千葉大学 「飛び入学生」達のその後は

マイスターです。
就学期間を短縮し、高校2年生から大学に進学する仕組みとして、日本には「飛び入学」というシステムがあります。
あくまでも、極めて例外的な存在という扱いではありますが、「人は例外なく、同じ年齢で必ず同じレベルのことを学ぶべきである」という従来の日本の教育観とは一線を画した、画期的な制度ではありました。
ただこの飛び入学制度、一度は全国的に拡がるかと思われたものの、現在のところ導入する大学はあまり増えておりません。
「手間がかかる割にメリットが感じられない」などの意見もあるようですが、「応募者が増えない」というのも大きな理由だとか。
今の日本の社会状況では、
「人より早く進学するよりも、周囲と同じペースで学び、少しでも入試難易度の高い大学に入学できた方がメリットが大きい」
という考え方が強いということなのかもしれません。
さて、この飛び入学制度ですが、千葉大学理学部が最初に導入したことで知られています。
その千葉大の飛び入学生達が、その後どのような道を歩んでいるか、ご存じですか?
【教育関連ニュース】—————————————–
■「飛び入学生、天才脳の行方 受験嫌いか、アンチ東大か」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200706010265.html
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千葉大が全国で初めて17才飛び入学制度をスタートさせて今年で10年目を迎える。高校2年生で大学入学を認める制度で、98年度の制度開始から今年度までの入学者は47人(女子は9人)、大学を卒業した学生は17人で33ページの表のように全員が大学院に進学している。
(上記記事より)

というわけで、千葉大学の「飛び入学生」についての記事です。
飛び入学や飛び級を考えるにあたり、参考になるところがありそうです。
まずはこの制度で実際に入学された方の人数。98年からの累計とはいえ、47人というのは意外に多いような印象です。
上級生も入れたら、飛び入学仲間は同じキャンパスに結構在籍しているという状況ですね。でも考えてみたら、そうじゃないと逆に運用が難しいはずです。
今のところ全員が大学院に進学している、というのも特徴的です。

飛び入学1期生の梶田晴司さん(26)は工学部物質工学科に入学、その後千葉大大学院で表面物性物理学の理論に関する研究を続け、今年3月に飛び入学生として初の博士の学位を取得した。
(略)この梶田さん、4月からはトヨタグループの豊田中央研究所(愛知県)に勤めている。
(上記記事より)

すでに結婚して子供もいる1期生もいる。大学卒業後に高校の物理教師になることを目指し、決まっていた千葉大大学院進学を辞退した。だが悩んだ末、結局大学院に進み修士課程まで学んだ。現在は民間の研究所で働いているが、社会人らが大学院に在籍しないで論文審査を受け、博士の学位を得る「論文博士」を目指している。
もう一人の1期生は宇宙物理学を修士まで学び、博士課程で文系に転身した。千葉大に残って社会科学系の研究を続けている。
国立の研究機関に就職した2期生を入れると就職した人は3人。あとは海外の大学院も含め、すべてまだ学生の身分だ。
(上記記事より)

……と、基本的にはアカデミックですが、大学院修了後の進路まで見ると、なかなか多様です。
「飛び級する以上は研究者に」みたいなおかしなプレッシャーがあったりすると、せっかくの制度の主旨が変わってしまいますから、この点はなんだかほっとします。
飛び入学生の中には、↓こんな方もいたようです。

入学後は千葉大から「outstanding(傑出した才能)」と書かれた推薦状を携え、米国の名門、マサチューセッツ工科大学大学院へ。化合物の原子配列をコンピューターシミュレーションで解明している。
来年卒業予定で、その後の進路が気になるところだが、「経営コンサルタントとして、日本の企業が活性化するような提案を行うか、ヘッジファンドのマネジャーとして、利益の一部で国益にかなう活動を支援したい」
(上記記事より)

なんとなくアメリカなどの「飛び級生」を彷彿とさせるキャリアですね。
このように、まだまだ新しい部類の取り組みではありますが、順調に制度が運用されているという印象を受けます。
しかし、どの大学でもこのようにうまくいっているわけではありません。
「飛び入学は認めたものの、入学後は他の学生とまったく同じ扱い」という大学が少なくない中、千葉大学の場合、飛び入学生を支援する組織や施設を立ち上げるなど、サポート体制も万全です。
■「先進科学研究教育センター」(千葉大学)
http://www.cfs.chiba-u.ac.jp/

飛び入学生の扱いがあまりに特別になりすぎて、他の学生と全然違うカリキュラムで学んでいるようになるのはどうかと思いますが、ある程度のサポートは必要でしょう。
ですから今はまだ、千葉大学のように長期的に取り組む体制を整え、少しずつノウハウを蓄積して制度を良くしていくというくらいの姿勢が大事だと、マイスターは思います。
そして、「あくまでも4年がベースなんだけど、十分な能力を持っていて本人が早期入学を望むのなら、サポート付きという条件で受け入れますよ」という姿勢が大事だと思います。
「飛び入学という選択肢が存在している」という社会環境が重要なのであって、「誰にとっても、早ければ早いほど良い」ということではないのです。
この点は誤解してはいけない、非常に大事なポイントだと思います。

(以前、教育再生会議の案に、「大学院進学者は原則3年で学部終了させるべし」なんてものがありましたが、あれは本末転倒ですから、個人的には絶対に反対です)
というわけで、興味深い、千葉大学飛び入学生の「その後」でした。
個人的には、今後より多くの大学に、千葉大の「先進科学研究教育センター」のような組織ができてくると、日本の教育に「本当の意味での柔軟さ」が備わるのではないかな、という気がするのですが、さていかがでしょうか。
以上、マイスターでした。