マイスターです。
巷でちょっと話題になっている大学向けサービスがありますので、ご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「『タダコピ』大学で人気 用紙の裏、広告で無料」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/national/update/1023/TKY200610230233.html
■タダコピ.COM
http://www.tadacopy.com/index.html
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首都圏の大学で、無料で利用できるコピー機「タダコピ」が人気を集めている。仕掛けたのは、学生のベンチャー企業。コピー用紙の裏面に企業広告を載せることで、コピー代をタダにした。4月、慶応大に置いたところ好評で、今では設置大学は九つになった。他の大学からも設置を求める声が上がっている。
一橋大(東京都国立市)構内のコピー室に18日、1台のコピー機がお目見えした。見かけは他のコピー機と変わらないが、違うのはプリぺイドカードの挿入口がなく、無料なこと。利用した学生は「タダはうれしい。ゼミなどでコピーに数千円かかることも多い。裏面の広告もデザインがいい」と驚いた様子だ。
この無料コピーを仕掛けたのは、慶応大や中央大などの学生5人が立ち上げた「株式会社オーシャナイズ」(同港区)。取締役で中央大商学部4年の永沢雄さんが「地元商店街の広告を載せて5円コピーを可能にする」という先輩のアイデアを引き継ぎ、無料コピーにふくらませた。昨秋、都内で開かれた、ある起業家コンテストで披露し優勝。会社を立ち上げ、今年4月、「タダコピ」の商標で慶応大に初めて設置した。
1枚10円かかるコピーをタダにできるのは、用紙の裏面にカラフルな企業広告を載せるからだ。企業から用紙1万枚分の広告掲載料として40万円を集めて設置費や印刷費などに充てる。用紙は裏写りしないよう厚めの紙を使い、広告をあらかじめ刷っておく。コストを抑えるため紙はA4判に限定、工夫を凝らした。
(上記記事より)
皆様の大学にも、既にあるかも知れませんね。
広告料をとって、何かを無料で利用できるようにする……というのは、広告業が得意とする発想です。「無料でコピー」というアイディア自体はおそらく様々な人々が何度か思いつき、企画書にしていたんだろうなと思います。
(マイスター自身、以前、これとかなり似たビジネスモデルの提案を目にしたことがあるくらいです。それは実現には至らなかったようですが)
ただ、それを、
大学生向けの広告媒体として、
大学キャンパスで配布する、
という組み合わせにしたあたり、この「タダコピ」はうまいと思います。
広告主にとって、最も大きな関心事は、費用対効果です。
費用対効果が高い媒体には広告を載せたいし、効果が低い媒体には(たとえそれがユニークであっても)まず広告なんて出しません。大手の企業ならなおさらです。
街中のコンビニに置いてあるコピー機で同じことを企画しても、企業はそう簡単には広告費を払ってくれないでしょう。どこの誰が目にするかわからない媒体に、そんなに広告費は出せませんからね。(出すとしたら、消費者金融くらいでしょうか?)
「タダコピ」の場合、「大学生が見る媒体」だと限定されているから、企業も行動に移しやすいというわけです。
■「協賛企業実績」(タダコピ.COM)
http://www.tadacopy.com/toha2.html
↑協賛企業をご覧ください。家庭教師派遣やカラオケ、就職支援など、いかにも大学向けといった企業が並んでいますね。
文房具や電化製品など、「生協に製品を卸している企業」も多いですね。コピー機はたいてい生協横にはありますから、なかなか効果的です。
マイスターはこの協賛企業リストを見て、
「なんだかんだ言っても、大学生を相手に商売をしている産業って結構あるんだよなぁ……」
と再認識しました。
大学生が消費活動の主役だったのははるか昔。「新人類世代」なんて呼ばれた人達が大学生だった頃です。マスメディアで大学生向けの広告をバンバン流しても、元が取れた時代です。
それが、今ではすっかり状況が変わりました。「高校生」が消費の中心として注目された時期もありましたが、それすらももはや過去の話。今の学生は、あまり派手なお金の使い方はしないようですので、製品を売り込むのもなかなか大変だと思います。下手に広告費をかけても元が取れませんから、企業にとって学生は今、取り組みにくい相手なんだと思います。
しかしそれでも就職支援などを始め、大学生をメインターゲットにしている産業も、それなりにあるんですよね。
そんな企業の担当者にとって、効率よく大学生だけに広告を配布できる「タダコピ」のような事業は魅力的に感じられただろうなぁと、上記の協賛リストを見ながらマイスターは思いました。
イベント参加者を募集する就職支援会社は「大学構内の掲示板では埋もれてしまうし、ビラをまけば捨てられてしまう。コピー用紙として学生の手元に残るのは有用だ」と期待を寄せる。都内の大手アパレル会社は「女子大生も対象の新規ブランドが、直接PRできる。コストも安く効率がいい」と契約を続けていく考えだという。(冒頭の記事より)
↑実際、こんな声も聞かれているようです。ニッチな広告媒体ですね。なんともうまい商品を考えたものだなぁと、感心します。
学生ベンチャーだそうですが、いいセンスをしています。
ついでに、「タダコピ」っていうネーミングも秀逸です。「これ、タダコピってくるわ」とか、「タダコピすればいいじゃん」とか、大学生が動詞として普通に会話に使いそうです。
また、大量にコピーした紙が大学生の手を渡って流通していくだろうということも、広告主にとっては魅力でしょう。
今後、全国に広まっていきそうなタダコピですが、しかし、問題点がないわけでもなさそうです。
まず、教育的な視点から言えば、気軽にコピーができてしまうということ自体が、なんだかちょっと心配です。
友達のノートを気軽にばりばりコピーしても、本人達には金銭的なダメージがありませんから、試験前のノート複製が今以上に気軽に行われることはまず間違いないでしょう。(実際、Asahi.comの記事にも、「試験前はかき入れ時」といった記述があります。そりゃあそうですよね)
また、図書館で借りた本などについても、「一冊丸ごとコピー」なんてことができてしまいます。著作権保護の点でも大いに心配です。生協で買った雑誌なども、その場でコピーしまくれちゃいますからね。
また、事業の経営の点でも、タダコピが乗り越えなければならない課題はあると思います。
一番大きな課題は、費用対効果の低下です。上記のように大学生達がコピーを「乱用」するようになれば、必然的に、一枚あたりの広告効果は下がりますよね。
かつて「知り合いに無料で葉書を送れる」という事業を考えたネット企業がありました。web上のフォームに送り先の住所と送りたい文面を入力すると、指定した送り先に広告つきの葉書が送られるというサービスでした。利用者にとっては葉書代と切手代が無料になるのと同じ。広告主にとっては、消費者達が知り合いにDMを送ってくれるのと同じというわけで、なかなか良くできたサービスでした。(知り合いのメッセージが入ったDMなら、すぐにゴミ箱に捨てるようなこともないでしょ?)
ただその事業は、すぐに消滅しました。理由ははっきりとはわかりませんが、無料葉書を乱用する個人や業者(!)が出てきたのと、広告効果が思ったより見られず、広告主が出稿してくれなくなったことなどが原因ではないかと思います。
このように、良くできた仕組みであっても、ちょっと油断すると、たちまち広告効果が低下し、顧客を失うことになりかねないのです。
企業が、「タダコピに広告を出しても、思ったほど広告費を回収できないなぁ」と思い始めたら、ピンチです。
ぱっと思いつくのは、上記の2点です。新しいビジネスモデルには、様々な苦難がつきもの。油断禁物ですので、お気をつけください。
このように、今後様々な課題を抱えそうではありますが、しかしタダコピが独創的で、皆に喜ばれるサービスモデルであるのは確かです。
例えば学生NPO団体がチラシを印刷したりするのも、タダコピなら無料で行えますよね。そのような非営利活動を支える心強い味方になると考えれば、社会的な意義も大きいでしょう。
また、タダコピの使い方次第では、結構面白いことを大学生に対して仕掛けられる気がします。
例えば貧困撲滅など、社会的に意義のある公共広告は一定数だけ無料で混ぜてあげる、なんてのはいかがでしょうか。今、社会意識の高い学生は少なくないですから、こうした取り組みで学生の関心を深めることができますし、タダコピの社会的なブランドイメージを高めることにもつながるかと思います。
あとは、期間限定のキャンペーンなんかも張れそうですよね。
例えばこれは思いつきですが、乳がん撲滅のピンクリボン運動と連動して、一定のキャンペーン期間中は全部、ピンク色の広告が出てくる、なんて取り組みも、その気になればできるかと思います。その期間中は、協賛企業の広告もピンクをベースにしたデザインに統一して、はじっこに企業のロゴと、ピンクリボンマークを入れる、なんて感じです。キャンペーンの間は、キャンパスの教室という教室が、自然にピンクだらけになると思います。コピー機の設置場所が大学キャンパス内に固定されているタダコピだからこそ可能な、局地的キャンペーンです。
大学キャンパスというステージで、こういったメッセージ性を絡めた企業広報活動を展開できるというのは企業にとっては大きな魅力のはずですから、絶対に数社は乗ってくると思います。
こういった取り組みをたまに行うと、広告媒体としてのタダコピの価値も保たれるというものです。社会的な意義を持たせつつ、ちゃっかり商売の上でもメリットにできたら面白いですよね。
便利なサービスである上、様々な人々を刺激する面白いメディアでもある。
なんとなくタダコピには、そういう位置づけのメディアになれる可能性があるような気がします。
できればしぶとく生き延びて、定着するサービスになって欲しいです。
以上、マイスターでした。
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(参考)
■「10/25 学生向け0円コピー『タダコピ』」(ひろの日記帳@International Cafeteria)
http://hiro.intlcafe.info/item/1827
■「無料でコピー『タダコピ』」(大学職員.net -Blog/News-)
http://blog.university-staff.net/archives/2006/1026/0010post_670.html
終盤の思いつきのくだり、何時もながらさえてますね~。さすがです!
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