「教育バウチャー制」で学校の情報開示が進む?

最近、教育関連の報道が多くて、どの話題を取り上げるか悩むことが多いマイスターです。

全国の学校のキラリと光る取り組みもどんどんご紹介していきたいのですが、現在のように教育政策をめぐって政治家が争う展開は珍しいので、ついついそちらを優先させてしまう今日この頃です。

というわけで昨日に引き続き、またこの人の話題ですみません。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「文科省検討の教育バウチャー、効果は未知数」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200609120402.html
■「安倍官房長官『教育バウチャー制』表明」(nikkansports.com)
http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20060909-87736.html
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教育を「サービス」ととらえ、供給する側の学校ではなく、受け手である住民の意向にもとづいて質を向上させようという「教育バウチャー制度」。その導入の可能性について、文部科学省が、有識者による研究会を立ち上げ、検討を進めている。これまでの議論では、国によってさまざまな内容になっており、教育効果の向上についても未知数の部分が多いとされ、評価は定まっていない。

この制度について、自民党総裁選に立候補している安倍官房長官は著書「美しい国へ」で、格差の再生産を防ぐ対策の一つとして期待されるとしている。

教育バウチャーは一般的に、(1)子どものいる家庭が行政からバウチャーと呼ばれる利用券を受け取る(2)公立、私立を問わず、子どもが通いたいと思う学校に利用券を提出する(3)利用券の枚数に応じて、学校側が運営資金を得る――という仕組みとされる。

より多くの子どもを集めた学校ほど資金が潤沢になるため、学校選択制と組み合わせることで学校間に競争原理が働き、教育の質の向上が期待できると考えられている。

文科省が昨年秋に立ち上げた「教育バウチャーに関する研究会」は、米国や英国、ニュージーランド、チリなど諸外国の制度を調査した。それによると、各国いずれも制度が異なり、どのような効果や問題点があるかは今後、さらに検討の必要があるとしている。
(Asahi.com記事より)

安倍晋三官房長官は9日、自民党本部で開かれた総裁選立候補者の立会演説会で、首相に就任した場合の早急に取り組む課題として教育改革を挙げ、児童、生徒や保護者が自治体から配布された利用券を使って学校を選択する「教育バウチャー制度」の導入を検討する考えを表明した。

安倍氏は「すべての子どもに高い水準の学力と規範を身につける機会を保障しなければならない。そのためには公教育の再生が必要だ」と強調した。
(nikkansports.com記事より)

他の政治家の皆様も負けじと教育論を展開され始めているのですが、教育政策に言及する数が圧倒的に多いのは安倍氏であるような気がします。

マイスター、別に安倍氏をとりたてて支持しているというわけではありませんが、何しろ議論のきっかけになるような政策構想を次々に出しておられますから、構想の一つ一つには関心があります。
しかも現在のところ、首相になる可能性が最も高い人物ですからね。どういったビジョンを持っている人物なのかは、いち国民として知っておきたいところです。

というわけで、今日ご紹介するのは、「教育バウチャー制度」に関する報道です。
安倍氏が「教育バウチャー制度」の実現を考えているようだ、ということは、↓先日の記事でご紹介しました。

・総裁選の結果次第で、国立大学が「9月入学」に!?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50238868.html

(教育バウチャー制度とはなんぞや? ということは上の記事で書いておりますので、今回はご説明しません)

さて、この教育バウチャー制度。学校選択制と併せて実現したら、「学校間に競争原理が働き、教育の質の向上が期待できる」と報道記事にはあります。
いったい、どんな風に競争原理が働くのでしょうか。

授業や課外活動のカリキュラム、
児童生徒の活動状況、
教員の評価、
学校の経営状況、
児童生徒数、

などなど、様々な点で競争が起きると思います。

ただ、これらをひっくるめて、もっともわかりやすく起きる競争というのはおそらく学校がどれだけ情報開示を積極的に行っているか、という競争ではないでしょうか。

例えばあなたが、幼稚園卒園を間近に控えた子供を持つ親だったとします。
んで、国から、小学校就学のための教育バウチャーを受け取ったとします。

さて、どこの小学校に我が子を通わせようか。

……と考えてみると、学校を選ぶ際の判断基準がありませんよね。
我が子のために、雰囲気の良い学校や、評判のいい教師がいる学校を選んであげたいと思う。それはいいのですが、どこでそういった判断をすればいいのでしょうか?

知り合いに、その学校に子供を通わせている親がいれば、最高の情報源になります。口コミに勝るメディア無しです。でも、都合良くそういった知り合いがいるとは限りません。
また、口コミは主観的な情報です。知り合いが絶賛していたからと言って、自分たちがその学校に合うとは限りません(そもそも、評判の良い教員が我が子に付くとは限りませんし)。

となると学校を「選ぶ側」としては、客観的な情報や、自分の目で確認できる情報が欲しくなりますよね。

就学前にその学校をじ~っくり見学できたり、授業の様子を見学させてもらえたりする。

学習に関する基礎的な数値データが開示されている。県内における成績分布、児童達の成績の伸び状況、通学している児童生徒および保護者の満足度調査結果などが統計データとして整理されており、希望すれば閲覧できる。

6年間のカリキュラム計画表が、見やすい資料の形で、わかりやすく丁寧に解説されている。

学校の教員や校長が、就学前の子供を持つ親を対象にした説明会を開催している。

……なんて対応を、保護者としては要求したくなるでしょう。
こうした情報を開示している学校と、まったく開示していない学校とがあったら、前者を信頼するという保護者は少なくないだろうなと、マイスターは思います

そんなわけで、教育バウチャー制と学校選択制を導入することで、学校の情報公開は進むはずです。
というより、「学校は情報開示を進めざるを得なくなる」という状況になる、というのが正確かも知れません。

なにしろ教育バウチャー制度は、児童生徒を多く集めた学校ほど、バウチャーを介して税金を多く得られるという仕組みなのです。逆に言うと、入学者を集められなかったら必要な予算が組めなくなるかも知れないわけですからね。保護者に選んでもらえるように、必死に活動状況をアピールしなければなりません。

■「学校評価及び情報提供の実施状況調査結果の概要(平成16年度間 調査結果)」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/01/06011710.htm
■「学校外部評価実施率78%に」(文部科学省)
http://www.gks.co.jp/2006/s-data/etc/06020301.html

↑現在、学校評価などの取り組みも、文科省の旗振りのもとに進められていますが、評価結果の公表や、評価組織の設置などはまだまだ十分に進んでいるとは言えない模様です。
教育バウチャー制度は、少なくとも、こうした状況に変化を与えるはずです。

「学校間で競争が進む」といいますが、目に見えてわかりやすい競争は、こういった「情報」の部分から始まるんじゃないかな、と思います。

他にも教育バウチャー制度の特徴、メリットやデメリットはあるのですが、今日は上記のようなことについて、特にご説明いたしました。
最後に、もう一点だけ。

教育バウチャー制度が本格導入されると、これまでのやり方では児童生徒およびその保護者と学校との関係づくりがうまくいかなくなるかも知れません。

バウチャーを持ってやってきた保護者は、学校にとっては「お客様」だということになります。数ある選択肢の中からその学校を選んだ以上、学校の質に対する保護者の目は厳しくなるでしょう。そのことは悪くありません。

しかし同時に、

「お金を払っているのだから、私たちが要求したことは何もかも実現させるべきだ」

……といった行き過ぎた顧客絶対主義を持ってしまう保護者も、今以上に増えてしまうような気がするのです。これは学校にとってはあまり良いことでもないように思われます。

児童生徒や保護者も、教職員と同じく学校を構成するステークホルダーであり、全員が理想の教育を実現するために協働するチームなんだ……という意識を構築することが、理想でありましょう。
つまりただ「保護者に選んでもらえる」というだけではなく、「学校の一員として参加したくなる」という要素を持った学校であることが大事なのではないでしょうか。
そういった関係を築くために、保護者と学校とのコミュニケーションにも一工夫が必要になってくると思います。

公立小学校というのは基本的にこれまで、「選ぶ」ものではありませんでした。
学区の自由化を取り入れている地域はありますが、全国的にはまだ例外的な環境です。
教育バウチャー制度はここに、「多くの方々に選ばれた学校が資金的に豊かになる」という、とてもわかりやすい競争環境を持ち込みます。そのとき果たしてどんな問題が起き、どんな点が良くなるのか、本当のところは誰も予想できません。

もしこの制度を本当に導入するのであれば、他国の例に振り回されすぎず、日本に最も合った制度を数年かけて試行錯誤しながら構築していくぞ、くらいのスタンスが必要なんだろうなと思ったマイスターでした。

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(参考)
■J-KIDS大賞2006
http://www.j-kids.org/home.html

全国の小学校公式webサイトを対象にしたコンテストです。
各県の代表校のサイトには、学校の活動状況を積極的に公開、発信しているものが少なくありません。代表校サイトへのリンクがありますので、見てみてください。参考になると思います。

1 個のコメント

  • 公立学校の現場の教職員が、「はい、そうですか」とすぐに適応できる・・・とは思えませんが(^^;
    ついでに、民間の塾も参入してもらって、朝一から授業していいことになれば、面白いかも。そうすれば、小学生が深夜まで勉強しなくて良くなるし、勉強以外のお稽古事をする余裕もできるしね。