マイスターです。
ちょっと考えてしまう記事を見つけました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「医学生奨学金、11県で定員満たさず…『へき地勤務』敬遠」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071010i402.htm
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医師不足対策として、医学生を対象にした奨学金制度を設けている全国31府県のうち、3割強に当たる11県で、今年度の応募数が定員に達していないことがわかった。
兵庫、広島両県は、募集から半年過ぎても応募が1件もない。いずれも、指定病院などで一定期間勤務すれば、高額な奨学金の返済を免除する好条件を示しているが、「へき地勤務」などが敬遠されているとみられる。
(上記記事より)
医師不足、それも、特定の地域の医師不足を解消するために設けられている、奨学金。
一定期間、へき地で勤務することが条件になっている、他の学部ではあまり見かけない類の仕組みです。
最近では、大学入試の時点で「地域勤務枠」を導入する大学も増えてきています。
卒業後一定期間、特定の地域で勤務することを条件に入学を認める仕組みです。
(過去の関連記事)
・医学部の「へき地枠」医師不足の解消なるか(1):自治医科大学の仕組み(2007年05月15日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50312987.html
・医学部の「へき地枠」医師不足の解消なるか(2):手を打っておくべき課題は? (2007年05月16日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50313008.html
例えば国立大学の医学部は、周辺の地域に優れた医師を供給するというミッションを持っています。地方の大学なら、なおさらです。その地域の医療レベルを左右する、重大なミッションです。
しかし実際は、卒業後は大学周辺にとどまってくれず、遠く離れた都市部の病院に行ってしまうような方も少なくないわけです。
どこで働くかは本人次第ですから、仕方がないと言えばないのですが、医療行政の関係者は、やっぱりもどかしい思いを持ってらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、「へき地奨学金」や「地域勤務枠入学」といったものが登場しているわけです。
冒頭の記事は、このへき地奨学金が敬遠されている、という内容の報道です。
「全国31府県のうち、3割強に当たる11県で、今年度の応募数が定員に達していない」とのこと。
逆に言うと、7割弱の府県では定員に達しているってことですから、全国的に見ればこの制度、それなりに成果を上げているんだと思います。
ただ、普通、奨学金というのは、学生同士が競い合うようにして応募するものですよね。ですから、「定員に満たない」というのは、やっぱり大変なことです。
医学部生の間で、敬遠されているのは確かでしょう。
兵庫県、広島県では、「募集から半年過ぎても応募が1件もない」とのことですし……。
政治、行政、そして教育の関係者にとっては、頭の痛い事実でしょう。
でも、ちょっと待てよ、と思うところもあります。
例えば冒頭の記事では、以下のような記述も出てきます。
県北部の医師不足に悩む兵庫県は今年度初めて、神戸大医学部の1年生95人を対象に、6年間で最大1250万円を貸し付ける制度を導入。北部を含む県内で9年間勤務することが返還免除の条件で、1人分250万円を予算計上したが、これまで1件の問い合わせもない。同学部総務課は「1年生ではまだ、へき地勤務の決心がつかない」と指摘している。
(冒頭記事より。強調部分はマイスターによる)
確かに、1年生の段階でこの決心を強いるのは、なかなか酷かもしれません。
例えば他の奨学金制度と連動して、4年生や5年生、6年生になってからでも、それまでに借りた貸与奨学金を、さかのぼって「へき地奨学金」に切り替えられるような仕組みができないものでしょうか。
大学卒業時に、「学生支援機構から奨学金を借りていたけど、やっぱり、へき地奨学金にすればよかったなぁ」と思ったとします。
そのとき、へき地勤務を条件に、両奨学金組織の間で手続きを行って、借り先をシフトできる、とか。そんな仕組みがあれば、多少は問題が解消されるような気がするのですけれど、どうでしょうか。
また、医療の素人なりに思うのですが「卒業後すぐにへき地へ」ではなく、例えば「卒業後10年以内に、最低でも5年以上はへき地に勤務する」といった条件にできないものでしょうか。
医学部を卒業した方は、2年くらい(?)研修医として働き、そこから「地域勤務枠」に従って特定の地域に勤務するわけです。でも、その時点ではまだおそらく、医師として一人前というわけではありませんよね。経験もまだ多くはないはずです。
しかし「地域勤務枠」で赴任するような地域ではおそらく、赴任後いきなり、オールラウンドに様々な病気を診ることが求められてくると思います。もしかすると研修が終わったばかりの方には、荷が重いのかもしれません。
そういった現実を見越した上で、学生達は、二の足を踏んでいるのかも知れませんよね。
ある意味、「医師としての良心」に基づき、「卒業後にいきなりそんな現場に行ったら、医療を受ける人がかえって不利益を被る」と判断しているのかも知れません。
ですから個人的には、最初に5年くらいどこかの病院で経験を積み、しかる後にへき地で医療に携わる、というキャリアパスがあったら、もうちょっと奨学金の応募者は増えるように思うのですが、いかがでしょうか。
(へき地医療の担い手を長く育成してきた自治医科大学ではさすが、このあたりの支援体制が整備されているようです)
いずれにしても、医師不足を解消しなければならないのは確か。
そのために、奨学金なり「地域勤務枠」なりを、うまく活用できればいいですよね。
以上、マイスターでした。