韓流受験戦争の後ろにあるもの ~韓国の大学事情~

いやぁ、テレビ等の報道でご存じの方もいるかも知れませんが、韓国、スゴイですねぇのマイスターです。

何がすごいって、韓国の「大学修学能力試験(修能試験)」のことですよ。
日本のセンター試験に相当するこの試験の様子、日本のメディアでもちょっと紹介されていましたが、その競争のヒートアップぶりときたらもう。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「大学修学能力試験 受験生の登竜門『修能試験』は、韓国のセンター試験!!」(SEOUL NAVI)
http://www.seoulnavi.com/area/area_r_article.html?id=1223

■「韓国の受験は日本以上にキビシイ!?~修学能力試験」(konest.com)
http://www.konest.com/data/korean_life_detail.html?no=568

■「大学受験日、官公署や企業は午前10時出勤」(innolife.net)
http://contents.innolife.net/news/list.php?ac_id=2&ai_id=50389
(※この記事は大学職員.net -Blog/News-で紹介されていました)

■「受験生に『ボランティア送迎隊』 韓国版センター試験」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200511220544.html

■「浪人生、修能試験の朝に投身自殺 『重圧に耐え切れず・・・』」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/11/23/20051123000028.html

■「携帯申告忘れ受験生27人が無効処分 韓国センター試験」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200511240377.html
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韓国の学歴競争は日本どころではなく、競争は過熱するばかり…という話は耳にしていましたが、最近こうした日本語解説付きのビジュアル情報が多くなってきたので、あらためてビックリです。

最初の2つの記事は、韓国の観光情報などを扱うサイトに掲載されたもので、
試験当日の街の様子が、写真で紹介されていて、面白いです。
一族の総力戦!
という雰囲気が伝わってきます。

結果がふるわなかった学生を「ドンマイ、これで人生が決まるわけじゃないさ」と慰めてあげたいところですが、
こうした報道を見る限りで、韓国では本当に入試で人生が決まるような感じですね…。

超学歴社会、韓国でのトップ大学は、国立のソウル大学です。
かつて日本が韓国を併合していた時に設立した「京城帝国大学」をルーツとする大学です。

日本でいう東京大学と言えますが、我が国と事情が違うのは、東大に対する京都大学や東北大学、大阪大学といったライバル校が存在しないということです。
オックスフォードとケンブリッジ、ハーバードとイェールなどにも見られる、「切磋琢磨するライバル校」という構図がないのです。
つまり一強他弱!
ちなみに延世大学や高麗大学など、日本の早稲田・慶應に相当する名門私立大学はありますが、トップ国立校が圧倒的な威光でエリートを再生産する仕組みは、どうも日本社会の東大と同じみたいです。

さて、そんな韓国の厳しい受験競争が報道されているわけですが、
その裏にある、韓国の高等教育の現状について、簡単にご説明しますね。

○大学進学率81.3%、超ユニバーサルアクセス社会

リクルート社が発行している『カレッジマネジメント』の131号は、
「大学全入時代に到達した韓国の高等教育最新事情」と題する特集を組んでいました。
読まれた関係者の方も多いと思います。

大学進学率81.3%というのは、その中で紹介されていた数字です。
2004年のデータです。

全入時代とか言われ、学士の価値が薄れてきている日本ですらおよそ50%前後(短大含む)ですから、
韓国の状況はエライことです。

正しい大学関係者は韓国のこの数字を見て、「ユニバーサルアクセス」という言葉を思い出されるはずです。

この言葉はよくご存じの方が多いと思いますが、念のために簡単にご説明しておくと、
これは別に車イスでも楽に電車に乗れるとか、
おじいちゃん&おばあちゃんのためにエレベーターやスロープをつけたとかの状態を示す言葉ではなく、

「誰もが大学に入れる社会」

を表す、米国の社会学者マーチン・トロウ氏の造語です。
マーチン・トロウ氏は、

○高等教育への進学率が15%を超えると高等教育はエリート段階からマス段階へ移行する
○進学率が50%を超えると、高等教育はユニバーサル段階に入る

とおっしゃっているのですね。
で、マス段階の教育システムと、ユニバーサル段階のそれとは、かなり違うものであると指摘しておられるわけです。

日本もその意味ではこれからユニバーサル時代に入るわけですが、
韓国はとっくに超・ユニバーサルな社会に突入してます。

しかも1990年におよそ30%だった進学率が、2004年に80%オーバーという、異様な上昇の仕方です。

最近右肩下がりのラインばっかり見ている日本人にとっては、ほれぼれするような美しいグラフとなりますが、景気よく上げるにもほどがあります。

 <受験競争が過熱している = 一部のエリートしか大学に入れない社会>

というわけではないのですね。

○定員多過ぎ、あやしい大学も多数

じゃあなんで、こんなにも大学生が増えちゃったかと言えば、大学の定員が多いからです。

かつては韓国の大学も、志願者の2~3割しか大学に入学できないような、定員のコントロールをしていたのです。
そうして大学生の質を保とうという政策を、国がとっていました。

ところが70年代、「高校平準化政策」という政策が導入されます。
韓国では。1960年代に教育普及が拡大された結果、大学受験戦争が過熱化、それに伴って高校の進学競争もヒートアップしていました。
公立の普通高校の序列化が問題になりました。

そこで韓国政府は、「すべての普通高校の入学者を抽選で振り分ける」という、ウルトラC級の荒技を繰り出したのです!

国公私立すべての学校(普通科のみ)を学区に分け、共通試験の合格者を学区内の学校に抽選で機械的に配分するというこの政策が、「平準化政策」です。

この平準化政策の結果、それまで75%だった高校進学率が91%に跳ね上がりました。
すると当然、高校卒業者数も増えます。
1975年から1985年の間に、高校卒業者数は2.4倍に急上昇しました。

国民は、「おれたちの進学先を増やせー!」と不満を募らせます。
また経済界も、「大卒の人材を増やせー!」と不満を募らせていました。

結局政府は、専門学校100校をイッキに大学に昇格させて入学定員を増加させるという、
二度目のウルトラCを繰り出したのでした。

このあたりの記述は、『カレッジマネジメント』を参考にしています。
同誌は、この時の大統領は全斗煥氏、盧泰愚氏と、軍出身の大統領だったこともあり、政権安定のためにこうした国民の要求を受け入れざるを得なかったのではないか?と指摘しています。

しかもこれに続いた金泳三大統領は、文民出身のの大統領として、こうした国民受けのいい政策をさらに推し進めてしまいました。
中でも特に、現在に大きな影響を及ぼしているのが、以下の二点です。

○学科別入学定員制廃止
○大学設立・運営の「準則主義」

前者は、それまで学科別に細かく定められてきた入学定員を、大学の都合で変えていいことにするというものです。
(例外とされる学問分野もある)

そして後者は、簡単に言うと、大学設置基準の大幅な緩和です。
校地面積や教員、基本財産などについて、大綱化されたすっげーおおざっぱな数値基準を満たしていれば、大学設立の審査を受けられるぞというものでした。

『カレッジマネジメント』では、こうした政策の数々を、「文民政権の大盤振る舞い」と表現しています。
うまいこと言いますね。

この大盤振る舞いの結果、定員が需要をオーバーする事態ができてしまったというわけです。

さて、こうした「準則主義」によって作られた大学、当然、質が疑われますよね。
同誌は、専任教員確保率などの数字から、
「90年代に新設された100校近い大学は、かなり甘い審査基準で設置認可がなされたことが想像される」
と分析しています。

こりゃいかんということで1994年から大学評価認定の制度も始まりましたが、第一回目の審査は「申請した全大学を認定」。
この評価認定を行っているのは、大学の連合体である「大学教育協議会」。いわば身内が身内を評価する仕組み。

大学教育の質を確保する仕組みは、まだまだ完成しているとは言えないようです。

その気になればどこかの大学には入れるが、「質の高い大学」に入るには競争に勝たねばならない。

しかも前述のように、学歴を非常に重んじる国民性ですから(日本も、他国のことは言えませんが…)、
「評価の高い、位の高い大学」に入ることにも、やっぱり並々ならぬ関心が寄せられている。

そんなわけで、韓国の受験生は今日も家族の期待を背負いながら、机に向かっているのでしょう。
どこの国でも、受験に臨む若者は大変なのですね。

受験生には、お願いだからあまり過度なプレッシャーをかけないであげて!
と、全世界のオカンに呼びかけたいマイスターでした。

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今回、参考文献として使った本:

○諸外国の学校教育 アジア・オセアニア・アフリカ編

文部省(現、文部科学省)が編纂してまとめた資料。各国の教育システムが簡潔に解説されています。
主要国だけでなく、途上国についても記述されているので重宝します。

○『カレッジマネジメント:131号』2005.3 リクルート

大学関係者にはおなじみの、しかしそれ以外の方にはまったく知られていない優良業界誌。
それもそのはず市販されていません。通販も不可です。各大学に数冊ずつ送られてくるものをまわし読みしてください。
何十人ものエライ人たちを経て、マイスターのような末端労働者の手元につく頃には、たいてい既にへろへろになっています。
この131号の特集は韓国の大学の現状。本文で取り上げた内容の他にも、私立大学や地方公立大学の改革事例についてなど、興味深い記事が多いです。

○高学歴社会の大学―エリートからマスへ

大学職員や大学経営研究者が、ついつい何かと便利に引用してしまう、おなじみの古典。
まだ読まれてない方は、将来レポートを書く時に備えて今のうちにお手元に一冊置いておきましょう。

4 件のコメント

  • マイスターさん、はじめまして。
    人気ブログランキングからジャンプしてきました。
    2、3日に1度の頻度でのぞきに来ています。
    これからも記事を楽しみにしています。

  • 韓国の大学受験事情にちょっと詳しいものですが、確かにソウル大が圧倒的な存在ですが、「一強他弱」というのは、ちょっと違うと思います。
    ソウル大、高麗大、延世大の三校は、頭文字を取って「SKY」(雲の上の存在、の意味)とも呼ばれます。難易度ではこの三校に一歩劣るものの、梨花女子大も最難関校で、この4校を「四天王」と呼ぶこともあるそうです。
    日本と違うのは、いわゆる「国立か私立か」ということより、「ソウル市内にある大学か否か」という分け方が圧倒的な意味を持つ、という点です。したがって、「四天王」の次の2番手グループは、すべてソウル市内の私立大が占めてしまい、地方の国立校は、ソウル市内の2,3流の私立大程度のレベルしかないそうです。
    いろいろな面で、ソウルへの一極集中が問題になっている韓国の一端が窺える事例だと思います。

  • 大学全入というのは、それほど悪いことなのか? 今は、みなが高校へ行く時代だが、高校の質にかんしての疑問は聞かないが、大学に関しては、まるで、全入では、確実に質がさがるような論調。
    大学へ入ったら、勉強しなくなる学生が多いのは、やはりその内容も問題の一因だと思う。大学全入で、学生の質が悪くなるなどと、心配するよりも、まず、全体的な日本の大学の質をなんとかしてほしい。授業内容が悪すぎる。大学教授の独りよがりが情が多すぎる。
    いろんな調査で、日本の大学の質が世界レベルであまり良くないという結果が出ているのことに目を向けてほしい。

  • 確かに、韓国では、大学受験が過熱し、しかも、それがソウル一極へ集中しており、「ソウル市内の大学」とそうでない大学のブランド力は歴然としています。しかし、日本人が理解しないといけないのは、韓国の大学と日本の大学を比較することは不可能ということです。反日教育があることは殆どの日本人が知っていることと思いますが、その反動で、どういうことになっているのかが、殆ど、日本人に知られていません。驚くことに、韓国では、例え、ソウル大学出身者であっても、日本や他国で子供でも知っている一般常識的な教養が欠けているのです。ナポレオンは何人か?アインシュタインは何をした人か?など、日本の大学受験生なら、知らない人間を発見する方が難しい問題も、韓国人は殆ど答えられません。しかし、その一方で、日韓関係に関わる歴史については、驚くほど、知識があります。それが正しい知識化どうかは別にして、日本人が聞いた事もない日本人の名前を知っていたり、本当に、よく教育されています。因みに、私の妻は、韓国人で、東国大学卒ですが、全く、これらの知識はありません。同じく、ソウル大学出身の韓国人にも多数合いましたが、答えられる韓国人は、殆どいませんでした。日本の大学とは全く比較にならないのです。また、サムソン、現代などのトップは全員、日本の早稲田大学出身です。韓国内の大学だと、とても企業経営に必要な素養が身につかないことを、韓国人が一番よく理解しているからです。だから、子供の教育のために、家族全員で米国やカナダに移住したり、日本へ留学したりするのです。こうした問題が、サムソン、LG、現代、SKなどの一極集中で他社が育たないことや、ノーベル賞受賞者が未だに一人も出ないといったことに繋がっているのです。