大学受験をしたとき、たった一校しか合格しなかったマイスターです。
国立も含めて(たしか)5校を受験しました。全滅かと思われましたが、親からは「浪人は不可」と言われていましたので、1校だけでも引っかかっていて良かったです…(もちろん、全滅していたら、浪人するしかなかったと思いますけれど)。
そんなわけで受験終了後のマイスターには、選択肢はありませんでした。
でもたいていの受験生は、
「複数校から合格をもらったので、どこに行くか選ばないといけない」
という状況を経験するはずです。
今日は、そんな「入学する大学の選択」について。
多くの受験生は、受験シーズンに突入する前には、「第一希望、第二希望、第三希望」といった順位をつけています。
そしてたいていの場合、それは(残念ながら)偏差値の高い順です。ですから受験シーズンが終わり、各校の合格通知がそろった時点で、学生がどのように各校にばらけていくかは、もう決まっているようなものなのです。
「合格通知を出したけれど、他の大学に進学してしまう学生さん」がどのくらい出るか。逆に、とどまってくれる(入学してくれる)学生さんがどのくらいいるか。どの大学にとっても、これを推測するのが非常に重要な決定事項になっているかと思います。多すぎると定員を大きく超え、授業計画に色々と支障が出ますし、少なすぎると定員割れになります。ちょうどいいレベルを見極めるのはなかなか大変です。
他大学に逃げずに進学してくれる学生の割合(歩留まり)は、大学によっては、年々減少していっていると思います。
その大きな原因は、少子化にともなく学生獲得競争の激化です。
前述したように、普通の受験生は、受験前から第一希望、第二希望といった序列を自分の中で設定しています。ですから、「第一希望」の大学が例年よりも多く合格を出せば、当然、「第二希望」の大学の歩留まりは減ります。
仮に、同じ系列の学科を持つ大学が、入試偏差値の高い順にA大学、B大学、C大学とあるとすると、
A大学が例年より多めに合格者を出す
→B大学の歩留まりが減少
→B大学が例年より多めに合格者を出す
→C大学の歩留まりが減少
…とこのように、偏差値が低い大学に、順々に影響が出てきます。最近ではどの大学も受験機会を増やす(何度も入試をやる)方向に動いておりますので、こうした地滑りのような状況が、結果として3月末頃まで続きます。3月半ばを過ぎての二次募集で合格者を出しても、その人たちにまで他大学に逃げられてしまうことがあるわけですからね。(こんな状況が続くあまり、小手先の微妙な日程調整などにばかり気を向けてしまい、「受験生から選ばれるにはどうしたらいいか」という根本的な対策から目をそむけちゃっている大学もあるように思いますが、いかがでしょうか)
さて。ここからが今日の本題です。
あなたの大学では、「どうして逃げられたか」という調査をしていますか?
先ほど申し上げたように、「入試偏差値」で学校を選ぶというのは、残念ながら、まだまだ受験生の間では支配的な考え方であるように思います。高校の進路指導担当者も、残念ながら、各大学の教育内容をよくご存じないので、偏差値の高い学校を勧めてしまいがちではないでしょうか(なにより、それが高校のPRになりますしね)。
大学の入試課のみなさんは、自分の大学の競合校を知っていますから、受験生の歩留まりが例年より少ないと、
「あぁ、今年も○○大学に持って行かれたかー」
なんて言って落ち込んでいたりします。
でもちょっと待ってください、実はそこが落とし穴です。
本当に皆様は、競合がどこだかご存じなのですか?
また、仮にご存じだとして、「どういう点で競合しているのか」、「なぜ、その競合校に学生を奪われてしまったのか」ということ、ちゃんと調査しましたか? 分析しましたか?
マイスターが思うに、ここはまだ多くの大学で、改善の余地アリ!です。
というわけで、マイスターなりに思う改善ポイントをちょっと述べさせていただきたいと思います。
○「合格したけれど、他大学に進学してしまった受験生」に直接聞こう
たいていの大学は、受験票提出時に記入する併願校や、大手予備校が出している「星取り表」などをもとに、競合校の目星をつけているかと思います。しかし、それらは限られた情報です。
受験シーズンスタート時の情報や、業者が保有している情報にも一定の価値はあります。しかし大学として一番意見を聞きたい相手は、「受験シーズン終了後、合格したのに入学してくれなかった受験生達」ではないでしょうか。
だったら、直接いろいろ尋ねちゃいましょう。
新学期が始まって落ち着いたら、頃合いを見て質問票を送りましょう。謝礼として、大学名の入った図書カードなどを差し上げても良いと思います。新学期になれば、受験生だった方々(まだ受験生のままの方もいると思いますけれど)にも気持ちの余裕が出てきます。あくまでも「合格したけど他に行った」方々が対象ですから、協力してくれる方は案外多いんじゃないかと思います(回答自体は、無記名でいいと思います)。もちろん100%の回収率とはいかないでしょうが、参考にできる程度の数は集められるんじゃないでしょうか。
なお、個人情報の取り扱いに関する問題は、もちろんクリアしておく必要があります。調査に使うことがあることを、出願募集時にあらかじめ明記しておきましょう。
個人情報を調査に使うことに二の足を踏む方々も多いかと思います。何にでも乱用するのは確かに問題ですが、個人的には、目的をはっきり限定して適切に取り扱えば良いのではと思います。大学経営上、必要不可欠な調査に関しては、体制を整えてちゃんと調査すべきです。
○自分たちにあった質問を、自分たちで考えて設定しよう
大手予備校や教育業界誌が行っている分析は、世の中の大勢をつかむためには大いに参考になります。しかし、自校のことに関しては、やはり独自に詳細な調査をするべきです。その際に、予備校や業界誌が行っているのと同じレベルの質問をしても、意味がありません。
大手予備校が出している「星取り表」は、併願校がどこかというサンプル例です。ざっくりと様子を知ることはできますが、あくまでその年限りのサンプルです。まず、学内用に、経年変化を分析するためのデータを保有しておくべきです。またサンプルに出てきていない受験生は、他の動向をしてしているかも知れません。ちゃんと全受験生を対象に質問票を送って調べた方が良いでしょう。
そして星取り表の弱点は、「どうしてこういう併願校を選んだの?」「どうしてこっちに入学したの?」という情報が読み取りにくいところです。入試偏差値の高い方にいったんだろうなぁ…みたいな憶測はいくらでもできますが、カンだけでは分析になりません。「受験してくれた理由」、「併願校を選んだ理由」、そして「他の大学に入学した理由」を、詳細に聞くべきです。その際には、あくまでも自分たちが一番知りたいことを、分析できる形で問うことが大事です。
教育業界誌の分析もそうです。あれは、あくまで世の中の大きな動向をつかむためのものであって、自校の分析をしてくれているわけではありませんよね。
例えば、あなたは理工系単科大学の人間だったとします。「工学部が人気低下」という傾向はありますが、しかし、あなたの大学が入学者を減らした理由は、他にもあるかも知れません。「格下」だと思っていた競合校が、受験生を奪っていったかも知れません。いざ進学となったときに、総合大学の理工系学部の方が魅力的に映ったのかも知れません。文系大学や芸術系大学など、意外な競合に学生を持って行かれたかも知れません。そういったことは、自分たちの大学にあった質問を使って、自分たちで調べないとわからないのです。にも関わらずマクロな分析結果だけを見て、自校のことを知った気になっている方が多いような気がします。
○自校のマイナス面を聞こう
マイスターは、「どうして選んでもらえなかったか」、「どうして避けられてしまったか」という、マイナス部分に焦点を当てた質問を、一度大学はしてみた方が良いと思います。
これは、外部の業者が持ってくる調査結果には、まず入っていない情報です。しかし選ぶ側の受験生の方にしてみれば、最終的に「(比較した場合)やっぱりここがちょっと見劣りするかな…」といったポイントがあったかもしれないと思うのです。
「どっちも良い大学なんだけど、比べた場合、こっちは都心から遠すぎるように思えた」
「甲乙つけがたいけど、こっちの大学の方が、パンフレットの写真に写っている学生の雰囲気が良いと感じた」
「自分はどっちに行っても良いと思ったけれど、親が、単科大学よりは総合大学の方がいいとアドバイスした」
みたいな、受験生が最後に決断を下したときのポイント、調べたことがありますか?
こういうことを分析することで、郊外の良さをアピールする、親しみを感じさせる写真をたくさん盛り込む、単科大学の強みを強調する冊子を作成する、などの具体的な方策が立てられます。
一見、対策の立てようがない「理由」なども出てくるかと思いますが、解決の仕方は色々とあるものです。まずは問題を明らかにすることが大事。ぜひ一度調べてみることをオススメします。
○接触したメディアについて聞こう
これは、マイスターが個人的に感じていることですので、もしよろしければご参考まで。
大学業界の業者がよく行う調査の中に、↓こんなのがありますよね。
Q.「この大学を受けようと思ったきっかけはなんですか?」
1. パンフレットを見て
2. オープンキャンパスに参加して
3. 電車の中吊り広告などを見て
4. 雑誌の広告を見て
5. 知り合いの卒業生から意見を聞いて
6. 高校の進路指導の先生から意見を聞いて
7. インターネットで調べて
:
:
:
こういった結果を元に、業者の方は、
「ホラ、インターネットも重要だと言われていますが、受験生のほとんどは『パンフレット』が一番大事だと回答していますよ。インターネットがきっかけだと答えている受験生はほとんどいません。だから、もっとパンフレットにお金をかけましょうよ。」
という営業を展開します。よく見る光景ですよね。
でもこの手の調査で、誠実に調べたと思えるものを、マイスターは大学業界ではまだ見たことがありません。例えば、上記の質問結果を元に、「インターネットはあまり効果がない」という結論をアピールしてくるような業者は多いかと思いますが、そういう業者はプロとは言えませんので、あまり言葉を鵜呑みにしない方が良いかと思います。
メディアの影響力というのは、「これが一番」という序列を、そう簡単に出せるものではないのです。
ある段階では中吊り広告を見て、ある段階ではパンフレットを読んで、ある段階ではインターネットを見て、それぞれで情報や印象を補完しながら、イメージを形作っていくというのが普通だと思います。
「大学の名前を知る」→「興味を持つ」→「詳細な情報を知る」→「イメージを形作る」→「受験する」→「合格した後、競合と比較する」
…という過程全部を、パンフレットだけでまかなえているということは、まずあり得ません。
それぞれの行程で、それぞれにみあった役割があるわけです。上記のような質問でわかるのは、「どのメディアが印象的だったか」ということだけです。インパクトはあまり残らないけれど、意志決定のためには重要な役割を果たしたというメディアだって、複数あるはずです。
したがって、メディアのプロであればあるほど、単純に上記の調査から「パンフが一番大事だから、ここにもっとお金をかけよう」という結論を出すことは、できないはずです。その業者はおそらく、パンフを作らせてほしい事情があるのでしょう。企業ならそれも当然の行為ですが、大学の担当者は同じように考えてはいけません。
特にwebサイトに関しては、「インパクト」と「詳細な情報」の間で、様々な振る舞い方をするメディアですから、扱いは単純にはいきません。
かつて行われた興味深い実験がありますので、ちょっとご紹介します。
あるBtoC企業が、ある新製品を、特定のコンビニだけで販売しました。その際、その製品の宣伝を、「Yahoo!JAPAN」のバナーだけで展開しました。他のメディアには、一切情報を出しませんでした。
その後、その製品を購入した顧客に対して、「この製品のことを、何で知りましたか?」というアンケートを行いました。その結果は……「テレビCMで知った」という回答が、もっとも多かったのです。
もちろん実際には、テレビCMなど一切行っておりません。実験にあたっては、一週間ごとにバナーを出したり、引っ込めたりということを交互に行いました。その結果、コンビニでのその製品の売り上げが、見事にバナーの露出時に上がりました。売り上げは、一週間おきに、交互に波を描きました。ちゃんとバナーの影響があったことが実証されたのです。
顧客は、Yahoo!JAPANのバナーを確かに目にしており、そこから何らかの情報を得ていたのだけれど、「インターネットで見た」ということは、意識していなかったというわけです。
上記はあるメーカーとコンビニと広告代理店が共同で、実際の販売行為を通じて行った、大規模な実験なんです。数年前の事例であり、現在とはブロードバンド普及率など条件の異なる部分もありますが、「メディアの影響力は、単純な設問1個ではかれるようなものではない」という事実は今でも変わりません。
マイスターは、web広報の(元)プロですから、こういう実験結果も知っています(これはweb広告の世界では非常に有名な実験ですから、プロであれば知っておくべき事例だとされています)。
しかし大学業界の業者には、(もちろん、全員がそうというわけではありませんが)前述したような調査結果と分析を、そのまま平気で出してくる方が少なくないみたいです。大学業界の業者には、まだインターネットのプロが十分に育っていないのかも知れません。
大学の広報担当者や入試担当者は、webサイトを作る際、「普通のネット業者よりも、入試のことをよく知る業者にお願いした方がいいだろう」と言って、出入りのパンフ印刷業者にwebサイトの制作を依頼することがあるようです。でも上記のような実態を見る限り、まだまだ、業者もネットの扱いには不慣れなのかな、と思います。
マイスターとしては、大学がメディアプランを立てる場合、大学の担当者とパンフ業者の他に、さらにネットに詳しい専門業者を加えたチームを作るのがいいのではないかと思います。
こういった意味でも、直接の顧客、特に「合格したけれど、入学してくれなかった受験生」に対して、詳細に、どんなメディアを利用して、それぞれからどんな情報を得たかを聞いた方がいいんじゃないかな、と思うわけです。
長くなってきたので、このへんにしますね。
顧客に対する調査は、マーケティングの基本です。
自分たちで、自分たちが役立てられる情報を確実に集め、比較分析することが、大学の集客力(と表現して良いと思います)を強化することにつながるはずです。
手間も時間もかかります。
また、ちゃんと統計と、大学業界を取り巻く環境の基礎知識を持ち合わせた担当者が行わないと、活用できる情報にはなりません。スタッフ育成も必要です。
それでも上述したような理由から、やっぱり調査した方がいいんじゃないかとマイスターは思うわけです。
「合格したけれど入学してくれなかった受験生」のことを、今まで放っておいたという大学さんは、ぜひ本年度から、実行されてみてはいかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
大学は、高校生に対して受験に関する情報提供しかしないというプライバシーポリシーをベースに個人情報を取得している模様ですが、それって結局、高校を卒業するときに大学がお借りした個人情報が抹消されるということなのでしょうね。
でも、例えば「合格したけれど、入学しなかった方」など、他大学に行ったあと、または社会人になってからも関係のない大学と関係性を維持してるような個人情報の運用事例ってあるのでしょうか?
あ、いつも楽しみにしています。
これからも頑張ってください♪