スウェーデンの中学教科書 『あなた自身の社会』

建築学科を出たけど、現在やっていることには、建築のケの字もないマイスターです。
恩師の皆様、すみません。

宮城県の地震で、プールの天井が落下したことがニュースになっていますねー。
確かに地震については、柱や梁などの「主要構造部」を守れとは学びましたが、下地や仕上げ材で人が怪我しないようにする対策、なんて教わってないように思いました。
一級および二級の建築士試験でも、そんなことは、あまり問われていない気が。
この事件を気に、チェック制度が見直されるそうですから、大学のカリキュラムも変わりますかねー。

さて、今日は、本を一冊ご紹介します。
マイスターも、こんなブログを書いていると

「今日の記事に関連して、こんな本が、とてもオススメですよ!」

「私が読んだ本で、こういう本がとても面白かったです!」

といったことを、様々な方から教えていただけます。
ありがたいことです。
ブログを書くことで得られる、役得のひとつですね。

教えていただいた本は、すべて実際に購入するなどして、読んでいます。
(時間はかかってますが…)

Amazon.co.jpからの請求額はふくらむ一方ですが、ブログのネタにもなりますし、お薦めしていただいた本は良書ばかりなので、モトはとれてます。多分。

さて、今日は、そんな読書生活の中で見つけた一冊をご紹介します。

あなた自身の社会―スウェーデンの中学教科書

実際にスウェーデンの中学校で社会科の教科書として使われてるものを、日本語に翻訳した本です。

スウェーデンの義務教育は、7~16歳までです。
その間通う義務教育のための学校を、「基礎学校」と呼びます。

その基礎学校では、社会科は「社会」「歴史」「地理」「宗教」の4教科で構成されています。

本書『あなた自身の社会』は、「社会」の教科書です。

タイトルに惹かれて購入してみたのですが、読んでみて、
これは非常に良くできた教科書だ!と感じました。

日本で言えば、「公民」に近い内容かもしれません。
が、日本の教科書が、社会の制度やルールについて丸暗記させることを重視しているのと比べると、この本は

「社会の中で、ひとりひとりが自分の価値観や考え方を持って
 生きていけるようにすること」

という点に主眼をおいているように思います。

たとえば、法律と権利。

どの年齢で、何が許され、何が許されないか。
イラスト入りで、非常にわかりやすく解説がされています。

日本のように、法律名が箇条書きになっているのではなくて、すべて、「あなた」を主語とした説明文になっているのがポイントです。

一例として、

「自分が犯罪を犯したら、あるいは被害者となったら、
 どんな人が、どういった法律に則して、どう関わってくるのか?」

という内容。
ケーススタディとして、若者が暴力事件を起こしてから、裁判を経て、社会事務所に送致されるまでの出来事を、ストーリーで紹介してます。
被害者、加害者だけでなく、事件を目撃した証人の視点、検察官や弁護士の視点まで描かれていて、すっと胸に入ります。

全体を通じて、基本的に、

「コレが正しい!」
「コレが正解だ!」

という記述は、ほとんどありません。

世の中には、こんな意見がある。
学者はこんなことを言っているし、マスコミはこういう意見を言いがちだ。
あなたのお父さん、お母さんは、こういう見方をするかも知れない。
あなたは、どう考える?

…と、「あなた」に問いかける形式をとっています。

また「当事者の声」が多いのも、特徴です。

「警察」の説明では、男性、女性それぞれの、警察官の話が紹介されています。

警察官は、映画やドラマとは違って、こういう仕事を主にしているんだ。
やりがいはあるが孤独を感じることもある、
社会から批判的に見られることも多くストレスも感じる、

などなど、なんだか警察官のお兄さんお姉さんが、知り合いの子供に説明しているような文章。
これが、とてもイメージしやすいのですね。

「あなたと他の人々」という内容が、ひとつの章として用意されているのも、ちょっと興味深いところです。

「グループ」というものから人はどういう影響を受けるのか、といったような心理学的な内容を交えつつ、人と社会との関係を紹介しています。
「役割と、役割間の葛藤」なんて、日本の社会科ではあまり触れられていないかも知れませんね。

また、男の子と女の子の間には、どんな不平等があり、双方にそれをどう考えているのか、なんて問題提起もあります。
これに対しては、「同じ教育、異なった将来」といったフレーズで事実のデータをあげ、何故そうなってしまっているのか、様々な意見をとりあげています。

日本では、「道徳」などの授業で、こうしたテーマが取り扱われていたりしますかね?
スウェーデンでは、これが「社会」に組み入れられているというわけです。

それぞれの国での、問題の認識の違いが、表れているかも知れませんね。

様々なクラブやグループ、コミュニティに参加する方法、
自分のクラブを作る方法、
そしてその運営の方法(計画の立て方や、会議のルールの作り方など)まで載っています。

確かに、人が社会の中で生きていく間には、どこかでこうした組織と関係を持つことがあるでしょう。
授業で、こうした組織について学ぶのは、いいかも知れません。

これぞ、義務教育で教えるべき、「社会」ではないでしょうか。

「あなた自身の経済」という章では、

企業がいかに広告を周到に計画しているか、
そこから、いかに私達が影響を受けているか、

といったことまで説明されています。

「若者は映画館でライフスタイルを買う」という項では、

-長編が封切りされるときには、当然ながら、可能な限り多くの観客を動員することが重要な目標となります。このとき映画をつくる人々は、映画上映の助けをかりて、新製品の販売促進をすればいいだろうと考えます。したがって長編映画は、映画そのものの上映の他に、若者向けファッション、気のきいた品物、ヘアスタイル、新しい飲物などからあたらしいライフスタイルにいたるまでの発表を、多かれ少なかれ暗黙の了解としています。-(『あなた自身の社会』p95より引用)

なんて記述まで。

○通や博○堂の社員が見たら、「バラさんといて!」と苦情を言いそうな内容!(笑)

いや、まさにこの記述の通りなんですが、義務教育の教科書で、経済の説明としてこんなことまで書かれているとは、驚きです。

この記述の後、実際に企業名と氏名を挙げて、製品の広告を映画の封切りにあわせて展開している担当者の解説が登場します。

すごい徹底ぶりです。

日本の中学校の教科書で、

「いま上映されている○○という映画で、主人公が携帯電話をやたら気にしたり、そのたびに携帯電話の機種が大写しになったりしますが、あれは当社と映画の制作会社がタイアップした広告計画によるもので、映画封切りと同時に、携帯の一大キャンペーンが全国スタートします。
あの映画の原作は、若者が良く読んでいるマンガですから、映画も、若者が多く観ると私達は考えています。そういう視点で、若者向けの製品を慎重に設計しました。
映画の試写会にはトレンドセッターになるような若者を多く招いて、宣伝の一端を担って欲しいと思っているのです」

なんてことを、実名で企業が解説してたら、どうでしょうか?

きっと、「教科書の記述としては不適切だ!」なんて、様々な方面から苦情や指摘を受けることになるでしょうね。

でもこうしたことって、社会で生きていく間、確かに私達の意志決定に影響を与えているものなんですよね。

大事なことなんですから、教科書で教えたって、いいのかも知れませんね。

最後に、Amazon.co.jpに載っていた、本書の紹介を転載しておきます。

-本書は、13歳から年齢とともに増大する法律的権利と義務、消費者としての基礎知識、コミューンの行政と住民の役割、社会保障制度とその内容が、豊富で生き生きとしたエピソードを通して平明に解説されています。またそれだけでなく、いじめ、恋愛、セックス、結婚と離婚という人間関係についても取り上げています。そして、暴力と犯罪、アルコールと麻薬、男女間の不平等、社会的弱者や経済的・社会的に恵まれない家庭の存在など、いわば社会の負の面も隠すことなく紹介しています。-(Amazon.co.jpの内容紹介文より)

最初に申し上げた、

「社会の中で、ひとりひとりが自分の価値観や考え方を持って
 生きていけるようにすること」

というテーマについて、とても生き生きとしたエピソードを使ってわかりやすく学ぶことができると思います。

実際には、スウェーデンでは、この「社会」の教科書は3冊構成になっていて、『あなた自身の社会』は、その2冊目に該当します。
ですから、「社会」の授業内容がすべて入っているわけではありません。
しかし、非常に学ぶところの多い、良書であることは確かです。

教員や保護者の方だけでなく、教育に関心のある方、若者と関わる方には、オススメです。

マイスターなど、自分に10歳くらいの子供がいたら、ぜひ、プレゼントしたいと思ったくらいです。

ただ残念ながら、この本で紹介されているのはスウェーデンの社会です。
日本の社会についても、こんな教科書で説明してくれる人がいたらいいな、
と思います。

良書をご存じの方、ぜひ、教えてください!