マイスターです。
早稲田大学が系列校についての発表を行いました。
いくつかのメディアで大きく報じられていたので、既にご存じの方も多いと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「中学校・高等学校の新規系属校化について」(早稲田大学)
早稲田大学(新宿区戸塚町総長:白井克彦)は、大阪府茨木市の私立摂陵中学校・高等学校(理事長:武藤治太)を系属校(2009年4月予定)とし、また設立準備が進められている学校法人「大隈記念早稲田佐賀学園(仮称)」のもと佐賀県唐津市に開校される予定(2010年4月)の早稲田佐賀中学校・高等学校(仮称)を系属校とする方針を決定しましたのでお知らせいたします。
本学は以前から多種多様な経験や能力を持った人材を受け入れるため、様々な入学形態を模索してきました。今回はとくに系属校のあり方を見直し、新たな取り組みとして、地域・歴史・伝統を考慮し、本学の教育に共鳴し教育の質を高めるための中高大連携が可能な中等教育機関との提携関係を強化し、優秀な学生の確保につなげたいと考え、2つの中高一貫校を系属校とすることを決定しました。
なお、本年6月1日に「附属・系属校プロジェクト室」を設置し、高大連携のみならず、中学校からの中高大一貫教育のあり方を検討する機能を強化しております。
(上記記事より)
というわけで、2つの系列校に関する発表です
大阪にある私立摂陵中学校・高等学校は、既存の中高一貫校。
↓こういった進学実績をもつ学校です。
■「進路・進学指導(主要大学の合格者数と進学者数)」(摂陵高等学校)
そして佐賀県唐津市に、学校法人「大隈記念早稲田佐賀学園(仮称)」のもと、新規に開校される予定(2010年4月)なのが、早稲田佐賀中学校・高等学校(仮称)。
こちらについては、地元・佐賀新聞も開校予定地の写真付きで報じています。
■「唐津に『早稲田佐賀中・高校』2010年開校」(佐賀新聞)
唐津市に設立が計画されている早稲田大学系列の中高一貫校について、早稲田大学(白井克彦総長)は6日、同大学への入学推薦枠を持つ「系属校」とする方針を決めた。推薦枠は生徒定員の上限50%、120人程度。校名は「早稲田佐賀中学校・高等学校」(仮称)で、大学とは別に設立される学校法人が運営する。開校場所は移転した唐津東高と近くの旧大成小跡地で、2010年4月の開校を目指す。
中高一貫校の開設は「大隈記念教育財団設立発起人会」(代表・海老沢勝二元NHK会長)が計画を進めてきた。系属校化が大きな課題となっていたが、大学の方針決定で実現に向けて動き出す。
計画では財団が学校法人「大隈記念早稲田佐賀学園」(仮称)を設立。1学年の定員は中学が120人、高校は中学からの内部進学者を含めて240人。早稲田大学への推薦枠は卒業生の50%で、中学からの入学者が卒業する開校6年後からは120人程度になる。
(上記記事より)
佐賀県に中高一貫校が出来ることは以前から報じられていましたが、「系属校」になるということは、今回、発表されたのですね。
ちなみに、「系属校」の定義が、上記の佐賀新聞の記事に紹介されています。
【系属校】
大学の学校法人が直接運営する「付属校」と違い、運営自体は別の学校法人が行う学校。早稲田大学では現在、早稲田実業学校(初等、中等、高等部)、早稲田中学・高校、早稲田渋谷シンガポール校の3校がある。付属校は早稲田大学高等学院と同大本庄高等学院の2校があり原則として全員が早稲田大に進学するが、系属校は大学への推薦枠も各校によって違いがある。
(上記記事より)
というわけで、全員ではありませんが、定員の半分までが早稲田大学に進学できるとのことです。
どうして早稲田大学が、この2ヵ所に推薦枠を持つ系属校を置くのでしょうか。
大学のプレスリリースには、以下のような記述があります。
◆系属校計画に期待できること
①多種多様な背景と能力を持った学生が早稲田大学に集まることとなり、相互に切磋琢磨できるようになる
②地方に系属校を設けることにより、入学者が首都圏に集中する近年の傾向を緩和し、全国から学生が集う本学の伝統にかなうことになる。
③人材育成プログラムを中高大共同で開発し、中学・高校に導入することが可能になる
④本学の教育理念に中学段階から触れることで、本学が目指す人材育成の理想により近づくことができる
◆系属校の形態
①2校とも経営母体は別法人となり、学校名称には「早稲田」の名を冠する
②理事などを本学より派遣する
③全入型ではなく、本学進学者の上限を定める
◆系属校化の検討項目
①本学の建学の理念や教育方針を共有できること
②教育課程に特色があること(進学指導のみではなく、人間教育を行っていること)
③カリキュラム等への直接的な関与により本学が学校教育に参画できること
④中高一貫の教育体制により6ヶ年の指導が可能であること
⑤地域的に学生リクルートの意味が大きいこと
⑥歴史的、文化的に本学との関係性が強いこと
⑦教育環境や自然環境などを含めた立地条件に恵まれていること
⑧経営基盤が確立されていること、またはその見込みが高いこと
(「中学校・高等学校の新規系属校化について」(早稲田大学)より)
様々な理由が掲載されています。
佐賀に関して言えば、
「地域的に学生リクルートの意味が大きいこと」
「歴史的、文化的に本学との関係性が強いこと」
の2点が、他のニュースなどで紹介されています。
同大学は系属校化を決めた理由として、創設者大隈重信が佐賀県出身、第2代学長天野為之が唐津市出身で、歴史的なつながりが深い▽予定地は海に面し、優れた自然環境にある▽福岡市から地下鉄・JRで約1時間の位置にあり、利便性が高い▽九州全域から生徒が集まるよう、寮の整備も検討されている―などの点を挙げている。
(略)資金については耐震化などの改修費や寮建設費として約40億円を見込んでいるが、発起人会理事の石田光義早大教授は「福岡県や佐賀県などの財界から協力を得るめどがついている。大隈侯のふるさとへの恩返しと思って準備してきたので、大学にも認められ、ほっとした。中国、韓国などアジアの留学生も積極的に受け入れたい」と述べた。
(「唐津に『早稲田佐賀中・高校』2010年開校」(佐賀新聞)記事より)
「歴史的なつながり」は、創設者の精神をアイデンティティとする私学にとっては非常に重要なポイント。
発起人会の皆様をはじめ、「早稲田」の血を地元に入れることを強望む方々がいたのは確かでしょうし、それがすべての計画の原動力にもなったのだと思います。
ただもちろん、それだけで経営的な問題を判断することはないでしょう。
唐津市は、博多駅からも電車で1時間30分。寮の建設も含め、「九州全域から」生徒を集めるのに適しているということもあるのでしょうし、土地の取得についても当然、色々と戦略を考えたのだと思います。
また、早稲田大学のプレスリリースには、
「人材育成プログラムを中高大共同で開発し、中学・高校に導入することが可能になる」
「本学の教育理念に中学段階から触れることで、本学が目指す人材育成の理想により近づくことができる」
とありますが、これも重要なポイントだと思います
大学が付属校を設置するというニュースは、しばしば「受験者を安定的に確保するのが狙いだろう」という見方で大きく取り上げられます。
それは事実だと思いますが、付属校や系属校の場合は、「どうしてその学校から安定的に生徒を入れる必要があるのか」という点が大事。
教育の連続性、一貫性が満たされた上でこそ、「大学への入学者を安定供給させるため」という目的が意味を持つのだろうとマイスターは考えます。
逆に言うと、プレスリリースにあるような、「多種多様な背景と能力を持った学生」を求めたり、「入学者が首都圏に集中する近年の傾向を緩和し、全国から学生が集う本学の伝統」を守ったりという点だけでは、別に、佐賀と大阪に限る必要はないんじゃないかと思えたりもします。
それならむしろ、一般入試やセンター試験利用入試をさらに推し進めたり、サテライト会場で入試を行ったりすればいいのでは、という声もあるでしょう。
国際化、特にアジアを中心にした戦略を進める早稲田大学であれば、中国や韓国、台湾などをはじめ、海外の高校に推薦枠を置くことの方が、説得力はあります。
……などと、色々なことを考えながら、報道を読んでいたマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。