「キャリアショック」という言葉があります。
キャリアコンサルタントの高橋俊介さんが、上記の書籍で提示されている概念で、
「キャリアショック」とは、自分が描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境変化や状況変化により、短期間のうちに崩壊してしまうこと。(上記書籍より)
……と説明されています。
技術者なら、わかりやすいでしょう。
ある技術に習熟し、それで給与を得ていたのに、別の技術が急速に発達して、自分の技術が突然不要になってしまう、といった現象です。
これは、「転職」や、単なる「解雇」とは違う現象です。
会社の都合による解雇や転職なら、別の会社で技術者として働き続ける可能性があります。
それに対し、「キャリアショック」というのは、その分野の技術者自体が、社会の中で不要になってしまうことを指します。
「カメラの現像」なんて、身近な例でしょう。
私が子どもの時には、商店街に1軒くらい写真屋さんがあり、写真の現像はそこに頼んでいました。
今はカメラ自体がデジタル化しましたし、プリントしたい場合も自宅か、もしくはスーパーマーケットの一角にあるような端末で簡単に行えます。
プロを相手にするような一部のサービスを除けば、フィルムの現像は、食べていくための手段にはもうなり得ません。
特に技術の世界は情報技術の発達もあり、こうした現象をイメージしやすいと思いますが、キャリアショックは他の職種でも起こりえます。
例えば20年後、予備校の講師という職は、e-learningの発達によって無くなっているか、もしくは激減しているかも知れません。
フィリピンやインドの大学生を相手に、Webを通じて破格の安さで英会話を学べる現状を見ると、英会話学校の講師も同じような可能性があります。
冒頭の『キャリアショック』は2000年に発刊された本ですが、いま読んでも頷ける内容です。
いえ、むしろリアリティを増したように感じます。
ご興味のある方は、ぜひお読みください。
「キャリアショック」というほどではないけれど、資格を持っているだけでは食べていけない、といった現象は既に起きていますね。
例えば法曹資格は、以前なら、ある程度の給与とステイタスを保証するものでした。
でも法曹人数が大幅に増える今後は、資格を持っているだけではダメかもしれません。
「技術に強い弁護士」とか、「中国語を扱える弁護士」、「営業が非常にうまい弁護士」のように、プラスアルファがないといけなくなりそうです。
「英語力」なんてのも、そうです。
英語圏への留学経験のある方は、既に、あまり珍しくありません。
私が会社の採用面接を担当していたときには、5人の学生を集団面接すると、1〜2名くらいは何らかの形で留学をしている方がいました。
そうなると、ある程度の英語が話せるというだけでは、食べていけません。
そういえば以前、ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」が、遠隔のモニターで各店舗と本社を繋ぎ、モニター経由で薬剤師の相談を受け付ける仕組みを実現しようとしたことがありました。
要は、各店舗に薬剤師がいなくても、薬を取り扱えるようにしようと考えたのですね。
そのときには、法律上「それはダメだ」ということで実現されなかったのですが、20年後も制度が今のまま変わらないと断言できるでしょうか?
そんなわけで私は、大学生や高校生には、「資格」をゴールにしない方が良いとお話ししています。
資格というのは安定した仕事をもたらしてくれそうですが、資格に依存した働き方には、社会制度の変化や需要供給の崩壊によって、あっけなくバランスを崩してしまう不安定な一面もあります。
「資格に食べさせてもらう生き方」は危険。
資格による専門能力の証明はあった上で、他のプラスアルファを磨き、他人に真似できない価値を売り込んでいくというのが、目指すべき道なのかな、と思うわけです。
さて、今日はこんな話題を見つけました。
■「京都大学の講座「起業論」に医学部生が殺到する理由」(@nifty ビジネス)
京都大学では、就職活動に直結する内容で、教室から生徒があふれ出すほど人気の講座があります。それは、瀧本哲史氏の「起業論」。成功したベンチャー企業のケーススタディを中心とした、実践的な起業方法やその根底にある考え方を学ぶ講座です。
そんな起業論の講座ですが、ある特徴があります。なんと受講生を学部別に調査すると、医学部の学生がもっとも多く、40%を占めるのです。京大医学部といえば、東大と並ぶ超エリート学部。医療の世界で高い地位や報酬を得るであろう彼らが、なぜ起業論を学ぶのか。気になった瀧本氏が学生にヒアリングしたところ、こんな答えが返ってきたそうです。
「この国では、医者になったって幸せにはなれない」
「もう昔のように、医者=お金持ち、という時代でもない」
「やりがいだけではやっていけない。新しい方法を見つけないと」(上記記事より)
大学にとっては、「隠れたニーズ」だったのでしょう。
確かに、授業準備の段階では、ちょっと想像できない事態だったかもしれません。
でも、紹介されている受講生の方々の危機意識は、非常に正しいと思います。
歯学部と歯科医師の方々は、かなり前から、危機的な状況を迎えています。
(過去の関連記事)
■岐路に立たされる歯学部
医学部は、むしろ医師不足が問題になっているくらいですから、全体としてはまだ心配はありません。
しかし局所的に見れば、あるエリアの中で患者を奪い合ったり、よりサービスの良い医院が口コミで評判を集めるといった競争はあるでしょう。
医療報酬を抑えていく流れの中で、医師も経営センスを磨かないといけなくなってくる可能性もあります。
開業医という「経営者」になる方も少なくないであろう中で、医学部生がこうした授業に通うのは、良いことだと思います。
医療技術に加え、「経営能力」というプラスアルファが、未来の医師達の生活を支える武器になるかもしれません。
特に、医学部のように専門職の育成を前提にする学部や学科では、とかく「資格の取得」がウリにされがちです。
(当たり前ですが)
でも、そんな学生にこそ、プラスアルファの教育を提供する意義があるんじゃないかな、と思うのです。