お仕事で知り合った方の名刺に、「官需部」の文字。
聞き慣れないこの部署名、新卒のマイスターには何の事やらわかりませんでした。
一緒にいた上司がすぐに(こっそり)教えてくれたのですが、この場合は「省庁担当の営業」のことです。
官需という言葉の意味は、読んで字の如く、「政府など、公共が作り出す需要」のことです。(ですから、公共工事なども官需の一種類なのかな?)
マイスターが知り合ったその方は、中央省庁相手に製品を売るための特別部隊の方だったわけです。
その企業は、一般の営業と、官需に対する営業チームとを、意図的に分けていたというわけですね。
企業によって、営業チームの編成の仕方は異なります。
営業エリアを分けて、「東京第一営業部」「第二営業部」などの地域別編成にするところもありますし、社内の製品分類にあわせて「テレビ営業部」「エアコン営業部」みたいな分け方をする所もあるでしょう。
さらに、冒頭の例のように、顧客ターゲットにあわせて編成する企業もあります。
例えば、旅行代理店や自動車販売会社は、一般消費者に対する営業チームの他に、「法人営業」という担当部署を持っているのが普通だと思います。
文字通り、企業などの「法人組織」相手にツアーを企画・手配したり、クルマを納入したりすることを任務とする営業部隊です。
なぜ一般営業と法人営業を分けるかというと、お客さまが抱えている要望や悩みが、一般消費者と企業とでは異なるからです。
一般消費者が旅行に行く理由と、企業が100名の団体宿泊を計画する理由が、同じな訳がないですよね。したがって、求められる営業知識も、若干異なってくるというわけです。
それに、一般消費者と法人とでは、置かれている条件も違います。
法人の場合は、予算の使い方であるとか、旅の目的であるとか、利用する移動手段であるとかに、いちいち制限が付きます。相見積もりを取らないとだめとか、発注の方法が社内規定で定められていたりとかですね。個人で旅行するときのように、「とりあえずそこそこの値段で行ければいい」というわけには行きません。
(冒頭でご紹介した「官需部」なんてのは、特殊なルールが多い組織を相手にするために生まれたような組織ですね)
そんなわけで、法人相手に自社の製品やサービスを売るための特別部隊として「法人営業」という担当部署を置く企業は、少なくないのです。相手の事情に詳しい担当が営業に行った方が、相手の考えていることを理解してあげられますし、有効な提案ができますからね。
ここからが今日の本題です。
マイスター、1年半ほど大学業界で働き、何百人という方と名刺交換をしていますが、「法人営業」に相当する部署名が入った名刺を未だにお見かけした事がありません。
大学だと、「広報部 法人担当」とか、「アドミッションズオフィス 法人課」みたいな名称になるのかなもしれませんね。こんな部署を持っている大学さん、おられますか? マイスターは、今のところまだ直接お目にかかれておりません。
なんでかなぁ? と、ふと、考えてしまいました。
18歳人口は減少しており、今後、以前の水準に戻る事はおそらく、ない。
したがって大学院をはじめ、社会人向けのプログラムを充実させる事が大事—。
これは、多くの大学で叫ばれている事です。
実態はどうあれ、ほとんどの大学では今、「いかに社会人を取り込んでいくか?」ということが何らかの形で話し合われているはずなんです。
以前より多くなってきたとは言え、現在のところ、日本ではまだまだ社会人学生はマイナーな存在です。
その理由は色々でしょうが、様々なアンケートの結果を見ると、
「興味はあるけれど、仕事との両立が難しい」
「高額な学費を払うゆとりがない」
「職場の理解が得られない」
といった声も根強いようですよね。
なかなかこうした壁を壊して、社会人に大学に通ってもらうのは大変です。
さて、です。
マイスターはこういうデータを見るたびに、
「だったら、はじめから
法人に営業をかけちゃった方が
早いのでは?」
・・・と、思うのです。
大学院プログラムを、はじめから企業の人事部に対してアピールしてまわるのです。
例えば、企業に対して、「管理職を対象といた研修プログラムに、大学院での修士号取得を組み入れてはいかがでしょう?」・・・と提案したりするのです。
企業にとっても、「管理職は全員、修士以上の学位を保持」というのは、強烈なアピールになるはずです。法人として学費を負担し、社員の学位取得をサポートするとなれば、優秀な人材を獲得するためのウリにもなります。
もっとも、日本の企業は、大学院以上の学位取得者を、まだまだ有効に活用できているとは言えません。
ですから、大学の専門スタッフが、企業の業務を詳細に聞き取った上で、
「この大学院プログラムを卒業すれば、御社のこういう点が、高度化できます」
「この授業とこの演習は、御社のこういう事業展開に対応できる内容として組まれています」
などと、業務と学業の連携を橋渡しする役目を担当するのです。
こうなると、もう、これまでの大学教職員の仕事の範疇を超えています。
日本の大学には、企業に対してここまでの提案をできる人材は、あまり多くはいないでしょう。高校生に対しては入試課がありますが、法人に対して同じアプローチが通用するとも思えません。
ですから、「法人営業部」を設立してはどうかと思うのです。
可能性のある市場ではないかと思うのですが、しかし日本では、今のところそうした取り組みを行っているという話は聞きません。
だから、なんでかなぁ、と不思議なのです。
マイスターが思うに、大学がこういう事業を行わない理由は、これを計画し、取り仕切れる人材が学内にいないから、ではないでしょうか。
でも、人がいないからやらないというのは本来、理由にならないんです(いなかったら、外から連れてくるか、新たに育てるかすればいいのですから)。
だから、やっぱり、「なんでどこもやらないんだろう?」と思うのです。
近年、アメリカの有名大学に倣って、海外に事務所を設ける大学が増えてきています。それももちろん大切ですが、マイスターは海外市場にアピールするよりも、国内の社会人にアピールする方策を考えた方が、今の日本の状況では、費用対効果は高いような気がしています。
(もちろん海外オフィスは、別に学生募集だけが目的ではないでしょうけれど)
大学は、海外の有名大学の真似をするのは熱心でも、日本独自の取り組みをするのには抵抗があるのかな、なんて感じなくもありません。
マイスターが思うに、法人営業部というのは、海外でもあまり事例のない取り組みなんじゃないでしょうか(詳細は知りません。ただ、あまり話を聞かないと思うだけですので、ご存じの方がいらしたら教えてくださると助かります)。
というのも、欧米では、社会人学生の比率がそもそも高いからです。
特にアメリカなどでは、学位をキャリアアップにつなげることは珍しくないようで、25歳以上の学生が全体に占める比率も大きいと聞きます。パートタイム学生も多いです。つまり、日本とは社会背景が異なるのです。
しかし日本では、社会人が大学に行くことに対して、まだまだ障壁が多いです。
ですから、諸外国の大学があまり行っていない「法人営業」を行う必要性もあるんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか?
やってみる価値はあると思うんだけどなぁ。
どうなんでしょうね? と思う、マイスターでした。
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※どこか、「ウチには、もうすでにそういうチームがあります」という大学さんがありましたら、教えてください。よろしければ、本ブログでご紹介させていただきたいと思います。
参考:http://www.kyushu-u.ac.jp/topics/index05.php?id=114
法人単位を対象に教育プログラム提供している例です。
「法人営業部」とは違いますが。事務職員でなく教員が持ちかけたのでしょうか。