に、自分の遺産をすべて大学に寄付してくれる」という状態ができたら、エンロールメント・マネジメントは成功

という話を聞きました。これはアメリカでの話ですが、つまりそれくらい総合的な施策であるということなのですね。

学生(受験生、卒業生含む)は様々な悩みや不安、希望・要望などを抱えています。それを大学としてどのようにサポートできるか徹底して考え、実行に移すというのがエンロールメント・マネジメントなのだと思います。

例えば、ちょっと考えただけで、学生(受験生、卒業生)か抱えている悩みや疑問、要望などが、↓こんな感じでつらつらとリストアップできます。

<入学前>
やりたいことが見つからない
進学先が決められない
学校の様子が分からない
受験の仕方が分からない

<入学直後>
住まいが見つからない
友達ができない
履修の仕方が分からない
勉強の仕方が分からない
資料や情報を探せない
サークルを選べない
アルバイトが見つからない
学費が十分にない

<学期中(序盤)>
授業で、基礎的な問題が解けない
進路選択が正しかったのかどうか、悩んでいる
学外での活動に興味があるが、どうすればいいかわからない
学内のイベントに関心があるが、どう参加すればいいか分からない
体調が悪い
自分でイベントを開催したいが、どうすればいいか分からない

<学期中(中盤)>
授業に対して不満がある
招待やりたい事が見つからない
進路を考えたいが、どうやって情報を集めたらいいか分からない
日々、漠然とした悩みを抱えていて、不安だ
自分の学校にはない授業を受けてみたい
学業が振るわず、進級に不安がある
夏期休暇を利用して、外部のイベントなどに参加したい
1年間、海外留学を体験してみたい
資格を取って自分に自信をつけたい
語学を学びたい

<学期中(終盤)>
研究テーマをどう決めればいいのか分からない
就職活動のやり方が分からない
企業の情報が探せない
進学に興味があるが、どうすればいいのかわからない
就職希望先から内定がもらえない
海外の大学に進学したい
やりたいことがわからなくなった
非営利組織で働きたいが、情報が見つからない
単位が足りず、卒業が難しい
卒業できない

<卒業後>
就職先の選択結果に後悔している
仕事上、能力不足で不安である
自分にあった転職先を見つけたい
仕事の後、開いた時間を有効に使いたい
何かの形で社会に貢献したいが、具体的にどうすればいいか分からない
大学院に通いたいが、何を勉強したいか分からない
仕事と学業の両立が大変で悩んでいる
資格を取ってキャリアアップを図りたい
子供の進学先をどうするか、迷っている
親の遺産が入ったが、節税対策に困っている

いかがでしょうか。

上記はあくまでも「学生が直面しそうな悩みや要望」を書き出しただけですので、このすべてを大学が解決せよと申し上げているわけではありません。

ただこうやって書いてみると、学生さんの悩みや要望の種類って結構、多様だなぁと思いませんか? まずは、それを理解しておくのが、エンロールメント・マネジメントの第一歩かなとマイスターなどは思うのですよ。
(「○○に興味があるけれど、誰にそれを聞けばいいのか分からない」という疑問も、上記のようにいっぱい抱えているんじゃないかと思います)

なお、上記で書き出した悩みや要望の中には、「以前であれば、大学が手を貸してやるようなものではなかった」という類のものも少なからず含まれています。
「基礎的な問題が解けない」、
「友達ができない」、
「将来やりたい事が見つからない」、
なんてのは、かつての大学なら、「そんなのお前の責任だ!」と言って済んでいたのではないでしょうか。というか今でも、これらは大学がタッチする事ではないと考える方、少なくないと思います。

ただし現実に、こういう問題につまづく学生が増えており、それが退学率の上昇に関わっているという事実があるわけです。大学経営上、放置しておいていい問題ではありません。何かしら手を打つ必要があるわけです(昔は放置していてもいいと思われていたのでしょうが、今は大学の経営状況が、それを許さないと思います)。

どのような形で問題解決にあたるかは大学それぞれですが、いずれにしても学内外のリソースをフル活用し、有機的な連携を持って事に当たらなければ、解決できないことが多いのかと思います。

このように、「学生が抱える問題を、学内外のリソースをフルに使って解決する」という発想が、エンロールメント・マネジメントの根本なのだろうとマイスターは思っています。

その実行にあたっては、各セクションの連携や、様々なデータの収集・分析などが必要になってくると思われるわけですが、それは次回以降に。

以上、マイスターでした。

2 件のコメント

  • タイミングよくChronicleでEnrollment Managementの記事が出ていました。
    http://chronicle.com/daily/2006/08/2006080802n.htm
    個人的には、アメリカにおいてStudent Affairのシステムが確立しているからこそEnrollment Managementが成り立つと思います。管理者(Enrollment Management)がいても、実際にそれを現場で実践できる人(Student Affair)がいないとつらいものがありますよね。
    このChronicleの記事から判断すると、どうやらEnrollment ManagementはもはやStudentAffairだけでなく、Financeの分野にまで関わってくるようになったようです。当然といえば当然の流れかもしれませんね。