マイスターです。
高校にとって、受験生にアピールするポイントの一つが、大学進学実績です。
どのくらいの人数が、どのような大学に合格しているのか。
webサイトやパンフレットなどで、熱心にPRしています。
逆に言うと、進学実績がぱっとしない高校は大変のようです。
どのようにこの数字を伸ばすかということは、高校にとって死活問題。
これは、事実です。
ただ、そういった進学実績の数字のひとつひとつは、その生徒が夢や希望を持ち、やりたいことを自分なりに考え、自分の決断で挑戦した結果でなければならないはず。
それを忘れ、学校の進学実績を伸ばすための進路指導を行うようなことがあってはいけません。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「『関関同立』1人で『73人分』合格…大阪学芸高」(読売オンライン)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20070720p102.htm
■「『73人合格』実は受験生1人、大阪の私立高が実績水増し」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070720i107.htm
■「1人が73人分合格 私立高が合格実績『水増し』大阪」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200707200156.html
■「大阪の私立高“73人分”実は1人 関関同立に合格多数とPR」(SankeiWEB)
http://www.sankei.co.jp/kyouiku/gakko/070720/gkk070720000.htm
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大阪市住吉区の私立大阪学芸高校(近藤永校長)が2006年度の大学入試の際、成績が優秀だった1人の男子生徒に働きかけて志望と関係のない学部・学科を多数受験させ、合格実績を事実上水増ししていたことがわかった。生徒は「関関同立」と呼ばれる関西の有名4私立大の延べ計73学部・学科に出願し、すべて合格。受験料計約130万円は同校が全額負担していた。大学入試センター試験の結果だけを利用して合否を判定する入試制度を使って大量に出願し、合格発表後、生徒側に激励金名目で5万円と、数万円相当の腕時計を贈っていた。文部科学省は事実関係を調査する方針。
関係者の話や同校の説明によると、同校は5年前、進学奨学金規定を設けた。「関関同立」(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)と、「産近甲龍」(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)の計8私立大を受験する生徒の受験料を負担する制度で、入試結果が良かった生徒に激励金を贈ることも定めている。
規定は非公開で一部生徒だけに告げられる。73学部・学科に合格した生徒のケースでは、センター試験直前の昨年1月、担当者が説明。生徒は国公立大が第一志望だったが、関関同立の計5学部・学科の一般入試の受験も希望した。
その際、担当者は「学校の判断で関関同立のほかの学部・学科にも出願していいか」と持ちかけた。生徒が拒否しなかったため、学校側はさらに延べ計68学部・学科に出願手続きをした。生徒は理系志望だったが、出願先には文系の学部・学科も含まれていた。いずれもセンター試験の結果だけで合否が決まるもので、生徒は新たな受験の必要はなかった。
結果的にすべて合格となり、同校は生徒を表彰、数万円相当の腕時計を贈り、5万円を生徒の保護者名義の口座に送金した。生徒は結局、第一志望の国公立大に合格し、進学した。
06年度、同校は「関関同立」の合格者数を144人と公表しているが、これは延べ人数で、半数以上はこの生徒が1人で積み上げたものだった。
(「『関関同立』1人で『73人分』合格…大阪学芸高」(読売オンライン)より。強調部分はマイスターによる)
■大阪学芸高等学校
http://www.osakagakugei.ac.jp/senior/index.html
(※↑アクセスが集中したからか、この記事を書いている時点ではサーバが落ちていました)
まず、広告代わりに使われた生徒が不憫です。自分の学校からこんな、あまり大きな声では言えないような話を持ちかけられたら、ショックでしょう。
この生徒だって、元々は同校の進学実績などを見た上で、この学校に進学することを決めたはず。入学後も、先輩達の進学実績を見て勇気づけられたんじゃないかと思います。優れた進学実績は、教員達に対する信頼感にもなっていたでしょう。
それが、こんな裏取引によるものだったと知ったときは、さぞ残念に思ったのではないかなと想像します。
同校のサイトを検索すると、「一人ひとりの生徒を大切にした教育」というフレーズが検索結果とともに表示されるのですが、実際はちょっと違うのかも知れません。
「裏切られた」と感じるのは、この生徒だけではありません。
毎年、進学実績の数字を見て同校を受験していた子供達や保護者は、みな同じ思いになると思います。
このような「指導」が行われていては、本来の学校の進学指導の成果ではない数字が、外に伝わることになります。
と言いますか、どう考えても、そういうことを意図した制度です。
株価を不当につり上げれば、投資家は怒るでしょう。
それと同じで、高校受験生やその保護者にとっては許し難い、詐欺のような行為です。
読売新聞の取材に対し、同校の中谷清司副校長は「正直、こんなに合格するとは思わなかった。結果的に1人の生徒が多くの合格数を占めてしまい、バランスの悪い数字になったことは反省しており、今春の入試からはこうした大量出願は行っていない」と釈明。文系の学部・学科まで受験させた点については「大学受験は水物。できるだけ多く受験させることで、生徒の合格可能性を高めてやりたかった」と述べた。奨学金規定を適用する生徒は毎年度、20人程度いるが、詳細は明かせないとしている。
(上記記事より)
上記のように学校関係者は釈明していますが、「バランスの悪い数字になった」ことが問題なのではありません。「バランスの悪い数字になったことは反省しており」って、意味がわかりません。
おそらくこれまで同校は、同じ手法で「バランス良く」合格実績を増やしていたのでしょう。今回は著しく偏ったからバレたんだな、というホンネがかいま見えるようです。
また、「できるだけ多く受験させることで、生徒の合格可能性を高めてやりたかった」という言葉も、理系の生徒に文系学部を受験させたことや、この制度をなぜか非公開に運用してきたことなどを考えると、ただの詭弁に過ぎないのではと考えてしまいます。
進学実績が高校の評判につながるのは事実ですし、PRのために学校側が優秀な学生を広告塔代わりにするのも、ある程度は仕方がないのかもしれません。
ただ、大阪学芸高校のやり方は、いくらなんでも度を超えています。
教育としても、ビジネスとしても、「禁じ手」だと言えましょう。
大学側にとっても、こんな風に受験制度を利用されたのでは、たまらないと思います。
進学するつもりのない生徒に出願させてくるというだけでも困るでしょうが、さらにこういった「架空の実績」に対する評価として、指定校推薦枠を与えていたりすると、さらに大変です。
(※もともと指定校推薦枠は、学生の大学での活躍ぶりを見た上で、出身高校に対して付与されるものでしたが、最近では実際の進学者がいなくても指定校枠を出す大学が増えています)
進学実績を不当に飾り立てる行為は、学校のステークホルダーすべてに対する裏切りと言えるのではないでしょうか。
ところで、ちょうどいい機会なのでついでに書かせていただきたいと思うのですが、高校の進学実績の扱いって、重要なようで実は結構、適当ですよね。
みな、「進学実績は大事」と言いますが、その割には「母数」というものがちゃんと書かれていないことが多いような気がします。
高校によって、生徒の総数は違います。同じ10人でも、500人のうちの10人と、200人のうちの10人では全然違うはずです。
なのに、たいていの場合、進学実績は「合格数」でカウントされています。
そして、webサイト上をくまなく探しても、なぜか母数となる生徒の人数が、どこにも書かれていなかったりします。
全国で、当たり前のように行われている「慣行」なのかも知れませんが、どうして、誰もこれを問題視しないのか、考えてみるとちょっと不思議です。
(高校に限らず、「東大に○人合格!」という予備校の宣伝、「公認会計士合格者○人!」という資格スクールの広告などなど、母数を伏せた絶対値だけの数字は多いです。母数を入れたら、かなり印象が変わるものもあると思うのですが)
大阪学芸高校のようなケースが生まれる背景には、こういったことに対する消費者側の認識の甘さもあるのかな、なんて思わないでもありません。
自分もよく、こういった印象でものを選んでしまいがちなので、偉そうなことは全然言えないのですが、学校選びとなると、さすがに投資額も人生に与える影響も大きいですから、みなさまもお気をつけください。
以上、マイスターでした。