マイスターです。
大学間の連携が盛んです。
研究者や学生が、大学の垣根を越えて活動できるようになってきました。
自校とは異なる環境で学び、研究することによって、様々な刺激を受けられるでしょう。
そうして受けた刺激を自校に持って帰ることで、自校の環境もより豊かになります。
さて、そんな大学間連携の中で、これはと思う取り組みが登場しました。
【今日の大学関連ニュース】
■「山形大、立命大と協定 学生や職員、相互に派遣」(NIKKEI NET)
山形大学(山形市、結城章夫学長)は19日、立命館大学(京都市、川口清史学長)と「包括的協力協定」を締結した。学生や職員の相互交流を通じて教育の質の向上を図る。山形大が他大学とこの種の協定を結ぶのは初。将来は単位互換制度や双方の学位が取得できる「ダブルディグリー制度」などの導入に踏み込むことも検討する。東北の国立大学法人と関西の有名私立大学が組む異色の組み合わせとなった。
(上記記事より)
山形大学と、立命館大学の取り組みです。
それぞれの大学が、公式サイトでこの包括的協力協定について発表を行っています。
■「山形大学との「包括的協力協定」締結について」(立命館大学)
■「立命館大学と「包括的協力協定」を締結しました。」(山形大学)
立命館大学によるプレスリリースをご紹介します。
この度立命館大学は、学生を中心に据えた教育の高度化を追求するために山形大学と「包括的協力協定」を締結しました。
国際水準の人材育成が大学に求められる今、教育・研究活動においてさらなる質の向上が不可欠となっています。
山形大学は「学生が主役の大学づくり」を行動計画として掲げ、「地域ネットワーク“樹氷”」や「東日本FDネットワーク“つばさ”」を展開するなど、質の高い人材育成を行っています。
このような取り組みは、学生相互の学び合いを重視し、「学習者を中心とした教育」を掲げる立命館大学の精神と共通性を持ちます。
一方で、山形大学と立命館大学は、その設置形態、立地、規模等において、全く異質の大学であり、両大学が連携・協力することによって、新たな教育創造を目指します。
■この「包括的協力協定」に基づき、今後次の3点を進めていきます
<両学長による講演会の実施>
協定の意義・目的を全学で共有するために、両学長がお互いの大学において講演会を実施します。
<学生交流>
各大学が「学生中心」の大学創りを進めるために、正課・課外の両面から、双方の大学が抱える課題や特徴を学生が分析・調査して、それぞれの学長にプレゼンテーションを行います。
<職員交流>
両大学の若手職員が、大学が共通して抱える現代的課題について、共同の作業グループを編成し、検討する。お互いの学長に対して、改善提案を行います。また、職員の派遣、受け入れ等も検討します。
(「山形大学との「包括的協力協定」締結について」(立命館大学)より)
学長による講演会もユニークですし、学生同士のコラボレーションの機会を作るのも良い取り組みだと思います。
ただ、この中で最も大きなインパクトを持つのは、実は「職員交流」ではないでしょうか。
大学職員というのは、案外、横のつながりが強い職種で、大学をまたいだ研修や勉強会はもともと活発です
大規模な例として、例えば「私立大学情報教育協会(私情協)」が毎年行っている研修会では、浜名湖近くのホテルに日本中の私立大学から若手職員が集結し、一緒に研修を受けたりしています。
(マイスターもかつてこの研修を受けましたが、いっきに数十校の大学の方々と名刺交換ができました)
また、「○○地区○○系大学交流会」みたいな、地域や学系のつながりによる情報交換会も盛んです。
しかし逆に、こうした横のネットワークも、一緒に研修を受けたり、情報を交換したりする以上の部分に発展することは、そうはありません。
2つの大学の間で職員が共同の作業グループを編成したり、職員同士の派遣・受け入れを行ったりという今回の発表内容は、その点、かなり踏み込んだ連携内容です。
国立大学においては、もともと、一部に中央省庁による人事体系が存在していましたので、自動的に人が移っていく仕組みがありましたが、今回の構想では、籍は自校に置いたまま、それぞれの大学の優れた手法や考え方を学び、一緒に双方のレベルアップに取り組むわけですから、また意味合いが異なるように思います。
そして、これが山形大学と立命館大学との連携だという点も、大学関係者の興味をひくところでしょう。
双方とも、学生のためのサービス水準向上に取り組んでいる大学であり、また職員による大学組織の活性化において、業界で注目されている大学です。
(立命館大学の方は、最近その評判を大きく落としてしまう出来事がありましたが、それでも実際の職員の方々に接してみると、学生のために行動する職員の行動力や情熱、パワーにおいて、APUも含めた立命館学園は業界屈指の水準にあると感じます)
今回の連携を受け、この両校からまた(派手ではないかも知れませんが)大学の教育水準を着実に上げていくような、注目すべき取り組みが生まれてくるのではと期待してしまいます。
こうした、学生のための大学改善アクションにおいて先頭集団をひた走っている大学が、職員同士の連携も含めた協定を結んだのですから、他大学は危機感を覚えるでしょう。
逆に「良い取り組みが出てきたら、うちも取り入れよう」という意味で、この連携に注目する大学もあるかもしれませんが、「仏作って魂入れず」は危険。金沢工大や立命館などが行った大学改革を、形だけ真似してみたものの、やっぱりあんまり機能していないという大学は少なくないでしょう。
いっそ、この両校の連携のように、優れた取り組みを行っている大学と職員同士の交流を行い、問題点を一緒に考え合うところから始める方が、結果的には大学を着実に良くしていくかも知れません。
結果だけでなく、アイディアを出して実行するまでのプロセスに注目してみてください。その点は、他大学にとっても、参考になる部分があるのではと思います。
そんなわけで、個人的には大いに注目すべき取り組みだと思うのですが、いかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
山形大学は学長が元文部科学省事務次官、立命館大学は副総長が元文部科学省の役人、という点にもふれるべきかと思います。また、山形大学の学長が「私学経営を学びたい」とコメントしたことなどは、立命館大学の「学生を金としか考えていないような経営」が問題視されていることを考えれば、むしろ不祥事としてこのニュースを取り上げるべきではないかと思います。