「Net割」は画期的ですが

受験に際し、Web経由で出願すると受験料を割り引く仕組みを導入する大学が、少しずつ増えてきています。
いくつかのメディアで紹介されていたので、大学業界の方々は既にご存じかも知れません。

全国でもいち早く今年度入試からネット割を導入した中京大(名古屋市)。出願者は前年より約3千人増えて約2万3千人になり、このうちネット出願者が9割を占めた。

来年度入試のネット割は、来年1月6日から受け付ける。ネット割をPRするテレビCMは、今年は東海地方だけでなく北陸地方にも広げた。

魅力は大幅な割引だ。ネット出願でも、1回の受験なら割引は5千円だが、「センター試験利用」など三つの受験方式を組み合わせると、最大7万円が2万5千円になる「3受験パック」を設けた。このパックを組み合わせて、たとえば五つの方式で受験すれば、11万5千円の受験料が3万5千円になる計算だ。

大学にとっては、検定料収入は減るが、記入の誤りが自動的にチェックできるため、人件費が減った。受験生は、受験票の写真を入試当日までに貼り付けて持参すればいいという。入試担当者は「受験生の家庭の経済環境がよくない中で、浮いたコストを受験生に還元できた」と話す。
「大学入試に「ネット割」 コスト削減、受験生に還元」(asahi.com)記事より)

書類で送られてきたものをデータ化して処理する作業には、大変な労力がかかります。
それが大学入試の出願書類ともなれば、ミスは許されません。

特に昨今では、出願者「数」をとにかく増加させる、というのが大学にとっての至上命題。
多くの大学が、数万名もの書類を処理しているはずです。
ちなみに、出願書類に不明点があった場合、受験生の家庭に電話で問い合わせるケースもあります。
(※対応の仕方は、大学によると思います)

統一入試のように複数の学科を併願できるタイプなど、入試制度の複雑化も進む中、出願情報の処理というのは大学経営上、捨て置けない問題だったことでしょう。

Web経由で、データを直接受け取る方法なら、大学側の事務的な負担は大幅に削減されます。
ミスが起きる確率も、限りなくゼロにできるはず。そうやって人件費が削減できた分を、受験料の値引きとして還元できれば、受験生にとっても大学にとっても、大きなメリットになりますね。

「インターネット出願」自体は、かなり前からありました。ただし以前は、受験生にとっては、郵送では出願が間に合わない際の「最後の手段」という位置づけというイメージもあったようで、それほど積極的には使われていなかったようです。

Webを介して手続きを行う、ということに、一般生活者が慣れてきたという要因もあるでしょうが、やはり中京大学のように、大幅な値引きと組み合わせたことが、普及の原因でしょう。

中京大学の、9割がWebによる出願というインパクトは、業界的にはとても大きいです。
おそらく今後、割引を伴うWeb出願の仕組みは、多くの大学で積極展開されると思います。

早稲田大学の財務担当理事として経営の健全化に携わった關昭太郎氏は、余計なコストをギリギリまで削減し、その金額を教育の充実に充てたそうですが、非営利組織こそリソースを最大限に有効活用して、本来の活動に活かす視点が大事ですね。
こういう合理化は、大いに推進すべきと思います。

(過去の関連記事)
■「早稲田再生」 大学の財務改革ケーススタディ

実際に各大学の「Net割」ページを見てみました。
前回から導入しただけあって、特に中京大学のページは良くできていたのですが、「3受験Pack」の説明には、色々と考えさせられる部分もありました。

■「Net割 <3受験Pack>」(中京大学)

あれ、ここSoftBankのサイトだったっけ、と思ってしまうようなテイスト。
「通常70,000円→25,000円」、という大胆な割引幅が目を引きます。

上記ページの下の方を見てみると、
「オススメ併願パターン」として、「国公立大学や有名私立大学が第一志望」のケースなどが紹介されていたり。
「難易度の異なる『階段型』の併願で、合格率アップへ!」として、3受験Packを使った出願ケースが提示されていたり。

「2回受けるよりも、3回受ける方が安くなる」
……という点を最大限に押し出して、3回の受験を強く勧めています。

出願機会をできるだけ増やして、合格者の囲い込みを行いたいという大学側の思いの強さが高まった結果、なんだかケータイキャリアみたいになってきました。

「Net割」は良いのですが、こうした複数回受験の促しには、ちょっと心配にもなります。

Net割に限らず、こうした複数出願を勧める戦略は、以前から多くの大学が採用しています。
経営上、当然の発想ですし、悪いとは思いません。

ただ、

「3回受けた方が安いから、もう1学科、出願してみようかな」

……といって受験する学科は、ミスマッチを起こしやすいだろうな、とは思います。
(見せ方によっては「抱き合わせ商品」のように見られてしまう可能性もありそうです)

複数回受験は以前からありますし、もちろん、ミスマッチを起こすかどうかは他の要因にもよるでしょう。
ただ、「Net割」の出願方法が極めて便利で、これから多くの大学に波及するだろうと思うだけに、これからは今まで以上に、ミスマッチのリスクを減らす相互理解の工夫が必要になるだろうな、と上記ページを見て感じました。

せっかくWebで出願できるのですから、

  <Web上で、必要な学びの情報を順番に、一通り伝える>
 →<出願手続きへ>

……という流れを、うまくサイト上につくってあげるといいかもしれません。

ちなみに冒頭でご紹介した記事では、以下のような事例も紹介されています。

日本福祉大(愛知県美浜町)は来年度入試から、願書を窓口に持ってきた受験生の受験料(3万5千円)を1万円割り引く「持参割」を始める。キャンパスだけでなく、山形県最上町から福岡市まで全国7カ所の地域オフィスで受け付ける。1月21、22の両日には、金沢市や広島市など延べ14カ所で「願書受付会」も開く。

願書提出の際には、大学職員が面談し、各学科の教育内容や就職実績、下宿などについて相談を受ける。割引の1万円は「わざわざ来ていただいた交通費」との位置づけだ。

ネット出願も受け付けてはいるが、入試担当者は「大学を一度も見ずに偏差値だけで入り、ミスマッチを起こすことがある。会って話をして、しっかり理解してから来てほしい」。
「大学入試に「ネット割」 コスト削減、受験生に還元」(asahi.com)記事より)

Webと対面、という点も対照的ですが、
「数を増やす」というNet割(3受験Pack)の発想と、
「ミスマッチを減らす」という「持参割」の発想も、見事に正反対です。

中退者も増えている中、今後の大学受験には、こうした相互理解・ミスマッチ解消の発想が必要不可欠になると、私はいつも考えています。
大学関係者は入試難易度、いわゆる偏差値の数字ばかりを気にしますが、受験者数偏重の考え方も行きすぎると、かえって経営や教育を不安定にしてしまう可能性があります。

Net割は画期的な仕組みです。他大学も、ぜひ導入されるといいでしょう。
ただ「3受験Pack」のような施策は、多くの受験者「数」を集めることを目的にしてしまいがちです。
本当の目的は、「その学科の教育環境にマッチした」入学者を集めることですよね。

こうした施策にこそきっと、(Web経由で出願をするにしても)上記の「持参割」が狙っているような、ミスマッチ解消の仕組みを合わせて構築することが、大事なのだろうと思います。