中心は4年制大学に? 変わりつつある、看護師養成教育

マイスターです。

現在、病院では看護師不足です。

厚生労働省の医療費抑制策の一環で、2006年4月に診療報酬が改定。
勤務する看護職員の1日あたりの平均人数が「7人に1人」だと、病院はより高額の診療報酬を受けられるようになったのです。それまでは「10人に1人」が最高でしたので、約4割の看護師を増やすことになります。各病院は、看護系学校の卒業生を採用すべく、争奪戦を繰り広げています。

地方の病院から、都市部の病院に人が流出する傾向もあるなど、未曾有の売り手市場。
医師不足とはまた少し違った事情を抱えているのですね。

■「看護学科、新設諮問大学の3分の2に」(CBニュース)

↑そして以前ご紹介したと思いましたが、現在、看護学科の新設が増えています。
短大から四年制大学に移行するケースが多いとは言え、やはり目立ちます。

……などと、色々な背景を抱えながら、少しずつ変わってきている看護教育。
そんな看護教育についての話題を、今日はご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「看護師:「大学で養成を」 厚労省の懇談会が提言」(毎日jp)

厚生労働省の「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」(座長・田中滋慶応大教授)は7日、高度医療へ対応するため、専門学校が中心だった看護師の養成を、将来は大学に移行させるのが望ましいとの提言をまとめた。厚労省は大学教育の拡充に向けた教員確保やカリキュラムの検討に入る。
看護師は毎年約5万人が新たに就業しているが、大学や短大卒が約4分の1、高卒を対象とした専門学校卒業者が約半数を占める。看護師のチーム医療の一員としての役割が高まっていることなどから大卒者を増やすべきだとの意見が出ていた。
(上記記事より)

看護師を養成するために行われる看護基礎教育というのは、日本では複線方式で行われていました。
つまり、同じ看護師になるためにも、色々なルートがあったのです。

他の記事で、そのあたりが紹介されています。

看護基礎教育は現在、▽3年制の養成校▽5年制の高校▽3年課程プラス保健師・助産師統合カリキュラムの4年制大学▽准看護師から2年間の進学コース―など、一つの資格ながら多様な養成課程が存在する。
「看護基礎教育の「大学化」を評価―日看協」(CBニュース)記事より)

↑この中でも、特に大きな割合を占めていたのが、「養成校」と呼ばれる専門学校。
こうした3年制中心の看護師養成を、4年制大学中心にしていこうというのが、今回の動きです。

この提言をまとめるまでにも、様々な議論がありました。

4年制大学への移行に当たり、中心になっているのはやはり、カリキュラムの高度・専門化。
看護の現場で、より高度な知識やスキルが求められるようになってきており、3年制の専門学校では詰め込み教育になってしまう。よって、4年制の教育課程が必要だという意見です。

この他にも、3年制の問題として、「実情」に合わせた↓こんな指摘がなされていました。

口火を切ったのは朝日新聞論説委員の梶本章委員。(略)「この部分では、4年制大学化を明示した方がいい。今までの議論の中でも、個人的なニュアンスの差こそあれ、4年制大学にしていかなければ、という部分では共通していたと思う。また、現状でも4年制大学は定員を満たしているのに養成所は定員割れということからも分かるように、看護師の確保という面からもはっきりと書いた方がいい」と述べた。
「“五人五様”の看護教育4大化」(CBニュース)記事より)

聖路加看護大学長の井部俊子委員は「4年制大学化をしないと、数の確保ができなくなる。早期に離職した看護職の学歴について、大学卒1人に対して養成所卒が 12人にもなるという調査結果が出ている。看護基礎教育が大学教育に向かわない限り、看護師の養成は困難になるのではないか。むしろ4年制教育に移行するという方針を、積極的に打ち出す必要があるのでは」と提議した。
「“五人五様”の看護教育4大化」(CBニュース)記事より)

前者は、看護師を目指そうとする人達の意識は、既に4年制大学に向かい始めている、という指摘。
冒頭で述べたとおり、多くの大学が強気に4年制の看護学科を設立していることからも、これは事実だと思います。

後者は、看護師の離職率についての言及。
看護師というのはハードワークで、数年で離職する方が多いというイメージがありますが、詳細に見てみると、大卒よりも養成所(専門学校)卒の方の方が、圧倒的に離職率が高いのですね。
冒頭で述べたような人材不足も深刻な中、キャリア教育も含めてしっかり4年制の教育を行い、長く活躍できる人材を養成した方がいいのではないか、という指摘です。

なるほど。
こんな議論があってこその、「4年制」なわけですね。

ただその一方、議論が行われている最中には、4年制化に対して↓こんな否定的な意見もあったようです。

この日、懇談会がヒアリングを行った日医の羽生田俊常任理事は、地域医療における准看護師の役割をあらためて強調。各地の医師会で准看護師の養成学校を運営していることが、地域の看護職確保に大いに役立っていると主張した。
「(略)例えば、われわれの診療所で、大学を出た看護師さんが、大学で得た高度な知識・技術を生かせる場はほとんどない。現場に対応できるレベルの知識・技術は当然必要だが、全体として見た時、基礎教育というのは最低限どこまでできればいいかというもの。高度な医療技術を身に付けるのは基礎教育ではない。そうした部分は上積みの教育で考えるべきだ」
看護職員の養成には複数の選択肢が必要で、4年制にこだわる必要はないと、否定的な見解を示した。
また、看護師の20年後の在り方に絡んで、看護師の業務範囲の拡大について問われると、「看護師に求められる業務については、今現在の法律上でできることもしていない。また、業務拡大を望んでいない看護師もいる。基礎教育という中では、初めから業務拡大ありき(で年限延長)の議論をすべきではない」と述べた。
「看護教育4年制移行を議論する場?」(CBニュース)記事より)

日本には、「准看護師」という資格があります。
戦後の看護師不足に対応する、といった経緯で設けられた制度で、看護師(正看護師)になるよりも教育年限その他でハードルが低く、この資格で働いている准看護師の方も多く存在します。ただ、日本看護協会はこの資格の廃止を訴えています。

しかし、医師の団体である日本医師会は、幅広い労働条件の看護労働力を求めるということで、この准看護師の存続を訴え続けているのです。
理由は、上記の記事を読んでいただければおわかりいただけると思います。街の個人病院など、開業医として働いている医師達は、看護師にはそれほど専門的な知識や技術は求めていないというのですね。それよりは、安い賃金でも来てくれる准看護師の方が、個人開業医などにとってはありがたい、ということです。

看護基礎教育の中心が4年制大学に移行することに伴い、より専門的な知識を持ち、より賃金もかかるであろう正看護師がやがて准看護師達を駆逐するであろうと考え、日本医師会は今回の「4年制大学中心の看護基礎教育」に反対しているというわけです。

看護系大学や看護系専門学校をめぐる議論の後ろに、実は「看護界 VS 医師界」みたいな構図が隠れているのですね。

そんな対立の構図も影響したのでしょう。
結局、看護基礎教育の4年制化は進められることになりましたが、ただし、以下のような「3論併記」の形をとることになりました。

これまでの懇談会で大きな論点となっていたのが、看護基礎教育の4年制化、大学化。3章の中で、「看護基礎教育は充実されるべきであり、教員の資質の向上をはじめ、そうした教育を提供するのに相応しい体制や環境を確保していく必要があるという点に関し、意見の一致は見た」と前置きした上で、3種類の考え方を併記した。
一つ目の考え方は、看護基礎教育の期間を延長し、大学での教育に移行させていく必要がある、というもの。看護の高度化、社会一般の高学歴化、看護職員の確保などが理由として挙げられる。
二つ目は、将来的には大学教育を主体とした方向で看護基礎教育の充実を図るべきだが、養成校の数や看護職員確保の状況を踏まえた対応をする、という考え方。
三つ目として、大学での看護教育が増えていく趨勢(すうせい)は認識するが、大学での養成に一律に限定せず、現行の多様な養成課程を質・量両面から評価して改善していく、という考え方。現在、看護師を目指す人の3分の2が養成所や高校で学んでいるという現実を踏まえてのこと。

これまでの議論で、委員のほとんどは「4年制大学化」の方向性を支持していた。こうした併記の形になったことに対し、一部の委員からは「非常に残念」との意見も出された。一方、「どのような形であれ、一定のメッセージは発信できた」との考え方も披露され、結局は3案併記の形で論点整理が出されることに決まった。
「看護基礎教育の大学化は3論併記」(CBニュース)記事より。強調部分はマイスターによる)

この通り、ただちに4年制に一元化されることにはなりそうにありません。
もっとも、確かに現行の養成課程を評価していく作業は必要でしょうし、実際、養成所を卒業して活躍されている方々も多くいらっしゃるわけですから、まずは妥当な一歩だったのかも知れません。

ただ、そうは言っても、実際に4年制の看護学科は増え続けており、高校生などもそちらに流れているのですから、やがて専門学校の養成課程が自然に縮小していく可能性は否定できません。

また、こういった教育課程に加え、離職した看護師を大学病院などで再教育して現場に復帰してもらう、海外から看護師を呼び込むなど、看護を巡っては現在、様々な動きが起きています。

医療現場に看護師を送り出すシステムが、現在、変化しつつあります。

以上、マイスターでした。

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※マイスターは医療問題については素人です。看護教育に関して詳しい方、何か間違い等がありましたら、ご指摘いただければ幸いです。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 仕事柄,看護教育とは無縁ではないので一言。
    いくつかの看護系大学,看護学部では「大学卒」という学歴+資格があるから就職に強い,という理由で看護の道に進む学生の問題が以前から指摘されています。
    そのような学生は看護師として就職してもすぐにやめてしまいます。また,卒業直後(つまりは就職直後)の技量に関しても,専門学校卒の看護師のほうが良い,という現場の声も聞きます。
    個人的には遠い将来には4年制大学での看護師養成が中心になると私も思いますが,では4年制にすれば教育内容が高度化するのか?より高い実践能力が身につつのか?となると正直疑問です(現状は)。

  • 私は現在大学の看護科で勉強をしているものです。来年就職する予定です。私が思うに、確かに4年制の大学だと技術は一通り習うのですが、圧倒的に専門学校のほうが技術面では強いと思います。しかし、今は卒後教育もしっかりしているので、技術なんてすぐ身につきます。それより大事なのはやはり看護の質なのではないでしょうか??大学病院でも、診療所でも看護の質は同じであるべきだと私は考えています。確かにお給料の問題はあると思いますが、実質そんなに大きく変るものでもないと思うからです。このような言い方は失礼かもしれませんが、やはり1年長いだけあり、大学卒の人のほうがより専門的な知識や教養が身についていると感じることがありましたので、コメントしました。