母校を語れる広報スタッフを増やそう

マイスターです。

大学の広報はどうも魅力的でない。
大学関係・メディア関係の方で、そう指摘する人は少なくありません。

個人的には、すべての大学がそうだとは思いませんが、ただ確かにパンフレットを読んでもオープンキャンパスに行っても、あまり魅力的に思えない大学というのはあります。
「広報物を見ても、広報課や入試課の方に話を聞いても、どんな教育をしている大学なのか結局よくわからなかった」というときに、特にそう感じます。

例えば工科系の大学を訪問し、入試課や広報課の方に、授業の内容や研究の内容について質問してみたとします。
すると多くの場合、ちょっと具体的な質問をすると、すぐ答えていただけなくなります。
どんな授業が行われているかについて、まったくと言って良いほど、職員の方がご存じないのが原因です。

以前、ある工科系大学の広報課職員の方に、

「この大学の授業を受けてみたことはありますか?」

と尋ねてみたことがあります。

「自分は文系なのでちょっと……」

という答えが返ってきました。つまり、授業を受けたことがないのです。

もちろん、すべての学科の、すべての授業を受けろとは言いません。ただ、「工科系の授業ってこんなもの」というイメージすらお持ちでないので、大学の説明が、いつまで聞いていても具体的な像を結んでいかないのです。
文系出身の職員でも、教員や学生に話を聞いたり教員の書いた本を読んだりすれば、その学問のおおよそのイメージは語れるようになると思うのですが、それすらしていない方が少なくなく、たまにビックリします。

結果、何が起こるでしょうか。
オープンキャンパスなら多くの場合、同じ会場内に教員による相談ブースもありますからそちらに誘導すればいいのですが、怖いのは、職員だけで出かける合同の進学説明会。

マイスターもたまに説明会に出かけてみたりしますが、高校生に対して、ひたすら入試方式や就職率、新しく作った施設などの話ばかりをするブースが非常に多いです。

高校生は、具体的な授業の様子や、その学問の楽しさ、難しさなどを知りたがっているのです。
しかし見事なまでに大学側のスタッフは、入試方式の話しかしません。おそらく、それしか語れないのだと思います。たまに教員もブースに座っている場合がありますが、自分の所属する学科以外の話になるとアウトです。

これは非常にもったいない。
せっかくいい教育や研究をしていたとしても、入試広報の最前線に立つ人がそれを魅力的に語れなければ、残念ながら受験生には知られません。
多くの大学が抱える、最も根本的で深刻な問題はこれだと、マイスターはいつも思っています。

さて、そんなわけで前フリが長くなりましたが、今日はこんな話題をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「タマビとムサビから美大を知る -ムサビから見たタマビ タマビから見たムサビ-」(武蔵野美術大学)

●日時:15日(日)11:00-12:30(10:30開場)
●場所:1号館1F 104(第2講義室)
多摩美術大学 企画課・米山ケンイチと武蔵野美術大学 企画広報課の手羽イチロウは両大学のOBであり、それぞれの大学の広報スタッフとして相談会や高校説明会、予備校説明会にて多くの受験生・教員・保護者と接している。
そんな二人がタマビムサビの垣根を越え、それぞれの視点から両大学のこと、そして美大についてざっくばらんにトークショー形式で熱く語る。
ムサビタマビの初コラボ!
*協力・・・多摩美術大学
●プロフィール:
・米山ケンイチ(多摩美術大学美術学部芸術学科卒 企画広報部企画課在職、静岡県出身)
・手羽イチロウ(武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒 企画部企画広報課在職、福岡県出身)
(上記ページより)

これは、武蔵野美術大学のオープンキャンパスの企画。
武蔵野美術大学と、多摩美術大学の職員がコラボしながら、両大学について、美大について語るというものです。
お二人とも、それぞれの大学を卒業された方だという点がポイント。

この企画については、マイスターがいつも読んでいるブログ「ムサビ日記 -広報の手羽-」で詳しく紹介されています。

●ムサビでライバル校のタマビが話をする。しかもオープンキャンパスで
●教員ではなく、広報スタッフがトークショーをやる。

大学関係者ならより「ありえそうでありえない企画」「やれそうでやれない企画」かがわかってもらえるはずです(笑)
(略)ムサビやタマビの歴史なら、長く学校に勤めてる教員の方がよく知ってるはずだし、各学科の詳細や理念は、その学科の主任教授に聞くのが早いです。
輝かしい美大の未来や美術教育の理想を語るのであれば、学長対談が一般的でしょう。
でも、「高校生から見た美大」「高校教員・予備校講師から見た美大」「受験業界から見た美大」「他美大広報から見た美大」な客観的な情報を持っているのは、年間100以上の高校や予備校説明会、美大説明会に参加してる私達広報スタッフです。
なおかつ客観的な情報から「母校」であるタマビムサビ、そしてリアルな美大のことを語れるのは、恐らく米山さんと私しかいません。
「タマビとムサビから見た美大」(ムサビ日記 -広報の手羽-)
より)

母校で学び、その楽しさや大変さを体験し、かつ、普段からそれを外に向かって語っている広報担当スタッフ同士のトークショー。
こんな企画があればいいのに、とマイスターが思っていたものがここに。

美大なんて、それこそマイスターのように美大に縁が無かった人にとっては、外面的なことしかわからない世界です。
一応、いくつかの美大の資料は読んでおりますし、「ハチミツとクローバー」は全巻、堪能させていただきましたが、そのくらいのイメージしか持ち合わせていません。学びの具体的な内容や、その魅力を語れるかというと、とても卒業生には敵いません。まして、それを普段から仕事にしている方と比べたら、なおさらです。
(ちなみに早稲田塾の場合、進路指導上こういう人の話が必要なときは、美大出のスタッフや、美大に通っている先輩を連れてきたりします)

こういう企画が色々な大学でもっと行われてもいいのに、と思います。
そうしたらもうちょっと、外面的でない大学の案内ができるようになるのではないでしょうか。

というか、各大学とも、母校出身のスタッフをもっと武器にしていいのではないでしょうか。

人文・社会科学系の大学には比較的、卒業生職員が多く在籍していますが、理工系になると、それがぐっと減ります。元々、大学職員になろうという学生が少ないのでしょうから、無理もありません。
ただ、まったくいないというわけではなく、どの大学にも数人は、必ずいます。
そういう職員の方は、わりと裏方に配属されていたりしますが、個人的には入試や広報、教務といった、卒業生ならではの体験が活きる部署にも必ず数人はいるようにした方が良いのではと思います。

理工系だけではなく、美大や音大もそうですし、海洋学部や神学、仏教学部といった特殊な学部もそうです。教養学部なんてのも、わかりやすいようで、実はあんまり高校生が具体的に内容を想像できない学部です。
こうした学部を説明するとき、実際にその学部に通っていたスタッフが一人いるだけで、高校生に語る言葉がかなり違ってくるのではないかと思うのです。

(本当は、医学部や歯学部、看護学部、獣医学部なんてのもそうなんですが……これは難しいでしょうか。でも最近は医学の修士課程なんてのもありますし、スタッフが何人か授業を受けてみるというのも手ですよ)

というわけで、今回のムサビとタマビの共同企画は、そんな「生きた広報」の参考になるのではないでしょうか。
美大志望の受験生はもちろんですが、大学関係者の方々も参加されてみると、ヒントが得られるかもしれませんよ。
ライバル大学とコラボできる(そして当局がそれを許す)大胆さと企画力実現力も、ぜひ参考にしてみてください。このくらいの方が、絶対に高校生の進路選択にも刺激を与えられるんですから。

以上、マイスターでした。

———————-
※ちなみに、上でご紹介したブログ

■ムサビ日記 -広報の手羽-

これ自体が、武蔵野美術大学の日常についての、膨大な情報アーカイブになっています。
入学後に学生さんが抱えがちな悩みについて解説されていたり、ムサビのキャンパスで開催されるイベントや、学生が取り組んでいる課題を紹介していたり、受験生向けの情報があったりして、おそらく事実上、日本で最も充実した美大案内です。

さらにこのブログを執筆されている手羽さんは、ムサビの学生さんを巻き込んで、ブログの集合体「ムサビコム」を立ち上げています。

■ムサビコム

本にもなりました。

こちらは、各学科ごとの学生さんによる日記が参考になります。
課題で悩んだり、授業でわくわくしたり、そんな美大生達の日常の様子が、読んでいて楽しいです。
美術・デザイン関係への進学を考えている高校生の皆さんにオススメです。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

4 件のコメント

  • 高校の進路指導部を長年つとめて、もどかしかったことを明快に語っていただき有り難く思います。このブログは大学関係者もかなり読んでおられるはず。考える方は考えてくださるでしょう。説明会で入試方法や入試問題の話をしても余り意味はないのです(そういうデータは模試や高校進路指導部のストックされたデータで生徒は入手できる)。施設面の話はパンフレットを読めばわかる。就職についてもしかりです。生徒は熱心に聞いていたじゃないか、と思うかも知れませんが、受験するかも知れない大学の関係者の話だから聞かないわけにはいかないので頑張って聞く姿勢を見せているのです。仰る通り、生徒が必要としているのは、どういう学問・研究ができるか、ということをできるだけリアルに知ることだと思います(付随して、その大学での学問がどういう自分の将来に結びつく可能性があるか、ということもありますが、それを気にする生徒は意外に少ない実感がある)。少しでも理解してくれる大学関係者が増えてくれれば有り難いと思います。私大に多いですが、広報予算を増やして、それで事足れり、という大学が多すぎるような気がします(それに、広報関係を広告会社などにビジョンもなく丸投げしている所も多いのでは)。だから意外にお金がない国公立大学に努力して考えて大学のよさを絞り出して上手くないなりに真面目にPRしていていい印象の学校が多いです。余談ですがこちらは卒業生から実際に進学した感想や受験の感想、大学の情報などをかなり聞いていてストックしていて指導上の参考にしています。大学側はよく卒業生が遊びに来てコミュニケーションをとっているような高校の進路指導部と綿密にコンタクトをとって自分の学校がどう言われているか、卒業生から評価の高い大学はどういう特徴があるのか、など丹念に情報を集めると戦略上良いのではないかと思います。大学評価を学生にとっても意外に本音は出ないかも知れません。

  • ご紹介ありがとうございます。
    ちなみに、「はちみつとクローバー」ではなく「ハチミツとクローバー」です(笑)

  • ぞうさんさま>
    マイスターです。
    コメントありがとうございます。
    この記事には、大学の方からもご賛同の意見をいくつかいただけました。
    自分が受験生の時はこうだったな……ということも思い返しつつ書いたのですが、説明する側にまわると、気が回らなくなるものなのですね。
    具体的にどんな取り組みが考えられそうか、自分でも考えてみたいと思います。
    また、ご意見、ご感想いただければと思います。よろしくお願いいたします。

  • 広報の手羽さま>
    こんにちは。
    いつもブログ、楽しみにしています!
    そしてご指摘、ありがとうございました!
    作品名を間違えてしまってはいけませんね……教えていただいて、助かりました。
    さっそく、修正いたしました。
    今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。