少しずつ増えていく外国大学日本校と、課税の問題

マイスターです。

海外大学の日本校について、これまで何度かご紹介してきました。

・黒船来航? 文部科学省より「外国大学の日本校」として正式に指定を受けている大学
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50131590.html
・米軍基地内大学への「留学」
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50130519.html

そして先日、また一校増えたみたいです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「国内大学扱い文科省が指定 神戸の天津中医薬大日本校」(神戸)
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000122498.shtml
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中国・天津市にある公立総合医科大学「天津中医薬大学」の日本校(神戸市)が、文部科学省から外国大学日本校の指定を受けた。同校は中国政府の認可を受けて漢方薬の専門家を育成している。中国の大学日本校が指定を受けるのは初めて。
四年制で、四年目は中国に留学して漢方薬に関する知識や中国語などを学ぶ。指定を受けたことで国内の大学と同じように取得単位が認められ、大学院進学や他大学への編入学が可能になる。
(上記記事より)

今度は中国からです。漢方薬の分野なのですね。

中国には西洋医学を扱う医学部の他に、漢方医学・薬学を扱う大学や専門学校が数多くあると聞きます。日本の大学医学部にも漢方医学の研究所を併設されているところはありますが、大学で4年間、漢方の専門教育を受けるというのは、まだまだ身近なイメージではありませんよね。こういう進出の仕方は、学生にとってもメリットがあるように思います。
海外から大学院が来る、というとビジネススクールなどを連想しがちですが、こういう分野で進出してくるのもあるのですよね。

今まで文科省に認定されてきた海外大学の日本校は、4校。

■テンプル大学ジャパンキャンパス
http://www.tuj.ac.jp/newsite/main/indexj.html

■レイクランド大学ジャパン・キャンパス
http://www.japan.lakeland.edu/index2.html

■カーネギーメロン大学日本校
http://www.cmuj.jp/index_jp.html

■ロシア極東国立総合大学函館校
http://www.fesu.ac.jp/

これに今回の天津中医薬大日本校を含めて、5つになります。

テンプル大学が2005年2月に文科省から指定を受けてから、2006年9月現在、5校目。

「もう5校目」ととらえるか、
「まだ5校目」ととらえるか、

人によって、判断が分かれるところかも知れません。

それに関して↓こんな記事もありましたので、あわせてご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「外国大日本校、税減免せず 文科省」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200609190293.html
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在日米国商工会議所が8月、外国大学日本校の税金を減免するよう求める意見書を、文部科学省に提出した。課税されない日本の大学と競争するのは、不平等だとしている。だが、文科省は「株式会社立の大学との公平性」などを理由に、減免を認めない方針だ。

外国大学日本校は80年代に相次いで設立され、ピーク時には50校近くあった。だが、日本では「大学」と認められずに学士を取得できないため、学生を集められずに相次ぎ撤退した。

04年末に文科省は制度を改正、在日大使館のお墨付きを得れば、新たな枠組み「外国大学の日本校」と認めることにした。指定校は現在、全国に4校。日本の大学院の入学資格を得たり、学割を利用したりできるようになり、学生の待遇は改善されたが、課税の問題は残った。

東京都港区のオフィスビル内にキャンパスがあるテンプル大学日本校。同校では、授業料に消費税がかかることなどから、関東の私大平均よりも学費が15%も割高だという。カーク・パタソン学長は「毎年払っている1億円の税金を、奨学金や優秀な先生の招致費用に回したい」とする。

しかし、文科省高等教育企画課の小谷和浩課長補佐は「日本の設置基準を満たさない学校には減免を認めておらず、それは株式会社立の大学も同じだ。大学を名乗りたければ特区申請ができるし、ある程度の減免がある専修学校になる方法もある」と話す。

実際に96年に専修学校になったのが、北海道函館市の「ファーイースタンステイトユニバーシティ函館校」。普段は通称の「ロシア極東国立総合大学函館校」を名乗る。本校とほぼ同じカリキュラムだが、正式には「大学」と名乗れず、学士の称号も得られないハンディがある。小笠原雅事務局長は「学士がとれないために他大学に学生が流れ、悔しい思いをしている。いずれは特例で大学と認めてもらう目標はあるが、しばらくは専修学校でいく」と話す。

テンプル大は一部の税が減免される専修学校となる道も探る。だが、正式に「大学」を名乗れなくなるうえ、授業時間を日本の基準に合わせるなどの制限がかかる。パタソン学長は「米国流の高等教育ができなければ意味がなくなってしまう。専修学校にするかどうかは検討中だ」と話している。 (上記記事より)

とても簡単にまとめると、「海外大学日本校」関係者の側の思いは、

「自分たちは『学校』であることが正式に認められ、非営利組織として教育活動を行っている団体なのに、どうして高額の税金を要求されるの?
どうして、税金分を学費に上乗せされるという不利な条件下で、日本の大学と競争しなければならないの?
自分たちは非営利組織なのに、株式会社立学校と同じ税が適用されるって、おかしくない?」

というものではないかと推察します。
一方、文部科学省側の論理は、

「何も、海外の大学だから税の減免をしないと言っているわけではない。
日本では、『これが大学にふさわしい内容だ』という基準が、具体的な数値入りで決められているんだ。それを満たす学校こそが国民にふさわしい『大学』なのであって、それを一カ所でも満たせなければ、誰がなんと言おうと、国民にふさわしい教育機関ではないんだ。
だから、減免を認めて欲しければ、基準を満たしてから来なさい。」

というものでしょう。
どっちの言い分にも、一理あると思います。

「基準を満たしたら大学として認めますよ」という文科省の論理は、ある意味、公正でわかりやすいです。「母国の学位を出すのは勝手だけど、日本の学位として認定するのであれば、日本の基準を守りなさい」という点も、理屈は明快です。

しかしその一方で、

「そもそも海外の大学が日本に学校を作ることで生まれるメリットというのは、『日本の大学と違うシステムで教育する』っていうところにあるんじゃないのかな?」

……という根本的な疑問も浮かぶわけです。
「日本の高等教育のレベルに満足しない人達が多いから、海外の大学を呼ぶ意味があるんじゃないか。それを、『日本で大学を名乗るなら、日本の基準を満たせ』という理屈だけで突っぱねるのは、何かおかしくないかなぁ?」という疑問ですね。

この二つの理屈。
どちらに重きを置くかは、正直言って、「考え方次第」なんじゃないかという気もします。

日本の設置基準を厳密に守らなくてはならないのなら、学校にとっても学生にとっても、海外の大学が日本に分校を開設するメリットはあまりないでしょう。
ですから、「日本のものとは異なる形で運営されている海外の高等教育を、日本に導き入れることで、大学の活性化を図りたい!」と考える人なら、設置基準を撤廃もしくは大幅に緩和しようとするでしょう。

そうではなく、「日本の教育の質を守るためにも、施設や組織体制に関する最低基準は絶対に必要だ。そしてそれは、日本で活動するあらゆる大学に共通して適用されなければ、おかしい」という点を重視する人であれば、設置基準は厳密に守らせようということになるでしょう。

データを積み上げ、「正しい論理」に向かって一歩一歩進むことも大切でしょうが、このように「自分たちは今どういった状況に置かれていて、今後、どの方向を目指そうとしているのか」ということを考えるのも、政策決定の上では重要なアプローチだと思います。

外国大学日本校の議論に欠けている気がするのはその辺なのではないか、という気が、個人的にはいたします。

さて、ところで現実として

日米国商工会議所が8月、外国大学日本校の税金を減免するよう求める意見書を、文部科学省に提出した。

という動きが起きているわけです。

また、テンプル大学のように、独自に提言書を公開するところも出てきました。

■「外国大学日本校における税制問題について:2006年3月13日(PDF)」(テンプル大学ジャパン学長室)
http://investment-japan.go.jp/jp/meeting/2006/0313item4-1.pdf

海外大学の方は、攻めの姿勢を出してきています。
(意見書だけでなく、水面下でもっと具体的な圧力もかけてきているかも知れませんが、その辺の状況はマイスターにはわかりません)

さて、我が国は、どう対応するのでしょうか。

特に、教育政策に関心が高い(ように見える)新首相は、海外大学の日本分校の意義を、どのように考えるのでしょうね。
国立大学を9月入学にしようとしているくらいですから、海外との間で、学生の流動性を高めようという意図であるように見受けられますが、「海外の大学を日本に入れる」ということについてはいかがでしょうか。ぜひ知りたいところです。
場合によっては、トップの考え方によって一気にコトが進むかも知れませんよ。

以上、マイスターでした。

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(参考)
■「国際的な大学の質保証に関する国際機関等での交渉・協議の状況(平成15年11月10日現在)」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/024/siryou/04010802/003.htm
■「国境を越えた高等教育の質保証に関するガイドライン―ユネスコ・OECDの共同プロジェクト―」(OECD)
http://www.oecd.org/document/29/0,2340,en_2649_201185_35793437_1_1_1_1,00.html