数年前、「自称・プロフェッショナルスクール」な大学院の修士課程を終了しました。
○論文だけでなく、授業や実習などのコースワークも重視
(マイスターは50単位くらい取りました)
○はじめから特定教員の下につくのではなく、自分の研究に合わせて学生が指導教員を随時選択する仕組み
(複数教員から指導を受けたり、研究上必要なら途中で指導教員を変えたりするのもOK)
○他大学卒の院生が半数を占める
(※学内推薦制度がないため)
○普段から気軽に意見交換ができるよう、他の専攻の大学院生達と共同のフロアにデスクが与えられる
などの工夫がされ、従来の「修士課程」とは異なる教育をしよう…! という、教授陣の意気込みが伝わるカリキュラムで、面白かったです。こういうところに惹かれて入学したのですが、やっぱり入って良かったです。
ただ、このようにプロフェッショナルスクールを標榜してはいるものの、実際のところは、「まだまだ実験段階」という部分も多かったです。
論文を書いていれば、なんだかんだで指導を受ける教員は固定化されてきますから、どうしても特定研究室に所属する従来型の大学院生の在り方に近くなってきちゃうんですよね。実際、2年間ずっと一人の教員にしか指導を受けていない学生も少なからずいたと思います。それに、他の専攻の学生達とコラボレーションする機会も、実際にはそんなにありませんでした。
そもそもアカデミックな論文指導が中心なら、それはアメリカの「プロフェッショナルスクール」とはちょっと違うよなぁ、と思ったり。
それでも、従来型の研究者養成型大学院に比べると、
「このスクールでは、こういう学生を育成しよう」
「このプログラムを終了した学生は、こうした能力を身につけ、こういうことができるような人材になっているようにしよう」
「マニアックな知識だけじゃなくて、ある程度広い領域を横断できる知識や、各種のスキルも身につけさせよう」
といった教育目標が明確に設定されていましたし、それをちゃんとカリキュラムに具体化させる努力もされていました。教員の皆様が、大学院教育はかくあるべきというビジョンを持っていたおかげだと思います。今はまだ試行錯誤の段階でも、今後そのうち、より洗練されたプログラムになっていくことでしょう。
そんな体験をもっているマイスターとしては、従来型の研究者養成型大学院に行った友人から話を聞くと、逆に新鮮です。
友人達(主に理工系)から話を聞いていると、研究テーマが変わったから、なんて理由で指導教員を変えたりすることは、とうてい許されない雰囲気みたいです。それどころか特にひどい例では、「他の教授から意見を聞く」ということだけで、不快感をあらわにする指導教員もいるんだとか。他の大学の大学院に進学したら、教員が不機嫌になったなんて話も聞きました。
授業などのコースワークは最低限で、実質、2年間ほとんど研究室にこもりっきり。
論文の発表を外部ですることはあっても、普段の指導は、所属研究室の教員達からしか受けない。
研究室のメンバーは、
<学部4年生→修士→博士>
と、エスカレーター式に上がってきた人ばかりで、バラエティがない。
それどころか教員も、
<専任講師→助教授→教授>
と、学内の同じ研究室内に居続けて、年功序列式に肩書きを変えてきた人ばかり。
本当に「徒弟制」の教育システムなんだなぁ……と感じます。
(※注:もちろん、こうでない大学院もたくさんあると思います)
徒弟制にも優れた面があることはわかりますが、本来、世界中あらゆるところで活躍できる研究者や、複眼的に物事をとらえられるプロフェッショナルを育てるには、向いていない仕組みなんじゃないかなぁ…と、個人的には思うのです。
「大学院○○研究科○○専攻」としての教育というものは機能しておらず、
ただ、「○○研究室の構成員」という事実だけが存在する教育システム。
伝統的なこの仕組みについては賛否両論あるかもしれませんが、ただ、一般的に
「世界から、こうした日本の大学院教育のシステムはあんまり評価されてない」
ということは確かです。
そんなことを思っていたら、↓こんな記事が目にとまりました。
【教育関連ニュース】—————————————-
■「“徒弟制”一掃、文科省が大学院を抜本改革へ」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060430i101.htm
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…文科省は3月末、専攻分野ごとに講座を設け、教授を頂点に助教授、助手らを配置して教育研究を進める「講座制」の規定を大学設置基準から削除。この枠が外れることにより、今年度から各大学・大学院が自らの裁量で柔軟な教育研究体制作りを進めることが可能になる。
07年度からは、教授の職務を助ける役割だった助教授が廃止され、新たに学生の教育や研究を主な職務とする「准教授」が新設される予定で、こうしたことを契機に教授と院生らの硬直的な徒弟関係の改善が図られることになる。
(略)
今年度からは、教育の質を保証するため第三者による外部評価が導入される。若手研究者向けの研究費補助も拡充され、財政支援策でも、優れた研究を行う大学・大学院に国が補助金を出す「21世紀COEプログラム」に代わる新たな策を実施する見通しだ。文科省は3月、これら施策を盛り込んだ2010年度までの5か年計画「大学院教育振興施策要綱」をまとめており、要綱に沿って総合的な改革を進める。
(上記記事より)
……というわけで、徒弟制の教育システムについてはやっぱり、(日本の大学関係者以外の方々から)不満の声が多数寄せられていたらしく、文科省の方々もこうして手を打っているわけなのでした。
まずは教員組織の方から変えていこうとしているのですね。教授を頂点としたピラミッドを崩し、助教授や助手が研究者として思うように働けない現状を打破しよう、という方向性です。
これですぐに日本の大学院が変わるとは思えませんが、いずれ効果は現れてくると思います。学生以上に、教員組織が「徒弟制」になっているわけですからね。
これはこれでいいのですが、マイスターは上記に加え、「教員と学生の関係」についても徒弟制を少し見直した方がいいんじゃないかと思うのです。
学内外の複数の研究者や企業の開発者などから指導を受ける機会を奨励したり、ちゃんと教育カリキュラムの中に位置づけたりすべきです。いや、そもそも、大学院にも、ちゃんと体系づけて構成された教育カリキュラムを用意すべきと考えます。
論文を仕上げるのが大学院での目的であるのは、まぁいいとしても、
そこにたどり着くために行われるはずの教育が、「徒弟制」に基づいた指導に、あまりにも偏りすぎているように思うのです。
一人の研究者の下で学ぶことにも意味はありますが、それは万能ではありません。
時間的にも能力的にも、一人の研究者が提供できる教育には、限界があるはずです。
ですが、現在は「高名な研究者の研究室で指導を受けていれば、あらゆる面で素晴らしい教育を受けたことになる」と考えられているような気がするのです。
そんなはずはないだろう、とマイスターなどは思います。
先日もアメリカの大学院進学ガイドを読んでいたら、博士課程の修了条件に
「90単位を修得」
などとサラリと書かれていてマイスターは驚いたのですが、学校によって違いはあるにしても、アメリカの場合、大学院には大学院なりのカリキュラムと教育プログラムがちゃんと用意されているという印象があります。
日本の場合、博士課程となると、コースワークなんてほとんどありませんよね。3年間の教育成果を示すものは博士論文以外なにもない(そのわりに「博士課程単位取得退学」なんて肩書きが流通していたりするから不思議)、どのように教育が行われたかという過程を知っているのは指導教員のみ、という状況であることが少なくありません。
でも、こういう教育システムを見直さなければ、「徒弟制」は何らかの形で残るんじゃないかとマイスターは考えますが、いかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
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(参考)
・東北大学が構想するスーパー大学院
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50181973.html
・『プロフェッショナルスクール アメリカの専門職養成』
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/2005-10.html
・「単位取得後退学」って? 博士号と課程制大学院
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50122590.html
・博士号はどんな学問分野に多い? 各国のデータを比較します!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50123351.html
・日本で、人文科学系と社会科学系の博士号が少ない理由は?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50122978.html
・博士号取得を目指すことには、どういうメリットがある?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50123973.html
・大学職員養成大学院に行きたいか?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50120930.html
・若手研究者を“一国一城の主”に!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50108961.html
アメリカの博士は博士前期込みで考えているので、
90単位というのは修士のような状況の時にとります。
大体3・3・3・1クラスのように2年でとります。
最後に博士後期にあがるために candidate 試験を受けるので最後クラスが少なくて丁度いいかもぐらいです。
修士が学部と同じで授業授業なんですよね。
なので日本の修士が論文を発表しているというのに研究始めてすらいない人も多いです。