マイスターがいた会社の顧客の多くは、消費者によく知られている大企業でした。そこで、そうした企業の製品同士をタイアップさせたPRコンテンツを、双方の企業に提案する、なんて企画をしばしばやっておりました。例えば、ハウスメーカーと楽器メーカーをタイアップさせて、「音のある生活」みたいなコンテンツを作成したり、ですね。
(webコンテンツだけのために、そういうことをやるプロダクションというのは、今でもそんなに多くありません。ちょっと珍しいです)
そういうときに、コンテンツに使う写真を撮影するためのロケを行っていました。
プロカメラマンの他、webデザイナー、記事を書くライター、モデルさん達、衣装コーディネイター、クライアント企業の広報担当者達などを引き連れて、ロケ地をまわり、撮影を行うのです。
ロケバスを手配し、昼食をとる場所を調べ、現場でその都度コンセプトを説明していくという仕事は、なんだか映画でも撮っているみたいで、楽しかったです。
※注:たまに混同されている方がいるので、ご説明しておきますと…
【ロケ】=撮影当日のこと。
【ロケハン】=ロケーション・ハンティングの略で、撮影に使えそうな場所かどうか確認する「下見」のこと。大抵は少人数で行われる。……です。ロケハンは、しないこともありますが、本来であればするのが望ましいです。ロケ当日は、ロケハン後に作成した香盤表(ロケの流れをまとめた予定表)をもとに、なるべくスムーズに撮影が進むように努めましょう
しかし、外部での撮影というのは、何が起こるかわかりません。屋外だと、天候によって撮影が不可能になることもあります。また、人通りが多い時間帯、少ない時間帯というものもあります。
さらに、撮影候補地を見つけたとしても、その場所の管理者が許可を出してくれなければ撮影はできません。マイスターが関わったプロジェクトの場合は顧客企業の協力を得られていたので問題ありませんでしたが、これが映画とかだと大変らしいです。「道路が閉鎖されているシーンを撮りたい」と監督が思っても、実際に自治体が道路を閉鎖させてくれなければ、撮影は不可能ですからね。
必要な画像や映像のコンセプトにぴったり合致していて、かつ、撮影に協力的なロケ地を、いかに探すか?
これは、ロケ担当にとって、悩みの種なのです。
逆に言うと、「理想的なロケ地」として協力的な姿勢をアピールしていれば、映画やドラマの舞台になるのは、実はそう難しくもない、ということなのです。
というわけで本日のテーマは、
大学をロケ地としてアピールしよう!
です。
近年では、主に「自治体広報」の領域で、ロケをPRにつなげる取り組みが行われています。
世界で最も映画によく使われている街と言えば、ニューヨークでしょう。
道路を全面封鎖しての派手なカー・チェイスシーンや、街中で通行人達を巻き込みながら歌い踊るミュージカル映画など、例を挙げたらきりがありません。セントラル・パークのような公的な場所も、よく使われていますよね。
世界中の人々が思い描く「ニューヨーク」のイメージは、主に映画を通じて醸成されたものではないでしょうか。それくらい、映像に活用されると言うことは、PR効果が大きいのです。
それに対し東京はこれまで、ニューヨークほど、映画の舞台にはなってきませんでした。
これは、TOKYOという都市に魅力がない……のではなく、どちらかというと、「撮影が許可されない」という事情の方が大きかったようです。警察や自治体が、協力的ではなかったのですね。道路を封鎖したり、公共空間を撮影のために立ち入り禁止にするなんていう手続きは、お役人さん達にとって、非常に面倒くさいものです。市民から、なんやかやとクレームが入る可能性もあります。
大規模なエンターテイメント映画になればなるほど、ニューヨークを舞台にした映画が多く、東京を舞台にした映画が少なくなるのは、官僚組織の対応が違っていたからなのです。
しかし、それではマズイということで、東京都を始め日本の自治体も、変わってきているのですね。
■「東京ロケーションボックス」(東京都 生活文化局)
http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/tlb/index.html
↑上記は、東京都による、ロケ地紹介サイトです。
東京を舞台にした映画やドラマを多く作ってもらうことが、都のアピールになるということで、こうした担当部署があるのです。
この事業を通じ、平成16年度に、実際の撮影までこぎ着けたのは、以下の通りです。
○映画 :45件(うち、海外6件)
○テレビドラマ :68件(うち、海外1件)
○その他 :77件(うち、海外15件)(「東京都行政評価:東京ロケーションボックス」より)
寄せられた相談件数だけ見ればその数はもっと多く、平成16年度は、海外からのものだけで150件だそうです。年々、確実に成果を上げています。
映画のためにレインボーブリッジを封鎖したりできるようになったのは、東京都がこうして姿勢を変化させてきたという背景があるわけですね。
このように、非営利でロケ地を紹介したり、仲介したりする組織を、フィルム・コミッションと言います。
■全国フィルム・コミッション連絡協議会
http://www.film-com.jp/index.html
↑この連絡協議会のサイトから、各地域のフィルム・コミッション団体が探せます。
ご覧になっていただくとわかるのですが、現在では
「こんなにあったのか……」
と驚いてしまうくらい、全国津々浦々に、フィルム・コミッションが存在します。時代は変わったのですね。
尾道、湘南、嬬恋、萩、城崎、奥州、会津若松など、映像に使われることが多そうな場所には専用のフィルム・コミッションがあることが多く、見ていて楽しいです。
さて、ようやく、大学の話に入ります。
フィルム・コミッションが、映像関係者の間で知られるようになってきたということはつまり、
大学が所在している地域のフィルム・コミッション団体に登録をすれば、キャンパスがロケ地として使用される可能性が高まる
ということを意味します。
広報・PRセクションの担当者にとっては、非常に魅力的なことでありましょう。
映像関係者には喜ばれ、しかも大学のPRになるわけです。利用しない手はありません。
もちろんフィルム・コミッションに登録するためには、撮影に際して協力的な対応をとるという覚悟がなければいけません。
大学というのは、なかなか硬直的な組織です。広報課がロケ隊の受け入れを希望しても、施設管理課がめんどくさがって反対したら、撮影はできません。各部署から協力を取り付け、撮影場所を調整するのはなかなか大変です。学生がいないキャンパスが撮りたいという要望があれば、休日に出勤してロケを見守るといった対応も必要になるでしょう。
また、作品の内容を見て、受け入れるかどうか決めるというのもNGです。こちらのPRにとって都合の良い時だけ場所を提供するというのは、フィルム・コミッションの理念に反します。あくまでも、文化的な貢献のために協力するという姿勢が第一です。
そういったハードルはありますが、しかしうまくいけばお互いがハッピーになります。マイスターとしては、大学キャンパスを、フィルム・コミッションに登録することをオススメします。
では、実際にフィルム・コミッションに登録すると、どんな感じになるのでしょうか。
例えば、「東京ロケーションボックス」で紹介している代表的な都立施設は、↓こちらです。
■「都立施設のご紹介」(東京ロケーションボックス)
http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/tlb/syokai/index.html
下の方をご覧ください。
「首都大学東京」の文字がありますね。
そう、首都大学東京のキャンパスを撮影に使用したい場合は、東京都が調整をしてくれるのです。これは便利。
この「東京ロケーションボックス」が調整役を務めたかどうかはわかりませんが、最近では、ドラマ『クロサギ』のロケ地として、首都大キャンパスが使用されています。
ロケ地の情報を調べるのは、実は結構簡単です。「全国ロケ地ガイド」という便利なデータベースサイトがあり、そこで検索できるようになっているのです。
■「DB検索:ロケ地データベース検索」(全国ロケ地ガイド)
http://loca.ash.jp/htm/search.htm
↑画面下の方に「ロケ地検索」というフォームがありますから、「首都大学東京」と入力してみてください。『クロサギ』の他にも、『アルジャーノンに花束を』、『いま、会いにゆきます(映画版)』、『解夏』などの撮影に使用されたことがわかりますね。
試しに「東京大学」で検索してみると、『ドラゴン桜』の撮影に使用されていることがわかります(笑)。
さて、
では、全国の大学は、どのくらいロケに使用されているのでしょうか。
大学を舞台にしたドラマや映画は、少なくありません。ヒット作、話題作も結構あります。
また、いわゆる総合大学だけでなく、最近では美大、音大、工科大、医大など、キャラクターが明確な大学も、しばしば物語の設定に使われていますよね。
では、それらの撮影には、いったいどんな大学が使われているのでしょうか?
ロケ隊は、どういった点を重視して、ロケ地となる大学を選んでいるのでしょうか?
なにかの傾向はあるのでしょうか?
逆に言うと、大学の広報部はロケを誘致するために、フィルム・コミッションへの登録の他にどのようなことを考えておけばいいのでしょうか?
……ということを書こうと思ったら、なんだか長くなりそうな雰囲気ですので、続きは明日にします。
以上、マイスターでした。