若手研究者を“一国一城の主”に!

こんばんは、マイスターです。

大学時代の友人が「いつかは大学の教授になりたい」と言うので、じゃあどうやったらなれるのか知ってるか?と訪ねたところ、

「まずは助手として研究室に入る。
 数年助手をして、上が空いたら専任講師になる。
 研究室の助教授が教授になるのにあわせて、自分も40歳前後で助教授になる。
 50歳以降、教授が引退したら自分が教授になる。
 そのために必要なのは人間関係。」

という、言い返せないくらい実態ズバリなんだけど、とても手放しでは推奨できないプランが返ってきました。

「専任講師」というのは本来、「専任の、講師」というだけの意味合いのはずですが、友人の出た大学ではこの通り、研究室付きの助手とほぼ同列の扱いとして位置づけられていたわけですな。
その友人はそんな研究室の風景を見慣れていたので、上記のようなプランが自然に口に出たというわけです。

でも、無理もありません。「学校教育法」にも、

第58条6 教授は、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
第58条7 助教授は、教授の職務を助ける。
第58条8 助手は、教授及び助教授の職務を助ける。
第58条9 講師は、教授又は助教授に準ずる職務に従事する。

と書かれているわけですから。

しかしその、なんと言いますか、このビジョンで行くと、50歳くらいまでは人間関係を重視する暮らしになりそうです。
というか、40歳くらいまでは自分の研究どころではなさそうな気も。

伝統のある大学では、こんなのは普通の光景なのかも知れません。

これはマイスターの勝手な印象ですが、「たたき上げ率の高い伝統校」には、その傾向があるように感じます。
その大学の卒業生がそのまま大学院生として持ち上がり、その中から助手が生まれ、やがて専任講師になり助教授になり…というパターンです。
マイスターの卒業した学部がまさにこれで、30人近い教員のうち、外部の大学を出た人はわずか5名程度でした。
どの研究室でも、当然のように上記の「教授-助教授-専任講師-助手」ラインができてました。

そこにはメリットとデメリットがあると思いますが、今回ご紹介するのは、主にデメリット面に関する記事です。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「若手研究者に独立の部屋やスタッフ、旧弊打破へ新事業」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20051202i401.htm
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若手の研究者と、既に教授になっている人たちとを切り離して、
若手が自分の研究に没頭できるようにしてあげよう、というスバラシイ案です。

現在、若手の研究者は、どこかの研究室に入って教授の「下」に付かなければ、大学で研究の場を与えられないことが多いのです。
でも、入ったら、教授や助教授のための下働きに忙しく、とても自分の研究に専念するどころではないのです。
あぁ、この矛盾。

おまけに学科内の人事権は教授達が握っているので、上に行くためには、教授達に嫌われないようにしてないといけないのですねー。

こうした持ち上がり式の鈍行エレベーターシステムと、終身雇用・年功序列の仕組みがぴったり重なった結果、閉塞感漂う研究者ワールドが日本にできてしまったというわけです。

※大学教員が、「年齢」で選抜されていることについては、過去の記事をご覧ください。
・教授は50代以上じゃなきゃダメ!? 公募の年齢制限
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50037994.html
・年齢で差別する大学
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50041107.html

(一部の)大学教員の世界に存在するおかしな上下関係が暴走した結果として、「アカハラ」なんて言葉も生まれました。

・参考:「教育・研究の場で地位を利用した嫌がらせ 『アカデミックハラスメント(アカハラ)』広がる学内」(全国国公私立大学の事件情報)
http://university.main.jp/blog/archives/002196.html

こんなのは大学人として断固許せない行為ですが、こうした行為が起きる原因の一端には、上記のように閉鎖的な組織構造や、そのピラミッドの中の人間関係だけを頼りにのし上がってきた一部の大学教員達の幼稚さもあるのではないかと思います。

しかし何より深刻なのは、冒頭の読売記事にもあるように、若い研究者がチャレンジできないということです。

「ノーベル賞級の研究成果は、30代くらいまでのうちに出ることが多い」、なんて話を聞いたことがありませんか?
これは本当です。
文科省が、以下のような資料をまとめてくれていますので、参考としてご覧ください。

・「平成13年版科学技術白書:若手研究者に対する処遇の改善」(文部科学省)
http://wwwwp.mext.go.jp/hakusyo/book/hpaa200101/hpaa200101_2_018.html

30代後半くらいにピークがあるのがおわかりかと思います。
30代の前半もかなりいますね。

冒頭、マイスターの友人が言っていた「30代は講師で下働き、40代でようやく助教授」のシステムを思い出してください。
そうしてピラミッドの最下層からのし上がっていく道を選んだ方は、残念ながらノーベル賞受賞からは遠そうです。
(※そうした研究室では、「長く○○学に従事し、学会に貢献した人に送られる賞」みたいなのばっかりもらってたりします)

世界的な研究成果を出したかったら、

30代に独立した研究の場を与えよう!

誰がどう考えても、そういうことなのですね。

海外の研究期間に日本の優秀な若手が流れて、「頭脳流出だ」なんて言ったりしますが、そりゃ無理もありません。
これまでも、こうした日本の研究現場の閉塞的な体制は問題とされてきました。読売の記事も、「旧弊打破」なんてタイトルを付けちゃってますよね。

データから見ても「30代のうちに独立させろ」というのは明らかな施策なのに、今も日本の大学は自力で実行できないでいるわけです。
その理由は言わずもがな、既に上り詰めておいしい位置にたどり着いた教授階級が、大学のすべての施策を決定する仕組みになっているから…です。たぶん。
「教授会の多数決で決定する」って、なんだか民主的な方法のように聞こえますが、実際はこんなもんです。

なので、情けないけど、お上の命令という「外圧」にここは期待しちゃいましょう。

さて、この文科省の新事業はすばらしいのですが、ちょっと気になることもあります。

-新事業では、大学や研究機関が、37歳くらいまでの若手研究者を数人ずつ選び、教授や助教授から独立した部屋や設備、研究を手伝うスタッフを用意する。-(読売記事より)

この文面を見る限り、若手の研究者を選抜するのは、その大学の教授陣である可能性が高いです。
ここに、一抹の不安を感じます。

研究者というのは、他人の学術的な業績を素直に批判したり認めたりする冷静な一面を持っていますが、身内のことに関してはこの限りではないことも多いです。(しかも人事の問題ならなおさらです)
大学組織について様々な人が書いた本を読み、多くの大学関係者の方から話を聞くうちに、そんな実態がわかってきました。
もっともこれはマイスターが持っている個人的な印象に過ぎないわけですが、でも実際、教員同士の人間関係が、学科内の人事に影響を与えていることは、そんなに希なケースでもないと思いますよ。

もっとも、これは、研究者の世界に限った話ではなくて、人事の評価というのはどんな世界でも難しいということなんだと思います。
ただ大学教員の場合は、「社内」で上に行くだけではなく「社外(=世界)」でひとり立ちする実力が求められること、
そして「社外」での実力は本来、ただただ研究に対する客観的な評価によって決まるのだということ、
にも関わらず、上述したような組織上の問題があることなどから考えて、
今、国家的に特別な対策が必要だと判断されている、ということなのでありましょう。

そこで、マイスターとしては、

学内の教授陣だけでなく、外部の有識者を、決定会議のメンバーに加えることをひとつの案として提案します。

もし可能であれば、海外の研究者に加わってもらうのがベストです。
海外でも通用する研究者を選ぶわけですから、海外の声を聞くのは理にかなってますしね。

これなら、オープンな議論で選ばざるを得ません。
優秀な若手研究者の存在を、海外の研究者に早めにアピールするという意味でも一石二鳥です。
ぜひお試しください。

以上、色々と考えを述べさせて頂きましたが、せっかく文科省がこうした制度を作るわけですから、

「若手の育成に学科を挙げて取り組み、本学からノーベル賞を出すぞー!」

みたいに制度を活用してくれるといいなぁと思います。

ところで、今回の「若手に研究環境を与える制度」とあわせて、「助教」という制度も誕生しますよね。
これも、若手を単なるアシスタントではなく、独立した研究者として見なそうという動きの一つです。
ご存じない方は、↓こちらをご参考にどうぞ。

・用語解説:「准教授」とは、「助教」とは
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/27915510.html

というわけで、読み返してみると、制度に期待してるんだか期待してないんだかわからない文章になってしまったけど、
いやもうホント、文科省の新事業には大いに期待しています!なマイスターでした。

2 件のコメント

  • 若手(30代)に活躍の場が必要なのは、研究者だけに限りませんね。
    事務職員だってそうですし、民間企業・役所等々、社会のあらゆる領域で必要な(活力のあるところは、それが実現している)ことだと思います。

  • N.IDEMITSU様:
    マイスターです。こんにちは。
    せっかくコメントいただいたのに、お返事が遅くなって大変失礼いたしました。
    まったくおっしゃるとおりです。
    研究者の場合、「国の国際競争力」という大義名分があるので、特にメディアで強く言われたりしますが、職員も、公務員も、企業も同じです。
    私はIT業界(の、はじっこ)で働いていたのですが、かの業界では若手を活用した組織のパワーを感じることが多かったです。
    会社自体の歴史がまだ浅いというケースももちろんありますが、やはり元気のある企業には、「人材が会社の最大の資産だ!」というマインドがある気がします。
    リクルート社のように歴史があって若手が元気な企業もありますね。やはり、若くして事業を起こすことを奨励する風土があり、参考になります。