Enrollment Management のススメ(2):なぜ今、エンロールメント・マネジメントが必要なのか

マイスターです。

・Enrollment Management のススメ(1):「エンロールメント・マネジメント」とは
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50230391.html

昨日の記事では、エンロールメント・マネジメントとはどういうことか、マイスターなりのご説明をさせていただきました。

本日は、
「どうして、今、エンロールメント・マネジメントが必要なのか?」
ということを、もう少し整理しておきたいと思います。

もともとエンロールメント・マネジメントは、アメリカの大学で広く行われている学生サポートの考え方です。
アメリカの大学が、エンロールメント・マネジメントに力を入れるのには、訳があります。皆さんは、アメリカの一般的な大学の「卒業率」って、どのくらいかご存じですか?

U.S.Newsが発表している「BEST NATIONAL UNIVERSITIES」(2004年の調査)では、各大学の教育成果に関するデータをもとに、大学をランク付けしています。マイスターの手元に、そのランキングの結果表がありますので、ちょっとだけご紹介しましょう。

アメリカのトップ大学……つまりハーバードやプリンストン、イェールといったアイビーリーグの大学や、スタンフォードなどの名門大学では、2004年度の卒業率は90~97%といったところです。さすが名門大学ですね。でも、これは例外中の例外であって、この数字がアメリカの大学の平均だと考えてはいけません。

上位50位までの大学は大体8~90%の卒業率なのですが、これがランキング100位くらいの大学になると、卒業率は大体60~75%まで落ち込みます。
さらにランキング189位から248位までの大学(このU.S.Newsの調査では「第4グループ」という位置づけ)になると、卒業率は2割、3割という状況なのです。

例をあげますと、第4グループの「Texas Southem University」の場合、2004年度の卒業率はたったの13%でした。
この数字を見て、「いったい、どーして卒業率がこんなに低いの!?」と日本の私たちは驚くわけです。「卒業率13%=87%の学生が落第」だと考えるのですね。

でも、別に87%の学生が、学力不足で落第したわけではありません。
ご存じの方も多いと思いますが、アメリカは、大学間の編入学(Transfer)が普通に行われている国なのです。つまり、あまり知名度の高くない大学では、大勢の学生が途中でどこかの大学に移ってしまうのです。これは、日本とアメリカで大きく異なるところです。

そのあたりの実態を示す数字として、このU.S.Newsのランキング表には、「Average Freshman retention rate」という数字も掲載されています。これはつまり、「1年生から2年生への進級率」ですが、上述した第4グループの大学の場合、これが大体、6割から7割です。つまりこれらの大学では、2年生になるまでに、3割以上の学生がいなくなっているのですね。

入学してもらったからといって、卒業までいてくれるとは限らないのが、アメリカの大学なのです。

もし1年間で他大学に移られてしまったら、本来得られるはずだったその後の学費を取りっぱぐれることになりますから、Transferする学生が多いということは、経営的には大問題です。
そこで、「いかに学生を留めおくか!?」ということが重要になってくるというわけです。だって大学にとっては死活問題ですからね。

アメリカの大学でエンロールメント・マネジメントが盛んに実施されてきた背景には、このような熾烈な競争があるわけです。

翻って、日本ではいかがでしょうか。

他大学への編入が少しずつ増えてきているような気はしますが、まだまだ、ごく一部の例外というレベルですよね。基本的には、「一度入学したら、卒業までその大学に居続ける」という前提が通用するのではないかと思います。

これが、アメリカと比べて、「受験生を増やすための努力は熱心に行うけれど、在学生をサポートするための施策には消極的」な大学経営のあり方につながっているのではないかと、マイスターなどは思うわけです。

皆様は、「日本の大学改革の多くは受験生の方を見て実施されている」と感じたことありませんか?
「○○センターを作りました!」
「就職率○○%達成!」
といった宣伝文句、受験生向けパンフレットにはでっかくプリントされるけど、在学生向けにPRすることについては、あんまり力が入っていないなぁ、なんて思ったことはありませんか?
○○センターといった施設の利用率が低かったり、学生の成績向上に結びついていなかったりしたとしても、大学経営陣があんまりそれを問題にしてなかったりしませんか?

これらは、「とりあえず入ってもらえばこっちのもの」という意識のなせる技だと、マイスターは思います。まさか、新入生の2割3割が他大学に編入してしまうなんてことは、つゆほども想定していないのでしょう。もし、アメリカ並みに編入学が行われる状況だとしたら、こんな半端な施策の打ち方はできないはずです。

こうした点が、日本とアメリカの大学のサービスレベルの違いを生み出しているのだと、マイスターは考えるわけです。

アメリカの大学が、総合的な学生サポートのための「エンロールメント・マネジメント」を行うために、組織を整備し優秀なスタッフを集め、IRなどのデータ分析機関を設けてサービスの改善に努めている背景には、「今は通ってくれている学生でも、来期からは違う大学に行ってしまうかもしれない」という危機感もあるのではないでしょうか。

かたや、こちらは教員・職員ともに、「学生には選択権がない」ということを前提にして働いている集団です。日本の大学にも、アメリカに負けないサービスを行おうと奮闘されているすばらしいスタッフは少なからずいます……が、やはりこういった環境の違いが、大学全体のサービスの質に与える影響も無視できないでしょう。正直申し上げて、まだ本当の意味で構成員が危機感を共有できている大学は、まだまだ少ないのではないかな、と思います。

アメリカの大学の経営陣が手厚いサービスを整備し、日本の大学経営陣が受験生の方ばかり見がちなのも、この環境の違いを考えれば、ある意味、自然といえば自然なのかもしれません。

しかし、環境というのは、いつだって変化しているものです。

日本の大学にも、そう遠くない将来、アメリカ並みのエンロールメント・マネジメントを実施しないと経営が立ちいかなくなる日が来る、と思われます。

大学進学率が上昇し、「大学全入時代」を迎えるということは皆様もご存じの通りですよね。
進学率が上昇している以上、大学に入ってくる学生達の、入学時の学力はどうしても低下します。それに十分対応できている大学はおそらく、まだまだ少数です。少なからぬ大学が、「退学率の上昇」という事態を招いているはずです。この点では、日本も「入学してくれさえすれば安心」という前提が、徐々に崩れ始めているのです。(ただ残念ながら、日本のほとんどの大学は正確な退学率のデータを公表していませんので、正確なところはわかりません)
現在、ゆとり教育第一世代が、大学1年生です。彼らのうち4年間ストレートで卒業できるのは、果たして何割でしょうか。理工系を中心に、留年者、退学者の増加が、どの大学でも問題にされてくるはずです。

また編入学という選択肢も、まだまだマイナーではありますが、少しずつ認知され初めています。書店に行けば、編入学を特集した本や雑誌も簡単に手に入るようになってきていますよね。
今後はさらに、退学者を増加させた大学が、経営のために、編入学の枠を拡大していくという動きも十分に予想されます。
自分たちよりも世間的評判の高い大学が、編入生を大規模に募集したとき、学生が流出しないという自信がありますか?

新入生獲得のために競ったライバル校と、入学後も競い続けなければならない時代になるのは、そんなに先のことではないんじゃないかとマイスターは思います。

なんだか、日本企業の人材獲得競争みたいな話です。

新卒採用に力を入れて、有名大学の卒業生を大勢採っても、旧い会社のあり方に見切りをつけた若手が数年でどんどん転職していってしまうという現象があちこちで起こっているのは、皆様もご存じでしょう。(大学業界はそういった動きから縁遠いみたいですから、実感がわかないかもしれませんが、実際に起きている話です)

終身雇用・年功序列の制度を用意し、一流大学から学生を引っ張って来れさえすれば、後はどんな風に扱っても一生辞めない、という時代がかつてはあったわけです。しかし今は、1人あたり200万円程度のコストをかけて採用した学生が、1~2年で辞めます。それを「最近の若者は根性がない!」の一言で片付けるのは自由ですが、会社の経営にとっては大きな問題ですよね。
若いうちからチャレンジできる環境を用意し、モチベーションを高め、実力をつけさせてやる仕組みを持っていないと、優秀な学生ほどすぐ辞めます。そうしたことに気づいた企業は、旧態依然とした人事システムを改め、新しい世代にも対応しつつ組織力を向上させられるようにと、対策を打ち出しています。
(一方で、中小企業でも、新入社員が辞めるという動きは起きています。面白みがない(ように見える)仕事を辞めて、フリーターなどになるのです。この場合は、上記のような企業とはまた違った対策が必要になるでしょう)

アメリカの大学の実態が想像しにくい方は、こういった日本の企業の現状をイメージするといいかもしれません。
いずれにせよ、日本の大学も、学生確保という点で「入学後も油断できない時代」がすぐそこまでやってきているのです。

日本でも、アメリカ並みのエンロールメント・マネジメントが必要になるんじゃないか? とマイスターが考える理由、なんとなくおわかりいただけましたでしょうか。

次回以降に詳しく申し上げたいと思いますが、エンロールメント・マネジメントを実施するためには、現在の日本の大学組織のあり方を変えることも必要になってくるかと思います。
そのとき、学内から

「なんでわざわざ、そんな大変なことをしなきゃいけないんだ」
「そんなのは、学生それぞれが勝手にやることだろう」

……といった反対を受けることもあるでしょう。
それに対して、ちゃんと理由を説明できるということは大切だと思います。「エンロールメント・マネジメントのための組織整備を行わないと、近い将来に大学の経営が立ちいかなくなるかもしれない」という危機感を共有することが、改革実現のための第一歩になるのではないかと、マイスターは思います。

というわけで、エンロールメント・マネジメントの話、まだまだ続きます。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  • 非常に素晴らしい考察です。大変勉強になりました。ありがとうございます。私も学生のために精一杯「役割(roll)」を果たします。