マイスターです。
昨日、「海外と国内の教育の関係をどう捉えるか」に関する報道をご紹介したのですが、関連してもう一本、面白い記事を見つけましたのでご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「中国から熱い視線注がれるデジタルハリウッド大学」(NIKKEIBP net)
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/china/mo/070109_dhuniversity/
※全文を読むにはIDとパスワードの入力を求められますが、無料です
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「デジタルハリウッド大学(と大学院)」は、日本の大学関係者の間ではおそらく「異色の学校」という目で見られていると思います。
■デジタルハリウッド大学
http://www.dhw.ac.jp/
株式会社立という位置づけ、
専門学校が母体という歴史、
デジタルクリエイター養成という目的、
校長ブログのプロフィール写真、
どれをとっても確かに異色で、従来の大学イメージからははみ出るものかもしれません。
(あ、最後のは関係ありませんかそうですか)
ただ、昨今では「大学はミッションを明確にする必要がある」とか、「差別化が大事だ」とか言われていますよね。世界水準の研究大学を目指すのか、良質な高度職業人の育成に特化した大学になるのか、地域社会に貢献する大学になるのか等々、あるていど個性を出していこうという話です。もっとわかりやすく言えば、「自分たちは何を任務とする大学なのか、明確に社会に宣言できる大学であることが大事」ということだと思います。
マイスターも、ミッションをはっきり説明できる大学なら(よっぽど時代の流れに逆行していない限り)どうにかして生き残る方法は見つかるのではないか、と考えています。
その意味では、デジタルハリウッド大学ほどミッションがはっきりしている大学はありませんので、この大学が今後どのような道を辿っていくのか、個人的には非常に興味があるのです。
さて、冒頭の記事は、そんなデジタルハリウッド大学の中国展開について紹介しています。詳細は本文をご覧ください。
この記事の後半に、デジタルハリウッド大学の中国展開に関する記述があります。
内容は、
中国での留学生共同募集会場では、有名私大に負けないほど列ができた、
すでに天津南開大学と共同で社会人向けスクールを開校しており、今後は中国全土への展開が考えられる、
中国の大学などから既に、10件以上提携の話が来ている、
……等々。
最後に、「実現可能なところから進めて行きたい」、という、中国担当シニアディレクターの言葉が紹介されています。とても興味深いです。
デジタルハリウッド大学の取り組みの面白いところは、単なる「留学生の誘致」ではなく大学として現地での教育事業展開を行っているという点、そしてそれを、開設してわずか数年の大学が行っているという点にあるように思います。
最近では「大学が生き残りを賭けて中国に進出!」なんていう記事もちらほら見かけるようになりましたよね。
しかし、その内容は
○日本に留学生(受験生)を連れてくるため、現地での募集活動を本格化させた
○現地の大学と教育・研究協定を締結した
の2点がメインです。
日本で培った教育プログラムを現地に持ち込んで事業展開する、なんていうことは、実はまだほとんど行われていないのではないか……とマイスターは思います。
例えば、日本の高度経済成長を支えた工科系大学が、中国に技術者教育のノウハウを売り込むとか、あるいは現地の大学と共同でスクールを設立するとかしてもよさそうなものなのに、不思議です。
教育ノウハウを海外に持って行かない理由は何でしょうか。
ぱっと思いつくのは、
○教育力にそれほど自信がない
○日本の大学教育は、教育プログラムの出来というより、教員個人個人の資質に依存する部分が大きいため、ノウハウだけを輸出できない
○こういった事業を展開しようという発想がそもそもわかない。あるいは、思いついたとしても実行できる人材がいない
といったところですが……真相は不明です。学校によっても学問領域によっても違うと思いますし。
で、このデジタルハリウッドです。大学院が2004年、大学が2005年に設立されたばかり。母体となった専門学校も1994年の開校ですから、学園としてわずか10年かそこらの歴史しかありません。
しかし中国のアニメ産業が成長することを見越し、ちゃんと中国担当のシニアディレクターなんていう職も設け現地の大学と提携して、大胆ですが着実に事業を展開しているのは、やはり事業実行力の差だなと思います。
逆に、どれだけ長い伝統や優れた教育実績があっても、中国担当のシニアディレクターを置こうと提案した時点で却下される大学が世の中の大半なのではないでしょうか。
事業実行力は、歴史や組織規模とはまったく関係がないという良い例でありましょう。
ただもちろんここには注意しなければならない落とし穴もあります。
この記事だけ読むと、デジタルハリウッドの進出は、中国におけるアニメ産業の成長を背景にしています。ですからそういった産業自体に陰りが出てきたときには、うまく事業を縮小していかなけれなばなりません。しかし事業を縮小するというのは、場合によっては拡大するより難しいことだと思います。教育というのは基本的に労働集約産業ですので、「人」の問題が必ずついて回りますからね。
(日本の大学が一度作った学部を廃止できない理由もつきつめればここにあります)
もっとも、本当に事業実行力が優れている組織なら、そういった問題もちゃんと考えていると思います。本国のキャンパスを巨大化させるのではなく、現地の大学と手を組んでスクールを展開するというスタイルを採る背景には、事業規模をコントロールするためという理由もあるのだろうなと思いますし。
またクリエイター養成というコンセプト自体は、いつの時代も必ず必要とされるものです。時代によってそれがwebであったりCGであったり、写真であったり映像であったりと変化するでしょうが、そこは柔軟に変えていけば良いだけの話。
「デジタルクリエイター養成スクール」というブランドを構築できれば、いくらでも戦いようがあるのでしょう。
加えてインターネットのような高度情報ネットワークが整備された今、クリエイティブの制作現場は世界中にあります。ちゃんと訓練された人材さえいれば、人件費の安い国が世界のコンテンツの制作拠点になることだってあり得るわけで、そう簡単に教育の需要はなくなりません。それにデジタルコンテンツを扱うのなら、教育自体をネットワークで配信することも比較的容易です。
考えてみれば、これほど世界展開に向いている教育領域もありません。
しかし現在、多くの大学が情報系、映像系学部の新設などを進めています。非常にすばらしい教育を行う学校も、いくつか出てくるでしょう。
クリエイター養成という領域は、今後、ライバルが増える分野でもあるわけで、その中で主導権を握っていくのはやはり大変です。
ただそれでも、デジタルハリウッド大学は後発組どころか、事業展開という面では現在、日本の大学の最先端の試みを行っている大学であるように思えます。
個人的には、目を離せません。
最後に、冒頭の記事の記述をご紹介します。
旧態依然とした大学の体制では、中国に学生を募集しに行ってもなかなか学生を集められない。しかし、市場ニーズをきちんと捉えた専攻をもつ海外の大学には、中国の若者たちはいまでも熱いまなざしを注いでいる。
(「中国から熱い視線注がれるデジタルハリウッド大学」(NIKKEIBP net)より)
デジタルハリウッドだけでなく、他の大学についても言えることだと思います。海外で事業を展開するのであれば、しっかりと現地のニーズを掴んだ教育を行いたいものですよね。
以上、マイスターでした。