研修医の大学離れが進んでいる?

マイスターです。

同じような話題が続いて申し訳ございません。
医療関連の報道が続いています。

【今日の大学関連ニュース】
■「研修医の大学離れ加速 臨床後、中部39%に減少」(中日新聞)

2004年度から義務化された2年間の臨床研修を終えた若手医師のうち、今春から大学病院や大学院に戻った医師が5割強にとどまったことが、全国医学部長病院長会議の調査で分かった。義務化前は7割以上が大学に残っていた。特に四国や東北、中部地方などでは2-3割台しか戻らず、大学病院の医師不足の大きな原因になっている。
調査は、全国の大学医学部・医科大学計80校でつくる同会議が実施し、全校から回答を得た。それによると、2年前の国家試験合格者(防衛医大など一部を除く)のうち、今年4月から大学に戻ったのは4185人(55・9%)。義務化前の02年3月に大学を卒業し大学に残った医師の割合(72・1%)に比べて16・2ポイント減少した。
地域別では、導入前の02年より増えたのは関東地方の82・3%(02年71・6%)だけ。四国28・7%(同74・0%)、東北32・7%(同63・0%)、中部39・1%(同66・4%)、中国39・7%(同73・3%)と地方では低い割合が目立ち、地域格差の拡大が顕著だった。
新しい臨床研修制度では研修医が研修先を希望でき、大学病院より研修プログラムが充実し、待遇が良い大都市の民間病院などに集中している。小川彰会長(岩手医科大学長)は「へき地や地方の医療を担ってきた地方大学の医師不足で、過疎地医療のサポート体制が崩壊した。臨床研修制度の早急な見直しが必要だ」と訴えた。

(上記記事より)

■「7割が大学病院戻らず 臨床研修終了後の医師動向」(岩手日報)

今春、2年間の臨床研修を終えた医師のうち、大学病院に戻った医師は東北地区で32・7%にとどまったことが10日、東京都内で開かれた全国医学部長病院長会議(会長・小川彰岩手医大学長)の調査で分かった。研修制度導入前の2002年と比べると半減、関東地方に集中している。地方の大学病院は医師が減り、医師派遣などで過疎地の医療を支えられなくなっている。
(略)地方の大学病院は医師を派遣して過疎地医療を支えてきた。だが、研修制度の導入により大学病院を基点とする地方の医療システムは崩れている。
小川会長は「このまま地方の大学病院の医師が少なくなれば地域医療の崩壊が進む。地域別定数にするなど研修制度の早期見直しが必要だ」と話す。
(上記記事より)

2004年から始まった新臨床研修制度。医学部を卒業した若手医師は、決められた複数の科に対し、2年間の臨床研修を必修で受けることになりました。
この新制度に合わせて、学生および病院の双方の希望に応じて研修先を決める『マッチング方式』 が導入された結果、民間病院などでの研修が増加。大学病院離れが進んでいるようです。

臨床研修病院の一覧は、↓こちら。

■「REIS-臨床研修プログラム検索サイト」(厚生労働省)

若手の医師は、こういった病院と大学病院のどちらで臨床研修を受けるかを、自分で選択するわけです(大学病院と臨床研修病院でそれぞれ1年ずつ、というのも可能なんだとか)。

で、現在までの、臨床研修医の在籍状況は、↓こんな感じ。

■「臨床研修医在籍状況の推移」(厚生労働省)

旧制度が適用されていた2003年では、大学病院で研修を積む病院が72.5%、臨床研修病院27.5%。
それが、新制度がスタートした2004年にはそれぞれ58.8%、41.2%と、大学病院で研修を受ける研修医が大幅に減少。2006年には同48.3%、51.7%と、ついに比率が逆転しました。

以前は医学部卒業後、出身大学の「医局」に所属しながら研修を受ける研修医が多かったのですが、今では、そうでない方が増えているというわけです。

その結果何が起きたかというと、冒頭の記事にあるように、研修後、大学病院や大学院に残る(戻ってくる)医師が、以前に比べて大幅に減ったのです。

もともと、研修先として大学病院が敬遠されてきた背景には、大学病院の研修医の過酷な労働環境(マンガ『ブラックジャックによろしく』が話題になりましたね)や、安い賃金、医局による人事などの理由があると言われています。
そういった要因が変わらない限り、研修が終わった後も、若手医師は大学には戻らないでしょう。

理由はともかく、大学病院に所属する医師が大幅に減ったわけですから、大学病院の研究レベル、研究レベルが維持できなくなります。

また、大学病院から過疎地などに医師を派遣するといったことも、難しくなります。
これまでも人員不足を理由に、地方の病院からの医師派遣要請を大学病院側が断る、といった事態が報じられています。

既存のシステムが破綻し、大学病院が行き詰まっています。

当事者である医師一人のことを考えれば、研修先の選択肢が増えるなどメリットが多いのでしょうが、医療全体を考えた場合に、問題が出てきてしまうのですね。

もちろん、医療関係者も、手をこまねいているだけではありません。

過疎地など地方の医療の担い手を現場に供給するという点では、医学部の入試に地元出身者枠や、卒業後一定期間、地元で医療に携わることを条件にした枠を設けるなどの取り組みが広がっています。
地方に勤務することを条件にした奨学金なども増えてきています。

また、↓抜本的な解決法の一つとして、大学病院を介さずに医師が地方に派遣されるシステムを整えようという動きもあります。

■「拠点病院から医師派遣…政府・与党方針」(読売オンライン)

政府・与党は9日、地方の医師不足を解消するため、医師が集まる国公立病院など地域の拠点となっている病院から、半年~1年程度の期間を区切り、地方の病院・診療所へ医師を派遣する新たな制度を整備する方針を固めた。
医師派遣の主体を都道府県や病院関係者らで作る「医療対策協議会」とし、復帰後に医師が人事で不利益を受けない仕組みを担保するほか、医師を放出する拠点病院への補助金制度も導入する。厚生労働、文部科学など関係閣僚が参加する政府・与党協議会で来週から詳細な検討に入り、今年度中の制度スタートを目指す。
医師派遣は従来、大学病院の教授が若手の研修医の人事権を握り、派遣先を決定してきた。だが、2004年度から医師臨床研修制度が義務化されると、若手医師らは上下関係が厳しい大学病院を敬遠して待遇のいい国公立病院などに殺到し、大学病院中心の医師派遣は事実上、崩壊した。
(略)政府・与党は医師の偏在・不足に対応するため、医師派遣の主体を、大学病院から、医師の人気が高い拠点病院と都道府県へと移して派遣制度を再構築することにした。
(上記記事より)

↑こちらは1年前の報道ですので、その後、どのように議論進んでいるかはわかりません。
ここで言う「拠点病院」こそ、医局からの医師派遣に頼ってきた病院であり、果たして本当に医師を出す余裕があるのか、といった疑問も聞かれます。

現状のシステムの中で工夫をして問題を解決するのか、それとも、まったく新しいシステムを作るのか。
試行錯誤が続いています。
しばらくは大学医学部も、様々な試みを繰り返すことになるでしょう。
最終的に、どのような方向に向かうのでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 研修医の大学離れがおきている?
    研修医が大学から離れている?
    研修医が大学離れしている?

  • 匿名さま
    ご指摘ありがとうございます。
    日本語がおかしかったですね。直しておきました。