マイスターです。
■内定取り消しへの対応策(1):様々な支援策のあり方
本日は、↑昨日の記事の続きです。
内定取り消しにおびえる学生や、その対策に乗り出す大学。
一方、1年前に過去最高益を出していた企業ですら破綻し、53人の内定取り消しを出してしまうような現状。
そんな状況の中、企業はどのように動いているのでしょうか。
■「09年度新規採用:入社時期や職種変更も 企業側、学生に痛み求める /秋田」(毎日jp)
09年度就職の新規採用について、企業側が学生に入社時期の延期や採用職種の変更などを求めていることがわかった。国は悪質な内定取り消しには企業名を公表する方針を打ち出すなど対応を強化しているが、内定取り消しまでは至らないものの、学生に痛みを求める厳しい状況が広がっている。
県立大学によると昨年12月中旬、首都圏の機械製造会社に技術職で内定を受けたシステム科学技術学部の学生が、「総合職に変更する可能性があるが理解してほしい」と告げられた。また同学部の別の男子学生は1月中旬、首都圏の機械製造会社から「一度に4月から採用するのは難しいので入社時期を5月にしてほしい」と求められた。いずれも企業の申し出を受け入れ、予定通り就職する。
同大本荘キャンパス就職支援チームの担当者は「学生が痛みを求められるのはきついことだが、企業側も内定を取り消さないよう苦心しているようだ」と話している。
(上記記事より)
技術職から総合職へという職種の変更は、エンジニアを目指す学生にとっては厳しい事実。
人によっては、内定取り消しと同じくらいのショックを受けるかも知れません。
しかし企業の側にとっても、これはギリギリの選択だと思います。
会社をつぶさないための努力をしている以上、こうしたことは入社後にだって、いつ起きるとは限りません。既に勤務している社員も、同じような選択が迫られている可能性だってあります。
なんとか内定を取り消さないように、企業もできる限りのことをしているのだと思います。
以前の記事でも申し上げましたが、どの企業だって、内定を取り消したいなんて思ってはいません。
余談になりますが、マイスター自身、新卒で就職活動をしたとき、「内定をもらってから入社するまでの間に、株式会社が有限会社になっていた」という珍しい体験をしています。
その間に1回、会社がつぶれたのです。
修士論文執筆中に突然、社長から喫茶店に呼び出され、「会社がつぶれました」と言われたときのことは、今でもよく覚えています。
もともと社員だけが資産という企画制作系のベンチャー企業でしたから、実際のダメージはあまりなく、体制を組み直して再スタートすれば問題はあんまりなかったのですが、それでも社長はそうとう、気をもんだそうです。
株式会社ですから、つぶれたことでダメージを受けた出資者もいるわけで、その方々からは
「内定した学生達の将来をどう考えるつもりだ!!」
……と、報告の場で厳しく言われたのだとか。
内定者である当の本人は、はなから優秀なスタッフ達のもとで成長できる環境を期待していたのであり、会社の安定性など、それ以外の部分には期待していなかったので、「そうですか」くらいには思いませんでした。
ただ、内定者である自分を最大限に思いやってくれる姿勢には、感激しました。
4月に入社したとき、内定者は全員、入社していましたが、前からいた社員の中には、いなくなっている人もいました。もともと社員数がひとケタの会社の話です。
繰り返しますが、どんなに小さな企業でも、内定取り消しなんてしたくはないに決まっています。
ただ、突然嵐に巻き込まれたような状況の中で、どのように会社を、そして以前から長く勤めている社員やその家族の生活を守っていくかというのは、大変な決断です。
内定を出すにもリスクを覚悟しなければならないのが、企業にとっての現在の状況。
では、そんな中で、どんなことが起きるでしょうか。
■「厳しい就活、説明会キャンセルの企業続出」(MSN産経ニュース)
大学生らの就職活動の本格化を迎え、リクルート主催の合同会社説明会「リクナビLIVE」が3日、大阪市西区の京セラドームで開かれた。今年は景気悪化の影響で出展を取りやめる企業が相次いだ。担当者は「こんなことは初めて」と驚きを隠せない。
リクルートは、大学生や専門学校生らの就職が本格化する毎年2月、合同会社説明会を実施。今回は昨年9月から出展企業を募集し、当初、例年と変わらない約380社が集まった。
しかし、同12月ごろから採用予定数の見直しなどを理由に出展を取りやめる企業が続出。約30社が出展を見送り、出展企業は約350社にとどまった。この日会場では、前日に出展を予定していた企業がキャンセルし、「誠に勝手ながら欠席させていただきます」と張り紙が張られただけの空きブースも。
平成12年から説明会を担当するリクルートの中島耕平さん(39)は「毎年、キャンセルする企業はわずかで、出展希望が多すぎて、断ったこともあった。空きブースが出たのは初めて」と驚く。
(上記記事より)
■「県内主要企業の半数、新卒採用減らす 2010年春 」(信毎web)
県内主要企業の2010年春の新卒採用で、方針を決定している企業の半数近くが、今春実績より採用数を減らすことが31日、信濃毎日新聞社がまとめた調査で分かった。世界的な金融危機の影響で製造業を中心に急速に業績が悪化しているためで、今春まで続いた「売り手市場」の様相は一変。方針を未定とする企業にも採用抑制の動きが広がる可能性が高く、学生にとっては厳しい就職活動になりそうだ。
(上記記事より)
経営が急速に悪化し、支出を最大限、減らさなければならない現状。
内定も内定取り消しも、企業に大きなダメージを与えるのであれば、当然、採用活動そのものを減らすでしょう。
「新卒一斉採用」という活動には、サイトやイベントへの出展、一斉試験の運営など、様々なところに大きなコストがかかります。
なぜなら日本の就職ビジネスが、そういった産業構造になっているから。
今後しばらくは、企業の間で、事業を回す上で必要な分だけを中途採用で補充したり、あるいはエージェントのような人材マッチング型のサービスで補うようなところが増えてくるでしょう。
↓以前の記事でも書かせていただきましたが、日本の大学生の就職活動のスタイルは、行き詰まってきていると思います。
■「行き詰まっている? 日本の大学生の就職活動」
特定の企業が悪いとか、大学がもっと支援の努力をすべきとかいうのではなく、仕組みそのものが破綻しているように思います。
今のまま放っておいたら、いっそう就職産業は企業や大学を煽り、就職活動は早期化し、大学の授業は成り立たなくなり、学生は振り回され、企業はより大きなリスクを背負い、かつ余計な出費を求められることになるでしょう。
就職産業を除き、誰もハッピーになっていません。
いや、いずれはこうした就職産業も信頼を失うでしょう。
少しずつ、こうしたシステム全体の問題を指摘する動きも出てきています。
↑昨年に発売された『就活のバカやロー』は、全国でヒットしているようです。
(特に大学生協ではダントツの売り上げを誇っているらしく、学生さん達の注目度も高いことと思います)
マイスターも昨年読みましたが、多くの方が違和感を覚えながら、しかしこれまであまり大きく指摘されてこなかった、「就活」の問題が分析されており、非常に興味深い内容でした。
特に大学、企業、学生、そして就職産業、それぞれの立場から分析を加えられているあたりが非常に貴重です。
(就活のあり方を批判する側に回ることが多い「大学」の問題点も、ズバリと指摘されています)
この本は、金融不況でいまのような就活問題が起きる前に出版されたものですが、今だからこそ関係者は読んでおくべきだと思います。
こういった指摘が色々なところからもっと出てきたら、世の中は変わっていくかも知れません。
(個人的には、就活がよりいっそう破綻した今の状況を受けた「続編」もぜひ希望)
最後に。
↓こうした流れを受け、文科省も動き始めました。
■「就職活動に新ルール要請へ、内定早期化に歯止め…文科省」(読売オンライン)
大学生の就職活動の早期化に歯止めをかけるため、文部科学省は内定時期などに関する大学と企業間の取り決めを明確化する方向で検討に入った。
景気の悪化で就職戦線が厳しさを増し早期化に一層拍車がかかる可能性も高く、1997年に廃止された就職協定のようなルール作りを検討するため、大学団体や日本経団連などに呼びかけて今夏までに協議の場を設ける方針だ。
(上記記事より)
紳士協定のような形では機能しないということはわかっていますし、昔の就職協定のように解禁日を遅く設定しても、それはそれで新たな課題を生みそうです。
でも、このように公的な機関が入った上で、制度全体を見直す動きが出てきているのは、好ましいことです。
考えてみれば、好況時に企業が内定を焦ったり、不況時に大学が早期から就職指導を行ったりするのも、すべては自分たちの生き残りを賭けた真剣な勝負だからこそ。
だからこそ、ちょっとルールを変えるだけではない、抜本的な考え方の転換が必要になってくるのだと思います。
個人的には、いっそ「卒業後の就活」を前提にした形にしてみてはと思ったりするのですが、「そんなことをしたらフリーターがいっそう増加する!」等の理由で、厚生労働省あたりの反対を受けそうだったりも。
でも、3年生のうちから「内定」を得るために奔走しなければならない現状は、なんだか、学生も企業も大学も、「内定」に振り回されているように思えてしまうのです。
それに、一度内定を取れば学生は安心できるような状況のように思えますが、実際には報道されている通り、不安要素も少なくありません。
右肩上がりの高度経済成長期ならともかく、企業の経営がいつ傾くかわからないような経済状況の中では、「内定」というのは、お互い半端に拘束だけされている不安定な身分保障。その期間はできるだけ短い方がいいのでは? と個人的には思ったりします。
大学側からの働きかけとしては、例えばどこの企業も卒業生をほしがるような有力大学と言われるようなところが「卒業後の就職活動」を原則として打ちだしたら、企業もそれにあわせて対応を見直さざるを得なくなってくるのではないかと思うのですが、どこかやっていただけないでしょうか。
以上、色々と考えてしまうマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
大学(専門学校も含めてもいいと思いますが)は9月入学にする,というのはどうでしょうか?高校の卒業は3月のままにすれば,卒業してから受験勉強に励むことになりますし,就職活動も卒業してから就職活動に励めば良いようになる・・・というのは短絡的ですかね。ですが,学年末の試験や入試を風邪やインフルエンザにおびえながら受ける必要がなくなる,というメリットもあると思うのですが。
3年生の秋学期から就職活動が始まっていて、早い学生は4年生になる前に内定をもらっている(その一方で、遅い学生は1年間以上にわたり就職活動を続けている)ので、9月卒業くらいではどうしようもないですね。卒業まで就職活動禁止という法案を作らない限り無理かと。