大学職員養成大学院に行きたいか?

今日は、桜美林大学のシンポジウムに行ってました。マイスターです。

■ 「大学プロ経営者&職員育成をどうするか―大学院プログラムの課題―」(主催:桜美林大学大学院国際学研究科大学アドミニストレーション専攻)
http://www.obirin.ac.jp/headline/0245.html

○桜美林大学、大学アドミニストレーション専攻
○東京大学、大学経営・政策コース
○立命館大学、大学行政研究・研修センター
○名城大学、大学・学校づくり研究科

と、各研究科の関係者からそれぞれ、大学職員養成プログラムに関して説明を受けられ、面白かったです。

名城大学の「大学・学校づくり研究科」のことは、実は今日初めて知ったのですが、初等中等教育の関係者や、学校経営に関するコンサルタントなどを目指される方にもいいかも知れません。

チャータースクールを研究していたマイスターとしては、何よりもまず名前に惹かれます。学校づくり研究科。

さて、シンポジウムでは、それぞれのパネラーから大学職員養成についての考えを聞くことができ、非常に有意義でした。

ただ、一点だけ、個人的に不満な部分もありました。

シンポジウムのコメンテーターとして、リクルート『カレッジマネジメント』編集室の方がいらしていて、こんな趣旨の質問を各パネラーにされたのですね。

○大学職員育成大学院の卒業生の、キャリアモデルとしては、どのようなものをお考えか?

○大学職員のレベルアップの場としての「大学院」のプログラムというのは、どう位置づけられるのか?各種の研修や、専門学校などと異なるところはどこか?
またMBAの非営利組織コースなど比べての特色や優位性はどこにあるのか?

で、マイスターが聞いていた限り、どのパネラーの方もこの質問に明確に回答できていなかったのです。

非常に残念でした。
実はマイスターも、今回のシンポジウムではそこが一番知りたかったのです。

「一体どこの誰が、どんな目的や希望を持って、この大学院に高い金を出して通うのか?」

という、最も根本的な問いだと思うのですが、全員、あいまいにしか答えられないというのは意外でした。

さらに、衝撃の事実も明かされました。
大学職員養成機関の先駆けとなった

「桜美林大学大学院大学アドミニストレーション専攻」

の入学人数、現時点であんまりふるわないらしいのです。

■「大学院国際学研究科 入試結果一覧」(桜美林大学)
http://www.obirin.ac.jp/graduateschool/330/339.html

↑こちらに、入試データがあります。
(公表されているデータですから、別に衝撃の事実でもなんでもなかったんですね…)

大学アドミニストレーション専攻の入試は、<7月、9月(学内選抜のみ)、12月、2月>の計4回らしいのですが、定員20名に対して、学外からの志願者が15名しかいません(通学課程)。
公開されている入試データでは、志願者全員が合格になっています。

今回のシンポジウムで、桜美林のパネラーの方自身、

○大学職員を対象にしたアンケート調査の結果では、「大学院教育による、大学職員の養成」に興味を持っている方は50%超存在している。
○しかし現実として、桜美林の大学アドミニストレーション専攻は、定員を満たす志願者を学外から集められていない。

と発言されていました。

マイスターも、そのアンケート調査の結果は知っています。
それだけに、こうした入学者不足の実態は聞き捨てなりません。

桜美林の大学アドミニストレーション専攻は、マイスターが思うに、よだれが出るくらい豪華な講師陣です。
カリキュラム表やシラバスを見ても、非常に魅力的なプログラムだと思います。
その桜美林で、志願者不足かい!と驚いてしまったのです。

しかしもっと驚きなのは、

○世の中の大学職員の半数は、大学職員養成大学院にそれなりの期待と興味を持っている(らしい)。

  ↓

○しかし現実には、非常に魅力的に思われる大学職員養成大学院でも、20人の定員を集められていない。

  ↓

○でも、今後、ぞくぞくと各地で大学職員養成大学院ができることになっている。

っていうこのヤバイ流れがある中で、前述したように、

「一体どこの誰が、どんな目的や希望を持って、この大学院に高い金を出して通うのか?」

という根本的な、事業スタート地点で考えるべき疑問に対して、各大学院の関係者の方々が、誰も明確に答えられなかったという事実です。

これって、かなり深刻な事態だと思うんですが…。

別に、今現在、志願者がいないからといって、大学院を作るなとは思いません。
むしろ、大学職員養成の大学院には、今後ブレークして欲しいと思ってます。

でも、勢いだけで大学院を次々に作るのもどうかなと思うわけなのです。
かなり、心配です。

各大学院ごとにカリキュラムの違いはある、だから、それぞれの大学院が今後順調に志願者を増やしていくことはあり得る…という意見もあるでしょう。
マイスターも実際に各校のカリキュラムを見ました。

しかし、プロデューサーの冷徹な視点で言わせていただくと、「違いがある」と思っているのは内部の関係者達だけで、外から見たらその違いはほとんど理解されないと思います。

ちょっとだけ話がそれますが、

これはマイスターがプロデューサーだった時代に、民間の大企業の仕事ぶりを見ていて気づいたことなのですが、「自分たちは時代の先端を行っている!」と自分で思っている組織ほど、自分たちの商品が実は競合他社のそれとあんまり変わらないんだということに気づかないものなのですね。

関係者である自分は、自社の商品について何でも知っていますし、それが競合他社のものとどう異なるのか、明確に説明できます。
それで、「お客さんもきっと、自分たちの商品について同じくらい詳しいだろう」と思ってしまうのです。

でも、お客さんのほとんどは、実はそんなにあなたの組織の商品のことを知らないし、知りたいとも思っていないのです。

でも、商品を開発した当事者達は、それに気づかないのです。
熱病に浮かされたような状態です。

現場出身のスタッフは、商品開発側の気持ちを共有しますから、往々にしてこうした熱病状態に気づきません。
で、こういうとき暴走を止めるのが、現場ではなく消費者側の視点に立って、クール&ドライに物事を判断する「プロデューサー」の役目です。

現場を知っているたたき上げのスタッフが常にいいとは限らない、という好例です。

話を戻します。

これまでは、桜美林大学にしか大学職員養成大学院はありませんでしたが、今後は、各地に同様の大学院が開設されるでしょう。
いずれ桜美林の講師陣も、少しずつ全国に散っていくと思います。
そうなると、なおさら違いは無くなってきます。

各校が十分に競合と自分たちを(お客さんにわかるくらいのレベルで)差別化できるのかどうか、現段階ではちょっと疑わしく感じます。

どこのどんな人が、どんな思惑を持って、大学職員養成大学院に通うのか?

そのあたりを、もうちょっと突き詰めて考えた方がいいんじゃないかなと個人的には思います。
だって、これ、あらゆる事業の基本です。営利事業も非営利事業も関係ありません。

マイスターは民間企業出身ですので、そのあたりには敏感です。
リクルートの方も、各パネラーの発表を聞いて、同じところが気になったんだろうなと思います。

今度、関係者の方に、直接このあたりのことを聞いてみようかなと思うマイスターでした。

17 件のコメント

  • おっ、さすがは早い! でも今回はそんなに長くない(笑)
    コメントを記そうとしたら字数制限になったので、トラックバックします。

  • コメントありがとうございます!
    お返事は、N.IDEMITSU blogに書きました~。
    最近は毎日読んでいただいているお客様が多くなってきましたので(ありがたいことです!)、そろそろ方針を見直そうかと思ったりもします。どうなるかわかりませんけれど…。
    ところでこのブログって、論文などの紙メディアに慣れている方からすると、かなり面白い読まれ方をしているということが、アクセスログ解析からわかっています。長い上、複数のテーマが織り込まれた記事を書いてしまう理由もそのあたりにあるのですが、それはまた別の機会にでも。

  • コメントへのコメント(こっちは長い:笑)、ありがとうございます。
    レスポンスがまた長くなりそうなで、コメント欄で書くか、別記事で書くか検討中です。w

  • 自分の方のコメント欄に書いておきましたが、骨子だけ。
    (1)“でも計画性が不十分だなあ”という旨のご指摘、十分に感じて同感しております。それでも私は納得して、そのような世界に飛び出しているということです。
    (2)学長・副学長・学部長といったアカデミックアドミニストレーターと、その他の部署のスタッフの専門性&養成をごっちゃにして議論しがちですが、そこは注意しましょう。

  • またまた、コメントありがとうございます。
    自分のところでまたコメントしましたが、ここに1点補足を。
    マイスターさんの場合、マスターをとったあそこでドクターを取るのもありでしょう。
    とにかく、“つらっと”長文のブログを書き続けているだけでもいいのですよ。その上に“つらっと”ドクター(or2つ目のマスター)でも取ってしまい、それでも“現場”にしっかりと根付いていれば、誰も手出しできなくなりますよ。

  • 「桜美林の大学アドミニストレーション専攻は、マイスターが思うに、よだれが出るくらい豪華な講師陣です。カリキュラム表やシラバスを見ても、非常に魅力的なプログラムだと思います。」
    1人の高等教育を学ぶ大学院生としては同感ですが(というか、桜美林に
    入りなおして修士とりたいくらい)
    自分自身が大学職員であれば、魅力的に映るかどうか、疑問です。
    どれだけの大学職員が、大学の「そもそも論」を学びたいと思っているか。
    どれだけの大学の管理職者が、部下に、大学の「そもそも論」を考えさせる必要を感じるか。
    教員とコミュニケーションをとる上では、有効なのかもしれないとは思うのですけれども。
    (その一連の意識のあらわれが、「アカデミズムを追求して、自分の
    している業務を相対化する」という金子先生や伊藤先生のコメント
    だったような気がします)

  • こういったこと、今、シューロンで検証しています。実は。
    桜美林の修了生の方にインタビュー調査してます。
    授業内容、教育内容、それらに付随する大学院生活が
    業務の上でどういったことに関連付けられているのか、
    キャリアの中でどういかされているのか、ということを伺っています。
    終わったら、ぜひこのテーマでマイスターさんともお話してみたいです。

  • ただ、それよりも何よりも、一番感じたこと。
    各大学のカリキュラムのなかで。。。
    大学の構成員であるはずの「学生」の存在がほとんどなかったこと。
    もちろん財務諸表が読めることも大事。
    答申をおさえておくことも大事。
    アメリカの経営戦略を抑えることも大事。
    でも、今、自分の在籍している大学の学生、
    あるいは将来のお客様である高校生をマーケッティングするような
    まなざしが皆無なのはいかがなものか?
    どうしたって、職業系大学院なのに、顧客(というのも抵抗感あるのですが・・・)である学生を見ない職員を育てるようなカリキュラムにして
    どうするんだよ・・・という思いが消えませんでした。
    「お勉強好き」の職員を育てても、意味がないのでは?
    と、お勉強が好きな自分に耳が痛いコメントを書いてドロンします。長文失礼します~。

  • >「お勉強好き」の職員を育てても、意味がないのでは?
    お勉強好きであることは、目標ではなく当然のスタートラインであると思います。
    学生のためになる良い仕事をするためには、やはりお勉強しなければいけなのですよ。

  • 修士を出たからって、仕事に直ぐ役立つと思っているのは大きな勘違いです。現実は違ってますよね。
    米国の名門MBAを出た方が言ってました。在学中はよく勉強はした、しかしいまあるのは一緒に学んだ仲間達とのコミュニケーションである。
    新しいことにチャレンジするタフ?な精神力の根底には、絶えず学び続ける姿勢が肝要だと思っています。

  • miwakyon様:
    こんにちは、マイスターです。せっかくコメントをいただいたのに、お返事が非常に遅くなってしまって、大変失礼いたしました。
    ご指摘の問題意識、よくよくわかります。
    「お勉強好き」とおっしゃっているのは、アカデミックな「そもそも論」ばかりを学ぶ大学院の姿勢をおっしゃっているのですよね。
    そして、本来のプロフェッショナルスクールに求められる、顧客や市場に関する知識や分析力を身に付けさせることも必要では、というご指摘かと思いました(違っていたらすみません)。
    私も同じような危惧を抱いて、この記事を書きました。
    アカデミックな「お勉強」も大切ですが、それだけでプロフェッショナルスクールとして成立するのかと心配に思ったからです。
    社会人のキャリア構築の役に立てなければ、それは専門職大学院ではないでしょうし、高い学費と時間をかけてまで現役職員が通いたがるとは考えられません。
    こうしたことは、大学院進学を考えるひとりの顧客という立場で考えてみればすぐに思いつくことだと思うのですが、あのシンポジウムでは、当の大学院関係者の方々にそうした顧客視点がないように見えましたね。ただただアカデミックな「お勉強」をしろとおっしゃるだけに感じられました。正直言って、現役社会人としてプロフェッショナルスクール進学に賭けてみようかと考えている方には、いまひとつ肝心なところの説得力にかけるシンポジウムであったかと思います。
    (miwakyonさんの問題意識も、そのへんにあるのではないかとご推察しますが、いかがでしょうか?)
    ただ、たとえば桜美林大学のカリキュラムを見ると、確かにアカデミックな「そもそも論」がふんだんに盛り込まれてはいますが、実際にはマーケティングや財務に関する講義も多いようです。
    教員と同じ視点を持つ、という意味でのアカデミックな面と、教育産業人としてプロを目指す、という意味でのプロフェッショナルスクールの面の間で、なんとか大学職員育成のためのカリキュラムを模索しているのかな、なんて思いました。
    個人的には結局、今後この大学院を出た方がどれだけ実際に活躍するか、それが今後の大学院の評価を決める唯一の指標であるのかなと思います。
    もしよろしければ、修士論文の結果がまとまりましたら読ませていただきたいです!とても興味があります。
    もう提出まで間もないと思いますが、がんばってください!

  • マイスターさま。
    こんにちわ。
    今更ですが、私もシンポジウムに参加していました。
    ご挨拶しようかと思ったのですが、名刺配りにお忙しそうだったので失礼させて頂きました。
    シンポジウムの印象は、予想通りでアドミニストレーション専攻自体が何を目指し、結果こうなる!的なビジョンが見えてない(構築されてない)。という点に付きます。ただ、立命館の取り組みは職員力を高めるという意義が私には、読み取れたのでほかの大学とは異なっていると思いました。
    たしか、アドミニストレーション専攻は大学職員が大学というのはどういうものかというものを理解して、教授や理事の方々と戦う時の為に理論武装をしておきましょうね的な学問だった記憶があります。そんな話すら、出ませんでしたけど・・・。職員だからといって事務処理だけじゃなく、大学に関する法律や経理とかにも精通しておけ!って感じだった思います。

  • そんな事よりも単純に大学職員を目指す学問にすればよいのでは?と思います。<個人的には 卒業生は、全員大学職員を目指します!って事を目標なら目的がわかりやすいし、基礎がしっかりしてる職員を輩出すると評判が立てば、逆に現役職員でもそこで学んでみたいと思うのではないかと・・・。
    もちろん、内容は「そもそも論」なのでリアルな業務に直結して役に立つ場面はほとんどないと言ってもいいと思いますが、OB・OGだからとか社会人経験がありますとかいう理由よりは、数段強い職員が育つ土壌があると思います。
    よい商品も陳列の仕方によって売れ方がぜんぜん違うように手にとって見たくなるような見せ方が出来ていないので、評価が上がらないのかな?とある意味もったいない分野の学問なのだと思います。時間とお金の都合がつけば、私は通ってみたいとは思っています。

  • >時間とお金の都合がつけば、私は通ってみたいとは思っています。
    さと様
    まずは科目等履修生から、ぜひ!

  • えらく遅いコメントで失礼。
    マイスター様が仰るキャリア・モデルを開設大学側が十分提示できなかったのは、そうやって身に付けた能力を発揮できるような職場がなかなかないということが原因かと思われます。端的に言えば、大方の大学で職員の地位が教員に比べて低すぎるということです。教授会自治の名のもと、学部長事務長等執行部の権限は弱く、教員間のチェック機能も働かず、各教授のワガママが罷り通って、実は改革も名ばかりの大学がほとんでではないでしょうか。最近、開設大学の一つの立命館が出版した次の本を読みました。
    『大学行政論Ⅰ』(川本八郎、近森節子編)http://www.ritsumei.ac.jp/mng/gl/koho/headline/info/2006/02/daigakugyouseiron1.htm
    なるほど、こういう大学の職員になるなら、がんばって勉強する価値はありそうです。ですが、私が居た大学とは落差があり過ぎます。