教育力向上のため、全大学教員に研修義務化 08年度にも

マイスターです。

教員免許更新制の議論が盛り上がっていますね。
10年に1度の講習を義務づける、なんて報道を見て、

「おいおい、そんな頻度じゃ、実効性はないだろう!
 もっと頻繁に研修させろよ!」

とか、

「研修って言ったって、座学ばっかりじゃ意味ないでしょ!
 そんなんで教育力が上がるとは思えないよ、
 もっと実践的なトレーニングをしなきゃ!」

とかいった感じで、テレビに向かってつっこみを入れていた大学関係者もいると思います。
(大学教員には免許、要りませんしね)

さて、そんなあなたも驚きのニュース。

どうやら、大学教員の方が先に、研修漬けの日々を送ることになるみたいですよ。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「文科省:全大学教員に研修、08年度にも義務化へ 「求む即戦力」経済界の要請背景に」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2006/10/20061021dde001040007000c.html
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文部科学省は大学・短大教員の講義のレベルアップのため、全大学に教員への研修を義務付ける方針を固めた。来年度に大学設置基準と短期大学設置基準を改正し、早ければ08年4月にも義務化する。研究中心と言われる日本の大学で、学生への教育にも力点を置く必要があると判断したもので、「大学全入時代」を迎え、学生の質の低下を懸念する経済界からの要請も背景にある。具体的な研修内容などは今後、中央教育審議会で検討する。

(略)文科省は99年9月、大学と短大の設置基準を改正し、FDの努力義務規定を盛り込んだ。これにより04年度は全大学の約75%に当たる534大学が実施した。

しかし、各大学で現在行われているFDの内容は講演会の開催や研修会、授業内容の検討会など座学中心で、実効性や効果を疑問視する声もある。また07年度に大学・短大の志願者数と定員数が同じになる大学全入時代を控え、経済界には「企業で戦力として使える人材となるように教育してほしい」と、大学教育の充実を求める声も強い。

今後、具体的な研修内容は中教審で審議されるが、各大学ごとに建学の精神や求められる教員像が異なっており、「統一のガイドライン作成は慎重にすべきだ」という声もある。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

各大学が独自に行っているFD(Faculty Development)。教育の質を向上させるために行う組織的な取り組み、のことだとマイスターは認識しています。

そんな大学のFDについて、文科省が動きました。
既に大学院については、FDは努力義務規定から義務規定に改正されており、来年4月から義務化されることになっていますが、今回はどうやら短大と、大学の学部教育すべてに関わる話のようです。

こういう提案は本来、お上や経済界が考えるべきことではなく、各大学が自分たちで計画・実施しなければならないことだとマイスターは思います。にもかかわらず文科省がこういった動きを起こしたのは、ひとえに「大学人に任せていたら、いつまで経っても抜本的な対策をしない」と思っているからでしょう。

さて、皆様の大学では、どんなFD活動を行っていますか?

今では各大学とも、FDと名の付く活動を何かしら行っていますよね、きっと。
ただ、一言でFDと言っても、大学によって取り組みに雲泥の差があるのではないかと思います。

例えば、教育の質を上げるための工夫と聞いて、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは、学生による授業アンケートの実施でしょう。顧客の声を聞いて改善に役立てよう、というのは、もっともわかりやすく直接的なアプローチですからね。

しかし、<FD=授業アンケートを実施すること>だと考えている大学は、どちらかというとお粗末な取り組みをしている部類に入るでしょう。アンケートを実施したからといって、教員の教育力が上がる保証は、まるでないからです。

(過去の関連記事)
・授業評価は「手段」であって、「目的」ではない
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50208178.html

↑上記の記事では、

本学は、授業評価をやっている
 →だから、教育の質は向上している

……という思考に陥り、アンケートを実施することで安心してしまう大学の問題をご紹介しました。本来なら、教育力を上げる手段の一環としてアンケートを実施しているはずなのに、アンケートをやることが目的化してしまっているんですね。
アンケートは、あくまでも現状を知るための一手段に過ぎません。例えば、もともと教育力を上げることに関心が強い教員はアンケート結果を活かしてくれるでしょうが、そうでない教員は何にも変わらないかも知れませんよね。しかし、未だに「授業評価アンケートをやれば、最低限のFDをやったことになる」と思っている大学は少なくないようです。

また、講演会や研修会を開催し、教員に聴講させるという取り組みもあります。
しかしこれも、「もともと授業の質向上に関心がない教員は変わってくれない」という点は、授業評価アンケートと同じです。
毎日新聞の記事で指摘されているように、座学で教育の質が向上するのかという点でも、疑わしいものがあります。やらないよりはやった方が良いのでしょうが、誰かの発表を開くくらいで日本の大学教育の質が良くなるなら、誰も苦労はしませんよね。

このように、あれこれと策を実行してはいるものの、今ひとつ決め手に欠けるのが、日本の大学のFDの実態ではないかと思います。
教育力を向上させるために組織的に取り組もう!と言っては見るものの、いざ実行に移そうとすると様々なところから批判やら反対意見やらが出て、抜本的な手を打てないことが多いのではないでしょうか。

FDというのは本来、組織的に教育力を高めていこう!という建設的な発想が中心になる行為なんじゃないかとマイスターは思います。でも、FDと聞いた途端、よってたかって授業のダメ出しをされるのではないかと思って、尻込みしてしまう方も多いのかも知れません。

(ちなみに、これは我々職員についても同様です。SD(Staff Development)と言いながら、実際には表層的なマナー研修や突発的なプレゼン大会をやるレベルで満足してしまっている大学って、多いのではないでしょうか)

そんなわけで、冒頭の報道です。

毎日新聞の記事によれば、大学設置基準と短期大学設置基準を改正し、早ければ08年4月にも全教員への研修を義務化するとのことですから、大学教育に対する経済界や文科省の不満は、おそらく相当なところまで来ているのでしょう。

具体的な内容については、今後の中教審で審議されるそうです。アメリカ等のFD事例を参考にしながら、いくつかの案が出てくることになるのかなと思います。
「学生の質の低下を懸念する経済界からの要請も背景にある」とも書かれていますから、経済界好みの案になるのかも知れません。
いずれは大学側からも何らかの対案を出した方が良いんじゃないかと思いますが、まずは経済界がどんなイメージを持っているのか、個人的にはちょっと見てみたいです。

ただ、全国一律のやり方で研修を行うのが本当に適切なのか?という点について、疑問も覚えます。

各大学ごとに建学の精神や求められる教員像が異なっており、「統一のガイドライン作成は慎重にすべきだ」という声もある。

……とあります。マイスターも同意見です。
日本を代表するようなトップ研究大学と、自治体が市民のために運営する小さな公立大学とでは、教育する側に求められる資質はある程度違って当然ですよね。
また、実践的なビジネスマンの養成をミッションにする大学と、アカデミックな作法を身につけさせることをミッションにする大学とでも、やはり教員の資質は違うと思います。全国統一の評価ガイドラインを設けるのが必ずしもいいとは思いません。

結局のところ……研修を義務づけるのはいいのですが、その内容はやはり、各大学が決めることなのではないかな、と個人的には思います。定めた研修が適切に行われているかどうかは、外部の認証機関に評価してもらうこともできると思いますし。

教育力の向上に関する取り組みは、全国統一の基準で一元的に行えるものではなく、それぞれの大学がミッションに合った指標や方法を設定し、個別に、丁寧に進めていくべきものだと思うのですが、いかがでしょうか。
(これまで大学人達が、それで成果を上げてこなかったというのが痛いところですが……)

全大学教員に研修を義務づける動き、今後いったいどう展開していくか、要注目ですね。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  • マイスターさんへ
     某地方三流大学で教員をしていますamです。 毎日これだけのボリュームをいつもアップされ、かつご自身の切り口まで添えてあるのでいつも楽しく拝見しています。さて、気が気じゃない記事です。本学でも自己点検評価という形で学生アンケートや教員の同僚評価など諸々やってはおります。私学なので学生=顧客というのは判るのですが、学生も教員と同じくやる気のあるなしは多様です。そのため満足の極大化を目指すと平均的な講義・講師が良いというなんだか魅力のない大学ばかりになりそうです。伝統有名私大は独自に優れた自己点検をし、お上は知らん顔で個性を持ち、弱小ほど靡いてより個性が無くなり、亡くなる。あぁ切ないなぁ。