別に、学士課程教育に夢を見ていないわけではありませんので誤解なきよう!
こちらも少しずつ、その役割や位置づけの見直しが始まったばかりですし、大学教育の基盤となる部分ですから、興味深いです。
しかし、いま現在、社会からより強い関心を集めているのは、どう考えても大学院教育の方だと思います。
MBAやロースクールなどといった専門職大学院が広く認知されてきたこと、社会人をターゲットにした大学院が増えてきたことがその背景にあるのでしょう。
これまでは自分で選べなかった「自己実現」への道を与えてくれそう、
そんな思いが、人々を大学院に誘っているのだと思います。
卒業生が力を活かせるようになっていないなど、大きな課題はたくさん残っていますが、それでも専門職大学院は、今後も一定のところまで増え続けていくと思います。
一方、従来型の研究大学院も、様々な改革を行っている最中です。
大学の学術研究に関する社会からの関心もまた、ここ数年で高まってきているように感じます。一般生活者が科学技術研分野での日本の競争力に関心を抱くようになったのは、言うまでもなく、ノーベル賞受賞者がたくさん出たことがキッカケでしょうが、ノーベル賞に限らず、
■「[論文ランキング]東大が世界13位 95~05年に被引用」(毎日新聞 livedoorニュース掲載)
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1838077/detail?rd
…などといった報道なども、ちょくちょく見かけるようになりましたよね。
かつては、「東大ですら、世界のTOP100に入っていないのです!」みたいな論調の報道が多かったのに。
中国や韓国、インドなどと、技術力で争う場面が今後、増えてきそうなこともあり、科学技術研究は今、(表現は悪いですが)一般生活者にとってはスポーツのごとく、ハラハラしながら他国との力量差を楽しむエンターテイメントになりつつある、そんな気がしないでもない昨今です。
分野にもよりますが、「追うアジア諸国、追われる日本、そしてその先を行く欧米」という構図も、人々の興味を惹きつける要因の一つになっているように思います。
もっとも、最近報道された日本の学術研究の華々しい成果が、研究大学院を改革したことによるものであるかどうかはわかりません。
「国際的に活躍できるレベルの研究者を育成する」
というかけ声は頻繁に聞こえるものの、教育改革、組織改革の実効性についてはどこもまだ未知数です。社会人を鍛え上げるのとは違って、純アカデミックな教育に関する成果というのは、そんなに早くわかるものではないですので、したかがない部分もあるでしょう。
ただ、
<日本の科学技術レベルは世界レベルである>
という声はあっても、
<日本の研究者育成システムは世界レベルである>
という声を聞かない、というのは事実でしょう。
我が国では、「大学院で施される教育のレベル」で世界トップクラスと肩を並べられる(と社会から評価されている)ような機関がないのだと思います。
■「『魅力ある大学院教育』イニシアティブ」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/miryoku.htm
↑このような制度もスタートしていることですし、今後は、世界レベルの教育組織を目指す大学院がどんどん出てきてもいいですよね。
というわけで、一点、面白い事例をご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————-
■「東北大学、スーパー大学院を実現へ」(知財情報局)
http://tech.braina.com/2006/0412/other_20060412_001____.html
・東北大学国際高等研究教育院
http://www.iiare.tohoku.ac.jp/
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久しぶりに、これはすごいかも……という期待感を持たせる取り組みを見た気がしました。
(COEから派生した)5研究領域において分野横断的な46カリキュラムを作成。修士1年生は必要単位中6単位を新カリキュラムの中で取得すると、国際高等研究教育院に進むチャンスを与えられる。成績等の評価によって、50名(2・5%)が選抜され、修士2年時には毎月15万円程度の奨学金が与えられる。博士課程進学時にはその50人と他大学の成績優秀者から30名が選抜され、同教育院の博士課程学生として認定される。毎月20万円程度の奨学金や学会への出張費などが与えられるという。
教育を担当するのは21世紀COEプロジェクトの教員120名。主専攻・副専攻を体系的に教育システムの中に組み込み、最先端の研究指導を行う。博士課程後期では、最低半年間は海外に武者修行に出す。
博士課程修了後は、国際高等融合領域研究所のポスドク特別研究員になることもできる。任期は5年で、終了後は東北大の準教授や海外の大学へ就職できるだけの人材を育てたいという。日本学術振興会の特別研究員と同様の月額45万円の奨学金と年間300万円程度の研究費が支給される。同研究所の専任教員は 10名程度にまで絞り込み、ポスドクを中心とした新しいかたちの研究所を構築したいという。 (知財情報局記事より)
よくありがちな、学内の研究組織を単にまとめただけ、という取り組みではないようです。
東北大学のwebサイトでは、教育体制のデザインや、選抜者への奨学金、ポスドク以降の支援体制などについても、構想が記載されています。
広報の仕事に携わっていた経験から思うのは、組織が「本気」であることが伝わるような改革でこそ、それを見た人々は期待するんだよなぁ、ということです。
いくら「世界レベルの教育機関を目指す…」などと謳っていても、それが本気なのかどうかは、結構すぐバレるもの。
本気じゃないな、口だけ・形だけだなという大学改革は、リリースを出した時点でそれが現れますから、まず誰も期待しません。
一方、本気で世界レベルになれると思っている、なるつもりでいる、という組織は、「何もかもが、すがすがしいくらい徹底して本気モード」ということをやってのけるものです。
そう思いませんか?
この東北大学の取り組みには、久々に、本気っぷりを感じました。
マイスターにとっては、本気で「世界レベルの教育機関」を目指すつもりだな……と十分思わせる内容です。
既にオンラインでは閲覧できなくなってしまったのですが、↓このような報道もありました。
「東北大、国際高等教育院設置へ 縦割り排し人材を育成」
(東北大学は)国公立大の独立行政法人化で大学間の競争が激しくなる中、専門の縦割りを排した横断的な「学際教育」の拠点化を図る。
(略)
4月にCOEに関係する教員が、各大学院研究科の修士課程の学生を対象に特別講義を始める。規定の単位取得者で、研究科の推薦を受けた学生(50人以内)を来年4月から受け入れ、本格的な指導をスタートさせる。
学生は研究科に所属したまま、教育院で専門の枠を超えたカリキュラムで研究を続ける。大学院とは異なるため、修士や博士の学位取得にはつながらない。
教育院の学生は、1年後には30人以内まで絞り込まれ、さらに3年間の教育を受ける予定。研究支援の専門職員も配置され、希望に沿った教育内容や進路の相談に応じる。東北大は教育院を終えた学生の受け皿として、学際的な研究を進める「国際高等融合領域研究所(仮称)」の07年度設置も目指す。
(河北新報ニュース:2006年03月17日金曜日)
「研究支援の専門職員も配置され、希望に沿った教育内容や進路の相談に応じる。」
なんて記述もありますね。
東北大学は本当に、組織を挙げて世界レベルの教育システムを産みだそうとしているようです。
(心配があるとすれば、「構想はすごいけど、実際には学内の教員があまり協力的でない」といったことが起きないかという点です)
実に刺激的で、期待したくなる内容だとマイスターは思いましたが、いかがでしょうか。
マイスターは別に東北大の関係者ではありませんが、ここから優れた研究者が巣立っていく日が楽しみです。
こうした取り組みが成果を上げていくと、その後、これを参考にして、より優れた体制を構築しようとする大学が現れるはず。
そういう意味でも、ぜひ、東北大には成功して欲しいなと思う、マイスターでした。
はじめまして
教育に関して様々な角度からの情報発信を、
いつも楽しみに拝見しています。
今回の日記の話からは少し逸れますが、今
教育に関して不穏な動きがあるので書かせて
ください。
軍国教育の、戦争遂行(戦争を支持する心作り)において
果たした役割の大きさを反省して制定された
教育基本法が、今改悪されようとしています。
つづきです
教育基本法(憲法も)は、国家(権力側)の暴走を防ぐための法律でした。
しかし「個人の尊厳」を中心に据えた教育基本法が大事にされたのは
わずかな時期で、戦後歴代の保守政権はこの法律の理念に反する「競争と管理」の教育政策を取り続けました。
今度は法律を遵守しないどころか、その内容
を改変(心臓部を破壊。国家が教育・国民を支配してよいとする)しようとしています。
教育勅語の時代へ返ろうとする動きですね。
恐ろしいことです。
この一連の動きを克明に追っている
ブログも、紹介させてください。
http://shinshu.fm/MHz/02.32/
なお、こちらのブログにそぐわないようでしたら、
削除してください。