マイスターです。
受験機会が拡がる大学入試。
センター試験利用入試、3教科入試、2教科入試、2時募集。筆記試験だけでも数回のチャンスがあるのに加え、AO入試その他の推薦入試も受けられるようになってきています。
今では、受験生は年に何度も受験をすることができます。
そこで問題になってくるのが、「誰が問題を作成するのか?」ということ。
そんなのは当然、大学の先生でしょうと世間の方は思っているでしょうが、大学の教員というのは、万能ではありません。
高校の教育課程の内容をよく理解し知り尽くした上で、選抜に適した問題を作成するのは、かなり大変です。
通常こういった役割を担うことが多いのは、大学1~2年生に対して数学や理科、英語などを教えている、一般教養担当の教員でしょうが、彼等は研究者ではあったも、別に「試験(testing)」作成のプロではありません。どういう設問を作ったらどういう能力が測れるかとか、過去に出題した問題ではこういった傾向があったかとか、そういったことに詳しいわけではないのです。
(中には、詳しい方もいるかも知れませんが、多くの試験問題作成委員は、そうではないはずです)
優れた研究者であっても、優れた問題出題者とは限らないのです。
しかも昨今では、先ほど申し上げたように、入試の回数は増加の一途を辿っています。年に何度も、この大変な任務をこなさなければならない教員は、ほんとうに大変です。
総合大学なら何人かのチームで無理なく問題を作成することもできるでしょうが、ちいさな単科大学などですと、問題を作成できる一般教養系の教員がそもそも少なかったりします。
結果、一部の教員に、どうしても負担が集中する形になることも多いかと思われます。
そして基本的には、他大学で同じような問題が出題されていないかという調査を行っている大学が多いと思います。この作業量も、相当なものがあります。
加えて、大学の教員である彼等には近年、かなりの社会的なプレッシャーが寄せられています。
研究に関しては、「日本の大学の研究力を世界トップ水準に!」とか、「大学教員は原則として全員、期間雇用に!」とかいった声が聞こえてきます。研究力が足りないから努力せいという、上の方からのお達しもしばしばです。
教育に関しても、「日本の大学は研究重視で、教育力がない! 学生のために、もっと教育を強化すべきだ!」とか、「授業のレベルが低すぎる。準備に時間をかけ、工夫し、水準を高くしろ」とかいった声が聞こえてきます。教育力が足りないから努力せいという、上の方からのお達しもしばしばです。
その上、大学の教員は学内で偉くなればなるほど、学内の様々な物事を決めるための会議や書類作成をこなさなければならなくなります。
大学というのは不思議なところで、教員、職員、学生と多様な面々がいるのにもかかわらず、ほとんどの決め事は基本的に教員が自ら話し合い、決めることになっています。大学の方針を決める重要な会議ならいいのですが、「別に教授じゃなくても決められるのでは」という、けっこう些末なことに関しても、なぜか教員の会議で決める習慣になっていたりします。
(ついでに言うと、大学で行われる会議というのは、企業のそれとはちょっと様相がことなります。教員はみんな、「各学部・学科からの代表」として参加しているので、その場で物事を決定する権限がなかったりします。会議は、それぞれが自分の所属組織から託されてきた意見をとにかく出し合う場になったり、単なるブレーン・ストーミングの場になったりしがち。ですから延々、時間がかかります)
就職指導や保護者対応、学生相談、イベントの運営などなど、色々なことが教員の仕事になっています。昨今では、もっと大学改革をせいという、上の方からのお達しもしばしばです。
正直言って、研究力と教育力を世界水準まで向上させつつ、学内の物事を決めるを週に何時間もこなしつつ、その上、年に何度もある試験のための問題を作成していくというのは、かなりのスーパーマンでも難しいんじゃないかな、なんてマイスターは思うのです。
世界水準の研究力、教育力とよく言われますが、世界の大学では、教員はこんなに会議や書類作成に追われていないと思いますし。
・全国66大学が、来春から「過去問」を共有&再利用(2007年05月18日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50313687.html
最近では、↑このようなニュースもありました。
明らかに、入試問題の作成で、大学関係者は疲弊してきているのだろうと思います。
……なんてことを、最近よく考えるマイスターです。
さて、そんな中で今日、こんな報道を見つけました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「71私大が試験問題外注 『自ら作成を』文科省通知」(中国新聞)
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200707050267.html
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入試問題の作成を企業や予備校などに外注している私立大学が全国で七十一校あり、うち十八校はすべての教科・科目の問題を外注していたことが五日、文部科学省の調査で分かった。
同省は同日までにすべての国公私立大学に対して「入試問題の作成は大学の方針に基づき、自ら行うことを基本とすること」との通知を出した。
(略)
外注していた私立大七十一校のうち、企業に外注していたのが六十二校、学校法人の予備校などその他の外部機関が十一校(一部重複)。教科別では、最も多かったのが国語の四十九校で、数学と外国語が各四十一校、理科三十一校、地理・歴史二十九校、公民十五校の順だった。文科省によると、外注していた大学からは「一般教養などを担当する教員がいない」「入試形態が幅広くなり、学内で対応しきれない」「問題の質の確保に自信がない」などの説明があったという。
文科省は「外注は入試の機密性や公平性の確保の観点から社会的な疑念を招く恐れがあり好ましくない」としている。
(上記記事より)
全国公私立大学のおよそ1割に相当する71校が、入試問題を何らかの形で外注しているそうです。
(もっとも、これはすべて私大で、国立大学の外注はゼロだとのこと)
文科省の言い分にも一理ありますが、「どうしてこういう状況が生まれているのか」ということを考えない限り、事態は何も変わらないままなんじゃないかという気がします。
以上、いつもと趣向を変えて今日は前置きを長くしてみたマイスターでした。
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(おまけ)
マイスター個人としては
「問題の作成は外部の企業に任せて、学内の人的リソースはすべて、入学後の教育に充てる」
という戦略をとる大学があったとしても、それはそれでアリなんじゃないかと考えます。
もちろん、学内で全部をまかなえるのがベストではあるのですが、何しろ人が足りないのですから、仕方がありません。全部の大学がそれでいいとは思いませんが、そういう大学があったっていいんじゃないかな、なんて気はします。
いい形で受験生を選ぶための方法については、他にも、色々な動きがあったりするのですが、それはまた別の機会に。