マイスターです。
大学時代、寮で生活した経験を持つ人が、身近にいます。
色々と集団生活の息苦しさや大変さもあったものの、それらを通じて得られたものの方が大きい、とその人は話します。
プライベートな話題を共有したり、深い議論をしたり、ときにはぶつかりあったり、またときには一緒にバカな企画を楽しんだり。寮での密なコミュニケーションを通じて、一生モノの人間関係を築けたと言います。
マイスターも、自分が高校生、大学生の時には寮に入りたいなんて思いもしなかったのですが、大人になってから、「どこかで一度、寮生活を体験してみたかったなぁ」と少し後悔しています。
やってみるまでは抵抗感もあるけれど、やった人はみんな口々に良かったと言う、それが寮生活というもののようです。
さて、この「寮生活」を、積極的に教育に取り入れようとする大学が増えています。
【今日の大学関連ニュース】
■「学生寮 交流のススメ」(Asahi.com)
地方出身の学生を経済的に支えるというイメージが強かった、大学の学生寮の役割が見直されている。留学生増を打ち出す大学では、受け皿にするとともに、日本人学生との国際交流の拠点にすることを目指す。人格形成のため全寮制を敷くなど、「教育」の場として位置づける大学も増えている。
慶応大の下田国際学生寮(横浜市)は06年に設立された。留学生約120人と体育会の日本人学生約200人が住む。留学生と日本人の棟は別だが、年に7回程度、大規模な交流会を開いている。
(略)慶大はこのほか、民間業者と提携して百数十人規模の寮を造り、入居者の3人に1人は留学生にすることも検討している。湘南藤沢キャンパスでは11年をめどに寮を建設し、日本人学生と留学生、教員らが一定期間、共同生活を送る計画もある。
早稲田大は来年、日本人学生と留学生が一緒に住む900人規模の寮を東京・中野に着工予定だ。5年以内に留学生を8千人に増やす目標を掲げているが、現在の寮は1500人分しかないからだ。
この寮は単なる留学生の受け皿にとどまらない。留学生を含む4人が1組で、寝室は個室だが居間などは4人共同。学生同士が助け合い、引きこもりを防ぐとともに、異文化交流を進めるのが目的だ。入寮は原則的に2年生までとし、自立を促す。
(略)留学生と日本人学生の交流を目的とする寮は、南山大(名古屋市)が先駆けだ。99年から留学生3人と日本人1人が4LDKで共同生活を送るタイプの寮を開いている。面接で選考しなければいけないほど入居希望者が多いという。
(上記記事より)
例えばこちら。
留学生と日本人学生とが、同じ寮で共同生活を送るという環境を大学が作っています。
24時間が、きれいごとナシの国際交流です。
何しろ生活を共にしているわけですから、「えっ、そんなことしちゃうの?」とか、「そんな考え方なんだ!?」とか、ビックリしてしまうようなこともあるでしょう。
初めはカルチャーショックの連続だと思います。
でも、意気投合したり、意見が違ったりと密なコミュニケーションをしているうちに、段々と「きれいごとナシの国際感覚」が身に付いてくるのではないかと思います。
留学生との交流ということで、↓こんな事例も見つけました。
■「APハウスについて」(立命館アジア太平洋大学)
■「APハウスが新しくなりました」(立命館アジア太平洋大学)
81カ国から学生を集め、全学生の4割以上を国際学生が占める立命館アジア太平洋大学。
当然、学生寮も大規模。おそらく中は、人種のるつぼです。
RA、ハウスマスターなど、色々と工夫もされているようですね。
以前、APUの方に
「国際学生は、生活の中で色々とわからないことなども多いと思うのですが、サポートはどうされているんですか?」
と質問したことがあります。
例えば、宗教上の理由から戒律に則った食材でないと食べられない学生がいるとすると、それがどこで売っているかとか、細かなケアが必要になってきます。
こうしたケアに対応できるかわからないということで、多くの大学が、留学生を増やすことに二の足を踏んでいるのです。
答えは、
「APハウス(学生寮)の中に数多くの学生コミュニティが存在しているので、基本的にはそこでほとんど解決されます」
とのことでした。
例えばある国際学生が、イスラム教徒用の食材を探そうと思って困ったとしたら、既にAPハウスに住んでいるイスラム教徒の先輩達に聞けばいいのです。
そういった情報は、むしろ学生の間に蓄積されているので、お互いに自分達で助け合い、教え合えばいいというわけです。
目からウロコでした。
さて、このように国際交流の場としての寮が注目されていますが、それだけではありません。
寮生活を重要な教育のひとつとして位置づける、様々な取り組みが行われています。
秀明大(千葉県八千代市)は今年開設した学校教師学部を全寮制にした。嘉部好修(かべ・よしのぶ)学部長は「かつての師範学校も全寮制だった。昨今は教員の不祥事が問題になっており、対人関係能力や自分を律する力を身につけさせたい」と話す。後発大学として、力のある学生に育て、教員採用試験で結果を出したいという思いが背景にある。
(略)新入生に一定期間の寮生活を課す大学もある。医系4学部からなる昭和大(東京)の1年生は全員、山梨県の富士吉田キャンパスで、各学部1人ずつ4人が同室の寮生活を送る。医療に携わるにあたって必要な協調性や思いやりを培うのが目的という。
東京理科大の基礎工学部は、1年次に北海道長万部キャンパスで全寮制の「全人教養教育」をしている。豊田工業大(名古屋市)も1年男子は全寮制。やはり人間性やコミュニケーション能力を養うのがねらいだ。
(上記記事より)
東京理科大学、豊田工業大学、昭和大学の取り組みは、以前からよく知られていると思います。
例えば記事にもありますが、昭和大学の取り組みなどは非常に興味深いです。
昭和大学は、医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部の4学部で構成されるのですが、それらの学部の1年生1人ずつを1部屋に集め、1年間、4人で共同生活させるのです。
これは、全学生が必修です。
医療の現場では、医師だけでなく、薬剤師や看護師、栄養士など様々なスペシャリストがチームで患者をケアする「チーム医療」という考え方が重要になってきています。
しかし世の中には、まだまだ医師が他のスタッフを軽視していたり、チーム内で意見を言い合う空気がなかったりという現場も少なくないと聞きます。
昭和大学のような環境は、お互いに専門が異なる上での意見を尊重する医療人を育成する上で、有効なんじゃないかと思います。
また他の専門家の友人が沢山できることは、自分が将来医療の現場に出た後も、大いに役立つのではないでしょうか。
同様の取り組みは、岩手医科大学でも行っているようです。
■「学生寮で深める友情 岩手医大・矢巾キャンパス」(岩手日報)
秀明大学の学校教師学部も全寮制。
教師にこそバランスの取れた人格形成が必要、というコンセプトには共感できます。
こちらは、4年間寮生活を送るということで、結構長いです。
Q:寮の具体的な規則(門限、他室訪問、外泊など)を教えてください?
A:寮生活で最も大切なことは生命と安全を守ること、他の人に迷惑をかけないことです。その観点から飲酒、喫煙は厳禁です。門限は23時です。それまでに点呼を済ませ、以後は他室への訪問は自粛してもらいます。自宅以外への外泊は、保護者の了解のもとに認められています。
(「秀明大学『学校教師学部』についてのQ&A」(秀明大学)より)
……と、なかなか厳格。高校生の寮のようです。
この大学の教育コンセプトが表れているのかな、と思います。
以上、まだまだ優れた事例はあると思います。
寮生活と言っても大学によって色々違いはありますので、受験生の方は各自、受験前に大学に問い合わせてみてください。
最後の秀明大学は特にそうですが、寮のあり方には、その大学の教育理念が強く反映されるように思います。その理念に共感できるかどうか、自分がそこで成長できるかどうかといった点を見極めた上での入寮をお勧めします。
一人ぐらしというのは、卒業してからも、その気になれば結構できます。
しかし寮生活の機会は、一般的には学生の時くらいしかありません。
面倒くさそうと思って敬遠する受験生もいるかもしれませんが、多くの大学の場合、必修と言ってもせいぜい1年程度。
個人的には、一度くらい寮生活をするのもいいのではないかと思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。