マイスターです。
個人的に、毎年気になって見ている資料があります。
■「男女共同参画白書(概要版) 平成20年版:第6章 教育・研究分野における男女共同参画」(内閣府男女共同参画局)
↑内閣府・男女共同参画局が発行している、「男女共同参画白書」。
その中で毎年必ず、「教育・研究分野における男女共同参画」の現状がデータでまとめられるのです。
教育・研究分野に限ってこのようなデータをまとめている理由は、世の中への影響が大きいからでしょう。
つまり、女性の教員や研究者が少ないと、そこで学ぶ生徒・学生に対して、良い結果をもたらさないと考えられているわけです。
で、実際はどうかというと、↓こんな結果が出ています。
(上位の職に少ない女性教員の割合)
初等中等教育について女性教員の割合をみると,小学校では教諭の6割以上を女性が占めているが,中学校,高等学校と段階が上がるにつれて低くなっている。校長及び教頭に占める女性の割合は,小学校の校長で平成2年の4.1%が19年には17.9%と大幅に上昇しているのを始め,長期的には上昇傾向にあるが,その割合は教諭に比べて依然として低い。
大学,短期大学の全教員に占める女性の割合をみても,短期大学では5割を超えているが大学では1割台にとどまっており,特に教授,学長に占める女性の割合は低い。
(上記リンクより)
本務教員総数に占める女性の割合
<大学>
学長:7.4%
教授:11.1%
准教授:18.2%
講師:26.4%
助教:21.8%
助手:49.4%
<短大>
学長:15.1%
教授:35.1%
准教授:49.4%
講師:59.5%
助教:72.0%
助手:89.4%
(「男女共同参画白書(概要版) 平成20年版」第28図より)
この通り、上のポストに行けば行くほど、女性が少なくなるという構図が明らかです。
短大は女性教員が多いのですが、でもやっぱりいびつな部分もあります。例えば短大教授の1/3は女性なのに、「学長」となるとなぜか女性比率は15.1%までガクンと落ちるのはなぜでしょうか。
また以前は「助手」とされていたポストが、学校教育法の改正により、教育・研究者である「助教」と、補助的な業務に従事する「助手」の2つに分かれました。その結果、補助的な役割である「助手」の方が、「助教」よりも、女性比率がずっと高いという結果になりました。
以前に比べれば、事態は少しずつ改善されてはいるのだと思います。
国も様々な施策を打ち出していますし、各大学も取り組みを行ってはいます。
しかし、「女子高生に工学部をアピールする」といった長期的な施策が多いからか、こういった数字を見る限り、まだまだ結果には表れていないようです。
数年先、施策の成果が現れてくるといいのですが。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はこんなニュースをご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「女性研究者採用したら6百万円 文科省、増員狙い補助へ」(Asahi.com)
大学などの研究機関が女性研究者の採用を増やせば、その分の人件費を補助します??。主要国で最低の女性研究者の割合をなんとか増やそうと、文部科学省は来年度からこんな優遇策を始める方針を決めた。研究の多様性を高める狙いもあるという。
日本の女性研究者の割合は、男女共同参画学協会連絡会によると12.4%。米国(34%)、フランス(28%)、英国(26%)に遠く及ばず、韓国(13%)よりも低い。
このため、女性のための支援スタッフの配置や託児所の整備といった「環境づくり」中心のこれまでの施策では不十分と判断し、雇用に国費を直接つぎこむことにした。
計画では、女性の割合が特に低い理・工・農学系を対象に、人件費の一部と初期の研究費として、女性研究者の新規採用1人あたり年600万円を3年間補助する。
ただし、女性が働きやすい環境を整え、増員を確実に定着させる採用計画をつくった研究機関に限定する。当面は10機関ほどを選び、100人程度の増員をめざす。
(上記記事より)
間接的な「環境づくり」の補助だけではラチがあかない、そう判断したのでしょうか。
文科省が、女性研究者の雇用に対し、直接的に資金を投入する施策を打ち出しました。
「女性の割合が特に低い理・工・農学系を対象に、人件費の一部と初期の研究費として、女性研究者の新規採用1人あたり年600万円を3年間補助する。」とのことです。
「ただし、女性が働きやすい環境を整え、増員を確実に定着させる採用計画をつくった研究機関に限定する。」とのこと。「当面は10機関ほどを選び」とありますから、どうやら、機関を選定するタイプの補助のようです。
確かに100大学に1人ずつ女性研究者を増やすよりも、10大学に10人ずつ増やした方が、現段階では「女性研究者を定着させる」という成果は出しやすいような気もします。
大学としても、環境づくりに対する投資がしやすいかも知れません。
ちなみに3年間限定の補助のようですが、これって、期間限定の研究ポストなども対象になるのでしょうか。それとも、継続勤務を前提とした、正規の教員でないとダメなのでしょうか。
短期のポストだけが増えて、結局定着しないのも問題ですが、かといって正規の教員に限定すると、ハードルはかなり高くなりそうです。
■「業績同等なら女性優先、教員採用で名古屋大が新方針」(読売オンライン)
↑既に、大学単位で同様の取り組みを行っているところはあります。
ただ、こうした施策は、しばしば物議も醸します。
女性が研究業務を続けやすい環境づくりに投資をするのなら、それほど異論は出ません。
「能力があるのに、環境や制度が未整備なせいで力を発揮できない女性研究者」に対し、本来の力を出して活躍できるような環境を整えるということですから、「今までの環境が不十分だったので、それを十分な内容にする」、ということで、男女ともに、賛同を得やすいと思います。
ただ、女性研究者の雇用に対して、直接補助を行うとなると、ちょっと話は違ってきます。
「自分の方が優れていたはずなのに、男性だから採用されなかった」と考える男性が出てくるかも知れませんし、逆に「補助金を受けて採用されたと思われたくない」と考える女性研究者の方もいらっしゃるかもしれません。
これまでは、男性研究者の方が優遇されていると見られる部分も多々あったわけですし、個人的には、女性研究者があまりにも少ない現時点の段階では、こういった補助の仕方もアリだと思います。
ただ、これを利用する大学は、ちゃんと男女共同参画の理念を打ち立て、大学としての採用・人材育成方針を明確にした方がいいように思います。
ちなみに、「採用の際、男女を明らかにしない」という考え方もあります。
■「Affirmative Action」(アメリカの大学政策事情)
↑こちらは、アメリカの高等教育政策の場で活躍されている日本人の方のブログです。
こちらによると、アメリカの場合、教員の応募に際して提出される履歴書には、名前と、卒業した学校、そして過去の実績などしか書かれないそうです。
年齢、生年月日、性別、国籍というものは載せない、とのこと。「Affirmative Action」という、人種、年齢、性別、宗教、性的な趣向などによる差別を禁じる法律に基づくものだそうです。
だからこそ、10代の教授なんて方も誕生するわけですね。
(過去の関連記事)
■「18歳で大学教授に」
日本国内で同じ分野の専門研究に従事している方にとっては、過去の実績を見ただけで「あぁ、あの人か」と推測がつくような気もしますが、ひとつの考え方として、いかがでしょうか。
どのような方法をとるにせよ、教育・研究における男性・女性の偏りを是正することは、重要なことだと思います。
最後に一点だけご紹介したい資料があります。
早稲田塾のwebサイトの、「現役合格物語」というコンテンツです。
■「現役合格物語」(早稲田塾)
早稲田塾の塾生がどのように高校3年間を過ごし、その中でどのように夢や目標に出会って、大学に進学していったかを、一人ひとりにインタビューしたもの。
「夢・目標から探す」という検索方法が用意されているのが、特徴の一つです。
この「夢・目標から探す」の一覧をご覧になっていただくと分かるのですが、「○○の研究者」と挙げている人が少なくありません。
早稲田塾は大学教授と連携したプログラムをいくつも実施しています。大学教授の講義を受けたり、一緒に研究活動を行ったりといった機会が身近にあるので、「研究者」がロールモデルになりやすいのでしょう。
そして、研究者を志望している生徒の多くは、実は女子生徒です。
それも、とびっきり優秀な人材です。
優秀な女性研究者を増やすための種は、既に蒔かれているのです。
マイスター自身は、漠然とした女性研究者像ではなく、こうした具体的な個人をイメージして、大学の施策を見守っています。
今後は、こういった生徒がより増えてくるでしょう。こういった学生達を伸ばし、自校の研究力を強化できるのか、それとも彼女たちの能力を活かせず他校に逃してしまうかは、大学次第です。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。