理系白書「文理分け教育を問う」

「文系」「理系」という分け方に、以前から反対しているマイスターです。

ことあるごとに、「いいかげん、この分け方やめようよ」と申し上げてます。
何しろ、自分も、この制度に振り回されたクチですから。

・文系、理系という分け方の弊害
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50020633.html

・『理系白書』 理系は報われているか
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50084789.html

以前ブログでもご紹介した書籍『理系白書』は、非常に興味深い内容でオススメです。
理系必読!です。

同書をまとめた毎日新聞科学環境部は、その後もこのシリーズを紙面で連載中。
実は記事がネットで読めるのですが、今回はそんな『理系白書』記事から、文理分け教育についての記事をご紹介します。

まず、主に高校の文理分けに関する記事です。

【教育関連ニュース】——————————————–

■4月20日 第2部 文理分け教育を問う/1 追いやられる教養
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050420ddm016040122000c.html
■4月27日 第2部 文理分け教育を問う/2 ゆとり教育の副作用
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050427ddm016070134000c.html
■5月4日 第2部 文理分け教育を問う/3 高校で将来決定、無理
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050504ddm016070121000c.html
■5月11日 第2部 文理分け教育を問う/4 分けない「強要主義」
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050511ddm016070104000c.html
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記事で書かれていることは、だいたい以下のような感じ。

○エリートのための教育だった旧制中学時代は、文理の区別はなく、全員が社会も理科も履修していた。
 中等教育が大衆化するに従い、「文理分け」が一般的になっていった。
○文理のコース分けをする時期は、早くなる傾向にある。受験のために学ぶ科目を絞るというのが、主な理由である。
○高校理系から大学文系への進学はあるが、逆はほとんど「考えられない」。
○理科の中でも、「物理・地学」が敬遠される傾向がある。
○文理を早めに選ぶことには否定的な意見もある。
 一方で、「やりたいことが早くから決まっている生徒に選択肢を与える」という意義を訴える声もある。

でも結局、全体を通じて記者が訴えようとしているのは、

「文理を分けない方が、大学以降の教育のために本当は望ましいのだが、
 受験対策のために、やむを得ず多くの高校が、文理を分けている」

ということなのかな、と思いました。

マイスターも、多くの高校が、「受験指導」のために文理分けを行っているんじゃないかなと感じています。

「早いうちからやりたいことを見つけた生徒のために文理分けをする」

という声もあるでしょう。
そうした選択肢を用意するのは確かに大切ですがが、そんな高校生は、全体からすればあんまりいないと思います。
なのに、生徒全員に文or理を選ばせる学校がなんと多いことか。

そして、文系に進学したら、理系学部に進学するのはほとんど不可能なのが実態なのです。

高校2年から文or理に分けられるのだとしたら、もう1年生のうちに、人生を決める選択を迫られていることになります。
そんな選択ができる16歳が、果たしてそんなに多くいるのでしょうか?ってのが、マイスターの素朴な疑問です。

例えば、ひとつ極端な例をご紹介します。

なんと、高校入学時に「医科コース」なんてコースを設け、医学部・歯学部への進学実績を学校のウリにしているところがあるんです。
高校入学時ですから、実際には中学生の時に、「医者としてやっていこう」と決定させていることになりますよね。

でも、その高校は、本当にそうした早い選択が、「教育的に理想である」と思っているのでしょうか?
医療の専門家なんて、特に幅広い教養を求められるとよく言われます。
ですから若いうちは学ぶ内容をあんまり専門に絞らず、幅広い教養を身につけた方が良いんじゃないかとマイスターなんかは思うんですが…。

アメリカですと、医学教育は原則的に大学院レベルからです。
「人間的に未熟な18歳の時点で、医者になるなんて決めてもらっちゃ困る」
という考えが学校や社会の側にあるからだと聞きます。

その点、15歳で医学部入試に絞った教育を選択することに、メリットがあるとはあまり思えないのですが…。
日本の医学部と、アメリカのメディカルスクールの制度的違いがありますから、すべてを高校のせいにするのも間違いだとは思うのです。
でもやはり、人生経験が浅い上、生物や化学もロクに学んでないウチから、結果としての「医学部」だけ決めさせるってのはなんだかなぁ。

ね、ほら、
この「15歳のうちから医者の道に絞る」っていう例は、きっと多くの人が「ヘン」って感じると思うんです。

でも「文系と理系に分ける」っていうのも、「まだ進路に実感がわかない早い段階で、超えられない進路の壁を作ってしまう」という点では、これと同じような弊害があるんじゃないかとマイスターは思うのです。

記事では、こんな言葉が紹介されています。

-「日本の教育システムは、生徒や学生の『迷い』に対応しにくい。大学1~2年で改めて進路を考えるチャンスを認めるなど、変わることへ理解ある制度を構築したほうがいい」-(「文理分け教育を問う/3 高校で将来決定、無理」より)

みなさんは、どう思われますか?

また同じ理科でも、「化学・生物優位、物理・地学低迷」という傾向があることが報告されています。
「文・理どちらに行っても受験で使いやすい科目」が優先された結果なのかな、と思わせる事実です。
物理や地学を高校レベルで学ばない人間が増えるということは、科学現象に関するリテラシーがない国民が増えるという点で、これまた非常に深刻な問題ですね。

さて、お次は大学に関する記事です。

【教育関連ニュース】——————————————–

■5月18日 第2部 文理分け教育を問う/5 学部決めず広く学ぶ
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050518ddm016070086000c.html
■5月25日 第2部 文理分け教育を問う/6 「私立文系」の不安
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050525ddm016070108000c.html
■6月1日 第2部 文理分け教育を問う/7 文系学生、科学を学ぶ
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050601ddm016070135000c.html
■6月8日 第2部 文理分け教育を問う/8 工学部で日本語再教育
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050608ddm016070108000c.html

■6月15日 第2部 文理分け教育を問う/9 高1に独自の「生命科学」
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050615ddm016070022000c.html
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こちらでは、

「科学の基礎的な知識を持っていない文系学生に、いかに科学を学ばせるか」

という取り組みの報告が目立ちます。

「天動説」を信じていたり、経済学を学んでいるのに数学力がなかったり。
理科や数学抜きの受験をしてきた学生には、そうしたタイプがいるようです。

受験対応に偏った高校カリキュラムのツケは、やっぱり大学にまわってきているな、と感じます。

ただ、高校にそうしたカリキュラムを選ばせている元凶が大学の入試の仕組みであるわけで、大学は自分で自分の首を絞めていると言えなくもありませんね。

「今の大学は学部間の壁が厚く、何をやっているのか外からは分からない。なのに『高校で決めなさい』というのは無理だ。入試を含めて、硬直した大学教育を考え直す必要がある」(「文理分け教育を問う/5 学部決めず広く学ぶ」より)

なんて意見も出ているようです。
マイスターの考えもこれと同じです。

また逆に、理系受験で必要とされない世界史や国語の学力、知識が、理系の学生に不足しているという指摘もあります。

-ある国立大教授は2年前、ポーランドで開かれた国際学会に同行した大学院生をアウシュビッツに誘った。「アウシュビッツって何ですか?」と聞き返された時は驚いた。さらに「だって高校で世界史習ってませんから」と言われ、がく然とした。

 「文理に分けて選択科目を増やした結果、受験に必要ないものや関心のないものを早くから切り捨てているのではないか。彼らが研究者になったとしても、海外の研究者たちとパーティーで何を話すのだろうか。僕らは、非常にいびつな人間を育ててきたのではないか……」-(「文理分け教育を問う/8 工学部で日本語再教育」より)

ね、こんな例を見続けていると、

「あれ、なんで俺たち、文系とか理系とか分けられてるんだっけ?」

って疑問が浮かびますよ。

だって、メリットより、デメリットの方が多いみたいなんですもん。

そして、最後に、文理分けの是非を問うアンケートの結果なのですが…。

【教育関連ニュース】——————————————–

■6月22日 第2部 文理分け教育を問う/10止 文理分け、5割支持
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/archive/news/2005/20050622ddm016070101000c.html
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毎日新聞が、高校1年生、大学生2,100人を対象に、「文理分け教育に関する調査」を実施した結果です。

-高校での文理分けの是非を聞いたところ、大学生、高校1年生とも、51%が「分けた方がよい」と回答した。一方、「分けない方がよい」は大学生で25%、高校1年生で11%。受験を終えた大学生の方に否定派が多い。-(上記記事より)

と、今の「文理分け」を肯定する意見が多かったのです。
しかも、「分けた方がよい」理由で一番多かったのが、「自分の好きな分野を早く極めたい」という回答。

ありゃ?
みなさん、けっこう自分の好きな分野を決めてらっしゃる?
マイスター、心配し過ぎちゃいました?

と思って記事を読んでいると、なにやら興味深い記述が。

-大学生が自分自身を文系と見るか、理系と見るかという「自意識」と、科目の好き嫌いに関連があるだろうか。クロス集計で相関を調べてみた。
文系、理系の特徴は、一般的に「数学が得意だから理系、英語が得意だから文系」などと言われる。
しかし相関を見ると、文系学生の場合、「古文・漢文、世界史、日本史」という文系科目を「学びたい」という意欲よりも、「物理、数学、化学」という理系科目を「学びたくない」という嫌悪感の方が、より強く影響していることがわかった。-
(上記記事より)

つまり、どうも文系学生のみなさんの場合、「自分の好きな分野を早く極めたい」というよりも、

「自分の嫌いな分野からは早く離れたい」

という意識でみなさんこの選択肢を選んでおられるようなのです。

数学が得意だから理系、
数学が苦手だから文系、

なんて感じで進路を決めている高校生も多いなんて聞きますが、どうやらホントみたいですね。

この調査を毎日新聞と共同で行った、国立天文台の縣秀彦助教授は、

-大学生の約2割が高校時代に進路変更を考えながら、その7割はかなえられなかった。「高校で文理分けをするべきではない」と考える大学生も25%いることから、多くの進学校が採用してきた文理分け教育は、見直しを考えるべきだ。あまり早く分けないことや、転向をかなえられる柔軟なカリキュラムがあればいい。-(上記記事より)

とまとめています。

長くなってきたので、今日のブログでは、ご紹介はこの辺にしておきます。

元々の「理系白書」の記事は非常に面白いです。
「文系理系の区別って必要なの?」と常日頃から思っているマイスターにとって、参考になる記事でした。
ぜひ、みなさまも読んでみてください。

今後も、文系・理系の区別について、色々と資料や記事をご紹介していきたいと思います。

マイスター(文理不詳)でした。

2 件のコメント

  • 文系理系の区別は不要派のakisibuです。はじめまして。
    文理ネタ、かなりツボです。私は一応、文系のくくりに入っているのですが
    自然科学の実験の授業をやるなどして既成の枠組みに反抗しています。
    私の周りの文系人たちは、数学と聞くと思考停止します。
    文理分けの際にネガティヴな要因で決めたというのは、
    やはり結構多いようです。

  • 同じく文理分けに疑問を持っているhtsです。以後よろしくお願いします。
    >旧制中学時代は~
    >旧制中学は元より新制高校でも共通一次以前はこのような感じだったみたいですね。実際一期校二期校時代の入試問題は少なくとも一期校は学部に関わらず5教科9科目だったようですし…。(具体的には英語、国語、数学3科目(数学I、数学IIB、数学III)、理科2科目、社会2科目(数学IIBは現在の数学II+数学Bではなく当時あった数学の教科書の名前))
    >高校理系から大学文系への進学はあるが~
    これは数学の問題が大きいかと…。共通一次以降の旧旧旧課程の数学III、旧旧課程の微分積分(確率統計もか)、旧課程/現行課程の数学III/数学Cが理系扱いなのが…。(特に分からないのが数学C…あれは本来は数学を余り必要としない文系や就職希望者がコンピュータを通して応用数学に親しむのが目的のはず…)