マイスターです。
「朝鮮日報」の日本語版は、韓国のみならず、日本や中国の高等教育についての記事も多くて参考になります。
そんな同紙から、今日は↓こんな話題をご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「中国、年間5000人の理工系学生を国費で海外へ」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/12/20070312000014.html
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中国は今年から毎年、国家戦略産業分野の大学研究人材5000人を国費留学生として選び、海外で博士号を取得する費用を全額支給することを決めた。今後5 年間で2万5000人を海外に派遣し博士として養成するという破格のプロジェクトは、エネルギー・生命工学・新素材など未来の中核となる分野で一流の人材を確保し、早期に先進国に追いつこうという戦略とみられる。
中国の国費留学生支援業務を総括する国家留学基金管理委員会(CSC)の張秀琴・秘書長は9日、シンガポールで開かれたアジア太平洋国際教育協会(APAIE)の年次総会で「従来の国費海外留学生とは別に、今年から5年間、毎年5000人の科学分野研究人材を選抜し、海外に派遣することを計画している。選抜対象は主に修士以上の研究人材で、海外で博士課程を履修することになる」と語った。CSCは中国教育省の傘下機関で、委員長は教育省次官が務めており、張秘書長は実務責任者に当たる。
張秘書長は本紙とのインタビューに対し「選抜分野はエネルギー・資源・環境など国家発展に決定的な影響を及ぼす分野と、生命・宇宙・海洋・ナノ・新素材などの戦略的分野だ。留学生の選抜に関しては、申請者が提出した研究プロジェクトを専門家が審査し、国が必要とする領域の研究者が優先される」と述べた。
また「国費留学生を多数養成する目的は人材育成と国際交流・協力のため」とし、「中国は急速に発展している一方で高級人材は不足している。修士5000人を海外に派遣するのは、中長期的に国の将来のカギを握る科学分野で若い人材を養成するためだ」と説明している。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)
海外で博士号を取得する際の費用を国が全額支給! しかも、どどーんと毎年5,000人!
ほんとにこれは、破格のプロジェクトです。トップダウンの国とはいえ、大胆な計画です。
今回の留学事業の予算について張秘書長は公表していないが、中国教育界のある関係者は「5年間に計100億元(約1625億円)の予算が投入されるだろう」と話している。
(上記記事より)
5年間で2万5000人が選抜されるプロジェクトですから、単純に計算したら一人当たりの配分額は650万円です。博士号取得までの「全額」に足りるかどうかは、ケースバイケースでしょうか。
(実際には、1年で帰ってくる学生から5年以上を海外で過ごす学生まで、受け取る額にも幅が出ると思います。)
これだけの費用を受け取って留学しておきながら、帰国しない学生がたくさん出てきたらどうするのだろうと心配なところですが、それについて責任者は
張秘書長は、中国の国費留学生が帰国を渋るという風潮が一時あったことについて「最近は変わった。このところ中国の生活水準も上がり、帰国しない留学生はほとんどいなくなった。帰国すればいい仕事とと明るい未来が待っているというのに、外国にとどまる理由があるだろうか」と答えた。
(上記記事より)
……と楽観的な見方を示しています。確かに、このまま中国の経済成長が続き、大きな政情不安も起きなければ、彼等の大部分が帰国し中国を拠点に活躍していく可能性は高いでしょう。
先端研究の知識を中国に取り入れるという意図もさることながら、「国際交流・協力」という面での影響力も見過ごせません。
だって、毎年5,000人の学生が海外の研究機関に送られてくるのです。彼等が世界中で構築する人的ネットワークがそのまま将来の中国の財産になると考えると、これは国家にとっても大変なメリットです。
日本は研究成果云々よりもまず、諸外国トップ層との人的つながりという点で中国に差をつけられてしまいそうです。日本政府も、本気で焦らなければならないところでしょう。
(ただでさえアメリカの大学などでは、中国人とインド人の学生ががぜん存在感を増してきていると聞くのに)
逆にその意味では「毎年5,000人」の中に、日本に来る学生がどのくらい含まれるのか、という点も気になります。
距離的に短く、経済的な結びつきも増しており、かつ中国より進んだ研究を行っている国(※注:分野にもよります)ですから、普通に考えたら、少なからぬ学生が日本の大学院にやってくるはずです。
それに今回は「費用は国が全額支給」ですから、奨学金の充実度でアメリカの大学にかなわない日本の大学院にも、学生がやってきます。
例えば↓このような研究室には、留学生がこれまで以上に押し寄せるのかもしれませんね。
■「論文引用:阪大の審良教授が2年連続世界一」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20070308k0000m040069000c.html
日本の研究機関に中国から優秀な学生達がやってきた結果、中国と日本との間のネットワークが強化されるという点は、日本としても歓迎すべきところかも知れません。
ところで中国については先日、↓こちらのような記事をご紹介したばかりです。
(過去の関連記事)
・中国:教員養成大学の学費免除へ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50297729.html
最近の中国は好調な経済発展を背景に、「将来の国造り」、つまり人材育成について矢継ぎ早に手を打ってきているという印象があります。
孔子学院戦略と言い、彼等は本気です。
(過去の関連記事)
・世界100カ所に中国語教育の拠点を : 中国の「孔子学院」戦略とは
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50245478.html
政治のプロセスに関しては、日本と異なる部分も多いでしょう。
しかしそれにしたって、中長期的な戦略の立て方もさることながら、それらを着実に、素早く実行に移してきている点には、我が国が見習うべきところも多いのではないかと思います。
以上、マイスターでした。
博士号取得者に対する評価が低い日本では考えられない施策です。博士を取ったが最後、民間どころか政府機関の研究所でさえ採用がないようでは、人材と投資した国費の無駄といえるでしょう。日本からも、海外でコミュニケーション能力含め十分に通用・活躍できるレベルの人材を生み出し、彼らを国内で活用、フィードバックする場を保障していかないと、科学技術を支える高等知識は流出どころか、むしろ枯渇していくと思います。