かつて、某企業の総合学習支援サイトを企画・運営させていただいていたことがあります。
調べもののためのお役立ち情報や、各種の読み物などもありましたが、夏休み中盤になると、工作や実験のネタを集めたコンテンツがアクセスを集めました。
ご説明するまでもありませんね。夏休みの自由研究課題に困ったご家庭が、検索等でそのサイトを見つけて、これだとばかりに宿題に活用してくださっているのです。
(もちろん、こちらはそれを狙って、様々な手を打っているわけです)
お問い合わせメールの多くは、お父様が書いたものでした(文面を見れば、一目でわかります)。お問い合わせに答えるのは、マイスター&科学ライターさんの役目でしたが、なるほどこの工程でつまづく人が多いのか、この材料は案外お店で手に入りにくいのかと、いろいろ勉強になりました。
内容にもよりますが、小学生くらいだと、親が子供の勉強や学校生活に手を貸すということは、比較的、許される行為であることのように思います。
上記の例は学習内容に関する話ですが、学校生活についても同様で、基本的には子供の自立を促すように振る舞いつつ、でもときには親と学校が連携して子供のサポートに当たらないといけないことはあるでしょうね。
でも、これが大学生の話だったとしたら……ちょっと話が違ってきます。
わが教務部門では、保護者の方からお電話をいただくことがあります。内容は様々ですが、割と多いのが、「ウチの子は卒業できるんでしょうか?」という質問。そのほとんどは、子供に内緒でかけてきたというお母さまです。
お電話だけでは本人確認ができないので、成績に関するお問い合わせは一切受け付けていないのですが、そうお答えすると、「じゃあ今からうかがいます」と言って、直接キャンパスにいらっしゃろうとすることも。
大抵、同じことをおっしゃいます。「もう心配で心配で…」。
また上記とは別に、「子供の代わりに親が質問の電話をしてくる」というシチュエーションにも何度か巡りあいました。保護者の方が、カリキュラムやら、ご子息の成績やらについてあれこれと職員に質問をしてこられるのですが、どうも向こうの電話口、お隣にご本人がいるらしいのです。当然、「だったら本人が電話してください…」という突っ込みを(心の中で)するところです。
ここまで読んで、うんうんと強くクビを縦に振る大学関係者の方も、少なからずおられるのではないでしょうか。上記のような「過保護な親、自立できない子供」は、マイスターの職場だけではなく、いまや多くの大学におられるみたいですから。
こうした出来事の数々、マイスターも最初は軽くショックでしたが、大学が本格的にユニバーサルアクセス段階を迎えたら、きっとこんなものじゃ済まないのでしょう。進学率が急上昇し、どんな方でも大学に入れるようになってきている以上、こうした学生が増えていくのは、ある面では、仕方のないことなのかもしれません。
どのような対応をとるにしても、「昔の大学生はもっと自立していた! 今の学生は信じられない!」とぼやくだけではなく、今後、こうした学生が増えていくことを想定しておくことが大事なのでしょう。
いやそれにしても、日本の親は過保護だなぁ……
他の国の大学生は、もっと自立しているぞ、まったく……
などと、つい思ってしまう昨今。
でも、どうもこうした傾向って、我が国だけの話じゃないみたいなんですよ。
【教育関連ニュース】————————
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■「第157回 ヘリコプター・ペアレンツ -過保護な親」(異文化英語)
http://english.evidus.com/magazine/ibunka/157.html
■「Colleges Ward Off Overinvolved Parents(英文)」(The Wall Street
Journal:The Career Journal.com 掲載)
http://www.careerjournal.com/columnists/workfamily/20050729-workfamily.html?cjpartner=mktw
■「Helicopter parent(英文)」(Wikipedia)
http://en.wikipedia.org/wiki/Helicopter_parent
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【ヘリコプター・ペアレンツ】:
特に学校関係において、子供に極端に世話をやく親のこと。
ホバリングするヘリコプターのようにいつまでも子供の上空を旋回していて、なにかというとすぐ急降下して子供の世話を焼くので、皮肉としてこのように呼ばれるようになった。
ベビーブーマー世代に見られる親子の強い結びつきが原因になっているという指摘もある。
(以上、上記の複数の記事を元にマイスターが作成)
こんな言葉が、アメリカで使われているそうです。
飛行機のように飛び去っていかず、ヘリコプターのようにずーっと子供の側に滞空している親、ですね。90年代に教員が使い始め、やがて大学のアドミニストレーター達の間にも広まった言葉なのだとか。
こうしたヘリコプター・ペアレンツが、大学キャンパスを「殲滅」してまわっているようなのです。
今アメリカで、大学生にもなった子供に過度に世話をやく新しい世代の親が誕生しているらしいのです。こういう親は、新学期に大学まで出かけ、子供の授業の履修登録の手伝いまでするそうです。子供も子供で、大学のアドバイザーと相談していて、分からないことがあると、直ぐに親の携帯に連絡し、「先生、お母さんと話してください」と言って、その携帯をアドバイザーに差し出す学生もいるとか。さらには、新学期に「子供が今旅行に行ってますので、代わりに履修登録に来ました」と言って大学にやってくる親もいるそうです。(「異文化英語」記事より)
子供の大学生活を過剰に気にしてしまい、毎日のように大学側に電話やメールで問い合わせや苦情を行う親が急増しており、教育関係者達はこういった親を「ヘリコプター・ペアレンツ(子供の周りを常に周回しているという意味で)」と皮肉を込めて呼んでいる。コルゲート大学(ニューヨーク州ハミルトン)の教育関係者にも学生の親からの苦情が頻繁に送られており、苦情の内容はルームメイトの相性の悪さから成績に関するものまで様々だ。最近、ある学生の親がコルゲート大学事務局に問い合わせを行っているが、娘が参加する中国での研修旅行で現地の水の出の悪さをどう対処するのかというものだった。(「IPSO FACTO」記事より)
大学側も、こうした保護者の対応には苦慮しているようで、学校によっては、対応のための専門の職員を置いたり(!)しているところもあるのだとか。
とは言え、もちろんこうした親の行動が「過剰な」気遣いであり、最終的には学生本人が自分で物事を決められるようにしていかなければならないということは、疑いのない事実です。ですから基本的には、親に対してそうした説明をきちんとする、という対応をとっている大学がほとんどのようです。
しかし、アメリカの大学では、学生に対するカウンセリングのサービスが充実していると耳にしてはいましたが、いまや、親に対してもこうした対応体制を用意せざるを得なくなってきたのでしょうか。
何かにつけてアメリカを参考にする我が国でも、いずれ、保護者対応について、なにがしかの対策をとることになるのかも……しれませんね。
■「College Parents of America」
http://www.collegeparents.org/cpa/index.html
↑アメリカでは、大学生の親たちによる「アメリカ大学親の会」なんて組織もあるらしいです。積極的にロビー活動が行われているみたいです。このあたりは、アメリカらしいですね。
こうしたパワフルな方々であるだけに、「子離れ」を促すための説得も大変そうです。
さらにこのヘリコプター・ペアレンツ達は、大学を殲滅した後、今度は子供の就職活動にまでついてきているようです。

『COURRiER Japon 4/20号』に、
「子供の面接試験に付き添う『ヘリコプター・ペアレンツ』」
という記事がありました。
採用面説に際し、付き添いとして親が一緒にやってくる、
20歳を過ぎた子供の親から、「自分の子を採用してくれ」と頼む電話がかかってくる、
企業の人事採用マネジャーが就職希望者に内定を出したところ、翌日にその母親から給料の増額を求める電話があった、
……などといった出来事が紹介されています。
「長く学生の採用に関わってきましたが、こんなことははじめてです」といった採用担当者の声も。
日本だけでなく、アメリカでも、こんな「過保護な親」が増えてきているのですね。
大学や企業が、対応に困っているという点も、同じです。
(アメリカの学生は、日本の学生に比べて自立しているというイメージがありますが、考えてみればかの国は、日本以上に高等教育のユニバーサル化が進んでいる社会でもあるわけで、そんなに自立した学生ばかりなわけもないですよね)
ただ上記の記事によると、ボストンの人材派遣会社の調査で、若者の25%は「親の過度な干渉が迷惑・うるさい」と感じているという結果も出ているそうです。
親離れできない子供も多いけれど、
(ひょっとするとそれ以上に)子離れできていない親も多い。
これも、日米で共通のことかも知れません。
従来、こうした親子関係に対する介入は、高等教育機関の役目ではなかったのだと思います。でも今後は、そうも言っていられなくなりそうです。
ステークホルダーに対するサービスを充実させることは大切ですが、学生を過度に子供扱いするような対応は、決していいことではないでしょう。そのあたりの対応方法について、今後、大学ごとに判断が分かれていきそうな気がします。
いわゆる「面倒見の良い大学」という路線の延長線上で保護者対応を充実させ、「親に対するサービスの良い大学」というブランドを確立させようとする大学が出てきても、別に不思議ではありません。個人的には、あんまりやりすぎるのはどうかと思いますが、大学にそういう対応を求めている方々は一定数、確実におられると思いますし、今後、ニーズは高まっていくことでしょう。
ヘリコプター・ペアレンツへの対応、 あなたの大学では、どのようにお考えですか?
以上、マイスターでした。