マイスターです。
修士と学士の学位を持っております。その他にも、なんだか色々な証明書が家にあります。
修士の学位記をもらった際、一緒に付いてきたサーティフィケートがその一つ。大学院が定める一定の単位条件を満たすと「あなたはこの分野において一定の能力を持っている」という証明書を出してくれるという制度があったのです。その証明書がサーティフィケートです。
マイスターの場合、「修士(政策・メディア)」に加え、「環境デザイン・サーティフィケート」がもらえました。
その他、各種のセミナーや公開講座に参加した際の「参加証明書」もいつの間にかたまってきています。大学職員向けの勉強会などでもらったもので、確か「5回の講座のうち3回以上に出席した人に発行する」みたいなルールがあったと思いました。発行者は、企業だったり大学だったり、色々です。
このように、履歴書に書けるような書けないような、微妙な位置づけの証明書を、マイスターはいくつか持っています。
というか今では、色々な団体が各自で勝手に(?)こういった証明書を出していますよね。お金や時間を使って参加する以上、「参加して良かった!」と参加者が感じられるような、何か形に残る成果を差し上げたい。そんな意図もあるのでしょう。
多くの場合、こうしたオリジナル証明書の発行者は
「今はまだこれはただの紙切れですが、そのうち、価値を持つ日が来ると思います」
といったことをコメントされます。その言葉を信じて、マイスターもいただいた証明書はすべて大切に保管しているのですが、今のところ何かの役に立ったものは一つとしてありません。
時間が経つにつれて価値が上がっていく……と信じていていいのでしょうか。なんとなく、発行した側の方々もすでにこの紙切れの存在を忘れているような気がするのですが。
さて本日は、↓こんな報道をご紹介したいと思います。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「文科省、大学の『公開講座』てこ入れ・社会人の学び支援」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20070217AT1G1602H16022007.html
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文部科学省は、社会人が学べる大学の「公開講座」の開設と質の向上を後押しする。大学が公開講座の修了生に独自に与えている「履修証明」を法律で制度化し、公的な資格と位置づけたうえ、優れた内容の講座への補助金の拡充を検討中。履修証明を出す大学・短大は現在、全体の2%にすぎないため、普及に弾みをつけたい考えだ。
履修証明は公開講座で大学が定める数の科目などを修了した人に与えられる。大学で学んだ成果の証しという点では学部卒業者の学士号、大学院修了者の修士、博士号と同じだが、これらの学位と異なり、履修証明の授与は法律上、大学の業務と定められていない。文科省の2005年度調査では、社会人も履修できる公開講座の修了生に履修証明を与えているのは大学・短大の2.1%にとどまる。
(上記記事より)
今では非常に多くの大学が、一般市民向けの「公開講座」を用意しています。「エクステンションセンター」など、公開講座の企画運営を手がける部門を持っている大学も少なくないでしょう。
大学が立地する地域の歴史を解説したり、古文書の読み方を学んだりといった教養系の講座から、ビジネスマン向けの経営戦略セミナー、技術者向けのワークショップといったキャリアアップ系のセミナーまで、公開講座の内容は色々です。レベルも老若男女誰もが参加できる初級者向けから、その分野の第一線で活躍しているプロフェッショナル向けのものまで、幅広く存在しています。
今回の報道によれば、そんな公開講座の開設と質の向上を後押しすることが、文科省のねらいのようです。各大学が独自に発行している「履修証明」をちゃんと法律で制度化し、大学の正式な業務の一つに規定してあげましょうというのが施策の内容です。
マイスターが持っているような紙切れの中には「これ、ほんとに公的な書類として認められるの?」と疑わしくなるような手作り感覚のものがいくつかありますが、今後はそのあたりも、もうちょっときちんと整理されるのでしょう。
公開講座を広めていく上で、こうした法制化は、確かに欠かせない大事なステップの一つであると思います。一歩前進ですね。
しかしながら、法制化したら大学の公開講座が増えるかというと、それはちょっと違うと思います。ここは注意が必要です。
仮に公開講座の証明書が「公のお墨付き」になったとして、それを一体誰に見せるのでしょうか。
証明書というのは、証明する相手がいてこそ、初めて価値を持つものです。
見せる相手が変わらなければ、証明書の価値も結局は変わらないままです。
(中には「自分自身の成長の証として証明書を集めている」という人もいるかも知れませんが、そういう方は法制化しなくても公開講座に行くように思います)
「公開講座の修了生に履修証明を与えているのは大学・短大の2.1%にとどまる」と記事にはありますが、それは、公開講座への参加を評価してくれる人や組織が世の中にはほとんど皆無だからではないでしょうか。
つまり「公式な証明書じゃないから価値を持たない」のではなく、「公開講座に参加したという事実が評価されないと誰もが知っているから、誰もわざわざ証明書を出したりしないし、参加者もいちいち証明書を要求しない」のだとマイスターは思います。
なんだかニワトリが先かタマゴが先か、みたいな話にも思えます。でも、公開講座の証明書が法制化されたからといって、急に企業などが「おぉ、あの公開講座に行ってきたのか、あなたは能力がある方だ」と思ってくれるようになるとは、マイスターにはあんまり思えないのです。なにしろ、歴史ある日本企業では未だに、アメリカのMBAですら自己啓発程度にしか評価しないところだって少なくないのですから。
こうした状況が変わらない限り、公開講座の証明書を法制化したところで、一時的にしか公開講座の参加者は増えないように思います。まずは、社会が評価せざるを得ないような内容の公開講座を数多く企画することが先ではないでしょうか。
それと、そもそも大学の方は、本当に公開講座の参加者を増やしたいと思っているのでしょうか。
どちらかというと大学の公開講座の多くは、教養的な内容であることが多いようにマイスターは思います。大学側は「一部の方々しか参加できない内容よりは、教養的な内容にした方が、広く一般に向けての貢献になってよい」等といった視点に基づき、教養系講座を多目に開講しているのかなと思います。これは大切な視点です。
しかし教養系講座が多い理由はそれだけではない気もします。例えば
●本格的なキャリアアップ講座だと一回で完結させるのは難しく、どうしても連続セミナーのような形になってしまい講師の負担が大きくなる。事務局から教員に対して講師の依頼を行いにくい。そこで、一回だけでも内容がある程度組み立てられ、講師の融通もしやすい教養系の内容が多くなる。
●キャリアアップを目的とする内容だと、「役に立つか立たないか」をシビアに考えたカリキュラムにしないとお客さんが集まらないので、「まずカリキュラムありき」の内容になる。
一方教養系だと、「○○先生、今度、何かしゃべってくれませんか?」「じゃあ、最近は○○について個人的に調べているところだから、そのあたりの内容にしましょう」といったように、「まず講師ありき」の形で企画を進められるので、やはり事務局から依頼を出しやすい。●キャリアアップ系の内容で多数の参加者を集めようとすると、ターゲット層の絞り込みやPRの方法などを吟味しなければならないし、常日頃から情報を収集しておく必要も出てくる。
その点、教養型の内容なら「とりあえずビラやポスターを数多くバラまく」という方法でも一定数の人数を集められるし、仮に集まらなかった場合でも企画部門の戦略のせいにされにくい。
……といった大学側の都合も、多分にあるのではありませんか。
例えば子育てや介護などについての知識なんかも、単なる教養のレベルから、最新の研究成果をふまえたハイレベルな実践的内容までを順次紹介していく、連続セミナーの形で企画できそうな気がするのですが、案外、そういうものはあまり見かけません。企画する側の負担が大きすぎるものは避けたい……そんな考えが影響していることも、ときにあるのではないかな、とマイスターはたまに感じます。
現在の大学の公開講座のほとんどは、忙しいときに出かける必然性のない内容です。社会人にとっては「余暇の時間の使い方のひとつ」という認識でしょう。そして大学側も、それでいいと考えている方が多いように思います。しかしこれでは、講座の履修証明に価値が出るわけもありません。
もし、社会人の公開講座参加者を増やし、また公開講座の履修証明に価値を持たせたいのであれば、「忙しくても行きたくなる」という状況を作ることが何よりも効果的だと思います。
参加することでプロフェッショナルとしての能力を高めたり、新たな技術を獲得したり、結果的にキャリアアップにつなげたりといったことが参加者から期待される「実用的」「専門的」「キャリアアップ目的」な公開講座を増やしたら、履修証明に対する世の中の見方も違ってくると思うのですが、大学側はそこまでの覚悟と準備をされていますでしょうか。
証明書の法制化云々より、その辺りの認識を変えることの方が先なんじゃないかな、と個人的には思ったりもします。
制度が整備されていくのをただ待っているだけではなく、こちらから意識を変え、先手を打って様々な工夫を行っていくという姿勢が大学の公開講座に求められているのではないでしょうか。
以上、マイスターでした。
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(過去の関連記事)
・『プロフェッショナルスクール アメリカの専門職養成』
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50076030.html