以前仕事でおつきあいしていた企業の一つが、ちょっとした問題を起こし、お詫び文をwebで公開していたのを見つけました。
「広報の○○さん、連日遅くまで対応に追われているのかな」
なんて、思わず「謝罪する側」の状況に意識がいってしまう今日この頃です。
さて、「不祥事を起こしたときの謝りかた」第二回です。
■不祥事を起こしたときの謝りかた(1):松下電器に見る、企業の不祥事対応
http://blog.livedoor.jp/shiki01/
昨日の記事では、松下電器産業の事故対応姿勢をもとに、
企業が不祥事を起こした時の対応として効果的な行動というのは、
●自分達の非については、徹底的に詫びる
●経緯を明らかにし、原因を徹底的に調べ、情報を公開する
●問題を解決するために、どのような対応を行っているかを、明確に説明する
の3つではないか、と申し上げました。
平たく言えば、
「可能な限りを尽くして説明責任を果たし、社会を納得させる」
ということですね。
「納得させる」というのが最も大事なところです。
たとえ重役達がカメラの前で頭を下げ続けても、それだけでは、
消費者や、流通販売に関わる方々、株主などのステークホルダーを納得させることは難しいと思います。
“人は論理で納得し、感情によって行動する”
という言葉がありますが、ステークホルダーの皆様を納得させるにも、やはり論理を尽くして説明責任を果たすことが一番効果的なのではないでしょうか。
ただ平身低頭な姿をさらすのではなく、具体的な情報を順次公開し、徹底的にできることをやり続ける。それが大事だと、マイスターは思います。
一言で言えば、「誠意」ということになるのでしょうね。
格好だけでない、相手のことを考えた上での、誠意ある対応…。
さて、本日は、
「大学で問題が起きた場合、大学はどう対応すれば良いのか?」
ということについて、考えてみたいと思います。
結論から申し上げますと、ケースバイケースです!
企業の不祥事が報道される場合、多くは、明らかにその企業の責任だということが立証された後です。
正確に言えば、「法廷で立証したわけではないけど、物的・人的被害が多数出ており、所轄官庁や専門家が、ほぼ間違いなくその企業に原因があると断定している」という状態であることがほとんどです。
そういうケースでは、まずすべきは、正確な現状把握。
そして、責任に対する明確な謝罪と、現在の状況に関する情報公開、および対応策の発表です。
(JR西日本の脱線事故では、謝罪もそこそこに、「置き石の疑惑がある」などの発表を同社が行って、批判を集めましたね。
そう思える根拠や、現場の他の情報がいっさいなく、ただ、「置き石のせいかも!」という言い訳っぽく聞こえる発表だけが先行したことに対しての批判だったのかな…と思います。
発表を行うなら、JR西日本は、現場で明らかになったすべての情報を徹底的に公開すべきでした。そうしたら、社会からの評価はもっと違っていたんじゃないかと思います。)
一方、学校が関わる事件というのは、多くの場合、因果関係が複雑で、
「必ずしも学校のせいとは言えない」
という事件も、少なからずあるんじゃないかと思われます。
情報公開はともかくとして、「謝罪」の部分に関しては、必要な場合と、そうでない場合があると思います。
慎重な対応が求められるのはもちろんですが、
<学校として、何に対応して、何に対応しないか>
ということを判断することが、事件発生後、最初の数時間で学校の広報担当者が直面する、大きな課題の一つになってくるのかと思います。
ちょっと話がそれるかも知れませんが、マイスターは、「何でもかんでも謝罪しとけ」っていうのは、それはそれでやっぱりおかしいと思います。
大学生が、学外で起こした事件の場合、大学が必ずしも「謝罪」する必要があるとは限らない、と思うのです。
大学4年間は、人格が形成される大事な期間です。大学は、学生の人間的成長の場でもあるわけです。
ただ、小中学校までと異なるのは、あくまで大学は「学業の場」だということです。
そして、大学生は基本的に、「もう大人」だということです。
大学生が学外で何か問題(例えば傷害、暴行、そして殺人事件等)を起こしたからと言って、大学が何か、その責任を取れるわけではないのです。
というより、責任を取る必要は、基本的にはないのです。
かつて、大学生が何か事件をやらかしたとき、学長が謝罪に行った大学があったように記憶していますが、それは大学生達に対する侮辱だと思います。
おまえらはまだ子供なんだから、大人が面倒見てやらないといけないんだ。
おまえらはまだ子供なんだから、大人が代わりに責任をとってやる。
きっと、そういう意識がある大学だったのでしょう。
ケースにもよるでしょうが、基本的には、
「本学の学生が不正事件を起こしました。
大学は社会に対し、真相の究明と、可能な限り徹底的な情報公開に努めます。
学生の、大学内での活動状況に関して調査が必要であれば、
警察にも、全面的に協力致します。
しかし、学生が起こした事件について、
学生の代わりに世間に対してお詫びをすることはできません。
それは、学生をバカにした行為です。
もちろん大学として、こんな事件を起こした不埒な学生は、
学内規定に従って即刻、退学処分とします。以上。」
…で、いいと思います。
日本では、マスメディアは、責任者から何らかのお詫びの文句を引き出さないと
「それじゃ世間が納得しませんよ!」
なんていって脅すわけで、で、その「世間圧力」に屈した人が
「世間をお騒がせしたことをお詫びいたします」
なんて、なんだか意味のわからない謝罪をするのですね。
大学では、こういう意味不明の謝罪をする人はあまりいませんけれど。
(逆に言うと小中学校段階では、児童生徒が起こしたあらゆる問題について「学校の責任」が糾弾できてしまえるわけで、かなり無茶な報道も中にはあるかと思います)
と言うわけで、時には、大学はマスメディアに対し毅然とした姿勢を見せることも大切なのではないかと思うわけです。
ただ、そのあたりの判断を、事件後、すぐにできるかどうか。
そこは、やっぱり難しいでしょう。
特に最初の数時間の対応は、実際に直面してみたら、とても簡単にできるものではないと思います。
学外で学生が起こした事件の場合、
「報道陣がキャンパスにやってきてはじめて、大学関係者が事件を知る」
なんてことも、起こりえます。
せめて普段から、こうした事態を想定し、危機管理体制の構築をシミュレーションしておくといいかも知れませんね。
ちなみに、これが「キャンパス内で起きた事件」の場合、話は違ってきます。
キャンパス内で、窃盗、傷害、暴行などの事件が起きたとして、事件後に大学当局がそれをすぐに把握できないなら、それは大学にも責任の一端が生じてくると思います。
まして、問題が長くに渡って発生する性質のものだったり、頻繁にキャンパス内で被害が起きたりしているようなら、大学の過失も大きくなるでしょう。
もちろん、サークル活動の中で起きた事件等は、そう簡単に大学が知ることはできないのですが、学生が相談したり、問題を通報したりする仕組みで、問題を最小限に食い止めることはできます。
(例えば、最近はどの大学もハラスメント対策などの担当者を置いていますよね。それらが、ちゃんと機能しているのか、学生に活用されているのかを、平時の内に調べておいた方が良いと思います)
そうした対策を何もとらずに、ただただ問題を放置していただけだとしたら、それは社会に対して大変な責任を追うことになるでしょう。
事件が起きてしまった時、厳しい非難を受けても、仕方がない部分がでてくるかと思います。
ちなみに、教員や職員が大学活動の中で犯した不正については、大学の説明責任もかなり大きくなってくることでしょう。
研究費の不正受領や論文のねつ造などについて、学内でチェック機構があるにもかかわらずこうした問題が起きたなら、それは大学にも大きな責任があるわけで、当然、対応のためのしかるべき体制を早急に作って、社会に対し明確な説明責任を果たしていかなければなりません。
また、入学や卒業などに関する審査で、大学が不正を行っていたなら、やはり社会に対する説明を行う必要が出てきます。
私立大学だとしても、大学は私的な組織に非ず。
税金から補助を受け、社会に対して己の存在理由を説明し続けることで、はじめて存在を許されるのが大学という組織です。
大学の行動の一つ一つは、社会との相互契約の上に成り立っているようなものです。
極めて社会的、公的な組織であるだけに、問題が起きた時の責任の重さは、企業どころではありません。
ですので、例えば裏口入学や不正卒業などの実態が明らかになれば、その大学についての評価を下げるだけでなく、社会への背信行為として、社会から厳しい批判を受けても仕方がないのではないかと、マイスターは考えます。
こうした不正は、だいたい組織的な行為として行われているものでしょうから、起きてしまったなら、その責任は極めて大きいです。
信頼を失わぬよう、問題についての情報を徹底的に調査し、強い姿勢で組織的に問題解決にあたることが求められることになりますし、逐次、社会に対して公開していかなければならなくなるでしょう。
そうなった場合、大学広報部の役割は、非常に大きなものがあると思います。
調査対策本部と連携し、ある意味、学内のいかなる人間よりも大きな権限を与えられることになるかも知れません。
(もしかすると、人によっては、私立大学の裏口入学を社会に詫びる必要はないと思うかたもいらっしゃるかも知れませんが、マイスターは上記のように考えてます)
大学というのは、身内の問題を外に漏らさないようにしがちな組織であると、一般には思われているのではないでしょうか。
その評価には、ある部分では真実も含まれていると、マイスターは思います。
そうした前提があることも意識し、大学は、社会に向き合っていかなければならないのです。
不祥事が起きた時、事故が起きた時、いったい大学がどういう対応をするか。
そこに、社会は注目しています。
明日は、実際に、不祥事を起こした大学について、具体的に見ていきたいと思います。
以上、マイスターでした。