飛び級制度と学力観

学生時代の友人の進路は「一流企業」か「超ベンチャー/生死不明」かに二極化しているマイスターです。

ちょっと前までは、自分も「生死不明」枠にいましたが、今は、大学職員です。生きてます。
しかし、小学校から大学までの同級生は、現在、ほぼ自分と同じような社会人であろうと推測できます。

それは、当たり前なのか、
ひょっとすると、とても不思議なことなのか。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「16歳で超難関校UCバークレーに編入 IT企業への就職が夢」(ベリタ通信:livedoorニュース掲載)
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1366621/detail?rd
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16歳で、超名門校のUCバークレーに編入したという学生の記事を見つけました。

「両親が学校側と相談し、中学校から飛び級を経験した。」
「11歳でコンピューターの修理を一時間65ドルの労賃を取って請け負った。」

などの記述が、早熟っぷりを物語っています。

ご存じの方も多いと思いますが、アメリカでは、飛び級が盛んです。

というより、

「早くやりたい人は、早くやればいい。
 ゆっくり学びたい人は、ゆっくり学べばいい。
 ペースは人それぞれ」

という雰囲気でしょうか。

1年くらい早く卒業したからと言って、スゴイ!と思われたり、
逆に1年や2年卒業をのばして、じっくり学んで「あいつは頭悪い」と思われたりは、
あまりしない社会なのかも知れません。

16歳の入学生は、まだ理解できる方です。
私はまだ読んでいないのですが、こんな本↓も見つけました。

僕、9歳の大学生―父・母・本人、「常識」との戦い

この本の著者、矢野祥氏は、「アメリカのフルタイム大学生としては最年少の9歳」で大学に通っているそうです。

(発行が2001年ですから、まだ在学中なのでしょうか?
 さっそくAmazonで注文しましたので、読んでみたいと思います)

他にも、たとえばソフトバンクの孫正義氏は、日本の高校を中退してアメリカに留学し、現地の高校を3週間くらいで卒業してしまった、なんてエピソードを持っています。
1週間に1回のペースで、飛び級したのです。
(彼も、その後UCバークレーに入学しています)

学ぶペースはひとそれぞれ。

そんな、考えてみれば当たり前のことが、淡々と行われているだけなのかも知れません。

そう言えば、マイスターが学生時代に訪れたアメリカのとあるチャータースクール(ハイスクール)では、逆に20歳を超えた生徒が高校の内容を学んでいました。
とてものびのびと、自信を持って学んでいました。
地域にも受け入れられ、評価されている学校でした。

日本でなら、そうした学校はもう少し、社会から違う見られ方をしているかも知れませんよね。残念ながら。

そのチャータースクールを出た学生が、大学院で教育修士号を得て、母校の教員として働いていたりしました。素晴らしいことです。

遅くても、それはその人が選択したペース。
能力が劣っているわけではありませんし、その選択が、その人の人生に不利に影響したりすることもありません。

「学ぶ期間」についても、この「人それぞれ」という考え方が貫かれています。

「早く入学する」だけでなく、
「早く卒業する」人がいます。

通常、4年程度かかる大学の勉強を、3年や2年で終えて、卒業するのです。

アメリカの大学は、「学年」を基準としていません。
日本の大学のように、
在籍しているだけで学年が持ち上がっていくわけではありませんし、
学年ごとに「これをとらないとダメ」というカリキュラムがきっちり組まれているわけでもありません。

通常は、取得した単位数で、学年を区別しています。
たとえば

  1年生(freshman)は32単位以下
  2年生(sophomore)は64単位以下
  3年生(junior)は96単位以下
  4年生(senior)は128単位以下

といった感じです。
単位が取れなければ、いつまでもフレッシュマン。

勉強では相当の予習やレポートを要求されますから、
通常、一学期(セメスター)の間に、みんなだいたい15単位前後を履修して、
だいたい4年間くらいで卒業するのがまぁ標準、という感じです。

逆に言うと、勉強がきちんとできて、短期間で単位をきちっととれるのなら、
早く卒業してもいいわけですね。

逆に、興味を持ったので、5年以上かけてじっくり学びたいという方もいます。

さて、アメリカと比べてしまうと、日本はまだまだ平等社会です。

識字率の高さなどが示すとおり、平等が成果を上げてきた面もありますが、
「出る杭を育てる」ということには、積極的ではありませんでした。

国の教育政策だけでなく、我々日本人の感覚にも、出る杭を許さない、容認できないという気質があるのだと思います。

ちょっと話はそれますが、海外でMBAを取得した日本人が、就職先で狙うのは、外資系企業だそうです。

日本の大企業は、未だに、MBA取得者を積極的に活用しようとしません。
MBA取得者とそうでない社員の、給与や仕事内容に格差を付ける企業は、ごくごくまれです。
巨大メーカーや銀行などには、社員の海外留学制度などがありますが、学位を得て帰ってきた社員が、能力に見合った扱いを受けているかと言えば、そうでないのです。
残念ながら、「ハクを付けておこう」という程度の認識です。

このように、社会的にも、「平等でないと許さない」という意識が根強い日本。

さて、この平等思想、教育政策にもよく表れています。

高校は通常、入学は15歳、卒業は18歳。

大学の募集要項には、大抵「18歳以上」という条件が書かれています。
修士課程なら、「22歳以上」です。

そして同じ年齢の学生が、同じ学年で、同じタイミングで一斉に卒業する。
日本企業による新卒の一斉採用システムのおかげで、就職の時期もみな同じ。

おなじ時期に生まれた子供は、22年後、まったく同じ春に社会人になる。

きっちりと、年齢に沿って人生設計された上での教育です。

これを、悪平等と言わずに何と言おう。

もちろん、日本のこうした画一的な教育のシステムについて、問題視する声も出てきているわけです。

というわけで我が国でも、飛び級制度の試みが、一部の学校で始まっています。

大学入学に関しては、18歳以上だった年齢制限を、一部の課程に限り「17歳以上」に引き下げた学校があります。
大学が設定した試験の結果で選抜され、選ばれると、高校3年生をすっとばすわけです。

最も早く導入し、話題を呼んだのが、千葉大学理学部。
1997年に法改正により数学、物理分野に限り解禁されたのを受け、千葉大は98年から制度の運用を開始しています。

■「先進科学プログラム(飛び入学)学生選抜(PDF)」(千葉大学)
http://www.chiba-u.ac.jp/exam/entrance/eei/senbatsu18/sensin.pdf

千葉大の他、名城大学も、同様の17歳入学制度を持っています。

また、2001年度より全分野で飛び入学が解禁されたのを受けて、
人文学系、社会科学系でも運用を始めた大学が出てきました。

成城大学文芸学部英文学科は、この分野では初めての飛び級を、17年度から始めました。
http://www.seijo.ac.jp/futures/misc/eibun/early.html

昭和女子大学も、人間社会学部福祉環境学科、生活科学部生活科学科で、それぞれ飛び級入学を17年度から始めているようです。
http://www.swu.ac.jp/exam/content/c_tobinyugaku.html

徐々に、すべての分野にそろうのでしょうか。
(それがいいのかどうかはわかりませんが)

どのように日本に根付くか、見守りたいところです。

ちなみに飛び入学ですが、
もともと、高校以上の学校においては文部省令で年齢下限が決まっているので、文部科学省のみの判断で年齢を引き下げることができるのです。
千葉大学の事例は、そうして生まれたものでした。

小中学校の場合は、学校教育法と教育基本法により、学齢と修業年限が決まっているので、飛び級や早期就学の制度の導入には法改正が必要です。

なので、義務教育段階の飛び級実現は、まだ先の話になりそうです。

なお、

「大学3年生から、大学院へ」

「修士課程を1年で修了」

「博士課程を2年で修了」

という3点についての「飛び級」は、実施している大学はわりと存在します。

「飛び級制度」で検索したら、いっぱい出てきましたので、例として以下を。

・明治大学政治経済学部
http://www.meiji.ac.jp/seikei/govern_special/skip.html
・神奈川工科大学
http://www.kanagawa-it.ac.jp/~l4001/postgraduate/pg_skip.html

こちらの方が、大学として受け入れやすいということなのでしょうかね?

ただ、マイスター、気になるのは「学費の仕組み」です。

日本も今後は、今以上に飛び入学、飛び級が受け入れられるようになってくると思います。
(というか、そうなった方がいいと個人的には思います)

そうなったときに、今の学費制度では、大変です。

何しろ、日本のほとんどの大学は、

学期中、いくら単位を取っても授業料は変わらない

という仕組みをとっているのです。

これでは、3年間で卒業されたら、1年分の学費をとりっぱぐれてしまいます!
深刻な問題です。

ちなみにアメリカでは、基本的には、

 基本的な在籍料+授業ごとの履修料金

という仕組みでお金を取っているようです。

授業ごと、つまり単位数にみあった金額をとるので、
2年で卒業されても、4年で卒業されても、単位数が同じならこの部分は変わりません。

これなら早く卒業しても、遅く卒業しても、大学はコストの影響を最小限に抑えられます。

日本でも、一部の大学や学部で、こうした「単位あたりいくら」の学費システムを採用しているところはありますが、一般的ではありません。

飛び級や、スローペースの学習を根付かせるなら、学費の仕組みも変える必要があるはずです。

そのあたりの取り組みについてあまり話を聞かないところをみると、日本の大学はまだ、

「自分のペースで学ぶ」

という時代が来るなんて、たぶん思っていないのでしょう。

いい加減、そうした「仕組みありき」の発想から
「学生ありき」の発想に変わるべきだよな、と思うマイスターです。

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ちなみに最近で一番有名な飛び級経験者は、国際ニュースでよく見る、
アメリカのスーパーウーマン、コンドリーザ・ライス国務長官ではないでしょうか。

1974年、デンバー大学卒(政治学)。このとき19歳。
1975年、ノートルダム大学で修士号取得。
1981年、デンバー大学で博士号取得。
1981年、スタンフォード大学教授。26歳での教授就任。

輝かしすぎる経歴。なお、IQは200だとか。

…こんな人と、日本の「何を言いたいのか、話を聞いてもよくわからないおっさん集団」みたいな政治家達がテーブルで渡りあって、か、勝てるのかい!?