「ノーベル賞」のアピール方法

小学校の卒業アルバムに書いた「将来の夢」は、なぜか「学者」だというマイスターです。

あのときの自分は何を思ってそう書いたのでしょうか。『ドクター・スランプ』に出てくる千兵衛さんとドクター・マシリトくらいしか、ロールモデルになるような人はいなかったはずなんですが。マッド・サイエンティストになりたかったのでしょうか。謎です。
子供のころ理科が得意で、ロボットを作りたかったので、その延長で学者と書いたのかも知れません。今思えば、それはどちらかというと「ロボットエンジニア」の仕事ですね。

子供があこがれる職業というのは、その時々のニュースに左右されます。
Jリーグがスタートすればサッカー選手にあこがれ、イチロー選手や松井選手が活躍すれば野球選手にあこがれるといった感じです。やはり、男の子はスポーツ選手の活躍を見ていますよね。

でも、スポーツ選手並みに子供の注目を集める人達は他にもいます。
そのひとつが、そう、ノーベル賞受賞者の皆様です。

小柴昌俊氏、田中耕一氏のダブル受賞で日本中が沸いた2002年は、各種の「子供の将来の夢」ランキングの上位に「学者」や「博士」がランクインしたと思いました。子供達も学者のカッコ良さに注目したのでしょう。あれだけ世間の注目を浴びるのですからね。マイスターも受賞を報じるニュース映像に釘付けでした。

現在、日本の子供の理科離れが進んでいると言われています。そんな流れを食い止めるべく、各地で様々な取り組みが行われてもいます。
そんななかで、ノーベル賞受賞者が与えるインパクトというのは、すごいなと思います。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「ノーベル賞自然科学系を米国独占」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20061011ur01.htm
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今年の自然科学3部門のノーベル賞受賞者は5人すべて米国人で、3賞受賞者は計222人となった。これは全受賞者513人の約43%。世界の3分の1の科学者・技術者を擁する国とは言え圧倒的だ。
(上記記事より)

というわけで、今年も「受賞の可能性が高い」と言われていた方はおられたようですが、残念ながら栄誉は次年度以降に持ち越しとなったようです。

思えば、2000~2002年の間に4人の日本人がノーベル賞を受賞して以来、マスメディアの報じ方が、「今年はダメだった。残念」というトーンに変わりましたよね。
それまでは、1987年の利根川進氏まで間があきますから、「日本人から受賞者が出た!すごい!」という感じだったでしょう。
いろんな意味で、「世界的な研究」に対する国民の意識も変わったのではないかと思います。

今年の受賞を独占したアメリカでは、さらに国民の要求が高いようです。

米国から自然科学系の受賞者が出なかったのは1991年が最後。この年は文学賞、平和賞も受賞できず、経済学賞のシカゴ大名誉教授も英国籍だったため、「米国籍の受賞者が一人もいない」と、逆に話題になったほどだった。
(上記記事より)

この通り、受賞者がいることが当然なのですね。

さて、マイスター、以前から不思議に思っていたことがあります。
それは、東京大学、京都大学のwebサイトに、「ノーベル賞」というコンテンツがないことです。

■「小柴昌俊名誉教授(元物理学専攻教授)が2002年ノーベル物理学賞を受賞しました」(東京大学大学院理学系研究科・理学部)
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/koshiba/index.html

東大には、↑このような、小柴氏の受賞を個別に報じるページがあるだけです。しかもこれ、理学部内だけのコンテンツです。大学として、大々的にアピールしているわけではないのですね。

■「日本人のノーベル賞受賞者一覧」(京都大学)
http://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/01_eiyo/nobel.htm

かたや京大は、↑このような一覧を載せているだけです。無味乾燥にもほどがあります。もっと個々の受賞者について掘り下げた内容を知りたいのに、と思いませんか?

ついつい我々は、欧米と比べて「日本の研究成果はまだまだだ」と自国を卑下してしまいがちです。しかし少なくともアジアにおいては、日本はトップの受賞者数を誇っているわけですよね。
だったら、少なくともその受賞者の多くを輩出している東大や京大くらいは、ノーベル賞受賞者の功績をアピールするコンテンツを、日本語、英語、中国語、韓国語等で制作し、どーんと公開しておけばいいのにと思うわけです。

「日本の大学も、海外から学生を集めなければダメだ」とか、「世界の研究者が集まる拠点にしなければダメだ」とかいうスローガンはよく耳にします。それなら、「ノーベル賞」なんて、これ以上ないPR手段なのになぁ、と思うのです。
もちろん、ノーベル賞の受賞だけが研究の要素ではありませんし、受賞者が多いからって学部教育が優れているというわけでもないでしょう。
しかしそれでも、「アジアをリードする研究機関」とか、「世界レベルの研究者を輩出」とかいったイメージを伝えることはできるはずです。実際、そういう自負はあると思いますから、アピールすればいいのになぁ、もったいないなぁと思います。
(あまりアピールするのは下品だという判断が働いているのか、あるいは特定の研究者や研究分野を大学としてアピールすることに対して、学内の賛同を得られないのでしょうか)

マイスターのイメージに近いのは、強いて言えば筑波大学のサイトです。

■「ノーベル賞受賞者の紹介」(筑波大学)
http://www.tsukuba.ac.jp/gaiyo/nobel/index.html

このように、関わった方々の情報を、「ノーベル賞」というくくりでまとめて紹介すると、読む方もわかりやすくていいですよね。日本の科学技術について調べ学習している小中学生や高校生も、喜ぶと思います。ノーベル賞受賞のインパクトは大きいですから、ある程度平易な文章で説明がされていれば、子供達も思わず読みふけることうけあいです。夢、与えられますよ。

さて、では、受賞者を大勢輩出する欧米の名門大学では、どうやってノーベル賞受賞者をアピールしているのでしょうか?
冒頭の記事でも、

ハーバード大やカリフォルニア工科大などの有力大学には、一校だけで日本人受賞者(9人)を上回る受賞者がいるが、大学にとっての意義、価値が低下しているわけではない。

適正な研究投資のための研究評価が制度化された現在、受賞は大学ランキングに反映されるので、むしろノーベル賞候補の争奪戦や受賞への戦略作りは強化される傾向にある。ランキングが上がれば、その大学は連邦予算獲得や、優秀な学生を集めるうえで優位に立つことになるのだ。 (上記記事より)

…とありますからね。

気になるところですので、実際にいくつか見てみました。

■「University of Chicago Nobel Laureates」(University of Chicago)
http://www-news.uchicago.edu/resources/nobel/

上記はアメリカ、シカゴ大学のwebサイトです。ちゃんと大学全体の受賞者がリストされていますよね。また個々の研究者の情報からは、ノーベル賞公式サイトのデータベースにリンクが張られています。これは親切ですね。
画面右側にずらっと並んだのが、過去の受賞者達。画面左側に写真つきで掲載されているのが、現在在籍している教員です(見せ方も良いですけど、それ以前に実績がすごいですね…)。

■「NOBEL LAUREATES AND THE UNIVERSITY OF VIENNA」(University of Vienna)
http://www.univie.ac.at/archiv/tour/21.htm

↑こちらは、オーストリアのウィーン大学です。
「Universität WienAn Historical Tour of the University of Vienna」という、大学紹介ツアーの中に入れているのですね。
これなら、大学のことを知りたいと思ってサイトを訪れた方が、必ず目にします。

■「UC Berkeley’s 20 Nobel Prize Winners」(UC Berkeley)
http://www.berkeley.edu/news/features/2000/nobel/uc_nobels.html

↑UCバークレーのサイトです。一見、シンプルなリストですが、よく見ると下の方に関連情報へのリンクがまとめられておりまして、それらを追っていくと結果的にかなりの情報が得られます。

■「The Nobel Prize」(University of Cambridge)
http://www.cam.ac.uk/cambuniv/nobelprize.html

↑イギリス、ケンブリッジ大学のサイトです。一人一人の情報は少ないのですが、何しろ人数がすさまじいので、静かに圧倒させられます。いかにもイギリスっぽいアピールの仕方です。

■「A Nobel Legacy」(Harvard University)
http://www.hno.harvard.edu/guide/faculty/fac6.html
■「Laureates 1914 – 1973」(Harvard University)
http://www.hno.harvard.edu/guide/faculty/fac7.html
■「Laureates 1974 – 2005」(Harvard University)
http://www.hno.harvard.edu/guide/faculty/fac8.html

↑同じく大量の受賞者を輩出しているアメリカのハーバード大学。大学の歴史を紹介するコンテンツの中に、「A Nobel Legacy」と題したページを用意しています。

…などなど、挙げていけばキリがありませんが、やはり各大学とも受賞者を栄誉に思い、力いっぱい受賞歴をアピールしているようです。
「これだけ受賞者がいます!」というとなんだか品がないようにも思えますが、シカゴ大学やハーバード大学のように見せ方次第で上品に表現できるのではないでしょうか。

最後に、もう1ページだけご紹介を。

■「The Stanford Faculty」(Stanford University)
http://www.stanford.edu/home/stanford/facts/faculty.html

↑こちら、スタンフォード大学のファカルティ(教育組織)紹介のページなんですね。
テニュアトラックの教員が1,771名います、などという説明文をふむふむと読み進めていくと……「現在、18名のノーベル賞受賞者が在籍しています」の文字がサラリと……。ひえぇ!
同じページ内に、それぞれの現在の所属と、ノーベル賞の受賞年および受賞理由がまとめられてたりします。(同大にはピューリッツァー賞受賞者も4名在籍しているそうです)
卒業生の受賞者とはまた意味合いが少々異なりますが、ノーベル賞のPR法としては、これが究極だな、という感じですね。

(え、これと同じことができれば苦労しない?
うーん、そうですよね……マイスターもそう思います。)

そんなわけで、せっかくのノーベル賞。もったいないので、大学のどなたかが受賞された場合は、海外の事例なども参考にしつつ、存分にアピールしちゃってください。
なおアピールする際は、

・小中学生に(日本/海外)
・高校生、受験生に(日本/海外)
・一般生活者に(日本/海外)
・メディアに(日本/海外)
・研究者に(日本/海外)

など、「誰に伝えるか」を意識してください。注意しないとどうしても「国内研究者向け」のコンテンツになってしまいがちですよ。

まずは研究者の皆様、受賞で子供達に夢を与えてくださいね。(って、簡単に言っちゃってすみません……)

以上、マイスターでした。