北京オリンピックと大学(2):選手達がキャンパスで果たす役割とは

マイスターです。

■北京オリンピックと大学(1):関係者が北京へ! 盛り上がる大学

先日の記事で、在学生や卒業生が北京オリンピック日本代表になったことをPRに利用する、各大学の動きをご紹介しました。
オリンピック選手は極めてイメージが良く、また一般生活者にも広く知られる存在であるため、こうしてPRに使われるのですね。

選手をこういったPRに使うのが、体育系の大学ばかりではない、というのもポイントです。
中には、オリンピックに出場するに至ったスポーツ活動での実績と、その大学で受けた教育とにあまり関係がないケースもあります。そこで、各大学とも「○○大出身の○○選手を応援しよう!」と、「応援」する形でPRに使っています。

先輩や同級生の活躍は、みんなで応援したいもの。学園内の結束も高まるでしょう。
それに「応援」であるなら、選手の側には、拒む理由はありません。直接、大学の宣伝に協力して欲しいと言っているわけではなく、「あくまでも大学側が好意で応援している」という形になりますから、お金もあまりかからないでしょう。
卒業生や在学生を応援をして盛り上がりつつ、大学全体のイメージアップもできて一石二鳥です。

さて、このように在学生や卒業生の「応援」をする、というのは以前から行われてきましたが、最近は「代表選手」を起用しての大学PRに、また少し違った展開が見られるようです。

まずは、↓こちらの記事をご紹介します。
こちらは今から約2年前、2006年9月25日のAsahi.comに掲載された記事です。

追手門学院大(大阪府茨木市)で8月26日にあったオープンキャンパス。案内に動き回っていた入試広報課員の巽樹理さん(27)が高校生から「一緒に写真撮っていいですか」と声をかけられた。
同大学出身の巽さんはシドニー(00年)、アテネ(04年)両五輪のシンクロナイズドスイミングのチーム競技の銀メダリスト。在学中の活躍や実行力が評価され、職員となった。年に50回ほど小学校や地域団体の依頼で講演し、学内イベントで司会を担当する。
オープンキャンパスでは、一緒に歩いた高校生に、在学中の思い出やシンクロの経験を話した。参加者からは「職員にメダリストがいるなんて」「身近で五輪の話を聞けて良かった」との感想が寄せられたという。高校生たちに渡されるパンフレットでも「銀メダリストの巽樹里さんが、皆さんをお待ちしています」とアピールしている。
巽さんは「私が動くことで、この大学になじみのある人が増えてほしい」と話す。
スポーツで実績を残した卒業生を職員に採用し、その知名度や存在感を生かして大学の「顔」とする大学が増えている。
アテネ五輪の競泳200メートルバタフライの銀メダリスト、山本貴司さん(28)は近畿大(大阪府東大阪市)の入試広報課員。大学の特徴の説明のために高校に出向くことも多いが、「聴いてくれる高校生の真剣味が違う」(広報課)という。6月に大阪府内の大学が共同で開いた説明会でも講演の舞台に立った。
平安女学院大(大阪府高槻市)を運営する学校法人本部職員で、平安女学院高校OGの北尾佳奈子さん(24)は、アテネ五輪のシンクロチームの銀メダリスト。学内のファッションショーの司会やモデルをしたり、イルミネーションを企画したりと大活躍だ。山岡景一郎理事長は「学生にとって身近なあこがれの存在。一緒に活動するのがうれしいのか、学生が自然と企画に乗ってくる」と話す。
(「いざ、全入時代! 学生確保、大学知恵比べ PR多様化」(Asahi.com)記事より)

大学に在学している間に世界の舞台で成果を上げるスポーツ選手はいます。
同じ大学の仲間がオリンピックに出場して、しかもメダリストとして活躍して帰ってきたなら、うれしいですよね。大いに、学園の構成員達の励みになることでしょう。
そんなトップアスリート学生の方々を、そのまま母校の職員として採用している大学が、結構あるのです。
スポーツの指導をするため……ではなく、どちらかと言えば大学の広報活動に従事してもらうためです。

実際、皆様、入試広報課や企画関係など、学生や学外の受験生達に直接触れる機会のある部署に配属されているようです。
オリンピックメダリストともなれば、知名度は絶大。また、仮にそれまで知らなかったとしても、「オリンピックメダリストの○○です」と紹介をうければ、見る目も違ってこようというものです。高校生も、話を聞いてみようという気になるのでしょう。

こうした方は、全国を見れば、他にももっとおられるかも知れません。
「オリンピックのメダリスト」ではないけれど、スポーツでの活躍が認められて母校に職員として入り同様の活動を行われている方は、さらに多くいらっしゃるんだろうと思います。

企業もスポーツ選手を社員にすることがありますが、その場合、「広告塔」としての役割が期待されていることが多いようです。
今回ご紹介した記事のメダリスト大学職員達にも、同様の役割がないわけではないでしょう。メダリストという知名度を、広報の武器にしているわけですね。「知名度」はやはり重要です。
ただ大学職員として働く場合は、単なる広告塔としてだけではなく、他にも様々なところでその経験を生かすことができると思います。

上記の記事にある、高校生向けの講演などは、そのひとつでしょう。
大学の紹介をしに行っているのではありますが、記事によるとそこでは、オリンピック参加を通じて得られた経験や、競技生活を通じて得られたことなどについてもお話しされているようです。

高校生達は、「大学で何かに打ち込んだ4年間」というテーマを、オリンピック出場という題材で考えることができるのですね。
何しろ、「合コンに明け暮れて、適当にぶらぶらしていた4年間」なんてのとは真逆のストーリーです。若者が、刺激を受けないはずがありません。

自分にも何かできるのではないか。
自分も何かに打ち込み成果を出したい、完全燃焼できる4年間にしたい。

そんなことを高校生達に強く思わせることができる広報課職員は、全国にもそう多くはいないと思います。

さて、もう一本、記事をご紹介します。
こちらは、つい最近のものです。

【今日の大学関連ニュース】
■「五輪選手『看板』に…私大、学生獲得へPR戦略」(読売オンライン)

8日に開幕する北京五輪を活用して、職員や学生の代表選手を「看板」にPR戦略を繰り広げる私立大学が出てきた。卒業生が代表に決定する前から職員に採用し、ホームページ(HP)に応援サイトを開設したり、壮行会を開いたりしてアピール。少子化で学生争奪戦が激化し、今春の入試で47%の4年制私立大学が定員割れを起こすなど、「淘汰の時代」を迎えており、注目度が高い五輪を利用してイメージアップを図ろうとする狙いがある。
阪南大(大阪府松原市)は昨年、卒業生で女子トランポリン代表の広田遥選手(24)を企画課職員に迎えた。練習の合間には、受験生向けの大学説明会に出席。学生を体育館に集めて演技を披露し、大学生活に関する質問にも応じるなどPRに貢献してきた。
河本伸二郎・常任理事は「五輪は分かりやすく、さわやかな印象を与える。『あの選手の大学』と知ってもらえるだけで大きな効果。女子学生数アップを目指す大学の戦略にイメージも合致した」と話す。
桃山学院大(大阪府和泉市)も約2年前、卒業生でシンクロ代表の橘雅子選手(24)を職員に採用。大学HPに動画付きのサイトを設け、競技の写真と「これからの夢、桃学大ならきっと見つかる」というメッセージの新聞広告も出した。イメージアップのシンボルとして、若者が無限の可能性を生かせる大学だとアピールする。
(略)スポーツとメディアの関連に詳しい黒田勇・関西大社会学部教授の話「巨大化する五輪ビジネスに大学が参入してきた。これまでアマチュア選手支援の役割は企業が担ってきたが、少子化で大学に経営努力が求められる現在、教育機関が関係者を広告塔とすることの違和感も薄れてきている」
(上記記事より)

こちらは、先ほどご紹介した2年前の記事とは、若干トーンが異なりますね。

現役スポーツ選手が職員として雇用され、大学の活性化に一役買っているという点は同じ。
ただ、「受験生向けの大学説明会で演技を披露」といった点がクローズアップされ、

「企業がスポーツ選手を雇用して自社のPRに使うように、大学が現役の選手を広告塔にし始めた」

……という点が強調されています。

確かに、↓こういった「職員スタッフ」を応援するサイトなども、2年前の段階では見かけなかったように思います。

■「廣田遥選手 北京オリンピック応援サイト」(阪南大学)

また、「選手として活躍した経験を持つスタッフの役割に期待する」という内容だった2年前の記事とは異なり、今回の記事で取り上げられているのは、「現役選手」職員。したがって、これから北京で活躍することが期待されている方々です。

こういったことから、大学が、現役スポーツ選手を職員として雇用し、ある種の広告塔、イメージキャラクターとして以前よりも熱心に打ち出しているのは事実でしょう。

ただ、こういった報道を読まれる方に誤解していただきたくないのは、こうしてスポーツ選手として活躍されたスタッフが、大学から期待されている一番重要な役割は、対外的な「広告看板」の部分ではない、という点です。

もちろん、広告効果の部分を否定するものではありません。
ただ、スポーツ活動を通じて得られた経験や、多くの人々の期待に応えて実績を出すまでの苦労や心構え、世界の舞台に挑戦することの意味などを、自らの言葉で学生達に語れる人が学生達や他の教職員の身近にいるということ。あるいは、皆のモデルになれる人物が、アドバイザーとして身近にいること。そういった価値の方が、学園の活性化にとっては、大きいはずです。

だって、どんな有名タレントでも、この役割は担えないのですから。
選手達の広告効果を否定するものではありませんが、そこだけに注目してしまったら、もったいないですよね。

上の記事で取りあげられている大学の皆様も、そういった意識は持っておられるでしょう。
ただ、メディアはたいてい、「経営難の大学がこんなことまで」という取り上げ方をしますから、ご本人達の活動が誤解されてしまうかもしれないな、とちょっと心配になりましたので、2年前の記事を引き合いにしつつ、ご紹介させていただきました。

スポーツ選手は、競技以外でも、社会の中で様々な形の活躍が期待されている方々です。
「教育」への関わりは、その中の一つでしょう。
大学という、学生が自分を見つめ、未来を探すためのフィールドが、スポーツ選手達の新たな活躍の場になっているのだとしたら、それは望ましいことではないかとマイスターは思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。