マイスターです。
web業界で働いていた経験があります。また、メディアに関する学位を(一応)持っています。そんなわけで、メディアの世界で何か面白い動きがあったら教育業界の皆様にご紹介したいなと、常々考えております。
(過去の記事)
・「ロングテール」を捕まえろ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50093005.html
・『ウェブ進化論』は大学関係者にとっても刺激的だ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50181186.html
・YouTubeで大学をPRしてみる?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50239750.html
その時々の最新メディアの動きを、なるべく大学に関係のある形で取り上げていきたいと思い、これまでにも上記のような記事を書かせていただきました。
さて今日は、そんなマイスターが「嘘ぅ!?」と思った、実際にアメリカで起きている動きをご紹介したいと思います。
それは……オンラインゲームの中での動きです。
■「Second Life | 基本概要」(Linden Research, Inc.)
http://secondlife.com/world/jp/whatis/
問題のゲーム(?)とは、↑この「Second Life」です。
自分の分身を操作し、3次元CGの世界で「暮らす」、ただそれだけのゲームです。
……などと書くと、あんまり面白いゲームのように思われないかも知れませんね。
実を言うと、マイスター自身はこのゲームをやったことがありません。ただ、様々なニュースなどを読む限りこの「Second Life」、どうやら人々を熱中させるための様々な工夫を備えているようです。
「暮らす」と言っても、いろいろなことができるのですね。例えば様々な街や秘境を探検したり、他のプレイヤー達とコミュニケーションしたり、持ち物を売買したり、(「Second Life」の中で)様々なゲームを楽しんだり、土地や家を所有したり、事業を起こしたりといった具合です。
驚くことには、このゲームの中の「社会」で流通している通貨(Linden dollars)を、現実のドルに換金できるのだそうです。(オンラインゲームをプレイするためには会費を払い続けなければなりませんから、プレイヤー達が長くゲームを楽しんでくれれば、たとえこんな換金制度を運用していてもゲームの運営会社としては割に合うということでしょうか?)
文字通り、仮想社会の中で、「第二の人生」を楽しめるゲームというわけです。
さて、ここまで読んだだけで、眉をしかめている方々も少なくないのではと思います。
マイスターも、初めてこのゲームの噂を聞いたときは、
「ディスプレイの中で日常生活を送って何が楽しいんだ?」
「これって、嫌な現実社会から逃避して、都合の良い仮想世界に引きこもれてしまう危険なゲームなのでは……」
「教育的には、社会に対してあんまりいい影響を与えないんじゃないか?」
などと思いました。というか実際、そういう面は少なからずあると思います。
しかし、はまると楽しいのでしょう。
上述したような様々な仕掛けも功を奏したのか、現在、既に世界で100万人の住人(プレイヤー)がいるそうなんです。
何しろ現実世界と同じくらいにリアルな仮想世界です。そこに行き交う人々も、世界のどこかで同じように「Second Life」を楽しんでいる実在のプレイヤー達ですから、彼らにとってはもはや、新しい「小さな社会」ができているのと同じことなのかも知れません。
さて、以上は前置き。今日の本題はここからです。
このように、100万人の住人を持った小さな社会に、現実の企業達が目をつけ始めました。
【現実のメディアが、ゲーム社会に「支局」を開設し始めた】
■Reuters/Second Life
http://secondlife.reuters.com/
まずは↑こちらをご覧ください。
世界的な報道機関である、ロイター通信社のwebサイトですね。
しかし……よく見てみると、なんだか変です。写真に写っている人々が全部、CGではないですか。
実はこれ、ロイター通信社が、「Second Life」の仮想社会に開設した「支局」のサイトなんです。Second Life空間の中で起こる出来事を報じていくための支局です。
つまり世界的なあの報道機関が、ゲーム社会の中に「特派員」達を派遣し、取材をさせているということになります。そしてそれを、ゲーム社会の中で記事にして、ゲーム社会の中で報道しているのです。(「Second Life」の社会の中にはテレビ局やテレビ端末があり、放映の仕組みが構築されているらしいですから)
他にもこのゲームには、BBC等が支局を開設しているそうです。
一体どうして世界の一流メディアがこんなことをするかというと、マイスターが思うにこのゲームの中での企業活動がプレイヤー達(つまり、現実社会に存在する人々)に対して、大きな影響を与えるからではないでしょうか。ゲーム社会の中でロイター通信のニュースを愛読している人は、現実社会においてもロイター通信の報道に注目するでしょう。ゲーム社会の中でBBCのニュースを見ている人は、リアル社会でも、BBCについて良い印象を持つでしょう。そういうことなんだと思います。
驚きですよね。でも、これだけではありません。
メディアが注目するくらいですから、他の企業の広報部も、こうした状況を放っておくはずがありません。
【様々な企業の広報・宣伝部門が、ゲーム社会に進出】
■「Sun Microsystems To Launch Presence in Virtual World Second Life」(Sun Microsystems)
http://www.sun.com/aboutsun/media/presskits/secondlife/
有名企業であるサン・マイクロシステムズが、Second Life内に常設パビリオンを開設しました。Fortune 500企業として初めて、Second Life内のみの記者会見を実施したそうです。
上記のページで、記者会見の「映像」が見られます。まるで冗談のような出来事ですが、一度会見映像を見てみると、彼らが「本気」になっていることがわかります。
それくらい、この仮想社会の広報力を、大きなものと考えているのです。
■Virtual Aloft
http://virtualaloft.com/
↑こんな動きもあります。
実在するホテルチェーン「Starwood Hotels and Resorts」が、「Second Life」の下層社会に、仮想ホテルをオープンしました。上記のページをご覧いただくとわかるのですが、隅々までかなり詳細にデザインされた、本物顔負けの素敵なホテルです。
これをどうするかというと、ホテルデザインのテストマーケティングに活用するのです。
部屋の内装などはもちろん、各種の季節イベントの評判などについても、実際のホテルのための参考にするようです。
上述したような動きを受け、すでにマサチューセッツ工科大学にて、↓オンラインゲーム内における広告モデルの研究が進められているようです。
■Advertising in Computer Games
http://www.gamesbrandsplay.com/
いかがでしょうか。ちゃんとついてこられてますか。
マイスターも、自分で紹介しておいてなんですが、あまりにバーチャルな話でくらくらします。
今では、Second Lifeの中のオフィスに「出勤」して仕事をするクリエイターの集まりもあるそうですよ。確かにデジタルコンテンツを作る仕事であればそういうことも可能なんでしょうが、ゲーム内の会議室でミーティングをしたり、ブレインストーミングをしたりという風景は、慣れるまではなかなかシュールだと思います。でも、慣れてしまうと、それはそれで便利な空間なのでしょうね。
ここまで読んで、
「どうやらこれはもはや、『ゲーム』ではないんだな?」
と思われた方、あなたは鋭い。
こうしたオンラインゲームは今後、SNSにかわる新たなコミュニケーション・メディアになるのではないかと言われているのです。
元々は遊びのためのエンターテイメントだったのが、同時に、経済活動やコミュニケーション活動、生産活動の拠点にもなりうる特異なメディアになろうとしているのです。(もちろん、将来のことはまだわかりません。今、そういう議論がなされているという話です)
で、マイスターは思うのですが、ここまで事例がそろってきたら、そのうちオンラインゲーム内にサテライトキャンパスを開設する大学なんてのも出てくるのではないでしょうか。
実は既に、Second Lifeを教育活動に活用しようという動きは始まっています。
■「3D Weather Data Visualization in Second Life」
http://www.secondlifeinsider.com/2006/10/28/3d-weather-data-visualization-in-second-life/
例えば↑こちら。米国海洋大気圏局が、Second Life内の科学センターに3D気象図を提供しているそうです。学生の体験学習や講義に使うのだとか。ご覧の通り、立体的に気象の動きを観察できる装置を、仮想社会の中に設置したのですね。ちょっと楽しそうです。
(そもそも、既に科学センターなる施設がゲームの中の仮想社会に存在していることが驚きですが)
このように国家の機関が目をつけているくらいですから、大学や専門学校が目をつけていないはずがありません。現在のところ授業を行うのには無理があると思いますが、学生や教員同士が交流するスペースを作ったり、広報活動に使ったりということは考えられます。(もう準備を進めているところがあったりして……?)
このような仮想空間内の活動は、現実の大学とバッティングするものではないと思われます。仮想空間の中だけで、大学の機能をすべて満たすのは、(現時点では)到底不可能ですからね。ゼミや学生のサークル、あるいは同窓会組織などのように、現実に存在するコミュニティのための活動拠点として、補完的な役割を果たすにとどまるのではないかなとマイスターは思っています。
以上、アメリカで起きている動きをご紹介しました。
こんなこと、5年前には、想像だにしなかったことです。このままで行くと5年後には、何が起こっていても不思議じゃありませんね。
まだ直接、日本の大学にどうこう影響を与えるような動きではないでしょうが、こんなことが起きているんだということは、教育業界にいる私達も知っていていいのではないかなと思い、今回、取りあげてみました。
一見、教育活動とは真逆の位置にあるような動きですが、さて、どうなることやら。
以上、マイスターでした。
初めまして。cocoと申します。
大学職員の卵なのですが、いつもこちらで勉強させていただいています。ありがとうございます。
この記事を読んで興味を持ったので色々ネットで調べていたら、URLの記事(SecondLife上で授業を行っている大学がある)を見つけました。
古い記事のようなので現在も授業が行われているのかはわかりませんが、よろしければご覧下さい。
ただしこれは教員自身の研究対象がヴァーチャル世界やオンラインゲームなどだったりするので特殊な例といえます。
私は(できれば音声対応させた)ヴァーチャル空間でサテライト授業ができれば最高だと思います。
ビデオなどを見るだけでは一方通行ですし、かといってテレビ電話だと一対一やゼミならともかく講義にはあまり向かないと思うので。
cocoさま:
マイスターです。
貴重な情報、ありがとうございました!とても参考になりました。
いただいた情報と、新たな報道を元に、↓このような記事を書きましたので、よろしければごらんいただければと思います。
・「Second Life」内にキャンパスを建設する大学、増加中
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50291733.html
ヴァーチャル空間でのサテライト授業に近いことは、もう行われているかもしれません。本当に世の中、動きが早いですね。